続 梓の非日常/終章・船上のメリークリスマス
(五)横須賀基地
梓一行を乗せた戦闘ヘリは、先行する飛行機を追跡する。
やがて目前にその姿が見えてきた。
『追いつきましたよ』
パイロットが指差す方角にエアプレーンが飛んでいた。
「何とか停止させることはできないの?」
「無理ですよ。空中でエンジンを止めれば墜落するだけです」
「まどろっこしいなあ。一発ぶち込んでやれよ。そうしたら俺が飛び込んで助け出して
やる」
「どうやって? 助け出したとして、無事に地上に降りれるの?」
「だから……さあ……空中で再び戦闘ヘリに舞い戻るんだよ」
「本気? できるの?」
「さあ……やってみなければ判らないさ」
「もう、冗談は顔だけにして」
成功率百パーセントならお願いものだが、戦闘ヘリは回転翼が邪魔して空中で乗り込
むのはほとんど不可能であろう。
「くやしいじゃないか。せっかくの最新装備があるのに……」
VZ-1Z Viper には、AIM-9 サイドワインダー空対空ミサイル、AIM-92スティンガー地
(空)対空ミサイル他が装備されている。
『まもなく海上に出ます』
前方に東京湾が広がっていた。
エアプレーンは東京国際空港や成田国際空港の飛行コースを避けるように低空飛行を
続けていたが、千葉港に差し掛かった辺りで大きく右へと旋回をはじめた。
「こっちの方角には……」
米軍の横須賀基地があった。
と、思った途端。
F/A-18F戦闘機「スーパー・ホーネット」(第102戦闘攻撃飛行隊)のお出迎えである。
基地に配備されている空母からスクランブルしてきたのであろう。
一瞬にしてすれ違ったと思ったら、後方で旋回して追撃してくる。
完全に後ろを取られてしまった。
ロックオンして攻撃してくるかも知れない。
M61A1/A2 20mm バルカン砲がこちらを睨んでいる。
がしかし、最大巡航速度:150 kt / 277.8 km/h のバイパーとマッハ1.8のスーパー
ホーネットでは速度差があり過ぎる。
目の前を通り過ぎては、旋回して再び後方に回り込んでくるという仕草を繰り返して
いた。
やがて眼下に巨大な艦船が目に飛び込んでくる。
ニミッツ級原子力航空母艦の6番艦「ジョージ・ワシントン(CVN-73 George Washingt
on)」である。その両翼には護衛艦のイージス巡洋艦とイージス駆逐艦を従えている。
そして少し離れて、アメリカ海軍第七艦隊の旗艦「ブルー・リッジ(USS Blue Ridge,
LCC-19)」が仲良く並んでいた。
排水量 基準 81,600 トン
満載 104,200トン
全長 333 m
全幅 76.8 m
喫水 12.5 m
機関 ウェスティングハウス A4W 原子炉2基
蒸気タービン4機, 4軸, 260,000 shp
最大速 30ノット以上
乗員 士官・兵員:3,200名
航空要員:2,480名
兵装 RIM-7 シースパロー艦対空ミサイル
ファランクス20mmCIWS3基
搭載機 85機
厚木を拠点とする第5空母航空団
横須賀を拠点とする第5空母打撃群
前任の「キティー・ホーク」から任務を引き継いでいる。
RIM-7 シースパロー艦対空ミサイルとファランクス20mmCIWS(近接防御火器システム)
が砲口をこちらに向けて自動追尾していた。
そんな中、エアプレーンは「ジョージ・ワシントン」の甲板へと着艦した。
なんで?
軍艦にいとも簡単に着艦した民間のエアプレーン。
常識では考えられないことだった。
『相手側より連絡。眼前の空母「ジョージ・ワシントン」に着艦せよ』
ここは横須賀基地の制空権内である。一機の戦闘ヘリが太刀打ちできるものではない。
『指示に従います』
パイロットが応えて、高度を下げて「ジョージ・ワシントン」の甲板へと着艦した。
記事中の米軍艦艇などの配備は、執筆当時のものです。
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