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2019年1月

2019年1月31日 (木)

性転換倶楽部/特務捜査官レディー 平穏な日々(R15+指定)

特務刑事レディー(R15+指定)
(響子そして/サイドストーリー)

(十一)平穏な日々  待ち合わせの場所で合流する。 「へえ、局長の慌てふためく様を見たかったな」 「俺が狙撃のプロ集団である特殊傭兵部隊にいたことや、ニューヨーク市警狙撃事件 のことを話したからな、自分もいつ狙撃されるかと冷や冷やしているかもな」 「罪な人ね。その気はないんでしょ?」 「ニューヨークの事は、おまえが死んだという報告書をみての復讐だったからだ。あ の頃は心が荒んでいたからな。正義感もどこへやらだった。しかし生きているなら罪 を重ねる必要はないさ」 「うん。わたしはあなたが人を殺すところを見たくないわ」 「しかし、俺の手は血に汚れてしまったからな。あの時以来……」 「わたしが、元の敬に戻してあげるわ。大丈夫よ、愛があればね」 「そうか……」 「あら、わたしの言うこと信じてないわね」 「信じてはいるけど……」 「もう弱気ねえ。じゃあ、こうすればどう?」  というなり、いきなり敬に抱きつく真樹。 「お、おい。人前だぞ」  通行人が二人を怪訝そうに見ながら通り過ぎていく。 「気にしないわ。恋人同士なら恥ずかしがることない」  そして唇を合わせてくる。 「どう? これで信じてくれる?」  長い抱擁の後に、潤んだ瞳で囁きかけてくる真樹。 「わたしは、どんな時でも敬を信じているわ。ニューヨークの街角で逃げ惑いながら、 凶弾に倒れても、 『いいか、おまえも最期の最期まで、生きる希望を捨てるなよ。簡単に死ぬんじゃな いぞ、俺が迎えにくるのを信じて、命の炎を絶やすんじゃない』  と言ったあなたの言葉を信じて、必死で生き延びようとした。だから奇跡の生還を 果たすことができたの。先生もほんとにおどろいてらっしゃったけど」 「黒沢先生か?」 「そうよ。この愛であなたの心を癒してあげる」 「わかったよ。真樹の言うことを信じるよ」 「うん……」  生死の境を乗り越えて生き延びてきた二人に、障害というものは存在しなかった。  数日後のことである。  駅近くで落ち合う二人。 「ご両親はどうだった?」 「あはは、生きて俺が帰ってきて、目を丸くしてた。でも涙を流して喜んでくれた よ」 「でしょうね。心配掛けさせたんだから、これからはちゃんと親孝行しなくちゃ」 「じゃあ、そろそろ行こうか」 「う、うん……」 「どうした? 気乗りがなさそうだな」 「ほんとにいいの?」 「当たり前じゃないか。交際するなら、ご両親にちゃんと挨拶するのが筋だろう。大 切なお嬢さまなんだからな」 「お嬢さまか……」  今日は、真樹の両親に敬が会いに行く日であった。  交際していることを正式に了承してもらおうというわけである。 「だいたいからして、俺は警察官なんだぜ。影でこそこそやるのは嫌いだ」 「そうだよね」  最近の警察官の不祥事は頻発しているが、この敬という男は根っからの正義馬鹿と 呼ばれるほどの性格をしている。だから交際するにもちゃんと両親の承諾を受けてか らと考えているわけである。 「昇進もしたしね」 「うん……。良かったね」  ニューヨーク研修を無事終了したという事で、敬は巡査部長に昇進していた。 「局長は何か動いてる?」 「いや、まだ表立った行動は取っていないようだ。ニューヨークから無事に帰還した ことと、傭兵部隊で腕を磨いたということで、用心しているんじゃないかな。でも水 面下では用意周到に手はずを整えているかも知れない。闇の中で蠢く溝鼠のように ね」 「たぶんね」
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性転換倶楽部/響子そして 解脱(R15+指定)

響子そして(覚醒剤に翻弄される少年の物語)木曜劇場
この物語には、覚醒剤・暴力団・売春などの虐待シーンが登場します

(十一)解脱  意識の遠くでサイレンの音が鳴っている。  冷たい感触はコンクリートか。  どうやら成功したみたい……。  どれほどの時間が経ったのだろうか……。  微かに聞こえる器械が触れ合う音。  声も聞こえるが、目は見えない。真っ暗闇の世界。 「どうですか? 先生」 「大丈夫だ。まだ生きているぞ」 「え? ほんとうですか」 「見ろ、わずかだが脳波が出ているぞ」  誰かが何か、喋っている。  まさか、逃亡失敗?  連れ戻されて、また覚醒剤を注射されたのか。 「ほんとうだ。波が出てる。良かったあ……。死なれたら、磯部さんに申し訳がたち ません」 「まだ、安心するのは早い。波が出ているというだけじゃ。どうしようもならん」 「先生なら、きっと助けて頂けると思って、運んできたんですから。この、あたしだ って生き返らせてくれたじゃないですか」 「真樹の場合は、たまたま運が良かっただけだよ」  だめ。言葉が判らない。覚醒剤のせいで、言語中枢がいかれちゃったのかな。  どうやら機能しているのは、聴覚神経に繋がる部分だけみたい。 「お願いしますよ。何でもしますから」 「じゃあ、今夜どうだ?」 「こんな時に、冗談はよしてください」 「判っているよ。そんなことしたら、真樹の旦那の敬に、風穴を開けられるよ。しか し……素っ裸で、飛び降りるとは……、おや?」 「どうなさったんですか?」 「この娘……。性転換手術してるじゃないか」 「あ、ああ。言い忘れていました。その通りです。さすが先生、良く判りましたね」 「わたしは、その道のプロだよ。人造形成術による膣と外陰部だな」 「わたしと、どっちが出来がいいですか?」 「もちろん真樹の方に決まっているだろう。第一、移植と人工形成じゃ、比べ物にな らん」 「そうですよね。どうせなら、その娘も本物を移植してあげたらどうですか?」 「免疫の合う献体がでなきゃどうにもならんだろ」 「でも、何とかしてあげたいです。あたしと敬がもっと早くに『あいつ』を検挙して いれば、母親がああならなかったし、この娘がこうなることもなかったんです」 「それは麻薬取締官としての自責の念かね」 「この娘には幸せになってもらいたいです」 「そうだな……。それはわたしも同感だ」 「せめて……」 「いかん! 心臓の鼓動が弱ってきた。少し喋り過ぎた。治療に専念するよ」 「あたしも手伝います」 「薬剤師の免許じゃ、本当は手伝わせるわけにはいかないんだが、ここは正規の病院 じゃない。いいだろう、手伝ってくれ。麻酔係りなら何とかできるだろう」  一体、何の話しをしているのだろうか。  せめて目が見えれば状況がわかるのに。  どうして何も見えないのかしら。真っ暗闇。 「脈拍低下、血圧も低下しています」 「強心剤だ! G-ストロファンチン。酒石酸水素ノルエピネフリン注射」 「だめです。覚醒剤が体内に残っています。強心剤が効きません! 昇圧剤も効果な し」 「なんてことだ!」 「心臓停止寸前です。持ちません」 「胸部切開して、直接心臓マッサージするしかないが……」 「覚醒剤で麻酔は利かないですよ。ショック死します。とにかく、覚醒剤が効いてい る間は、一切の薬剤はだめなんですから」 「わかっている!」  緊迫した空気が流れているようだった。  ビリビリとした震動が鼓膜を伝わってくる。 「人工心肺装置に血液交換器を繋いで、血液交換する。とにかく体内から覚醒剤を早 く抜くんだ」 「血液交換って……。彼女、bo因子の特殊な血液なんですよ。全血の交換となると、 B型でもO型でも、そのどちらを使っても、抗原抗体反応が起きる可能性があります よ」 「O型でいい。一か八かに掛ける!」 「先生。ほんとうに大丈夫ですか?」 「やるしかないだろう! ちきしょう。生き返ってくれ!」  ああ……。だめだ、また意識が遠退いていく。  やっぱり、死んじゃうみたいだ。
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2019年1月30日 (水)

性転換倶楽部/特務捜査官レディー 生活安全局長(R15+指定)

特務捜査官レディー(R15+指定)
(響子そして/サイドストーリー)

(十)生活安全局局長  生活安全局とは。  拳銃などによる犯罪を取り締まる「銃器対策課」  覚醒剤などの薬物の乱用・密売などを取り締まる「薬物対策課」  その他、住民の生活に関わる全般的な犯罪などに対処する部署である。  通路の一番奥まった所にその局長室はあった。  この際遠慮などいりはしない。  面会の予約など糞食らえだ。  構わずドアを開けて中に入る。 「何だ、君は?」  敬の顔を忘れているようだった。  所詮、一警察官の事など眼中にはないというところか。  多少なりとも覚えておいて欲しかったものだ。  「もうお忘れですか?」 「ん……?」 「二年前に、麻薬銃器の捜査研修目的でニューヨークに出張を命じられた沢渡敬です よ」  さすがにそこまで言われると思い出さざるを得なかったようだ。 「さ、沢渡だと!」 「殉職したと思いましたか?」 「そういう報告をニューヨーク市警から貰っている。遺体は組織の手で処分されたと ……」 「そうですねえ。殉職したあげくに、闇の臓器密売組織に渡った……でしょう?」 「そ、そうだ……」 「しかし、私は生きてここにいます。特殊傭兵部隊に紛れ込んで命を永らえたんで す」 「傭兵部隊だと?」 「人質事件救出の突撃隊や要人警備の狙撃班として駆り出される部隊ですよ。おかげ で狙撃の腕はプロフェッショナルになりましたよ。そうだ! 一応報告しておきまし ょうか。沢渡敬は、ニューヨーク市警における麻薬銃器捜査研修の出張から戻って参 りました」  と、敬礼をほどこしながらとりあえずの報告を終わる。 「ああ……。ご、ごくろうだった」 「戸籍回復、及び職務復帰手続きとかを課長がやってくれるそうです」 「そうか、私からも言っておくよ」 「そりゃどうもです」 「佐伯君はどうなんだ?」 「亡くなりましたよ。私の目の前でね」 「残念だったな」 「そうですね。やっかいな二人のうちの一人を処分できたんです。黒幕は少しは安堵 したことでしょう」  黒幕という言葉を使って、やんわりと核心に触れる敬。 「黒幕とはどういうことだ?」 「言葉通りですよ。俺達の命を狙った犯行の首謀者のことですよ」  敬の思惑を測りかねて口をつむぐ局長。  軽率な発言をすれば揚げ足をとられるとでも思ってのことだろうと思う。 「それからニューヨーク市警の本部長は、何者かに狙撃されて死んだそうですね。ぶ っそうですよね。ニューヨークってところは。毎日どこかで殺人が起きているんです から」  その口調には、それをやったのは自分だという意思表示が現れていた。 「ああ、お忙しい身でしたよね。今日のところは、これでおいとましましょう。これ から家に帰って、両親に無事な姿を見せてやりたいですから」 「わかった。気をつけて帰ってくれ」 「それでは、突然押しかけて申し訳ありませんでした。一刻も早く報告しようと思っ たものですからね。では、失礼します」  敬礼して、くるりと踵を返し、部屋を退室する敬だった。 「気をつけて帰ってくれか、よく言うぜ」  吐き捨てるように言いながら、 「さて、局長が刺客を手配する前にとっとこ帰るとするか」  と足早に局長室を後にした。
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2019年1月29日 (火)

銀河戦記/鳴動編 第二部 第二章 I

第二章 ミスト艦隊(火曜劇場)

                I 「惑星カリスによる重力加速は順調に推移しています」  質量のあるものが存在すれば、互いの重力に引かれて接近することは、万有引力の 法則で周知の通りである。  その際における重力加速を利用して、艦隊は速度を増しつつあった。 「まもなく、重力アシスト{grabity assist}に入る。これより艦隊リモコンコード を発信する、全艦これを受信し、旗艦サラマンダーに同調せよ」  指揮官席からスザンナが指令を出している。  重力アシストによるコース変更と重力加速は、スハルト星系遭遇会戦でスザンナが 提唱し遂行した作戦である。当の本人が指揮をとっているのだから 間違いは起こさ ないだろうという将兵達の評判であった。  すでにデュプロスに進入していた艦隊にとっては、エンジンを吹かして軌道変更す るよりも、巨大惑星の重力を利用した重力アシストを行った方が、移動距離は長くは なるがほとんど燃料を使用することなくコース変更と加速ができる。 「カリスの平均軌道速度は36.37km/sです。重力アシスト加速の期待値は、相対質量 比は無視できますのでおよそ90%程度と推定され、最大32.741km/sの加速度が得られ ます」  スザンナの副官のキャロライン・シュナイダー少尉が報告する。  彼女は、スザンナが旗艦艦隊司令となると同時に副官としての辞令を受けていた。  名だたる高速戦艦サラマンダーを擁する旗艦艦隊司令の副官に選ばれたことで、親 類縁者からも一族の誇りとして期待され、本人も大いに張り切っていた。 「ちなみに過去に地球から打ち上げられた【ボイジャー2号】では、平均軌道速度13. 0697km/sの木星に対して11km/sの重力加速を得られました」 「ありがとう」 「今回は、スハルトの時と違って燃え盛る恒星じゃないし、巨大惑星のカリスによる 一回の重力ターンで済むから楽ですね」 「でも重力が桁違いだから、少しでもコースを間違えればコースに乗り切れなくなる わ」 「そうですけどね……」 「全艦、艦隊リモコンモードに入りました。重力アシスト遂行の準備完了です。全艦、 異常なし。航行に支障ありません。いつでも行けます」  ミルダの報告を受けて、全艦体勢での重力アシストに突入する。 「カリスとの相対距離は?」 「3.2光秒です」 「重力アシストを決行しましょう」  言いながらちらと後方を確認するスザンナ。  アレックスは姿を見せていない。  スザンナを信用して、重力アシストを任せきりにするようだ。 「コース設定を再確認せよ」  相手は超巨大惑星である。  桁外れの重力によって、ちょっと進路がずれただけも大きく進路から外れてしまう。  念のための再確認をするのは当然であろう。、 「コース設定を再確認します」
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2019年1月28日 (月)

性転換倶楽部/特務捜査官レディー 敬の復職

特務捜査官レディー
(響子そして/サイドストーリー)

(九)敬の復職  某県警玄関前。  さっそうとした身なりで敬が、そのスロープを歩いて玄関に入ろうとしている。 「帰ってきてやったぜ」  ふと立ち止まって県警のビルを見上げながら呟く敬。  万感の思いがよぎる。  実に二年ぶりの登庁であった。  生活安全局薬物銃器対策課のプレートが下がっていた。 「以前は薬物と銃器対策課は別だったんだけどな……」  まあその方が捜査には便利である。  報道関係から不祥事叩きを受けている警察も、ニュースにならないように、少しは 改善しようという風潮がはじまっているというところであろう。  おもむろにドアを開けて中に入っていく。  中にいた警察官達の視線が集中する。 「う、うそっ!」 「まさか、冗談じゃないだろ!」  敬の顔を知っている同僚が驚きの声を上げた。  そりゃそうだろうね。  殉職したことになっている人間が現れたのだから。 「か、課長! 沢渡です! 沢渡が戻ってきました!」  書類に目を通していた課長にご注進する同僚。 「さ、沢渡……」  課長も驚きは同じだった。  唖然とした表情で、口に咥えていた煙草をぽろりと落としても気づかない。 「課長。沢渡敬、ただ今ニューヨーク研修から戻って参りました」  一応儀礼的に挨拶をする敬だった。 「あ、ああ……ご、ご苦労だった」  つい釣られるように答える課長。  一斉に同僚が集まってきた。 「沢渡、生きていたのか!」 「そうよ。ニューヨークで殉職したって聞いて、びっくりしちゃんだから」 「生きていたなら、どうして今までずっと連絡しなかったんだ」 「おまえ二階級特進してんだぞ」  次々に言葉を掛けてくる。 「悪い悪い、いろいろと事情があってな。麻薬捜査で組織に狙われて、姿をくらまし ていたんだ」 「それが殉職と関係があるんだな」 「そうなんだな」  懐かしい同僚達との語らいだった。 「おい。沢渡君」  課長が割って入った。 「はい、課長」 「これまで行方不明だった事情はともかく、君は一応殉職扱いで戸籍を抹消されてい る。戸籍の回復手続きをしなければならないし、君が望むなら警察官としての復職も 元通りにな。それに必要な書類とか揃えるのをこちらで用意してあげようと思うのだ が」  局長はともかく、この課長は人情味溢れる模範的警察官であった。  性同一性障害者の薫に対しても理解があり、女性警察官として自分の配下に置いて、 いろいろと骨折りしてくれていた。薫に女性用の制服を支給し、麻薬没滅キャンペー ンのチラシに他の女性警察官と一緒に載せたりもした。  課長のおかげで、薫は署内でも一人前の女性警察官として扱われ、その職務を順調 にこなすことができたのであった。  敬が一番に課長の元を訪れたのは、そういった事情からまず最初に挨拶するべきだ と判断されたのである。 「お願いします。死亡報告書を提出した警察側が動いてくれないと、戸籍復帰は適い ませんからね」 「そうだな。で、ご両親の方には?」 「まだ会っていません。」 「いかんなあ。まず一番に知らせるのがご両親じゃないのか?」 「親はなくても子は育つですよ」 「なんじゃそれは?」 「あはは、順番はどうでもいいじゃないですか。ここの後でちゃんと帰りますから」 「うん。そうしてくれ」  このように親のことにも気をつかう課長であった。  ここを一番にしても罰当たりにはならないだろう。 「ところで……佐伯君の方なんだが……」  言いにくそうに、もう一つの件を切り出す課長。 「残念ながら、薫は僕の腕の中で逝きました」 「そうか……好きな人の腕の中で逝ったのなら、少しは救われたかな」 「そうかも知れませんね……」 「後で、薫君のご両親にも挨拶しに行くことだな。君だけでも生きていたと知ると喜 ぶだろう」 「そうします」  世話話的な会話が続いている。 「ところで局長はどうされていますか?」  今日の主眼ともいうべきことを切り出す敬。 「局長か?」 「はい」  人事異動がされていないことを確認していた。 「相変わらず、と言っておこう」 「そうですか……」 「会いに行くのか?」 「行きます」 「そうか……まあ、気を静めてな。外出の予定はないから、たぶん局長室にいるはず だ」  敬達をニューヨークに飛ばした事情を知っている課長だった。  課長とて所詮組織の中の一人でしかない。局長の決定した敬達の処遇には、反対す るべき立場にはなかった。 「ありがとうございます」  麻薬銃器対策課を出て、生活安全局の局長室へと向かう。
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特務捜査官レディー
(響子そして/サイドストーリー)

(九)敬の復職  某県警玄関前。  さっそうとした身なりで敬が、そのスロープを歩いて玄関に入ろうとしている。 「帰ってきてやったぜ」  ふと立ち止まって県警のビルを見上げながら呟く敬。  万感の思いがよぎる。  実に二年ぶりの登庁であった。  生活安全局薬物銃器対策課のプレートが下がっていた。 「以前は薬物と銃器対策課は別だったんだけどな……」  まあその方が捜査には便利である。  報道関係から不祥事叩きを受けている警察も、ニュースにならないように、少しは 改善しようという風潮がはじまっているというところであろう。  おもむろにドアを開けて中に入っていく。  中にいた警察官達の視線が集中する。 「う、うそっ!」 「まさか、冗談じゃないだろ!」  敬の顔を知っている同僚が驚きの声を上げた。  そりゃそうだろうね。  殉職したことになっている人間が現れたのだから。 「か、課長! 沢渡です! 沢渡が戻ってきました!」  書類に目を通していた課長にご注進する同僚。 「さ、沢渡……」  課長も驚きは同じだった。  唖然とした表情で、口に咥えていた煙草をぽろりと落としても気づかない。 「課長。沢渡敬、ただ今ニューヨーク研修から戻って参りました」  一応儀礼的に挨拶をする敬だった。 「あ、ああ……ご、ご苦労だった」  つい釣られるように答える課長。  一斉に同僚が集まってきた。 「沢渡、生きていたのか!」 「そうよ。ニューヨークで殉職したって聞いて、びっくりしちゃんだから」 「生きていたなら、どうして今までずっと連絡しなかったんだ」 「おまえ二階級特進してんだぞ」  次々に言葉を掛けてくる。 「悪い悪い、いろいろと事情があってな。麻薬捜査で組織に狙われて、姿をくらまし ていたんだ」 「それが殉職と関係があるんだな」 「そうなんだな」  懐かしい同僚達との語らいだった。 「おい。沢渡君」  課長が割って入った。 「はい、課長」 「これまで行方不明だった事情はともかく、君は一応殉職扱いで戸籍を抹消されてい る。戸籍の回復手続きをしなければならないし、君が望むなら警察官としての復職も 元通りにな。それに必要な書類とか揃えるのをこちらで用意してあげようと思うのだ が」  局長はともかく、この課長は人情味溢れる模範的警察官であった。  性同一性障害者の薫に対しても理解があり、女性警察官として自分の配下に置いて、 いろいろと骨折りしてくれていた。薫に女性用の制服を支給し、麻薬没滅キャンペー ンのチラシに他の女性警察官と一緒に載せたりもした。  課長のおかげで、薫は署内でも一人前の女性警察官として扱われ、その職務を順調 にこなすことができたのであった。  敬が一番に課長の元を訪れたのは、そういった事情からまず最初に挨拶するべきだ と判断されたのである。 「お願いします。死亡報告書を提出した警察側が動いてくれないと、戸籍復帰は適い ませんからね」 「そうだな。で、ご両親の方には?」 「まだ会っていません。」 「いかんなあ。まず一番に知らせるのがご両親じゃないのか?」 「親はなくても子は育つですよ」 「なんじゃそれは?」 「あはは、順番はどうでもいいじゃないですか。ここの後でちゃんと帰りますから」 「うん。そうしてくれ」  このように親のことにも気をつかう課長であった。  ここを一番にしても罰当たりにはならないだろう。 「ところで……佐伯君の方なんだが……」  言いにくそうに、もう一つの件を切り出す課長。 「残念ながら、薫は僕の腕の中で逝きました」 「そうか……好きな人の腕の中で逝ったのなら、少しは救われたかな」 「そうかも知れませんね……」 「後で、薫君のご両親にも挨拶しに行くことだな。君だけでも生きていたと知ると喜 ぶだろう」 「そうします」  世話話的な会話が続いている。 「ところで局長はどうされていますか?」  今日の主眼ともいうべきことを切り出す敬。 「局長か?」 「はい」  人事異動がされていないことを確認していた。 「相変わらず、と言っておこう」 「そうですか……」 「会いに行くのか?」 「行きます」 「そうか……まあ、気を静めてな。外出の予定はないから、たぶん局長室にいるはず だ」  敬達をニューヨークに飛ばした事情を知っている課長だった。  課長とて所詮組織の中の一人でしかない。局長の決定した敬達の処遇には、反対す るべき立場にはなかった。 「ありがとうございます」  麻薬銃器対策課を出て、生活安全局の局長室へと向かう。
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おーい!雪山ゲレンデはどこだあ!?

インターポット

コイコイゲレンデが取れません(;'∀')

とりあえずリフトが取れたので、
飾ってみました。

早くゲレンデをGETしたです(;´Д`)

2019年1月27日 (日)

銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第二章 選択の時 II

 機動戦艦ミネルバ/第二章・選択の時(日曜劇場)

 II 選択の時  補給を終えた補給艦が去っていく。  それを見送るミネルバの乗員達。 「艦長。トランターを占領した連邦軍の記者会見放送が入っています」 「拝見しましょうか。艦内放送にも流してください」 「わかりました」  パネルスクリーンにトランターを占拠した連邦軍戦略陸軍中将マック・カーサーが 映しだされていた。 『本日をもって、トリスタニア共和国同盟はバーナード星系連邦の支配下に入ったこ とを宣言する』  艦内にどよめきが広がった。 「来るべき時が来たというところですね」  記者会見放送は続いている。  一人の記者が代表質問に立った。 『共和国同盟には、出撃に間に合わなかった絶対防衛艦隊や、周辺守備艦隊を含めて、 残存艦隊がまだ三百万隻ほど残っています。これらの処遇はどうなされるおつもりで すか?』 『残存の旧共和国同盟軍は、新たに編成される総督軍に吸収統合されることになるだ ろう』 『タルシエン要塞にいるランドール提督のことはどうですか? 彼は未だに降伏の意 思表示を表さずに、アル・サフリエニ方面に艦隊を展開させて、交戦状態を続けてい ます』 『むろんランドールとて共和国同盟の一士官に過ぎない。共和国同盟が我々の軍門に 下った以上、速やかに投降して、要塞を明け渡すことを要求するつもりだ。もちろん 総督軍に合流するなら、これまで共和国同盟を守り通したその功績を評価して、十分 な報酬と地位を約束する』  マック・カーサーの記者会見放送に対する乗員達の反応はさまざまだった。 「どうなんだろうね。ランドール提督は徹底抗戦を続けるつもりなのかな」 「じゃない? だってこうやって、メビウス部隊をトランターにわざわざ派遣して、 レジスタンス活動させているんだもの」 「しかしそれって、共和国同盟の軍人同士で戦うことを意味してるんだぜ」 「要は艦長次第じゃないのか?」 「もちろん徹底抗戦に決まってるじゃない。こういう時期に転属命令を受けてやって 来たんだから、それ以外に考えられないでしょ」  各自それぞれの意見を寄せ集めて、議論真っ盛りであった。 「乗員達の間では、意見真っ二つに分かれています」  乗員達の議論を耳にした副長のリチャードがフランソワに伝えていた。 「でしょうね。誰も今後のことはどうなるか判らないし、味方同士で戦うのを避けた いと思うのは当然ですよね」  フランソワは、この地にしばらく留まることにした。  乗員達に議論の時間を与え、各自の意思を固めさせるためである。  もちろん士官学校繰上げ卒業で、未熟なまま徴用された新人達に、艦内装備や艤装 兵器などの習熟度を上げる訓練をも兼ねていた。  さらにしばらくして、マック・カーサーの宣言に答えるように、アレックス・ラン ドール提督の放送が流された。 『共和国同盟に暮らす全将兵及び軍属諸氏、そして地域住民のみなさんに伝えます。 私、アレックス・ランドールは、タルシエン要塞を拠点とする解放軍を組織して、連 邦軍に対して徹底抗戦することを意志表明します。解放の志しあるものは、タルシエ ン要塞に結集して下さい。猶予期間として四十八時間待ちます。なお以上です』  放送を聞き終えたリチャードが質問する。 「どうなんでしょう。タルシエンに結集する艦隊はあるのでしょうか?」 「期待は薄いでしょうね。解放軍に参加するということは、故郷に対して弓引くこと になる結果を招くことになるわ。つまりこのミネルバのようにね。辺境の地へわざわ ざ出向いて行くことはしないでしょう」 「ということは現有勢力だけで戦わなければならないというわけですか」 「そうなるでしょうね」
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2019年1月26日 (土)

妖奇退魔夜行/蘇我入鹿の怨霊 其の廿捌(最終回)

 陰陽退魔士・逢坂蘭子/蘇我入鹿の怨霊 其の廿捌(最終回)

(廿捌)大団円  戦いは終わった。  石上直弘と魔人は倒したものの、街中に広がった怨霊達が残っていた。  各所で燃え上がる火災、火の粉が風に乗ってここまで飛んできていた。  見つめる蘭子の頬をほのかに赤く照らす。 「課長。布都御魂を返していただけますか」 「ああ、わかった。ほれ」  預かっていた布都御魂を蘭子に返す井上課長。 「ありがとうございました。さてと……、これからが大変です」 「どうするつもりだ?」 「これを使います」  と、布都御魂を示した。 「布都御魂?」 「ただチャンバラをするためだけに、託宣されたと思いますか?」  頬笑みを浮かべながら、儀式の準備を始めた。  まずは地面に突き刺さっている七星剣を、布都御魂と刃を重ね合わせるようにして引 き抜く。  七星剣を単独で扱うと、祟られる可能性があるからである。布都御魂の神通力をもっ て、それを押さえつけるのだ。  二つの刀を捧げ持ち、板蓋宮跡の中心部にある「大井戸」と推定されている窪みに入 り屈み込んで、その縁に刀を安置した。  両手を合わせて祈るように、眼を閉じて静かに大祓詞の詠唱をはじめる。 大祓詞全文資料によっては、文言の異なる祝詞が多数存在します。  井上課長も手を合わせ、目を閉じて祈っていた。  災禍によって命を失った人々はもちろんのこと、石上直弘に対しても憐れみを持って。  やがて布都御魂剣と七星剣が輝きだし、光は四方八方に広がってゆく。  それとともに町中の怨霊達が、引き寄せられるように集まってくる。  そして布都御魂に吸い込まれるように消えてゆく。  声を掛けようとした井上課長であるが、一心不乱に祝詞を唱える蘭子に躊躇を余儀な くされた。実際にも、精神集中している蘭子には、声は届かないだろうが。  最後の祝詞が詠唱される。 「……今日の夕日の降の、大祓いに祓へ給ひ清め給ふ事を、諸々聞食せと宣る」  パンッ!  と手を叩いて手を合わせて、しばらく黙祷。  静かに目を開き、深呼吸する蘭子。  辺り一面の怨霊達は姿を消し、平穏無事な世界が広がっていた。  ゆっくりと立ち上がって、井上課長のもとに歩み寄る蘭子。 「終わりました」 「そうか……お疲れ様」  携帯を取り出して、奈良県警の綿貫警視に連絡をとる井上課長。  押っ取り刀で駆け付けた奈良県警の現場検証が始まる。  石上直弘の遺体の写真撮影、遺留品の回収など手っ取り早く進められてゆく。  事情聴取には、井上課長が詳細な報告を伝えていた。 「時間も遅いですから、詳しいことは明日にしましょう」  女子高生である蘭子に配慮して聴取は切り上げられた。  旅館に戻った二人。 「証拠物件として、これが取り上げられなくて良かったです」  と、竹刀鞘袋に納められた二振りの剣。  七星剣と布都御魂。 「綿貫警視が骨折ってくれたからな」  怨念が籠っているから、一般人が触ると呪われる。  蘇我入鹿の怨霊事件を再び繰り返し起こしたいのか?  そうやって脅しをかけて強引に、陰陽師である蘭子に、刀剣の所持を継続許可したの である。  布都御魂を元の地に返すために、石上神宮禁足地へと戻ってきた蘭子。  布都姫が現れた。 「ありがとうございました」  蘭子がお礼を述べると、軽く頷くような素振りを見せて、静かに消え去った。  足元の地面を掘り起こし、元の様に「布都御魂」を埋め戻してゆく。  手を合わせて静かに黙祷する。  禁足地の外では、井上課長が、蘭子の帰りを待っていた。  やがて戻ってきた蘭子に話しかける。 「本物の布都御魂かも知れないのに埋め戻すのかね」 「何百年間もの長い年月、人知れず眠っていたのです。元の場所でそっと静かに眠らせ てあげましょう」 「そういうものかねえ……」 「御神体がいくつもあったら、有難さも薄れるじゃないですか」 「それはそうですけどね……」  その後、拝殿に参拝して神に事件報告する蘭子。  神様のお告げで布都御魂を授けられたのであり、お礼参りするのは当然。 「明美も刀剣に興味を持たなければ、事件に巻き込まれなかったのに」  空を仰ぎながら、一粒の涙を流す蘭子だった。  社務所で談話する奈良県警の綿貫警視と宮司。 「布都御魂を埋め戻して良かったのでしょうか?あちらが本物かも知れないのに」 「あちらの方は、蘭子さんが神のお告げで授かったものです。同様に埋め戻せというお 告げがあったのでしょう。今でも禁足地を掘ってみれば、刀剣類がいくらでも出てくる でしょう」 「またぞろですか?」 「そうです。真偽のほどは神様にしか分かりません。悩んでみたところで仕方なし、伝 承にいう剣と思しきものが出土した。我々は、それを布都御魂と信じて奉るしかないの です」  傍らには、宮司らの手によって除霊されたばかりの「七星剣」が置かれている。  翌日の四天王寺宝物殿。  井上課長と土御門春代、そして四天王寺住職が秘密の地下施設扉前に揃っていた。  開錠の呪文で封印を解いて、開いた扉から入館する一同。  七星剣を元の刀掛台に戻して、改めて拝礼する住職。 「戻ってきて良かったです。それもこれも蘭子ちゃんのお陰です」  向き直ってお礼を言うと、 「取り戻したとはいえ、多くの人々の尊い命が失われました」  春代が悲しげに答えた。 「はい。重々心に刻んで、弔うことにしましょう」  宝物殿を退出して、再び呪法で密封する住職。  井上課長が告げる。 「今回の事件に際して、七星剣のことは闇に封じます。科学捜査が基本の現在の警察事 情では、怨霊や魔人による犯罪だった……なんて公表できませんからね。裏とはいえ、 これも立派な国宝の一つでもあるし。証拠物件として提出わけにもいかないし」 「ご配慮ありがとうございました」  四天王寺境内を歩きながら、 「蘭子ちゃんに会いたかったですな」 「高校生ですから、授業中です」 「そうでしたな」  阿倍野女子高等学校、1年3組の教室。  静かな教室内に、教師の教鞭の声とノートに書き写すペンの音。  窓際の机に座りながら、外を眺めている蘭子。  吹き渡るそよ風が、その長いしなやかな髪をかき乱してゆく。  一つの事件は解決したが、蘭子の【人にあらざる者】との戦いはこれからも続く。 蘇我入鹿の怨霊 了
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2019年1月25日 (金)

性転換倶楽部/特務捜査官レディー これから(R15+指定)

特務捜査官レディー
(響子そして/サイドストーリー)

(八)これから  身も心も結ばれた感動の余韻に浸りながら、並んで横になる二人。  これまでの経緯からすぐには眠りに付けそうになかった。  寝物語として、これまでの二人の生き様を披露しあう。  真樹は、生死の境を乗り越えて、かの先生の手によって真の女性として生まれ変わ った人生。  敬は、追撃を振り切って特殊傭兵部隊に入り、ニューヨーク市警の所長暗殺に至っ た経緯。  二人の話は尽きなかった。  やがて今後の問題に入った。 「ところでさあ……。一緒に仕事しようと言ったこと考えてくれた?」 「うん……その件だけどさあ」  煮え切らない返答に、 「あ、別にいいんだよ。今は新しい両親の元で真樹として暮らしているんだし、俺と 結婚して専業主婦になるってのでもいいんだ。親孝行も大切だからね。用は一緒に暮 らせればいいんだ」  と切り替えしてきた。  確かにそれでもいいとは思っている。  結婚し家庭に入って、子供を産んで育てる。ごく普通の主婦としての生活。  それでも十分な幸せと言えるだろうし、今の両親の願いでもあるはずだった。敬は そのことを考慮して言ってくれているのだった。  しかしわたしの意志は決まっていた。 「違うのよ。敬と一緒に仕事したいけど、ちょっと都合があって……」 「都合って?」 「はっきり言うわ。わたし、麻薬取締官になるつもりなの」 「麻薬取締官?」 「そうよ。どうせ一緒に仕事するなら、やり残したことをちゃんと片付けたいと思 う」 「磯部健児か?」  すぐに答える敬。  彼も心の隅にずっと気に掛けていたようだった。 「でもね。一介の警察官じゃ、あの生活安全局の局長が大きな壁になる。健児を挙げ るのも、局長の真の姿を暴くのも不可能だと思うのよ」 「そうだな。その権限を笠に掛けて握りつぶされるのがおちだな」 「最近の警察の不祥事のニュースを見ても判るとおり、警察内部は腐りきっているわ。 身内を庇ったり、不祥事を隠蔽しようとしたり、毎日のように馬鹿げた報道が繰り返 されている」 「俺達がニューヨークへ飛ばされた要因でもある縦割り行政の問題もあるからな。生 活安全局、刑事局暴力団対策課、それぞれが縄張り争いしてる」 「ああ、それだけど。警察庁組織が改編されて、薬物銃器対策課というのが刑事局組 織犯罪対策部の中にできたらしいの」 「そうなのか?」 「警察庁にはね。でも地方警察の方では、相変わらず生活安全局の中にあるところが 多いわ」 「ふうん……まずは本庁から組織改編をはじめて、いずれ地方に手を掛けるんだろう な」 「でも、国家公安委員会の下の警察機構の中では一本化されつつあっても、薬物銃器 対策の組織ととしては、依然として厚生労働省麻薬取締部や、財務省税関そして海上 保安庁とがある。それぞれ独自に捜査を続けていて、綿密に連絡を取り合って情報を 共有しあって、薬物銃器対策の捜査に役立てているところは皆無に近い状況だわ」 「どっちにしても今の警察はだめだ!」 「だから警察内でいくら足掻いても無駄なこと、治外法権的な立場から警察を暴くし かないわ」 「それが麻薬取締官か……」 「そうなの。行政組織が違うから、犯罪を立証しさえすれば警察内部に踏み込むこと が可能だわ。あの局長だって逮捕することだってできるはずよ」 「麻薬取締官か……俺には無理だな」 「だから、以前申請していたじゃない。麻薬と銃器を取り締まる、それぞれの行政組 織を一体化させた新しい組織の創設よ」 「ああ、局長に一握りで潰された話だな」 「麻薬犯罪は悪化の一途を辿っているわ。このまま手をこまねいていては、いたいけ な少年少女までにも蔓延してしまう。何せ世界一の生産・輸出国家であるアフガニス タンや南・北朝鮮から大量に流出しているんですもの」 「とにかくだ。おまえだけでも麻薬取締官になれよ。国家公務員の採用試験は一年に 一回しかないんだからな」 「うん。判った」  愛し合う二人だが、それにもまして正義感に溢れることが、こんな会話を可能にし ていた。  正義を守って悪を絶つ。  二人に共通する思いの丈であった。 「取りあえず俺は、元の警察官に戻るよ。沢渡敬としてね」 「敬として?」 「ああ、あの局長にこの生きた姿で会ってやる」 「驚くでしょうね」 「とにかく局長が俺達を陥れたという証拠はどこにもない。そのためにこそニュー ヨークへ飛ばしたんだからな」  確かに今の腐敗した警察内部の不祥事は、報道関係が目を光らせている。一介の警 察官が死んだというそれだけもニュースになる時代だ。だから、警察官の死亡など日 常茶飯事のニューヨークへ飛ばし、抗争事件の巻き添えで殉職というシナリオを用意 していたのだ。 「でも、生きて戻ってきたとなれば、また敬をどうにかしようと動き出すでしょう ね」 「そこが狙いだよ。今度こそ、奴の首根っこを捕まえてやる。特殊傭兵部隊で鍛え上 げた強靭な身体と根性を見せてやるよ。俺の命を狙うなら狙えってみろだ。返り討ち にしてくれる」 「大した自信ね」 「実際、幾度となく死線を乗り越えてきたからな」 「ほんとにね……」  ともかくも、わたしは麻薬取締官、敬は元の警察官に戻ることを決めた。  磯部健児を検挙し、犠牲となった磯部親子に報いるためにも、わたし達ができ得る ことをしようと誓い合った。
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2019年1月24日 (木)

性転換倶楽部/響子そして 輪廻転生(R15+指定)

響子そして(覚醒剤に翻弄される少年の物語)木曜劇場
この物語には、覚醒剤・暴力団・売春などの虐待シーンが登場します

(十)輪廻転生  薬漬け……売春婦……。  わたしは恐怖におののいて、凍り付いた。  覚醒剤に身も心もぼろぼろになってしまった母親の姿が思い浮かんだからだ。  虚ろな瞳を向け、自分の息子と愛人の区別もできなくなって、迫ってきた母親。  あのようにはなりたくない。  あの男は、母親を売春婦として調教していたのだ。いずれ資産を食い潰したあげく には、売春婦として働かせるつもりだったに違いない。吸血鬼のように血の一滴も残 さずに吸い上げ死に至らしめる。  わたしも、このままでは薬漬けにされ、売春婦として生涯を閉じることになるだろ う。  がちゃりと扉が開いて男が入ってくる。手には注射器を持っている。  覚醒剤だ!  逃げようとした。しかし、身体に力が入らない。 「さあ、また射ってあげよう。気持ちが良くなるようにね」  い、いやだ。やめて!  声にならない。  わたしの腕に注射針を突刺される。  しだいに意識が朦朧としてくる。  男が上に重なってきた。  意識が遠くなっていく。  あれから何時間。いや何日たったのだろう。  意識が少しずつ回復するにつれて、鼻につく異臭が漂っているのに気がついた。し かもどこかで嗅いだことのある……。そうだ、これは精液の匂いだ。  ふとわたしの腕に幾つもの注射痕があるのに気づいた。ついさっき注射したばかり のようなものもあれば、かなり日数がたってあざになっているものもあった。  どうやら覚醒剤を注射され続けているようだった。覚醒剤が切れかける度に次々と。  そしてこの精液の匂い。  頭を動かしてベッドサイドを眺めると、ティッシュが山のようになったごみ箱があ り、そこからこの異臭が漂っている。精液の匂いに不感症にさせるか、或は逆の反応 をするようにしむけているのか、わざとそのまま放置しているのであろう。  覚醒剤を注射され、陶酔状態にある時に、犯されているのだ。間違いない。  かつて、わたしの母親がされたような行為が、今まさに自分自身に対して行われて いると確信した。  何の因果か、母娘で同じ覚醒剤にはまってしまうなんて。そういえば明人の母親も そうだった。  わたしの身の回りでは覚醒剤を核とする輪廻転生が巡っているのかも知れない。巡 り巡って、今わたしがその渦の中にいる。  まだ意識が正常なうちに逃げ出さなくては……。  しかし、生きて逃げる事は不可能だろう。どうせまた連れ戻されるに決まっている。  この輪廻から確実に解脱するには、命を投げ出すしかない。  明人は死んでしまった。今のわたしに生きていく希望は何もない。覚醒剤の虜とな り溺れていくだけの人生があるだけだ。  隣の部屋からは何の音もしない。誰もいないようだ。  それまでは逃げ出さないように縛られていたが、今は縛られていない。  すっかり覚醒剤に冒されていて、たとえ逃げ出しても、禁断症状の苦しみからまた 舞い戻ってくる。そういう判断なのだ。  わたしは、覚醒剤の影響でふらふらになった身体を引きずるように、窓辺に擦り寄 った。今気がついたが、わたしは全裸だった。犯す度に、いちいち脱がしたり着せた りするのが面倒だから、脱がしたままにしてシーツを掛けるだけにしていたのだ。  この際どうでもいい。どうせ死ぬんだから。  そして窓を開けて身を乗り出した。  明人待っててね。今いくから……。  ふわりと身体が浮く感じがしてやがて意識がなくなった。
 性転換倶楽部の二つの物語(サイドストーリー)ですが、時系列を揃えるために、 「響子そして」はしばらく休載して、「特務捜査官レディー」のみの連載となります。 時系列が一致すれば、同時進行形にします('ω')ノ
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2019年1月23日 (水)

性転換倶楽部/特務捜査官レディー 再会の日(R15+指定)

特務捜査官レディー
(響子そして/サイドストーリー)

(七)再会の日  卒業式を迎えることとなった。  女子大生よろしく、袴スタイルで着飾って友人達と仲良く記念写真におさまる。  大学生活をエンジョイしながらも、国家資格試験&採用試験に向けての勉強は忘れ ていなかった。  その年の六月までには二つの試験に合格し、八月に行われる予定の麻薬捜査官の受 験資格を得たのである。  実際に受験するかは、敬と相談の上で決定することにする。  敬は一緒に仕事しようとは言ってくれているが、それはあくまで警察官同士という ことだと思う。だから麻薬捜査官になるのには難色を示すかもしれない。国家公務員 と地方公務員では、同じ職場を共にすることはできないからである。  しかし地方公務員では、あの局長と健二を捕らえることはできない。  そしてついに、敬との再会の日を迎えた。  その日は朝から、念入りに化粧を施し、時間を掛けて慎重に衣装を選んだ。 「どうしたの? 今日はずいぶんとおめかしして」  母が何事かと首を傾げている。 「うん……ちょっと」 「デートかしら?」  図星を当てられて当惑する。 「やっぱりね。女の子ですもの、好きな人ができて当然。楽しんでらっしゃい」  母親として理解ある言葉だった。 「できれば、その男性を紹介してくれると嬉しいんだけど……」 「はい。もしそれができるようでしたら、紹介します」  敬のことだ。会ってみて、以前のままのやさしい彼だったら、現在の母にも会って くれるはずだ。  ただ傭兵部隊に入隊していたというから、それがどんな部隊か判らないが、スナイ パーとして腕を磨いたという発言から、人殺しも是とする集団なら、心が荒んでしま っている可能性もある。  あの日以来、連絡はなかった。  今日会ってすべては動き出す。  意気投合し、仕事を共有した後に幸せな結婚生活になるか。  相容れずに別離の果てに敬は傭兵部隊の一員として戦場で散り、自分は涙に暮れる か。  ともかくも敬と会って相談して決めよう。  そして今、約束の大観覧車の前に立っている。  敬の姿はない。 「ここでいいんだよね……時間は午後八時。ちょっと少し早いけど……」  果たして姿形の変わったわたしを、敬が気づいてくれるだろうか?  あの日のデートの時に着ていた服にすれば良かったかな……。それには実家に取り に行かなければならないし、いくら母がいつでも帰っていいよと言ってくれていると はいえ、そうそう帰ってもいられない。但し電話連絡だけは欠かしていない。母親と いうものは、病気してないだろうかと毎日のように心配しているからである。  大観覧車に乗車する人々は、午後八時という時間からかほとんどがカップルであっ た。家族連れには遅すぎる時間帯である。  楽しそうに乗車するそれらのカップルを見つめながら、自分と敬も一組のカップル として乗り込んだものだった。  一人の女性として交際してくれる敬に、ぞっこん惚れていた。プロポーズされた時 の嬉しさは言葉に尽くせない感動であった。  大観覧車の営業終了時間が迫っていた。  日曜ならば深夜四時(最終乗車)まで営業しているが、今日のような平日は午後十 時までである。再会の約束の時間としては、大観覧車が動いている時間帯と考えるの が妥当のはずだ。  客達は帰り支度をしている。  大観覧車の周囲には客はほとんどまばらになっていた。  この時間となれば、二十四時間営業の東京レジャーランドへと、客は移動して行く。  未だに敬は現れない。  やがて大観覧車の営業が終了した。  通行人たちの奇異な視線を浴びながら、たった一人寂しく大観覧車の前で佇むわた し。 「どうして? どうして敬は来ないの?」  涙に暮れながら、現れない敬のことを心配していた。  来る途中で、事故にでもあったのだろうか?  一年前のこの場所で、こんなわたしにプロポーズしてくれた敬。  あの逃亡劇の最中の別れ際、必ず迎えに来ると誓った。  死線を乗り越えて生き残り、CD-Rに託して再会しようと言ってくれた。  そんな敬が、わたしを放ってどこかに行ったりはしない。  必ず迎えに来てくれると信じている。 「よっ! 待たせたな」  背後から声がした。  振り返ると、懐かしい顔がそこにあった。死線を乗り越え、傭兵部隊に入隊して精 悍な表情をしているが、まさしく敬だった。 「待たせて悪かったな。実は今日成田に着いたばかりなんだ。飛行機は遅れるし、成 田エクスプレスは……」  言葉を言い終わらないうちに、わたしは敬の胸の中に飛び込んでいた。 「敬! 会いたかった」 「俺もさ……」  それ以上の言葉はいらなかった。  時のたつのも忘れて、二人はずっと抱き合っていた。  これまでの時間を取り戻すかのように。  数時間、二人はモーテルのベッドの上だった。 「あつっ!」 「あ、ごめん。痛かった?」  長い間離れ離れになっていた愛し合う二人が結ばれるのに時間は掛からなかった。  当然の成り行きと言えるだろう。  しかし真樹は処女だった。  初めて迎え入れる男性に対して少なからず抵抗を見せていた。  処女膜を押し広げて侵入してくるものを拒絶するように痙攣にも似た感覚が全身を 駆け巡る。  敬の動きが止まった。  真樹の身体を慈しむようにやさしい表情で見つめている。 「ううん。いいの。そのまま続けて」 「ほんとにいいんだね」 「うん。愛しているから」  身も心も一つに結ばれたかった。  真樹として守り続けてきたバージンを捧げたかった。  本当の女性になるための最初の試練でもあった。 「いくよ」 「うん……」  さらに腰を落としてくる敬。  愛する人のために耐える真樹。  子宮に敬のものが当たる感覚があった。  完全に結ばれた瞬間だった。  以前の真樹、つまり薫だった頃には不可能だった行為が、果たせなかった思いが、 今実現したのだった。  感動的だった。  女として生きる最大の喜びに打ち震えていた。 「愛してるわ」 「俺もだよ」  確認しあうように短い言葉を交わす二人。  そしてゆっくりと動き出す敬。  やがて絶頂を迎えて、真樹の身体にそのありったけの思いを放出する敬。  身体の中に熱いものがほとばしるのを感じながら真樹も果てた。
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2019年1月22日 (火)

銀河戦記/鳴動編 第二部 第一章 IV

第一章 中立地帯へ(火曜劇場)

                 IV  と、その時、通信士からの報告が入った。 『トランターのウィング大佐より、極秘暗号通信が入電しています』 「こっちへデータを回してくれ」 『データをそちらへ回します』  端末が受信状態となり、自動的に暗号解析が行われて、パスワード入力画面が表示 された。 「レイチェルからの極秘暗号通信とはね。よほどの緊急通信なのかしら」  画面をのぞき込むジェシカに、スザンナが答える。 「当然じゃないでしょうか。レイチェルさんのいる場所は、敵のただ中ですよ。総督 軍の監視網をかいくぐって通信を送るのは、へたをすれば基地の場所を悟られる結果 となり、多大な危険を伴います」 「なかなか連絡が取れないレイチェルさんからの通信だというのに、双方向通信がで きないのは寂しいですね。それにフランソワのことに気になっているんですが……」  さも残念そうな表情のパトリシアだった。 「仕方がないわよ。フランソワもちゃんとやっているって! それよりとにかく、早 く暗号を解いてよ、アレックス」  端末を叩いてパスワードを入力するアレックス。  キー入力操作を眺めていればパスワードを知ることができるのだが、ここにいるの は士官学校時代からの腹心中の腹心達ばかりである。気にする必要はなかった。 『パスワードヲ確認シマシタ! 認証バッチヲドウゾ』  アレックスは胸に刺してある戦術士官徽章を外して認証装置の上に置いた。  徽章は階級を示すと同時に、組み込まれたICチップが個人を識別して認証装置を 作動させることができる。  艦内の移動において自動ドアが開くのは、徽章から識別コードが発信されているか らである。 『アレックス・ランドール少将ト確認。映像回線ヲ開キマス』  ディスプレイにレイチェル・ウィング大佐の姿が映し出された。  一方通行の秘匿通信なので、相手からの送信を受け取るだけしかできない。 『簡潔明瞭に報告します。バーナード星系連邦の先遣隊が銀河帝国への進軍を開始し ました。その一方においてほぼ同時刻に、銀河帝国のジュリエッタ第三皇女が配下の 艦隊を引き連れて、辺境周辺地域の警備状況の視察に赴くという情報があります。お そらく先遣隊は皇女艦隊を襲撃拉致しようともくろんでいるものと推測されます。た めに、速やかなる対処が必要かと思われます。先遣隊の進撃ルートは不明、司令官に すべて一任されているもよう。第三皇女艦隊の進行ルートのデータを送信します。そ れでは、幸運を祈ります』  暗号通信が途切れた。 「うーん……、これは問題だな」  と唸って、しばし考慮中となるアレックスだった。  それはまた、言葉には出さないが『君達ならどうするかね』と質問する意思表示で もあった。  私も考えるが、君達も考えたまえ。  と、言っているのである。  もちろんそれに気づかない者はいない。  一同の討論がはじまる。  一番手はパトリシアだった。 「第三皇女が拉致されたら、これから提督がされようとしている銀河帝国との協定交 渉が暗礁に乗り上げてしまいます」 「逆に連邦側の言いなりになる可能性がでるわね」  ジェシカが言葉尻を次いで発言する。  その後は順次発言を続ける。 「奴らに先をこされないようにして、帝国皇女を保護されたらいかがでしょうか」 「それは不可能ですよ。そうするためには中立地帯を越えることになります。戦艦が 中立地帯を通行するのは、国際協定違反になります」 「そういうことね。だからこそ、デュプロス星系に滞在して、接触の機会を伺おうと していたのよ……」 「何を悠長なことをおっしゃるのですか。先遣隊は、すでに行動を起こしているので すよ」 「これは切実なる国家間の外交問題です。外交に不慣れな軍人が立ち入るようなもの ではないのです。まかり間違えば戦争に発展することもありえるのですから」  堂堂巡りであった。  皇女を救いたいが外交問題で中立地帯への進入がかなわない。  かといってこのまま手をこまねいていては連邦の思うつぼになってしまう。  後は、アレックスの決断次第であった。 「提督はどうお考えですか?」  一同が司令官の判断をあおいだ。 「そうだな……。やはり、放っておくことはできないだろう。デュプロス星系への進 攻作戦は一時延期し、中立地帯へ転進する」 「今から向かっても間に合わないのでは?」 「かも知れないが、敵艦隊の狙いが第三皇女の拉致にあるとしたら、皇女艦隊が視察 範囲の最も外縁に到達するのを待たねばならない。それ以前に侵攻すれば察知されて 引き返されて拉致に失敗することになる。いかに高速艦艇を揃えていて追撃にかかっ たとしても、帝国軍は全力を挙げ身を犠牲にしても、皇女を後方へ脱出させるだろ う」 「なるほどね。さすがは私たちの指揮官だわ。相手もすぐには中立地帯へ踏み込めな いなら、こちらにも追いつく時間が稼げるというわけですね」  ジェシカが感心して賛同する。 「おだてるんじゃない。ミルダ! レイチェルが暗号文を送信した時間を出発時間と し、敵先遣艦隊が連邦の最寄の基地を出発して銀河帝国へ向かったと想定して、その 進撃予想ルートと、我が艦隊が転進してこれを追撃するとした場合の最短ルート及び 遭遇地点と時間を計算して出してくれ」 「了解しました!」  端末を操作して航路設定を計算するミルダ。  航路に関することなら、艦隊随一の航海長。  計算はすぐに終了した。 「航路でました」 「よし! そのデータをリンダに送ってくれ。予定を変更する。スザンナ、艦隊を転 進させる」 「了解しました」  新たなる動きが発生した。  銀河帝国へ先遣隊を向かわせた連邦軍と、おそらく何も知らないであろう銀河帝国 第三皇女の一行。  皇女を拉致されないためにもと、急遽予定を変更して中立地帯へと転進したアレッ クス達解放軍。  果たして、いずれかに運命の女神は微笑みかけるのだろうか? 第一章 了
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2019年1月21日 (月)

性転換倶楽部/特務捜査官レディー 麻薬取締官へ(R15+指定)

特務捜査官レディー
(響子そして/サイドストーリー)

(十)麻薬取締官へ  もう一度コンビを組むか……。  それが可能だとしたら、やり残した例の事件、磯部ひろしの件を解決したいものだ。 その黒幕の磯部健児を挙げるには、あたし一人じゃとうてい無理……だからこれまで 何もしないでごく普通の女子大生として平穏に暮らしていたのだが……。しかも一介 の警察官のままじゃ、あの生活安全局長にもみ消されてしまう。奴には恨みがある。 あたしや敬がどんなひどい目に会わされたか、とことん思い知らせてやりたい。  ただ、ニューヨーク市警署長のように暗殺じゃだめ。やはり罪状を世間にさらけ出 して社会的に葬り去らなければ気が済まない。  それを実現するには現状のままでは不可能だ。  とにかくもっと上の組織じゃないと……。  地方組織の警察じゃない国家警察的な組織。  しかも麻薬を取り締まれる機関。  一つの解答が浮かんだ。  厚生労働省司法警察員麻薬取締官。  いわゆる麻薬Gメンと呼ばれる組織員だ。  これしかないと思った。  そのためには資格がいる。  国家公務員採用試験、II種(行政)以上の資格。  もしくは国家資格の薬剤師の資格。  どうしても二つの資格を取得する必要がある。  どちらかでもいいのであるが、確実に採用されるためには両方あった方が良いに決 まっている。  しかも司法警察員たる法学の知識も必要だ。採用資格には示されていないが、採用 後には法務省主催の検察事務官中等科、高等科研修などを受講するとともに、国外で は、フィリピンにあるWHO西太平洋地域事務局で開催されている語学研修が行われる ことになっている。  実際にも、採用試験合格採用者には法学部出身が優先しているくらいだ。  採用後と言わずに、今からでも勉強しておく必要があるだろう。  さらには、銃の取り扱いや逮捕術そして語学、麻薬取締官に必要な条件はありとあ らゆる方面に渡っている。これに関しては、元警察官としての銃と逮捕術を習得した 経験があるので有利だろう。もっともこれは薫としての経歴だから表立っては言えな いが……。  幸いにも薬科大学に通う斎藤真樹として薬剤師の道は開けている。  問題は、もう一つの採用条件である国家公務員採用試験が残っているだけだ。  まず自分がこれからしなければならないのは、薬科大学を無事卒業する事。これは 両親を安心させるためにも、麻薬捜査官になることとは無関係に必要最低限なことで ある。  国家試験を受けて薬剤師になること。  国家公務員採用試験の受験と法学の勉強。  受験日程を考えてみる。  まずは薬剤師の方だ。  国家資格の薬剤師受験のためには、薬科大学卒業か卒業見込み。  受験場所。埼玉県さいたま市中央区新都心1番地1   さいたま新都心合同庁舎1号館 関東信越厚生局。  試験科目   (1) 基礎薬学   (2) 医療薬学   (3) 衛生薬学   (4) 薬事関係法規及び薬事関係制度  試験日 平成17年3月12日(土)と13日(日)  合格者の発表   試験の合格者は、平成17年4月6日(水曜日)午後2時に厚生労働省及び地 方厚生局又は地方厚生支局にその氏名を掲示して発表するほか、合格者に対して合格 証書を郵送される。  というわけで、この春の卒業を待って受験ということになる。  続いて国家公務員採用試験だが、どうせなら大学卒業なのだからI種(行政)を挑 戦することにしよう。上を目指すならより上級であった方が後々都合が良いだろう。  こちらは人事院の管轄である。 17年度実施要綱  申込受付期間      4月1日(金)~4月8日(金)   第1次試験日      5月1日(日)  第1次試験合格者発表日  5月13日(金)  第2次試験日(筆記)  5月22日(日)  第2次試験日(人物)  5月25日(水)~6月10日(金)  最終合格者発表日    6月21日(火) 出題分野 専 門 試 験(多枝選択式)  80題出題、50題解答  必須問題 政治学⑪、憲法、行政法⑫、経済学、財政学⑫の計35題  選択問題 次の選択A ~ C の3つの選択分野から1つを選択し、計15題解答   選択A 政治学⑤、行政学⑤、民法(親族・相続を除く。)⑤   選択B 行政学⑤、経済政策⑤、統計学、計量経済学⑤   選択C 国際関係⑤、国際法⑤、国際経済学⑤ 専 門 試 験(記述式)  次の6科目のうち3科目選択   政治学、行政学、憲法、行政法、経済学、国際関係  16年度においては、受験者数8569(女性3151)人のうち最終合格者60(同1 1)人という難関である。  そういうわけで、6月には結果が判明することとなる。  敬との約束には十分間に合う期日である。  とにもかくも、これから忙しくなりそうである。  ちなみに国家公務員試験を受けることを知った両親は、 「構わないけど……。国家公務員行政I種を合格採用なんてことになったら、男性が 遠慮して嫁の貰い手が少なくなるぞ」  と笑って言った。  両親にとっては、良い条件で就職するよりも、素敵な男性を見つけて結婚、専業主 婦として子供を産んで育てるという、ごくありきたりな女の子の将来を希望している ようだった。
文中の詳細は執筆当時のものです。 現在、国家公務員試験は、I種II種という区別がなくなり、I種は総合職、II種は 一般職となっています。 国家公務員総合職試験(院卒、大学卒)中央省庁に採用された者がキャリア官僚 国家公務員一般職試験(本省採用)(大学卒程度) 国家公務員一般職試験(大学卒程度) 国家公務員一般職試験(高卒者) ちなみに、合格者の出身別では、法学部卒が圧倒的に多い。
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2019年1月20日 (日)

銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第二章 選択する時 I

 機動戦艦ミネルバ/第二章 選択する時(日曜劇場)

I 補給部隊  シューマット群島に近づいたミネルバ。  潜望鏡深度で慎重に周囲を探査している副長がいる。 「二時方向の海上すれすれに艦影。どうやら味方の補給艦のようです」 「1300時、定刻通りですね。浮上しましょう。上陸準備にかかってください」 「浮上!」 「第一班、警戒体制の位置につけ」  波静かな海上に補給艦が影を落としている。その影から波飛沫を上げて、ミネルバ が浮上してくる。 「補給艦より連絡。島の南東部の入り江付近に降下するそうです」 「艦を島の入り江に入れてください」 「了解。面舵十五度」 「ハイドロジェットエンジン停止。後は慣性に任せて前進する。制動エンジン噴射準 備」  ハイドロジェットエンジンはその機能上から前進のみしか出来ないので、制動用の 補助として空中推進用の逆噴射エンジンを併用して使用する。 「制動エンジン噴射準備完了」  ゆっくりと滑るように入り江に侵入するミネルバ。 「沿岸まで五十メートル。制動開始」  断続的に逆噴射が行われて徐々に速度を落としていくミネルバ。 「面舵一杯! 左舷側に接岸する」  沿岸ではすでに降下した補給艦が荷おろしの準備を開始していた。  そのそばに着岸して停止するミネルバ。  すぐさま物資の搬入がはじめられた。搬送トラックが両艦の物資搬入口を往来して、 弾薬・食料などを移し替えていく。  ミネルバの作戦室。  補給艦の艦長ベルモンド・ロックウェル中尉が航海図を指し示しながら説明してい る。 「ここがメビウスの秘密基地のある海域です。この深海底に秘密基地への入り口があ ります」 「ずいぶん遠いわね」 「ただ基地への来訪はもうしばらく後にしていただきます」 「なぜですか?」 「このミネルバの任務が敵の陽動にあるからです」 「陽動作戦?」 「あえて敵の渦中に飛び込み、注目を集めるような行動を起こして頂きたいのです」 「それはレイチェル・ウィング大佐の指令ですか?」 「もちろんです。私は指令を伝えているだけです」 「要するに基地には近づかないで欲しいということですね」 「その通りです。基地の存在が敵に知られれば、メビウスの存続も危うくなりますの で」 「判りました。指示に従いましょう。しかし、補給は今後も受けられるのですよ ね?」 「可能な限り手配するとのことです」 「ならいいでしょう」 「私から連絡することは以上です。よろしいですか?」 「はい。ご苦労様でした」 「補給が終わるのは、三時間後です。それでは」  と敬礼して退室していった。 「艦長。補給を終えるまで三時間は要します。今のうちに補給に関わらない戦闘要員 などに休息を与えてはいかがでしょうか」  イルミナが進言した。 「ところであなたは?」  ミネルバに来て早々から戦闘状態となったために、各士官達の紹介がまだ済んでい なかった。 「あ。わたしは、艦長の副官を仰せつかっております、イルミナ・カミニオン少尉で す」 「イルミナ・カミニオン少尉ですね」 「はい。それで休息の方は?」 「そうですね。どうせ補給が終わるまでは発進できませんから。よろしい、許可しま しょう。半舷上陸を与えます。ただし、三時間だけですよ」 「やったー!」  小躍りして喜ぶ隊員達。それもそのはずで、ミネルバに乗艦しているとはいえ、そ もそもは訓練航海の最中に、戦時特別徴用法の適用を受けて、士官学校を繰り上げ卒 業して、現地徴用されて四回生は少尉に、三回生は准尉とそれぞれ任官されてしまっ たのである。士官学校生気分から抜けきれない隊員も相当数にのぼっていた。四回生 はともかく三回生はまだまだ子供なのである。  それから艦橋オペレーター達の紹介があってから、レーダー管制員を覗いて半数ず つに分かれて上陸・休養の時間が与えられた。  女子更衣室。 「ねえねえ。水着持ってる?」 「もちろんよ。こんなこともあろうかとちゃんと持ってきていました」 「ところで艦長は?」 「艦橋にいらしたわよ」 「休息しないのかしら」 「やっぱり艦長ですもの」 「それじゃあ、可哀想よ」
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2019年1月19日 (土)

妖奇退魔夜行/蘇我入鹿の怨霊 其の廿漆

 陰陽退魔士・逢坂蘭子/蘇我入鹿の怨霊 其の廿漆(土曜劇場)

(廿漆)魔人対決  蘭子と魔人のバトルに戻る。  魔人に対して、長曾祢虎徹を構える蘭子。 『ほほう。使い魔を従えていたとはな』  魔人が初めて口を開いた。 「この剣の本性が見えるの?」 『儂に勝てるかな?』 「やってみなければ分からない」 『ならば、かかって来るがよい!』  誘われるように、八相の構えを取る蘭子。  左上段の構えから、剣を下ろし、鍔(つば)が口元に位置し、左手は身体の中心、剣 は45度傾けて、刃を相手に向けた構えである。長期戦に備えて、無駄な体力を消耗し ない態勢である。 「いざ、参らん」  地面を蹴って、えいやっとばかりに切りかかる蘭子。 「やった!真っ二つだ」  井上課長が小躍りする。  見事に魔人を両断したかと思った瞬間、魔人は霧のように消え去った。 「なに!消えた?」  きょろきょろと周りを見回す井上課長。 「後ろだ!」  蘭子の背後に姿を現す魔人。  反転して、再び剣を振る蘭子。  しかし、今度も剣は宙を舞うだけだった。  姿を現しては、また消えるを繰り返す魔人。  斬りかかっても、斬りかかっても、剣は宙を舞うだけだ。 『どうした、先ほどの威勢は虚勢だったのか?』 (おかしい……手ごたえがない)  冷静になって雑念を払い魔人の気配を探す。 (相手が目に見えるからいけないのよ)  静かに目を閉じて意識を研ぎ澄ます。  ゆっくりと周囲を精神感応で魔人の気配を探す。  とある一点、凄まじい気の流れを感じて目を開けると、蘇我入鹿の首が怪しく輝いて いる。 「分かったわ、本体はそこよ!」  蘭子は、虎徹を入鹿の首に投げつけた。  それは見事突き刺さる。 『ぐああっ!』  悲鳴のようなうめき声を上げる魔人。  とともに、目の前の姿が消え去った。  どうやら幻影と戦わされていたようだ。  髑髏から靄のようなものが沸き上がり、魔人本体が姿を現した。  すかさず駆け寄って、虎徹を引き抜き、本体に斬りかかる。 『お、おのれえ!』  今度はダメージを与えたようであった。  さらなる追撃を掛ける蘭子。  虎徹を握りしめ精神集中すると、剣先がまばゆいばかりのオーラを発しはじめる。 「いけえ!」  全身全霊を込めて剣を振るうと、オーラが怒涛のように魔人に襲い掛かった。  オーラが魔人の全身を覆いつくす。 『ぐ、ぐあああ』  断末魔の声を上げながら、消えゆく魔人。  後には、放心したような石上直弘がゆらりと佇んでいた。  次の瞬間。  その眉間に弾丸が突き刺さり血飛沫を上げる。  先ほど井上課長が撃った拳銃の弾が、今更にして命中したというところだ。  どうやら、石上の周りが時空変異を起こしていたようだ。  どうっと地面に倒れる石上。  蠢いていた魑魅魍魎も地に戻っていき、姿を消してゆく。  やがて静寂の闇が辺り一面を覆う。 「終わったのか?」  井上課長が尋ねる。 「ええ、終わりました。彼は?」 「死んでいるよ」 「そうですか、助けたかったですね」  魔人と血の契約を交わした者は、魔人が倒れれば自身も倒れる。  悲しい現実である。
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2019年1月18日 (金)

性転換倶楽部/特務捜査官レディー CD-R(R15+指定)

特務捜査官レディー(R15+指定)
(響子そして/サイドストーリー)

(九)CD-R  ある日の事だった。 「お母さん、ただいま」  大学から帰ると母が伝えてくれた。 「お帰り、真樹。あなたにエアメールが届いているわよ。お部屋に置いてあるけど、 ニューヨークから」 「ニューヨークから?」 「ええ。CD-ROMとか文字が書いてあったわよ」 「CD-ROM?」  ニューヨークから何だろう。  真樹さんに関係あることかな。  ニューヨーク観光していたから、何か取り寄せで音楽CDでも買ってたのかな。  部屋に戻って早速机の上のエアメールを開いてみた。送り主には見覚えがなかった。 「何これ?」  封を開けてみると、どうみても音楽CDではなかった。  手作りのそれもCD-Rだった。  ノートパソコンを起動してCD-Rをマルチドライブに挿入する。  あ、このノートパソコンは父親におねだりして買ってもらったものだ。  父親は本当の娘として接してくれていた。おねだりしてそれが妥当な品だったら買 ってくれるやさしい父親だった。  以前の真樹が使っていたパソコンもあったのだが、WIN95のMMXーPentium133(1. 2GB)では、時代遅れも甚だしい。今時のソフトは起動も出来やしない。最新のPentiu m-4 2.2GHz(60GB)DVD/CDマルチドライブ搭載に買い替えてもらった。  ドライブが軽い音を立てて回りだしたかと思うと、パスワード入力画面が現われた。 「パスワード?」  エアメールの包みを調べてみたが、パスワードが記入されたようなものはなかった。 「そうだよね……パスワードと一緒にCD-R送ったら、パスワードの意味がないも のね。しかし困ったわね……パスワードか……」  その時脳裏にあるパスワードが浮かんだ。  あたしが敬との交信に使っていたパスワードだった。 「まさかね……でも、他にどうしようもないし……」  試しにそのパスワードを入力してみる。 「え? うそおー!」  CD-Rが再び音を立てて回りだしたと思ったら映像が浮かび上がり、音声が流れ てきた。 『やあ、薫……いや、今は斎藤真樹になってたんだな。真樹、俺は生きている。元気 だ……』  敬!  懐かしい敬の姿と声だった。 「敬が生きていた……」  嬉し涙が止めどもなく流れた。  声は続く。 『俺は今、とある特殊傭兵部隊にいる。俺を狙っている組織から逃げるために、傭兵 部隊に入ったんだ。車を隠すなら車の中というように、狙撃者から逃げるには、こっ ちも狙撃者になったというわけさ。ニューヨーク市警の本部長狙撃事件の事は知って いるか? あれは俺の仕業だ。真樹が死んだと思っていた俺は、仇を撃つために奴を 高いビルの上から狙撃したんだ。へへえ、俺は今じゃ一流のスナイパーだぜ。もっと もそれなりに苦労はしたがな。傭兵としての契約期間はあと一年ある。一年経ったら おまえを迎えにいく。今でも俺を愛してくれていたなら、丁度一年後の今日、はじめ ておまえとデートした思い出の場所で待っている。そしてもう一度コンビを組んで働 きたいものだ。もし来なかったらしようがない、他に好きな男性ができたか俺に愛想 をつかしたと思って、アメリカに戻り傭兵部隊に再入隊し、どこかの戦場で戦死する まで戦いの日々を送る事になると思う。それじゃあな、どっちにしても元気で暮らし ていてくれ。以上だ……なおこのCD-Rは自動的に消滅……しないから適当に処分 してくれ』  もう……相変わらず使い古したギャグ言ってるんだから……。  はじめてのデートの場所か……。  敬とは幼馴染みだから、小さい頃からいろんな所へ二人で遊びに行ったものだが、 改めてはじめてのデートと呼べるのは、お台場海浜公園からパレットタウンへ。その 中でも一番思い出深い、大観覧車での夜景を眺めながらのファーストキッスだった。  そして生涯を共にしようと誓い合った。 「ねえ、また一緒に来ようね」 「そうだな……。なあ、薫」 「なあに」 「薫さえ良ければ、生涯を共に添い遂げないか? 正式な結婚はできなくても一緒に 暮らす事はできるだろ?」 「本気なの!?」 「いやか?」 「ううん、いやじゃない。嬉しいの。一生敬に付いていくわ」  プロポーズだった。  やはり逢い引きの場所は、パレットタウンの大観覧車前で、時間は二人が乗った午 後八時とみるべきだろう。  などと考えているとCD-Rが再び読み込みをはじめた。 「今度はなに?」 『真樹くん、元気かね。君の蘇生手術をした黒沢だ。新しい臓器は正常に機能してい るか? そして新しい環境には慣れたかね?』  え? なんで先生が、敬の送ってよこしたCD-Rに記録されているのよ。 『君が言っていた敬くんを探すのに苦労したよ。まさか傭兵部隊に潜り込んでいたと はね。君から聞いていた彼の性格から、仇を討つために市警の本部長を暗殺するだろ うと、縄を張っているところに、彼が引っ掛かってやっと捕まえる事ができたよ』  そうか、先生が敬を探し出してくれたんだ。 『私も敬君と同じくらいの頃に、日本に帰国できると思う。その時にまた連絡する。 移植手術をした医師として、その後の君の身体の状態を診断する義務があるからな。 まあ、そういうわけだが、このCD-Rを破棄する時は、再生できないように破壊し てからにしてくれ。なにせ敬が市警本部長を狙撃した証言が入っているからな。万が 一人手に渡ってデータを読み取られたら事件になる」  確かに先生の言っていることは理解できた。  そうか……二人とも一年後には帰ってくるのか。  それまでには、女を磨いておいて驚かしてあげたいな。  ふとそう思った。
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2019年1月17日 (木)

性転換倶楽部/響子そして 覚醒剤(R15+指定)

響子そして(覚醒剤に翻弄される少年の物語)木曜劇場
この物語には、覚醒剤・暴力団・売春などの虐待シーンが登場します

(九)覚醒剤  気がつくと両腕を頭側にしてベッドの縁に縛られていた。  縛っている紐を歯で噛みきろうとしましたがだめだった。  がちゃり。  扉が開いて、男が入ってきた。 「目が覚めたようだな」 「わたしをどうしようと言うの」  わたしは相手がなにをするか判っていた。 「眠っている間に犯っても良かったんだが、それじゃ調教にならないんでね」  やはりわたしを犯すつもりなのだ。しかし……。 「調教って?」  男は、それには答えずに缶ペンケースのようなものを持ち出した。  そこから取り出したのは注射器だった。  そしてアンプルから注射器に液を吸い上げていく。  それが覚醒剤だというのは、すぐに判った。  かつてわたしが母親を殺した場面が思い起こされていた。  同じ事をしようとしている。 「これが何か判るか?」 「覚醒剤……」 「ほう……。さすがは、奴の情婦だけあるな」 「こいつは、そこいらで売買されているような混じり物じゃない、高純度の医療用の ものだ。だからこうしてアンプルに入っている。おまえのような上玉はそうそうざら にはいない。だから混じり物使って短期間で廃人になるような真似はしたくないんで ね。だが確実に覚醒剤の虜になるのは同じだ」  そういうとわたしの腕に注射器を突き刺そうとした。 「い、いや。やめて」  その時になってはじめて事の重大さに気づいて蒼くなった。  しかし縛られている上に、男の力にはかなわなかった。  注射針が腕に刺され、覚醒剤が注入されていく。  動悸が激しくなる。  どくん、どくん、と心臓が脈動している。  やがてそれが次第に治まって、気分が良くなってくる。  ほわーん。と雲の上を歩いているような感じ。  意識が朦朧としている。 「どうやら、いいようだな」  男がシャツを脱ぎはじめた。  ベッドに上がってくる。 「い、いやだよ……。た・す・け・て・あ・き・と」  意識が朦朧としている中、明人に助けを求めるわたし。しかし、明人はこの世には いない。それでも呼び続ける。 「あきとお」  だがそれは陵辱しようとする男をさらにかきたてるだけだった。 「叫べ、わめくがいい。おまえの明人は死んだ。今日から、おまえは俺のものだ。が ははは」  遠退く意識の中、わたしの自我が崩壊していく。  しばらくして意識が戻ってきた。  と、同時に明人でない男に、貞操を奪われたのを思い出して泣いた。  この身体は生涯明人一人のものだったのだ。  ドアの外から男達の声が聞こえる。 「あの女が、性転換してたなんて……。外見からじゃ判断できませんね」 「まあな……俺もすっかり騙された。事が終わって、あらためて女の性器を見てやっ と気がついた。性転換しているとはいえ、外見はまるっきりの女だよ。へたな女より 美人だし、プロポーションも抜群だ。手術は完璧に近いし、明るい所でじっくり観察 しても、そう簡単には気づかれないさ。数えきれないいろんな女を抱いた俺だから気 がつけたのさ。これほどの上玉はそうざらにはいない。薬漬けにして調教して、売春 させればがっぽりかせげる。なんせ妊娠する心配はないからな、本生OKで若い美人 が相手となりゃあ、いくらでも金を出すだろう」
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2019年1月16日 (水)

性転換倶楽部/特務捜査官レディー 水入らずな時間(R15+指定)

特務捜査官レディー(R15+指定)
(響子そして/サイドストーリー)

(八)水入らずな時間  長い話が終わった。  ニューヨークでの事、斉藤真樹として帰国し、今は斉藤家の長女として不自由なく 暮らしている事。 「そう……。そういうわけだったの」 「うん。今はそのご両親の娘の真樹として暮らしてる。そして、お母さんが、実の母 に会って無事でいることを話してきなさいとおっしゃってくださったの」 「その方もできた人なのね。自分の本当の娘が亡くなって哀しいはずなのに、あなた を実の娘として迎えてくれるなんて」 「だから今後もそのお母さんと一緒に暮らして、親孝行していくつもりなんだ。母さ んには悪いと思うけど」 「当たり前じゃない。その方の娘さんの命を貰ったんだから、親孝行して恩を返さな くてどうするんですか」 「うん……。でも時々は電話するよ」 「そうね、そうして頂戴。元気な声を聞けるだけでも安心できるから」  姿形は代わっても、母娘の情愛には隔たりはなかった。  どんな事でも許し、どんな事でも共感しあう。  これからも母と娘という関係は続くのである。 「ところで、敬から連絡とかきてなかった?」 「きてないわ。たぶん敬くんのお母さんの方にも連絡はないみたいよ」 「そうか……」 「でも、あきらめちゃだめよ。わたしが、薫は必ず生きているとずっと信じていたか ら、こうして帰ってきてくれたの。あきらめない限り、運命の女神がいつかどこかで、 その願いをかなえてくれると信じるの。いいわね」 「判ってるわ。自分がそうだったから、遺体を見せ付けられない限り、信じてずっと 待ってる。約束だもの、必ず迎えにきてくれる」 「そうよ。それでいいのよ」  実家での実の母娘の水入らずな時間は瞬く間に過ぎて行く。  名残惜しさを胸いっぱいに、実家を後にした。 「どうだった? ご両親、生きてたと判って、涙流して喜んでいたでしょ?」  家に帰ると、母がやさしく微笑みながら出迎えてくれた。 「はい。でも、父とはまだ会っていないんです。まだ帰っていなかったので。母が申 しますには、肉体的精神的に強い絆で結ばれている母娘と違って、父親というものは なかなか娘とは折り合えないだろうと、今日は取り合えず会わずに帰ることにしまし た。これから少しずつ生きていることをそれとなく気が付かせるようにして、父がぜ ひ会いたいという意思が固まった状態で再会した方がいいだろうという事になりまし た」 「そうですねえ。真樹とお父さんのことを考えれば、確かに納得しますね。母娘と違 って父娘は、どこか隔たりがありますから」 「同性ということもあるでしょうし、やっぱり母娘はへその緒で繋がって産まれてく ることにあるんですかしらね」 「そうでしょうね」  納得する母娘であった。 「これからもたまには帰ってあげなさいね」 「いいんですか?」 「当たり前ですよ。あなたには二人の母がいるんだから。それぞれ平等に親孝行しな くちゃいけないの。もちろん今のあなたの母はわたしですからね。それさえ忘れてい なければ、会いたくなったら日帰りならいつでも帰って結構よ」 「ありがとうございます」  真樹と今の母とは、実の母娘以上に親しい間柄になっていた。  何でも気を許しあい、心と心が通じ合っていた。  斉藤真樹としての居場所がここに確かにある。  それを心に踏みとどめ、二人の母親への親孝行を忘れないように、日々の暮らしを 続けている真樹だった。
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2019年1月15日 (火)

銀河戦記/鳴動編 第二部 第一章 III

第一章 中立地帯へ(火曜劇場)

                III  アレックスは、タルシエン要塞においての篭城戦を想定していた。  防御においては鉄壁のガードナー少将が篭城戦の布陣を敷いて総督軍との戦いを長 期戦に誘導している間に、アレックスは銀河帝国との共同戦線の協定を結び、援軍を 得て一気に反抗作戦に打って出る戦略であった。  ところが周辺国家から相次いで救援要請が出され、タルシエン要塞から艦隊を派遣 する必要が生じたのである。 「救援要請への援軍派遣をガードナー提督に意見具申したのはゴードン・オニール准 将です。ガードナー提督はその強い要望に根負けして派遣を受諾したらしいです」 「ああ……。ゴードンはじっとしていられない性格だからな。そして後のことを任せ たガードナー提督が、それを許可したのだから私が言うべきものでもないのだが……。 最大の問題は補給だよ。遠征を行うには十分な補給が必要だ。そのためにシャイニン グ基地とカラカス基地の封印を解いて補給拠点とし、それぞれに一個艦隊の守備艦隊 を配置しなければならなくなった。このことがどういう意味をなすか判るかね?」 「兵力の分散……」 「そうだ。総督軍に各個撃破の機会を与えるだけじゃないか」 「しかし、シャイニングには大型の戦艦を建造できる造船所もあります。フル稼働さ せて戦力を増強できます」 「おいおい。戦艦を建造するのに何年掛かると思うかね。一隻完成させるまでに、最 低三年は掛かるのだぞ。解放軍を支えていくだけの戦力としては期待するだけ無駄だ。 多くを持たない弱体な解放軍が勝利するには、短期決戦しかないのだ」  深い思慮の元に発言するアレックスの意見に反対できるものはいなかった。 「とはいえ……。動き出してしまったものを止めることは、もはや不可能と言わざる を得ない。事ここに至っては不本意ではあるが、解放軍として要請がある限り救助に 赴くのは致し方のないことだ。遠き空の下、解放軍の善戦を祈ろうじゃないか」 「はい!」 「さて、会議の続きをはじめようか。リンダからの報告もあったデュプロス星系につ いてだ」  航海長のミルダ・サリエル少佐が、リンダの報告を受けての補足説明をはじめた。 「デュプロス星系は、二つの超巨大惑星である【カリス】と【カナン】を従えた恒星 系で、二惑星の強大な重力によって、三つ目以上の惑星が存在できないものとなって おります」 「三つ目が存在できない? それはどうして?」  ジェシカが尋ねたが、ミルダはアレックスの方を見やりながら、 「とっても難しい理論の説明をしなければいけませんが……」  と、この場で解説するにはふさわしくないことを暗にほのめかしていた。 「あ、そうね。次の機会ということで、先を続けて……」  それに気がついて、質問を撤回するジェシカだった。  解説を続けるミルダ。 「デュプロス星系は、銀河帝国に至る最後の寄港地です。それゆえに最大級の補給基 地となり、また銀河帝国の大使館なども誘致されております。本来はサーペント共和 国の自治領内にあるのですが、軍事的外交的に重要な拠点惑星として、特別政令都市 国家としての自治権が与えられております。銀河帝国との協定により共和国同盟軍の 駐留が認められていなかったために、現時点においても連邦ないし総督軍の駐留艦隊 はいないとの情報ですが、旧共和国同盟時代から引き続き辺境警備に当たっている国 境警備艦隊がいます。まあ、実戦経験はまるでないので、いざ戦闘となっても脅威は まったくないのですが……」  その言葉尻をついて、ジェシカ・フランドルが答える。 「かつての同輩との戦いになるということね」 「はい、できれば、何とか説得して戦闘回避できれば良いのですがね」 「ランドール艦隊のこれまでの実績を考えれば、戦闘を選ぶことがどれほどの愚の骨 頂である判るはずですけどね」 「そうあって欲しいですね」  ため息にも似たつぶやきを漏らすミルダであった。  ちなみにこのミルダは、あの模擬戦闘にも参加し、ミッドウェイ宙域会戦からずっ とアレックスの乗艦の航海長を務めてきた古参メンバーの一人でもある。階級は少佐 ではあるが、艦長のリンダ同様に一般士官としてであり、戦術士官ではないので艦隊 の指揮権は有していない。戦術士官が必ず受けることになる佐官へのクラス進級に掛 かる査問試験を受けずして少佐になっている。共和国同盟のすべての星系マップ、航 海ルートを知り尽くしており、作戦を実行し宇宙を航海する艦隊にとっては必要不可 欠な人材である。  艦長のリンダにとっては、こちらの方が上官になるので、何かとやりずらい悩みと なっている。  アレックスは一同を前にして毅然と言った。 「何はともあれ、銀河帝国と交渉し協力関係を結ぶためには、そのデュプロスに滞在 して帝国に対しての使節派遣などの折衝を執り行う必要がある。デュプロスはどうし ても確保しなければならない。かつての同輩である辺境警備隊との交戦になることも 仕方なしだ」  その言葉によって、一同の考えは一致をみることとなった。
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2019年1月14日 (月)

性転換倶楽部/特務捜査官レディー 実母との再会(R15+指定)

特務捜査官レディー(R15+指定)
(響子そして/サイドストーリー)

(七)実母との再会 「ねえ、真樹」 「はい。何でしょうか?」 「あなた、実家には連絡くらいはしてるの?」  実家という言い方をしているが、薫としての生家のことを示していた。 「え?」 「してないでしょう?」 「は、はい。でも、以前のあたしは死んだことになってますから……」 「あなたが生きていると知ったら喜ぶわよ」 「でも……」 「あなたの生活態度とかみると、いかにお母さんが大切に育ててくれたかが良く判る わ。そんな素晴らしいお母さんがいるのに、黙って放っておくなんて親不孝よ。わた し達だって、あなたを独り占めするのも申し訳ない気持ちで一杯よ。わたし達に気を 遣ってくれるのは嬉しいけど、たまには帰って元気なところを見せてあげなくちゃ。 とにかく一度帰りなさい。これは母の命令です」  そこまで言われては断るわけにはいかなかった。 「判りました。実家に一度帰ってみます」  気は重いが、正直には会いたい気持ちはあるにはあった。  死んだことになってる自分に会って母がどういう気持ちになるかが心配だったので ある。  とにかく会うだけは会ってみよう。  結局、実家に舞い戻ってきてしまった。   「あの……うちに、何かご用でしょうか?」  振り返ると母が立っていた。  見つめ合う二人。 「ちょっと、早く中に入って」  急に態度が変わり、真樹の手を引いて中へ招き入れる。  扉を閉めると表情を変えて話し出す。 「あなた、薫ね。整形してるみたいだけど……」 「どうして判るの……?」 「あなたの母ですよ。どんな姿になろうとも判りますよ」 「そうなんだ」 「生きていたのね」 「はい」  そう言うと、真樹を抱きしめて涙を流しはじめた。 「よかった……ほんとうに良かった」  心底再会できて感激している様子が感じられた。 「どうして今まで連絡を寄越さなかったのよ。警察の方からニューヨークで殉死した という報告があって、葬式まで出して……」 「遺体もなしに葬式しちゃったんだね」 「しようがないでしょ。警察側から死亡報告書を提出されたんじゃ、葬式するしかな いじゃない」 「でも遺体が見つからないから、心の底でもしかしたら生きているんじゃないかと思 ってたんでしょ。だから家の前で会った時に気づいたのね」 「そりゃそうよ。母だもの、この目で確認しない限り信用できなかったのよ」 「でも整形して容姿が変わってたのに、何を基準にあたしと判断したの?」 「雰囲気ですよ。身体からにじみ出ているの。さっきあなたは家を見つめながら、い かにも懐かしいといった雰囲気を漂わせていたのよ。まるで嫁に行った娘が実家に帰 って来たという表情してたよ。そんな人間といえば薫しかいないじゃない」 「そうか……。そんな表情してたんだ」 「どうやら性転換……したみたいだね」 「うん。あたしの意志じゃなかったけど……、いずれはやろうとは思ってた」 「意志じゃない? まあ、それはともかく、玄関先で立ち話もなんだから、とにかく 上がりなさい」 「うん、そうだね。色々と積もる話しもあるから……」
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2019年1月13日 (日)

銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第一章 VII

 機動戦艦ミネルバ 第一章

VII 音響通信 「まもなくパラリス諸島です」  航海士が報告した。彼の頭脳の中では、艦の速度と方角、航行時間や海流の影響な どといった数値計算が、常に正しくインプットされて艦の位置を正確に把握している のであろう。  コーヒーをすすっていたフランソワは、そのカップを給仕係りに返しながら下令し た。 「潜望鏡深度まで上昇してください」 「了解。深度十八メートルまで上昇する」 「メインタンク、ブロワー」  浮上するミネルバ。 「深度十八メートルです」 「よろしい」  潜望鏡をセットするフランソワ。  艦体から海面に向かって伸びる潜望鏡。 「潜航の準備をしておいてください」 「了解。潜航準備」  副長が配下に潜航準備をさせてから尋ねる。 「なぜ再び潜航準備を? 補給部隊の基地なのでしょう?」 「海上がどうなっているかは判らないでしょう? 今は連邦の占領体制下にあります。 昨日使えた補給基地が占領されて今日は使えないということもあります」 「なるほど……」  潜望鏡を覗きながら言う。 「三時の方向に艦影。……海上駆逐艦だわ」 「味方ですね。連邦が海上艦艇を持っていないでしょうから」 「忘れたのですか? 絶対防衛艦隊が降伏の意思表示をしていたのを、今や同盟軍は 連邦軍に味方する我々の敵だということです」 「そんな……」 「こちらに高速で向かってくるわ。気づかれた。潜航開始! 深深度潜航」 「潜航開始! 深度三千メートル」 「潜航開始」 「深度三千メートル」  再び沈み行くミネルバ。 「参ったわね……。補給なしとはね。現在の食料の備蓄は?」 「三日分しかありません」  航行に必要な燃料の心配はないし、戦闘を極力避けて逃げ回っていれば弾薬が乏し くても大丈夫だろう。しかし食料はそうはいかない。 「パッシブソナーを、0.75Khzにセットして探知開始」 「0.75Khzですか?」 「ザトウクジラが仲間同士で交信すると言われている歌の周波数帯です。40hzから5K hzの間の周波数帯ですが、海水中を遠くまで伝わります。機械的に繰り返されている ような音源があったら、即座に報告してください」  フランソワは、パトリシアから教えられた音響通信を思い出したのだった。  かつて、士官学校においての模擬戦闘で、敵に傍受されないように、濃厚な星間ガ ス中で音響通信による指令を行ったと言う。  今回のミネルバに対する極秘通信にこの0.75kHZの周波数によるモールス信号電信 を実施することを伝えられていた。今時、モールス信号は廃れていて、通信士の資格 研修や試験にはその項目はない。つまりモールス通信技術を修得している通信士はい ないということである。また逆にいえば敵に傍受されることもないということだ。  アレックス・ランドール率いる艦隊のすべての通信士と司令官には、このモールス 信号技術の修得を義務付けられていた。通常の通信が行えない特殊な環境でも、モー ルス信号さえ修得していれば、何らかの形で指令を伝えられることが可能な場合があ るからだ。  海水中では、光通信も電磁波による通信も出来ないが、極超長波の音波なら地球上 のどこへでも伝播が可能である。ゆえにメビウス部隊の暗号通信の一つとしてこの周 波数帯によるモールス信号が採用された。 「艦長! それらしき音が入感しています」  ソナー手が叫んだ。  すかさずソナー手のところへ飛んでいくフランソワ。 「イヤフォンを貸して」  ソナー手が耳に当てているイヤフォンを受け取って自分の耳に当てるフランソワ。 「みんな静かにしろ! 音を立てるな」  音が良く聞き取れるようにと副長が気を利かせた。  音を立てないように身動きを止めるオペレーター達。  多種雑多な雑音の中に、確かにリズミカルに響く音源が微かに聞き取れた。 「間違いないわ。モールス信号よ。雑音をカットできますか?」 「お待ちください。イヤフォンを一旦返して頂けますか」 「はい、どうぞ」  イヤフォンを返してもらって、変調装置を操作して、雑音の部分を消去するソナー 手。 「OKです。前より明瞭になったはずです」  といいながら、イヤフォンを再びフランソワに返す。  フランソワは、イヤフォンを当てて、聴覚に神経を研ぎ澄まして、その信号を読み 取った。 「ホクイジュウゴド、トウケイヒャクサンド、シューマットグントウヘムカヘ、13 00」  それを繰り返していた。 「北緯十五度、東経百三度、シューマット群島へ向かいます」 「そこに補給基地か補給艦がいるということですか?」  副長が尋ねる。 「たぶんね。潜航状態のままで行きましょう」 「了解しました」  向き直って指令を出す副長。 「進路転進! 北緯十五度、東経百三度のシューマット群島へ向かう。面舵三十五度、 深度そのまま」 「面舵三十五度、深度そのまま」 「コース設定します。北緯十五度、東経百三度、シューマット群島」  イヤフォンを返しながら、ソナー手に言うフランソワ。 「モールス信号の勉強をしてもらわなくちゃいけないわね」  士官学校でたばかりのソナー手やその他の通信士はモールス信号の研修を受けてい ないからだ。 「判りました。教えてください」  素直に答えるソナー手だった。  深海底では通信不能だと信じていたから、実際に音響通信による指令受信が行われ たことに感心していたのだ。 「いいわよ」  元の艦長席に戻るフランソワ。 「艦の状態、すこぶる良好」  艦橋にいるすべての士官達が、新艦長のフランソワ・クレール大尉に対する印象を 新たにしていた。  若いがやり手の作戦巧者ということを知ったのである。  第一章 了
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2019年1月12日 (土)

妖奇退魔夜行/蘇我入鹿の怨霊 其の廿陸

 陰陽退魔士・逢坂蘭子/蘇我入鹿の怨霊 其の廿陸(土曜劇場)

(廿陸)血の契約  時を遡ること数か月前。  板蓋宮跡を訪れる一人の青年がいた。  石上直弘というその青年は、ごくありふれた平凡なサラリーマンに過ぎず、日々の生 活にも困窮する時もあった。  ある日、インターネットで探し物をしていた時に、『刀剣乱舞-ONELINE』という京都 国立博物館で開催される刀剣展示の催しが目に留まった。 「刀剣乱舞か……」  多種多様な刀剣類に意志が宿って、擬人化されたキャラクターが主人のために悪と戦 うという設定だが。  アニメの刀剣乱舞はともかくも、歴史上最も有名なものは、日本書紀にも記述がある 須佐之男命が出雲の国を荒らしまわっていたヤマタノオロチを退治したと言われる『天 羽々斬剣(あめのははきり)』別名『天十拳剣(あめのとつかのつるぎ)』であろう。  その霊剣は当初、備前国赤坂郡(岡山県赤磐市)の石上布都神社に祀られていたが、 崇神天皇の代に奈良の石上神宮に移された。 「石上神宮か……」  石上(いそのかみ)という独特な読み名に興味を持った彼は、自分が物部氏に繋がっ ているかも知れないと、自分の戸籍を調べ始めた。いわゆるルーツ探しである。  探していくうちに、とある旧家にたどり着き、保管されていた石上家の家系図に巡り 合えたのである。  そして自分が、正しく物部氏に繋がることを発見した。 石上家の系譜  物部氏の後裔であることを知った彼は、歴史探訪の旅に出ることを思い立ったのだ。  そして、こうして板蓋宮跡の地を訪れたのである。  見渡す限りの水田ばかりの風景が広がる。 「何もないな、ここで蘇我入鹿が惨殺されたとは、想像すらできない温和な風景だ」  かつての自分の祖先である物部守屋が蘇我氏の一団によって暗殺され、今度は蘇我入 鹿も中臣鎌足によって、天皇の御前で惨殺されるという血で血を洗う抗争のあった宿命 の地であったのだが。 「見るものもないな」  数枚の写真を撮って帰ろうとした時だった。 『そのまま帰っていいのか?』  背後から声がした。  振り返ってみるが誰もおらず、殺伐とした田園風景が広がっているばかり。  しかし、声は続いている。 『力が欲しいとは思わぬか?』 「力?」 『おぬしが望むなら、ありとあらゆる力を与えることができる』  どうやら直接、自分の脳裏に語り掛けているようだった。 『その力を使えば、今の生活から抜け出すこともできる。金がないのだろう?金が欲し ければいくらでも手に入るようになる』 「どうすればいい?」  思わず姿なき声の主に問いかける石上。 『簡単なことだ』  すると、足元の大地が盛り上がってきて、地中から何かが出現した。  髑髏(どくろ)だった。 『血の契約をしなければならない』 「血の契約?」 『そうだ。おぬしの血を髑髏に注ぎ込むのだ』 「血を注ぐというのか?」 『それが魔人との契約の証だからだ』 「魔人?魔人だというのか!?」 『その通り。信じるも信じないも、おぬし次第だがな。さて、どうする?』 「一つ確認したい」 『なんだ?』 「ほんとうに、ありとあらゆる力を与えてくれるのだな?』 『いかにも』 「分かった。その契約とやらをしよう」 『その前に、もう一つ必要なものがある』 「もう一つ?」 『入鹿の首を落とした「七星剣」を手に入れることだ。それには入鹿の怨念が籠ってい るのだ。術式には是が非でも手に入れねばならぬ』 「七星剣?」 『それは四天王寺にある』 「東京国立博物館に寄託されているはずだが?」 『もう一つあるのだ。物事には必ず表と裏があるように、裏の七星剣があるのだ』 「裏の七星剣……」 『裏の七星剣は、四天王寺の宝物庫の地下施設に呪法に守られて、厳重に保管されてい る。手に入れるには仲間が必要だ。仲間を見つけろ』 「仲間といっても」 『七星剣を目覚めさせるには、血を吸わせることが必要だ。いずれその仲間も必要とし なくなる。最初の犠牲者には最適だろう』 「仲間を斬るのか?」 「所詮足手まといになるのが関の山だ。斬って捨てるのだな』  考え込む石上。 『それでは血の契約の儀式を始めようか』
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2019年1月11日 (金)

性転換倶楽部/特務捜査官レディー 狙撃手(R15+指定)

特務捜査官レディー・特別編
(響子そして/サイドストーリー)

(六)狙撃手(スナイパー)  とあるビルの屋上。  一人の男が、背に負っていた長尺のケースから、ライフルを取り出し眼下のビルの 谷間にその銃口を構えた。いかにもスナイパーという風貌だ。  H&K社製MSG90(狙撃銃)  同社製のG3の技術を流用して開発された超高性能にして超高価なPSG1の廉価 版である。湾岸戦争において米国のデルタフォースなどの特殊部隊が使用していたこ とで有名である。射撃性能はPSG1とほぼ同等に1.7kgの減量に成功した。街中を 隠し持って歩くにはちょうど良い。  狙撃目標は、ビルとビルの谷間を縫った僅かな間隙の先にあるニューヨーク市警本 部の玄関先。数人の部下を引き連れて市警本部長が出てくる。  スコープを覗いていた男が、焦点を正確に合わせるためにサングラスを外した。そ の顔は死線を何度も掻い潜り、精悍な鋭い目つきをしていたが、まさしく沢渡敬だっ た。 「薫はいずれ性転換し、戸籍性別変更の手続きを踏んで女性になるはずだった。そし て俺はその薫と晴れて結婚するつもりだった。俺と薫の幸せな将来を踏みにじったお まえの罪は重大だ。死んで薫に謝罪しろ!」  引き金を引く敬。  発射された弾丸は一直線に進み、市警本部長の眉間を撃ち抜いた。  血飛沫をあげて倒れる本部長、駆け寄るSP達の慌てふためく姿が、スコープを通 して見える。  命中を確認した敬は、ライフルをケースに戻し、排莢された空薬莢を拾ってポケッ トに収めると、しずかにその場を立ち去って行った。  帰国してからほぼ半年が過ぎ去っていた。  やさしい母、理解のある父親。  真樹として、両親は温かく迎えてくれた。  何不自由なく幸せな日々が続いている。  両親は、真樹の薫だった過去を聞きだそうとはせずに、そっとしておいてあげよう というやさしい性格を持っていた。両親は薫が当然女性だと思っているし、真樹も告 白できないでいるのだが、もし移植された以外の臓器、元々の薫自身の組織のDNA を調べられれば男性だったことが知られて、一悶着となっているに違いない。騙し続 けることになるのだが、だからといって今更どうすることもできない。過去はどうあ れ現在は女性の何者でもないし、両親の血を引いた子供を産む事で、親孝行して返せ ばいいと考えていた。  真樹は薬科大学に在学していたから、成り代わって自分が女子大生として通学をは じめて勉強することとなった。薬科大学での授業に対して、何の知識もなく当初は苦 労の連続だったが、持ち前の気力と根性で猛勉強し授業に付いていけるようになった。  友達もできた。もちろん女性だ。
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2019年1月10日 (木)

性転換倶楽部/響子そして 抗争そして(木曜劇場)

響子そして(覚醒剤に翻弄される少年の物語)R15+指定
この物語には、覚醒剤・暴力団・売春などの虐待シーンが登場します

(八)抗争そして  ある日。屋敷の玄関先で明人が襲われた。  警察に知られないように、闇病院へ運ばれたが、大量の出血で輸血が必要になった。 ここでは、赤十字からの血液の供給が受けられない。  明人はO型だった。同行していた組織員にはO型がいなかった。 「わたしの血を採って頂戴! B型だけど、きっと大丈夫だから」  わたしの血液型は、bo因子という特殊な血液だ。B型を発現してはいるが、抗原 抗体反応は、ほとんどO型に近いデータを示す事が証明されていた。血液が再生産さ れるまでの補完の輸血くらいなら血液型不適合のショックは起きないと確信していた。 「響子の言う通りにしてくれ」  明人が決断し、わたしの血液が採取されて、輸血された。  思惑通りに輸血は成功し、明人は回復していった。  母親を捨てた非情な父親の血液因子が明人の命を救った。複雑な心境だ。  わたしの手厚い看護と愛情で、明人はみるまに回復していった。  病院の玄関を出てくるわたし達。  三角斤を肩から下げているので、上着を羽織るように着ている。  その時だった。  突然、四輪駆動のパジェロが急襲してきたのだ。  パン・パン・パン  何発かの銃声が轟いた。 「危ない!」  明人が、わたしに覆い被さった。  さらに銃声は鳴り響く。 「響子……大丈夫か」 「だ、大丈夫よ」 「そうか……よかった」  その時、わたしの手にねっとりとした生暖かい感触があった。  それが血であることはすぐに判った。 「明人……怪我してる」  あわてて起き上がってみる。  覆い被さっていた明人の身体が膝の上に。  背中に銃弾が当たって大量の血が吹き出していた。  ゆっくりと明人は仰向けに、向き直り弱々しい声で言った。 「響子。俺は、もうだめだ」 「そんな事言わないで。もう一度輸血すれば……」 「無駄だよ。自分でもわかる。痛みが全然ないんだ。神経がずたずたになっているん だ。いずれ心臓の鼓動も止まる」 「そんなことはないわ。そんなこと……」 「いいんだ。響子」 「あきと……」 「これまで、こんな俺のために尽くしてくれてありがとう。殺伐とした世界で、おま えと巡り会えて、俺は心安らぐことができた。母に対する償いと親孝行もできたと思 う。おまえと一緒に過ごした時間は何事にも変えられない。幸せだった」  身体から次第に血の気が引いていき冷たくなっていく。  やがてゆっくりと目を閉じていく明人。 「冗談はよしてよ。うそ! うそでしょう? 目を開けてよ」  明人は二度と目を開かなかった。 「あきとお!」  声の限りに叫んだ。  わたしは狂おしく明人を抱きしめた。  パジェロの中から、男達の会話が聞こてくる。 「おい。死んだかどうか、見てこい」 「見なくたって、死んでますぜ」 「いいから、確認してこい。今度しくじったら、俺達の命がないんだ。確実に死んで いるのを確認するんだ。それにあの女をかっさらってこい」 「女ですかい?」 「そうだ。見れば、なかなかの上玉じゃないか。放っておくにはもったいない」 「わかりやした」  わたしの明人を、男が触ろうとした。 「いや! 汚い手で触らないで」  男の平手うちが頬を直撃し、もんどりうって地面に飛ばされた。頭を打ったのだろ うそのまま意識を失った。
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2019年1月 9日 (水)

性転換倶楽部/特務捜査官レディー 新しい朝(R15+指定)

特務捜査官レディー(R15+指定)
(響子そして/サイドストーリー)

(十二)新しい朝  翌日は頭が痛かった。  真樹は酒に弱い事が改めて判明した。母が警告していたはずだが、一度飲みはじめ ると止められない性格だった。  以前の自分ならあれくらい何でもないのだが、今の自分の内臓は真樹のものだ。そ れもアルコール分解に関わる肝臓は、その処理能力が低い、つまり下戸に近いという ことだった。  しくじったな……。  ふと時計を見ると丁度午前六時だった。 「あ! いけない!」  ゆっくり寝ているわけにはいかない。  昨日の母との会話から、真樹が食事の手伝いをさせられている事に気づいていたか らだ。朝食の支度を手伝わなければいけなかった。  朝食は父親の出社時間に合わせて早めに取るらしかった。  ベッドを飛び降り、パジャマを脱いで大急ぎで着替えると台所へ向かった。  すでに母は起きて朝食の用意をしていた。 「おはようございます。お母さん」 「おはよう。お寝坊さんね、真樹は」 「すみません。今手伝います」 「飲み過ぎるからですよ。エプロンはそっちに掛かっているわ」  指差した先の食器棚のそばの衣紋掛けにエプロンが掛かっていた。それを被って準 備を整えると炊事にかかった。 「お味噌汁を作ってくれるかしら。わたしは煮魚と他のもの作ってるから」 「はい。わかりました」  味噌汁は食事の基本である。それを任せるのは、真樹の料理の腕を見てみようとい うことであった。すでに昨日、夕食の味噌汁を食べている。斎藤家の味噌汁の味を出 せるかどうか、どれだけ近づけられるかを試されているのだ。もちろん真樹が男性だ ったとは露も知らず、女性なら味噌汁くらい作れるだろうという判断だし、朝早く起 きて手伝いにきたのだから当然できると思っている。真樹にしたって料理ができるか ら手伝いに起きてきたのだ。  冷蔵庫を開けてみると、味噌汁の具として豆腐としじみがあった。昨日、スーパー で買ってきたものだ。 「しじみの味噌汁でいいわね」  こんぶと鰹節でダシを取ることにする。  こんぶは水から煮出しをはじめ、鰹節は頃合を見計らってすぐに上げられるように ストレーナーを使う。しじみからも旨味成分が出てくるので、それを考慮に入れてい る。次にしじみを入れ、味噌を味噌漉しを使って入れる。  豆腐をきざんで味噌汁の中に落としこんでいく。  やがて味噌汁のいい香りが漂いはじめる。  味見をしてみる。 「こんなものかしら」  だいたい出来上がったようだ。  火を消す前に、 「お母さん、味見をお願いします?」  念のために母にみてもらうことにした。 「どれ、みせて」  小皿に味噌汁をすくって味を見ている母。 「ちょっと味が薄いようだけど、はじめてにしては上出来よ」 「ありがとうございます」  火を消してコンロから降ろし、鍋敷きを敷いた食卓の上に置いた。そしてすぐさま コンロの周囲の汚れを布巾できれいに落とす。冷めて固まると落としにくくなるし、 後からだとついつい億劫になってそのまま放置がちになってしまうからだ。 「あなた料理上手ね。まさかこんぶと鰹節でダシを取るところからはじめるなんて思 いもしなかったわ。適当に味の素で味付けするかと思ったのにね。コンロの汚れもす ぐに落としていたし、あなたのお母さんに教えられたの?」 「はい。母がいつも作るところを手伝っていましたから」  それは本当のことだった。  料理好きだった母から料理の基本から教えこまれた。母は、真樹(薫)が性別不適 合者として女性の心を持っていると理解してくれていて、女性としてのたしなみを徹 底的に教え込んてくれていたのだ。炊事・洗濯・掃除からはじまって、立ち居振る舞 いから化粧方法まで丁寧に教えてくれたのだ。 「これだと、わたしが教えることはないわね。あなたのお母さんに感謝しなくちゃ。 後は斎藤家の味に近づけるだけね。お父さんの味覚は保守的で、ちょっと味が変わっ ただけでも味噌汁を残しちゃうの」 「はい、教えてください。努力します」 「まあ、真樹さんが直接造った料理だったら、文句言わずに全部食べてくれるだろう けど、やはり長年食べ慣れた味じゃないとやっぱりね……」 「あたしもそう思います」
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2019年1月 8日 (火)

銀河戦記/鳴動編 第二部 第一章 II

第二部 第一章 中立地帯へ(火曜劇場)

                 II  艦橋のすぐそばにある高級士官専用ラウンジ。  アレックスや艦隊参謀達が休憩を取ったり、作戦立案のための会合を図る場所であ る。コーヒーやサンドウィッチなどの簡単な軽食をとりながら、全体的な作戦会議に 諮るための身内的な会議を行っていた。  同席しているのは、アレックス以下、パトリシア・ウィンザー、ジェシカ・フラン ドル、スザンナ・ベンソン、そして航海長のミルダ・サリエル少佐である。旗艦艦隊 所属ではないジェシカは本来ここにいるはずのない人物なのであるが、第十一攻撃空 母部隊の指揮をリーナ・ロングフェル少佐に任せて、強引について来てしまったので ある。  彼女達参謀はもちろんのこと、艦橋オペレーター達全員にしても、アレックス以外 に男性が一人もいないところが、旗艦サラマンダーの特徴である。  彼曰く、適材適所で人員配置をしたら、こうなってしまっただけと淡々と答えてい るのだが……。  他の艦隊では、彼女達をタイトスカートの参謀と呼び、ハーレム艦隊などと揶揄し ている者も多いと聞く。  アレックスといえば、自分自身が人選したものであり、パトリシアという婚約者も いるせいもあって、全然気にもしていない。  通常ならゴードンやカインズなどの各男性司令官達もいるのであるが、旗艦艦隊の みの作戦任務のために彼らはいない。    パネルスクリーンに、リンダ艦長が映し出されており、定時報告がなされていた。 「……報告は以上です。現在のところ全艦隊は正常に運用中、航行に支障なし」  報告を終えたリンダ艦長にアレックスが返答する。 「ご苦労さま。そのまま引き続いて指揮を執りたまえ」 「了解! 引き続き指揮を執ります」  スクリーンからリンダが消えて、タルシエン要塞にいるフランク・ガードナー少将 に切り替わった。 「先輩、失礼しました。続きをお願いします」 「わかった」  こちらも定時報告の最中だったのだが、リンダの報告の方が優先されて割り込みが 掛けられたのだった。  定時報告というものは、前線にいる艦隊などから基地や要塞へ連絡を入れるものだ が、アル・サフリエニ方面軍の最高司令官はアレックスである。  もちろん双方間の連絡・報告にあたっては特秘暗号コードによって厳重に守られ、 内容が外部に漏れ出すことはなかった。そう断言できるのは、その特秘暗号コードを 開発したのが、システム管理技術士のレイティー・コズミック中佐と科学技術主任の フリード・ケースン中佐の二名によるものだからである。その両名の名前を聞いただ けで、その技術の信用性を疑うものはいないだろう。 「ゴードン率いるウィンディーネ艦隊は、コリントス星系において連邦軍駐留部隊を 掃討して、コリントスを解放。コリントスのセルゲイ・ワッケイン議会議長は、ゴー ドンとの会見に応じ、我々解放軍に対して協力・援助を約束した。一方のカインズ率 いるドリアード艦隊は、デュイーネ星系を解放の後、現在ハルバート星系へと進行中 である」  アレックスの留守を守るアル・サフリエニ方面軍こと共和国同盟解放戦線は、旗揚 げ以来周辺地域に出没しては、駐留部隊を掃討しては周辺地域を連邦軍から解放して、 解放戦線に対しての協力を取り付けていた。  その急先鋒はゴードンのウィンディーネ艦隊と、カインズのドリアード艦隊であり、 地の利を知り尽くしたゲリラ戦を展開して、連邦艦隊を次々と撃破していた。こうし て解放戦線とその協力関係を結ぶに至った勢力は次第に大きくなり、旧共和国同盟の 十分の一にあたる宙域を制圧し、一つの国家と言えるほどにまでになっていた。ここ に至っては、連邦軍もおいそれとは手を出せない状態に陥ることになった。  元々アル・サフリエニ方面は、トランター本星からはるかに遠い辺境の地にあって、 バーナード星系連邦との間に横たわる航行不可能な銀河渦状腕間隙に架けられた【タ ルシエンの橋】は、その一方を解放戦線によって奪取されているために、連邦側から 侵攻することも不可能となっていた。 「まあ、今のところ順調だ。安心して自分の任務を遂行することだけを考えてくれ」 「ありがとうございます」 「それじゃあな。頑張れよ」  ガードナー少将の映像が消えて、タルシエン要塞との定時連絡が終わった。 「困ったものだな……」  と、映像の映し出されていたパネルスクリーンを見つめたまま、腕組みをした。 「何がですか?」 「周辺地域への救援出動だよ。当初の計画から逸脱しているじゃないか」 「ですが、救援要請を無視することはできないでしょう。我々は解放軍を名乗ってい るんですよ」 「時期早々だと言っているんだよ。銀河帝国との協定を結んでからでも遅くないだろ う」  トリスタニア共和国同盟はその名の通りに、銀河帝国に対抗するために数多くの共 和国が寄り集まって構成されている連邦国家に近い組織であった。ただ連邦と違うの は、それぞれの国家には完全なる自治権が与えられているということである。その勢 力圏の中でも2/3という最大領有地を誇り、強大なる経済力を持つトリスタニア共 和国が、同盟の事実上の政治的支配力を行使していたのである。各共和国には宇宙艦 隊への軍資金の供出と派兵義務、そして政治参加と発言のための評議会評議員の選出 権が与えられていた。  そのトリスタニア共和国が降伏し、共和国同盟は事実上崩壊したが、自治権を所有 するそれぞれの共和国には、トリスタニアに新たに設立された総督府と総督軍に参画 するか、それとも独立するかの選択を強いられることになる。  だがそう簡単に独立を維持できるわけがないだろう。総督軍は容赦なく攻め入って 配下に治めていた。そこでアル・サフリエニ方面の解放軍に救援の要請を打診してき ていたのである。
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2019年1月 7日 (月)

性転換倶楽部/特務捜査官レディー 真実は明白に(R15+指定)

特務捜査官レディー(R15+指定)
(響子そして/サイドストーリー)

(十一)真実は明白に 「そうか……そういうことだったのか……以前の真樹だったら酌なんかしなかったは ずだからな。それでもアメリカに行って心境が変わったのだろうかと思っていた」 「申し訳ありませんでした。真樹さんの振りをして騙していました」 「この娘は、悪くないんです。わたしがお願いしたんですよ。あなたがこの娘を区別 できるか試したんです」 「いや、すっかり騙されたよ。全然気がつかなかった」 「でしょう? わたしも、この娘が告白するまで判らなかったんですからね」 「うーん……。ほんとうに瓜二つだよ。誰がどこから見ても、真樹にしか見えないだ ろうな」  と改めて真樹の容姿を確認するように眺める父親。 「それで、おまえはどうするつもりなんだ?」 「もちろん、このまま一緒に暮らしますよ。この娘は、真樹なんですから。黙ってい れば気づかれなかったのを告白してくれたんです。憎まれ蔑まれるかも知れないのを 覚悟の上で、真樹が死んだ事を報告するために、わざわざ来てくださったんです。こ の娘は正直で澄んだやさしい心を持っています。そんな娘を見捨てるわけにはいきま せん」 「そうか……。おまえがそのつもりなら、私も反対はしないよ」 「いいんですか? 一緒に暮らしても……」 「しようがないだろ。聞くところによれば、真樹が死んだのには、この娘に責任はな いんだし、このまま放り出すわけにはいかないだろう。この娘の身体の中に真樹が生 きているというならなおさらだ。それに、すべての臓器の移植が何の支障もなく成功 しているということは、真樹のヒト白血球抗原・HLAが完全に一致していると言う 事。つまりこの娘と私達は、元々血縁的に繋がりがあるということだ。何せ非血縁者 での一致率は数百から数万分の一なんだ。HLAで血液鑑定すれば間違いなく親子関 係にあると断定されるはずだ。臓器移植に関わらず私達の娘と言っても過言じゃない ということさ」 「その通りです。この娘が将来結婚して子供を産めば、真樹の子供、わたし達と血の 繋がった孫になるんですから」 「ならいいじゃないか。私も、一緒に酌み交わす相手が欲しかったんだ。さあ真樹、 お父さんと呼んでくれ、そして一緒に飲もう」  とビールを差し出した。 「はい……頂きます。お父さん」  そのビールをコップに受け取る真樹。  涙の混じったそのビールはほろ苦かった。
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2019年1月 6日 (日)

銀河戦記/機動戦艦ミネルバ VI 水中潜航

 機動戦艦ミネルバ

VI 水中潜航  水中潜航しているミネルバ。  艦内において、音を立てないように息を潜めている隊員達。 「だいぶ時間が経ちました。そろそろ、いいのではないでしょうか?」 「そうですね。でも、念のために、海上ドローンを投入して上空を探査してくださ い」  上部ハッチが開いてワイヤーに繋がれたバルーンがするすると浮上していく。  海上ドローンは、潜水艦が上空の敵機・艦隊を索敵するために、超小型レーダーを 搭載したバルーンで、ワイヤーを通して情報を得ることができる。 「ドローン、海上に到達。索敵を開始します」  ドローンからのデータが、レーダー手の前面パネルに投影された。 「海上及び上空には敵影の存在ありません」  オペレーターが答える。 「どうやら去っていったようですね」 「騙されたかどうかは判りませんが、潜航艦相手に揚陸艦では戦闘になりません。ひ とまず追撃を断念して、他の地区へ転戦したのでしょう」 「どうします。浮上しますか?」 「いえ、もうしばらくこのまま潜航していきましょう。ヒベリオンが弾切れでは、攻 撃されたらたまりませんからね」  ミネルバには弾薬が乏しく敵に発見されにくい潜航を選ぶのは当然である。 「わかりました」  ミネルバには、超伝導現象を巧みに利用してジェット水流を起こし後方に噴出する ことで水中を高速で移動できる、ハイドロジェット推進機関(HJE)が搭載されて いる。高速とはいっても他の水中艦艇に比べてであり、移動速度では空中を進んだほ うが圧倒的に速いのは確か。隠密行動が出来る点で便利ということと、空中ではエン ジンを止めれば落下してしまうが、水中ならば浮力に支えられているから、水中抵抗 を差し引いても燃費が良いこともある。反面、主砲や高性能索敵レーダーをはじめと して大半の武装が使えなくなるので防備の面で不利となる。水中艦艇や水中アーマー に出くわし魚雷を受けたらひとたまりもなく水没してしまう。その時のために速やか に空へ舞い上がる準備だけは怠れない。 「ハイドロジェット推進機関始動開始」 「ハイドロジェットエンジンに海水注入開始。補助ポンプ始動」 「超伝導コイルに電力投入開始。融合炉よりの電力供給に異常なし」 「エンジンへの注水完了」 「電力ゲージ、五十パーセント」 「エンジン内、圧力上昇中」  ハイドロジェット推進は電気推進の一種であるから、内燃機関のように艦内の空気 を消費したり汚染したりしないので、非常にクリーンであるといえる。長時間の潜航 が可能となるのも便利である。  頃合良しとみてフランソワは艦を発進させた。 「ハイドロジェット、微速前進」 「ジェットノズル弁解放」 「微速前進」 「進路は?」 「北緯三十五度、東経百二十度のパラリス諸島へ向かってください。補給艦と合流し て燃料・弾薬の補給を受けます」 「どうしてそこに補給艦がいると?」 「こちらに来る時の命令書に指示が書いてありました。基地出立の後パラリスへ向か えとね」 「なるほど。こうなることは予想済みというわけですか」 「目標到達予定時間は?」 「十一時間三十二分後であります」 「それでは、交互に休息を取らせてください」 「わかりました」  航海士のスチュワード・スミス少尉が、現在位置と目標点から即座に航路を計算し て進路を示した。 「進路を一四○に取る。取り舵二十度」  それを操舵手が復唱して確認する。 「進路一四○」 「取り舵二十度」 「戦闘配備を解除。第二級警戒体制に」 「戦闘配備解除。第二級警戒体制」 「三十分後に各部署の長を作戦室に集合させてください。それまで艦長室にいます。 副長、後をよろしく」 「わかりました。三十分後ですね」 「あ、艦内を案内します」  イルミナが後を追いかけた。 「その必要はありません。艦内の見取り図はすべて記憶していますから」  と微笑みながら、イルミナの申し出を断るフランソワ。 「そうですか……」  ちょっと残念そうに元の席に戻るイルミナ。 「ほう……」  という声があちこちから漏れる。 「艦内見取り図どころか、ミネルバの戦闘装備についても全部理解していましたよ」 「そういえば、戦闘指示だって一つのミスや思い違いしていない」 「水中潜航には専任の潜航士官が別にいることもちゃんと知っていましたし」 「さすがに、艦長に選ばれてくるだけのことはあるというわけか」 「そりゃそうですよ。今回の艦長の任務には、佐官昇進試験をも兼ねているんでしょ う?」 「士官学校卒業したばかりで、もうすでに佐官候補生か……」 「そんなエリート艦長がやってくるところをみると、今回ミネルバに与えられた作戦 も、かなり重要だと俺はみたね」
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2019年1月 5日 (土)

妖奇退魔夜行/蘇我入鹿の怨霊 其の廿伍

 陰陽退魔士・逢坂蘭子/蘇我入鹿の怨霊 其の廿伍

(廿伍)魔人現る  手に汗握る戦いであったが、若さと柔軟さに勝る蘭子が押していた。  とはいえ、少しでも気を抜くと致命傷を受ける真剣勝負なのだ。  相手を傷つけることをも躊躇してはいけない。  切っ先を合わせること数十回、ついに決着が着いた。  石上が大上段から振り下ろす剣を見切り、その剣を弾き飛ばした。  空中を舞いながら井上課長の足元に突き刺さる七星剣。  井上課長が拾おうとするが、 「だめ!触らないでください!」  蘭子の警告に手を引っ込める。  怨霊の籠った剣に触れば、憑りつかれる可能性があるからだ。 「ふ……。さすが剣道の達人だな」  切っ先を交わした際に傷ついたのであろう、右手から血を流していた。 「観念しろ石上」  井上課長が拳銃を構えて投降を呼びかける。  石上は後ずさりしながら、入鹿の首の所まで戻った。 「まだ終わったわけではない。これからが本番よ」  というと、懐から短刀を取り出して、傷ついた右腕をさらに切り刻んだ。  ボタボタと滴り落ちる鮮血が、足元の入鹿の首に注がれる。 「入鹿よ我に力を与えたまえ!」 「課長!撃ってください!」  蘭子が慌てたように叫んだ。  何がなんだか分からない井上課長。 「何のための拳銃ですか!早く撃って!」  拳銃は所持していても、必要最低限の条件と緊急性がなければ、発砲などできない警 察官の性がトリガーを引くのを躊躇わせた。  どんなに悪人でも、日本警察は容易く撃たないよう訓示されている。  そうこうするうちに、入鹿の首からオーラが発して、石上直弘の身体を取り囲んだ。  見る間に、その身体がおどろおどろしい姿へと変身してゆく。 「魔人か!」  蘇我入鹿の怨霊どころではない!  紛れもなく魔人が本性を現したのである。  ズギューン!  井上課長が発砲する。  しかし、もはや拳銃などでは歯が立たなくなっていた。  人間の姿でいる間に撃てば、あるいはという状況ではあったが、時すでに遅し。  魔人が相手では、拳銃だろうと布都御魂であろうと太刀打ちできない。  どうやら魔人が蘇我入鹿をして石上直弘を操っていたのだろう。 「課長。布都御魂を預かってください」  と霊剣を手渡す。 「どうするつもりだ?」 「霊には霊、魔には魔です」  おもむろに懐から御守懐剣を取り出す。  御守懐剣「長曾祢虎徹」には、魔人が封じ込まれている。  魔人を呼び出して戦わせようというわけだ。  魔人を召喚するには、本来長い呪文が必要なのであるが、それは最初の時の場合であ って、契約を交わした魔人との間には、急を要する時のための短縮呪文が存在する。  双方が納得して取り決められれば、どんな作法となっても問題ない。  蘭子の御守懐剣「長曾祢虎徹」に封じられた魔人の場合は、剣を鞘から抜き、 「虎徹よ、我に従え!」  と、唱えれば召喚が成立する。  とはいっても、虎徹に宿った魔人には姿形はなくオーラそのもの。  いわゆるエネルギー体のような存在である。  アーサー王伝説に登場する「エクスカリバー」と言えば分かりやすいだろう。
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2019年1月 4日 (金)

性転換倶楽部/特務捜査官レディー 一家団欒(R15+指定)

特務捜査官レディー(R15+指定)
(響子そして/サイドストーリー)

(十)一家団欒  母が夕食の準備をはじめた。  手伝いますと言ったが、 「さっき言ったでしょ。疲れてるだろうから休んでなさい。でも明日からは手伝って いただきますからね。あなたはわたしの娘なんだから」  ということで、台所を追い出されてしまった。 「着替えてらっしゃいな。あなたのお部屋は二階へ上がってすぐ右手の部屋です。部 屋のものはすべてあなたが自由に使って結構よ」  言われるままに、真樹の部屋に行き着替えて、居間でTVを見て過ごす事になった。  エンジン音が轟いて、外で車が止まった。  そしてシャッターを開ける音がして、車庫入れしているエンジン音が続いて響いて くる。 「お父さんが帰ってきたわ。ちょっと試してみましょう」 「試すって?」 「もちろん、あなたが本物の真樹かどうかを区別できるかよ」 「いいのかしら、そんな事して」 「いいから、いいから。見てなさい」  といいながら玄関先に出迎えに行く母。 「あたしも玄関に迎えにいった方がいい?」 「以前の真樹はそんな事しませんでしたよ。父親が帰っても動かなかったわ」  あ、そう……。  しばらくして、玄関から声が聞こえてくる。 「お帰りなさいませ。真樹が帰ってきたわよ」 「そうか、帰ってきたか。無事で何よりだ」  やがて父親が居間に姿を現した。 「お帰りなさい、お父さん」  真樹は笑顔を作って挨拶する。  はじめて会う相手だが、努めて親しげに話し掛ける。 「ああ、ただいま。おまえこそ、無事で何よりだ。心配していたんだぞ」  気づいていないようだった。  母の方を見ると、微笑んでウィンクを返してきた。  ね、気づかないでしょう?  そう言っているように感じた。 「お食事になさいますか? それとも先にお風呂に入りますか?」 「風呂は後でいい。ビールを持ってきてくれ」 「わかりました」  すぐに冷たいビールが運ばれてきた。  真樹はビール瓶を受け取って、父親に酌をしてあげた。 「お父さんどうぞ」 「おお、済まんね」  父親が差し出すコップにビールを注いであげる真樹。 「どうだ。真樹も飲むか?」 「お父さん、真樹にビールは無理ですよ」 「何言ってる、もう二十歳じゃないか。社会に出れば、飲まなければならない事もあ るんだ。どうだ?」 「じゃあ、少しだけ頂きます」 「そうこなくっちゃ。おい、コップをもう一つだ」 「しようがないわねえ、二人とも」  と言いつつ、母はコップを持ってきてくれた。 「真樹、ほどほどにしなさいよ。あなたお酒は飲めないんだからね」  そうか……、飲めないのか。母は忠告してくれたのだ。 「はい」  本来なら酒を飲んでいられる状況ではなかった。  しかし、この後に母から父親に告白されることを考えると、アルコールの助けを借 りたい気分だったのだ。母もそれに同意してくれているようだった。取合えずコップ 一杯くらいならいいだろう。と思っていたのだが……、気がついたら一緒になって飲 んでいた。長年の癖はなかなか直せないものだ。  しばし父親と娘で酌み交わす酒。  世間一般として年頃の娘と父親の関係というものは、何かと断絶の風潮があるもの だ。それがこうして仲良く娘と一緒に飲めるというのはやはり嬉しいことのようだ。  ほろ酔い気分になった父親をみて、頃合よしと判断した母が切り出した。 「ところでお父さん。真樹を見て、何か感じませんか?」 「何かって何だよ。こうして一緒に酒を飲んで、少し大人びた感じはするがな」 「ですが、あなたの目の前にいる娘は、本当の真樹じゃないんですよ」 「真樹じゃない? どういうことだ」  父親の真正面に居を正して腰を降ろし、説明をはじめる母。  その隣で小さくなっている真樹。
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2019年1月 3日 (木)

性転換倶楽部/響子そして 女へ(木曜劇場)

響子そして(覚醒剤に翻弄される少年の物語)R15+指定
この物語には、覚醒剤・暴力団・売春などの虐待シーンが登場します

(七)女へ 「なあ、頼みがあるんだが……」  ある日、明人が切り出した。 「なあに、わたしにできることならなんでもするわよ」 「実は、性転換してほしいんだ」 「え?」 「ほんとの女になってくれないか」 「でも手術したら二度と元に戻れなくなっちゃうわ」 「大丈夫だ。一生、俺が養ってやるから、心配するな」 「ほんとう?」 「ああ、籍は入れられないけど、俺の女房になってくれ。もちろん祝言も挙げるぞ」 「わかったわ。あなたのために性転換してあげる」  わたは嬉しかった。だから女になって尽くしてあげようと思った。  こうして、わたしは性転換して女に生まれ変わった。  今までは、女子トイレや化粧室に入るにも、遠慮しながら入っていたものだった。 しかし、これからは堂々と女子トイレを使えるし、水着になってプールで泳ぐ事もで きるし、温泉にだって自由に入れる。  といっても手術してしばらくは膣は使えない。  ダイレーターによる膣拡張を行わなければいけなかったからだ。  しばらくは以前通りバックで我慢してもらった。  毎日数回、膣拡張具を使って膣を広げていく。  一番大きなそれがすんなり出し入れできるようになった時、明人を迎え入れた。  それは実に感動的だった。  女としてのバージンを明人に捧げるという気持ちだけでも興奮したが、明人のもの が入ってきた瞬間に気分は最高潮に達した。  バックの時は心のどこかに男の影が付きまとっていたが、今は身も心も本物の女な んだという自覚が一切の垣根を取り除いた。  明人が動く度に快感が突き上げてくる。  明人は、わたしを女として抱いてくれているんだ。  そう思うと、バックでは得られない至上の幸福感がさらに絶頂へと導く。  明人の動きが激しく息遣いも荒くなってきた。それに合わせるようにわたしも昇り 詰めていく。 「う、うお……」  低いうめき声を挙げた途端、わたしの膣に熱いものが勢いよく流れ込んできた。 「あ、ああ……」  あたしも絶頂に達した。  これからは前からも後ろからもOK。  でも膣があるんだから前からにして欲しい。  性転換してくれと言い出したのは明人だ。もちろんちゃんと前からしてくれる。そ うでなきゃ、性転換した意味がない。  性転換を言い出され毎晩のように抱いてくれることで、明人のわたしへの愛を確信 した。  ただのセックスが目的なら、いくらでも本物の女を囲う事ができる。あまつさえ祝 言をあげてくれて、組長の妻の座においてくれている。  わたし以外に愛人を囲っていたとしても、許してあげるつもりだ。組を継いでくれ る子供が欲しいと思う事もあるだろうが、わたしには子供を産む能力はないから。
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2019年1月 2日 (水)

性転換倶楽部/特務捜査官レディー 抱擁(R15+指定)

特務捜査官レディー(R15+指定)
(響子そして/サイドストーリー)

(九)抱擁 「そうだったの……」  と母は重苦しく呟いたまま口黙ってしまった。 「ごめんなさい……」  真樹はただ謝るばかりしかできなかった。涙が溢れて次から次へと頬を伝って流れ ていく。  やがて母が口を開いた。 「もう一度確認しますけど……。あなたの身体の中に、真樹のすべてが移植されたと いうのは、本当なんですね?」 「はい。もし将来結婚して子供が産まれたら、ご両親の血を引いていることになりま す。間違いありません」 「そうですか……。わざわざ報告しにきてくれて、ありがとう。あなた自身、どうし ようかと随分悩んだんでしょうね」  真樹は立ち上がって、お暇することにした。すべてを告白してしまったからには、 ここには居られない。 「それじゃあ、あたし帰ります」 「帰るって……。住むところはあるの? あなた自身の家には戻れないんでしょう?」 「何とかなると思います。駅前にビジネスホテルがありましたから、取り敢えず二三 日泊まりながらアパートを探します。しばらく暮らせるだけのお金もありますから。 ただ、真樹さんの戸籍を使わせて下さい。あたしが生きるためには必要なんです。お 願いします」 「それは……、真樹が死んでしまったというなら構わないけど……」  玄関に降り、靴を履こうとした時だった。 「やっぱり、あなたがこの家を出ていくことはないわ」 「え?」 「いいえ、あなたは真樹よ。わたしが産んだ娘に違いないわ」 「でも……」 「あなたの身体の中では、真樹が生き続けているんでしょう?」 「そうですけど……」 「だったら、わたし達から、真樹を取り上げないでください。真樹は一人娘なんです よ。娘がいなくなったら生きてく希望を失ってしまいます」 「じゃあ、どうすればいいんですか?」 「このまま、わたし達の娘の真樹として暮らしていただけませんか?」 「え?」 「お願いです。一緒に暮らしましょうよ、母娘として」 「いいんですか? こんなあたしで」 「だって、あなたは真樹なんですから……」  そう言って真樹を強く抱きしめながら涙を流した。 「お母さん……」  真樹も感激に身体を震わせて泣いていた。  それ以上の言葉はいらなかった。  二人は抱き合いながら涙を流し続けた。  ひとしきり泣いて落ち着いた頃、 「さあ、真樹。お茶の続きをしましょう。とっておきのお菓子があるのよ」  と、精一杯の笑顔を見せながら、手を差し伸べてくれた。  その手を取って答える。 「はい。お母さん」
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2019年1月 1日 (火)

銀河戦記/鳴動編 第二部 第一章 I

第二部 第一章 中立地帯へ(火曜劇場)

                  Ⅰ  漆黒の宇宙を、整然と隊列をなして進む艦隊があった。  共和国同盟解放戦線最高司令官、アレックス・ランドール提督率いる旗艦艦隊、そ の数およそ二千隻である。  追従するのは、旗艦艦隊の直接運用を任されているスザンナ・ベンソン少佐坐乗の 旗艦「ノーム」である。  先頭を行く艦隊旗艦、ハイドライド型高速戦艦改造II式「サラマンダー」。艦体に はその名を象徴する、何もかもを焼き尽く伝説の「火の精霊」が図柄として配されて いる。バーナード星系連邦の司令官達はその名を聞いただけで恐れおののいて逃げ出 したとさえ言われる名艦中の名艦である。同型艦として、水・木・風・土の精霊の名 を与えられた「ウィンディーネ」「ドリアード」「シルフィーネ」「ノーム」の四艦 があり、それぞれを象徴する図柄を艦体に配している。残りの三艦は、タルシエン機 動要塞以下、シャイニング基地・カラカス基地・クリーグ基地を包括するアル・サフ リエニ方面軍の中核として、旧共和国同盟周辺地域に出没してゲリラ戦を展開、連邦 艦隊を各地から追い出してその脅威から解放しながら、その勢力圏を次第に広げつつ あった。  サラマンダー艦橋。  その指揮官席に陣取り、艦長のリンダ・スカイラーク大尉が艦隊の指揮を執ってい た。リンダは艦隊運用士官(戦術士官)ではないが、旗艦艦長は通常航行においては 司令官に代わって艦隊の指揮権を行使できるとする、ランドール艦隊の慣例に従って のことである。旗艦艦隊司令官に昇進した前艦長のスザンナ・ベンソン少佐の後任と して、第十七艦隊第十一攻撃空母部隊の旗艦「セイレーン」艦長の任から、部隊司令 官のジェシカ・フランドル中佐の推薦でサラマンダーの艦長に抜擢された。スザンナ 同様に将来を有望視されている一人である。 「まもなくデュプロス星系に入ります」  一等航海士のアニス・キシリッシュ中尉が報告する。 「特殊哨戒艇からの連絡は?」 「今のところ、変わったことはありません。進行方向オールグリーンです」  特殊哨戒艇「P-300VX」2号機。  基地に設置された高性能の索的レーダーの能力をはるかに超えた索的レンジを誇る 最新鋭の索的用電子システムを搭載した哨戒艇であるが、戦艦百二十隻に相当する予 算を必要とするために、ほとんどの司令官が配備に二の足を踏んでいた。そんな金食 い虫を配備するより安かな駆逐艦を索的用に出すだけで十分だという意見が多かった のである。しかしアレックスだけは、サラマンダー以下の旗艦にそれぞれ配備すると いう積極的方針をとっていた。  アレックスの戦術の基本が一撃離脱であり、敵をいち早く発見して敵に気づかれる 前に奇襲攻撃を敢行して即座に離脱、という作戦を身上としているために必要不可欠 だったからである。もっともランドール艦隊の攻撃力はすさまじく、最初の一撃をか わして無事でいられた艦隊は皆無に近かったが……。 「このまま予定コースを取ります。全艦、進路そのまま」 「全艦、進路そのまま!」  副長のナターシャ・リード中尉が復唱する。 「全艦、恒星系内亜光速航行モードへ移行。機関出力三分の一」  艦長としての任務をそつなくこなしているリンダであった。
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性転換倶楽部について

明けましておめでとうございます。

性転換倶楽部の二つの物語(サイドストーリー)ですが、
「響子そして」に比して「特務捜査官」は、文書量が3倍ほどあります。
時系列を揃えるために、1対3のペースで投稿します。

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