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2018年12月

2018年12月31日 (月)

性転換倶楽部/特務捜査官レディー 帰国(R15+指定)

特務捜査官レディー(R15+指定)
(響子そして/サイドストーリー)

(八)帰国  ジェット気流に揺られる事、十余時間。  何とかエコノミー症候群に陥ることもなく無事に成田に着いた。  何はともあれ入国(帰国)手続きである。  入国審査官にパスポートを提示する。もちろんパスポート写真は斉藤真樹のもので あり、もちろん性別は女性である。整形して似せてあるが、果たしてばれないかと心 臓は早鐘のように鳴り続けている。  審査官は、パスポート写真とわたしの顔を、ためつすがめつ見比べて、本人かどう かを念入りに確かめた後に、 「結構です。お帰りなさいませ」  とパスポートをぱたんと閉じて返してくれた。  無事に斉藤真樹として帰国できたのである。  さて日本に無事帰ってこれたのはいいが、以前住んでいた警察寮には戻れないし、 実家では死亡したとして葬式も済んでいるだろうからやはり無理がある。  以前の自分はすでに死んでいる。もはや斎藤真樹として生きるしかない。 「やはり真樹さんの実家に行ってみるしかないわね。すべてを話して理解してもらお う。結果として拒絶され非難を浴びせられてもても致し方ない事、すでに真樹さんが この世にいないことを伝えるだけでもしなければならないから……」  真樹は、身分証に記された彼女の実家へと向かった。 「同じ都内で助かったわ。これが北海道とか九州沖縄だったら大変だよ」  電車をいくつか乗り継いで、実家近くの駅で降り立つ。駅近くの荷物預り所にスー ツケースを預け、さらに駅前交番で地図を見せてもらってメモ書きし、その場所へと 歩いていった。タクシーに乗らずに歩いたのは、それほどの距離でもなかったし、自 宅に近づくに連れて高まるだろう胸の鼓動を、鎮めるためでもあった。 「ここが真樹さんの家か……」  4LDKと思しきごく中流家庭の民家だった。 「真樹、お帰りなさい」  背後で声がした。 「え?」  振り返ると自転車かごにスーパーの袋を満載に乗せた女性が立っていた。年の頃四 十代前半くらい、真樹の母だと思った。 「どうしたの? 自分の家の前で突っ立ってるなんて。鍵をなくしたの?」 「違うんです。あたしは、真樹さんじゃないんです」 「何言ってるのよ。旅行疲れと時差ボケ? とにかく中に入りなさい」  母は完全に真樹と思い込んでいるようだった。先生が施した整形手術は、母親でさ えも気づかないほどに完璧に真樹にそっくりに形成されていたのだ。  何にしても立ち話では、納得いく説明をすることができない。言われた通りに中に 入ることにする。  自転車かごのスーパー袋を降ろして持ってやり、母が家の鍵を開けるのを待って、 一緒に中に入る。 「疲れているでしょうから、今日は夕食の手伝いはいいわ。お部屋で休んでなさい」  そうか、真樹は夕食の手伝いをしているのか……。となると家の掃除や洗濯も、た ぶん分担しているのだろうと思った。母一人でこの4LDKの家全体を掃除するのは 骨が折れるはずだ。もし自分を真樹と認めてくれたら、ちゃんと手伝いをしてあげよ う。  台所でスーパー袋の食品を分けて、冷凍冷蔵庫や床下収納庫などへしまう手伝いを する。  スーパー袋の内容をすべて収納を終えて、 「お茶にしましょう」  ということで、食卓に着席してのティータイムとなった。 「ニューヨークはどうだった?」  すっかり真樹と信じ込んでいる。このまま巧く立居振る舞いを続ければ、真樹とし て暮らしていけるかも知れないと思った。  しかし元警察官の心意気か、人を騙す行為はできるはずがなかった。 「お母さん、聞いてください」 「なあに?」  意を決して、真樹はすべてを話しはじめた。  彼女が事件に巻き込まれて脳死状態であった事、組織に狙撃されて重体に陥った自 分にその臓器が移植された事、自分の代わりに茶毘に伏された事。顔を真樹そっくり に整形して、彼女のパスポートを使って日本に帰国した事。  そしてすべてを報告するために、この家を訪れた事を。
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2018年12月30日 (日)

銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第一章 V

 機動戦艦ミネルバ 第一章

V 深海底秘密基地  空中戦闘から水中潜航体制に切り替わりつつあった。 「操舵手配置につきました」 「艦首魚雷担当戦闘準備よし」 「水中発射ミサイル担当戦闘準備完了」 「艦尾発射管配置完了」 「機関部、総員配置につきました。ハイドロジェット推進機関異常なし。水中戦闘速 度は四十八ノットまで可能です」 「全艦、水中潜航体制に入りました」 「よろしい。直ちに水中潜航に入ります」 「防水シャッター閉鎖」 「バラストタンクに注水」 「メインバラストタンク及び艦首バラストタンク注水開始」  ゆっくりと海中へ沈んでいくミネルバ。 「海中へ侵入します」 「深度百八十メートルまで急速潜航」 「浮遊機雷投入準備。深度調整五メートル」 「浮遊機雷、水中信管を海面下五メートルにセット」 「現在深度五十メートルです」 「浮遊機雷、準備完了」 「投入!」 「艦長、沈没して爆発したように見せかけるのですね」 「その通りです。まあ、敵が騙されてくれれば儲けもの」 「うまくいってくれればいいのですが」 「深度百メートルです」  海上で爆発した機雷からの震動が水中を伝って艦内に届いた。各部がミシミシと音 を立てて軋みはじめる。 「爆発確認」 「深度百八十メートルです」 「艦を水平に」 「艦体水平」 「艦首バラストタンク半排水。艦尾バラストタンクに五十パーセントまで注水開始」  ゆっくりと艦首が頭をあげていく。 「水平です」 「進路そのままで前進。無音潜航!」  しばらく様子を見ることにするフランソワだった。  深海底。  潜水艦が航行している。  やがてとある岩盤に近づいていくと、地響きを立てて岩が割れて、隠れていた侵入 扉が開いた。静かにその扉の中へ進む潜水艦。  秘密基地内部。  モビールスーツが所狭しと並べられており、各種の戦闘機なども自動昇降装置によ って格納されている。  プールのようになっているその水面に浮上する潜水艦。  桟橋がせり出して、潜水艦の搭乗口に掛かる。  やがて搭乗口から出てくる人物がいる。  第八占領機甲部隊司令官、レイチェル・ウィング大佐であった。  桟橋の周りには基地の主だった幹部将校達が出迎えていた。 「大佐殿。お帰りなさいませ」 「ついに、連邦の降下作戦が始まったわ」  歩きながら話を続けるレイチェルと幹部将校。 「はい。傍受した通信によれば、かなり同盟に不利な情勢のようです。やはり絶対防 衛艦隊三百万隻が壊滅させられてしまったことで、戦意消失してしまっています」 「でしょうね。現在、まともに戦える戦力と言えば、周辺艦隊の第五軍団と、ラン ドール提督のアル・サフリエニ方面軍だけです」 「なさけないことですが、出撃に間に合わなかった絶対防衛艦隊の生き残りはすでに 降伏の意思表示をしています」 「しようがないでしょ。まともに戦ったことのない司令官達ばかりなんですから。ス ティール・メイスン少将の戦歴を知れば、戦う気力も起きないでしょう」  大きな扉の前に来る。  扉を警護している兵士が敬礼し、扉を開ける。  中央作戦司令部。  岩盤を繰り抜いた洞窟状の広大な部屋に、所狭しと各種の機材やコンピューター端 末が整然と並べられ、それぞれにオペレーター達が甲斐甲斐しく操作していた。  レイチェルの入室に気づいたそれらのオペレーター達は、一斉に立ち上がって敬礼 を施し、再び端末に向かった。  部屋の正面の壁に展開するマルチパネルスクリーンに、トランター本星各地の状況 を示す映像が次々と映し出されていた。  天空から舞い降りてくる連邦軍降下部隊、迎撃する地上基地、海上に浮かぶ無数の 艦艇。攻撃する側と防衛する側の情勢が手に取るように判別できる。 「トランターが陥落するのは、時間の問題ですね」 「そうね」 「ミネルバはどうですか?」 「ミネルバは基地を出立して、連邦軍降下部隊との戦闘の後、ミューゼス海域にて潜 航状態に入りました。交信記録を解析したところでは、かなりの弾薬を消耗したもよ うです。おそらく補給が必要でしょう」 「そうね……。ミネルバの現在地と敵部隊の展開状況から、最適な補給地点を割り出 してください」 「了解しました」
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2018年12月29日 (土)

妖奇退魔夜行/蘇我入鹿の怨霊 其の廿肆

 陰陽退魔士・逢坂蘭子/蘇我入鹿の怨霊 其の廿肆(土曜劇場)
(廿肆)剣を交える  しばらくありふれた問答が続いたが、 「この場所へおまえらを呼び寄せたのは何故だか分かるか?」  と、先に切り出したのは石上だった。  この場所、板蓋宮跡は蘇我入鹿が惨殺された所である。  伝承では、斬首された首が数百メートル先へ飛んでいったとか、村人を襲ったとかと かで首塚が作られているのであるが……。  「さらし首」などいう見せしめは、武家社会になってからであり、貴族社会であった 当時なら、野外に遺体ともども打ち捨てられたものと思われる。  ならば……。 「蘇我入鹿か?」  当然の反問である。 「見るがいい」  というと、七星剣を上段に構えたかと思うと、えいやっとばかりに地面に突き刺した。  地面から稲光が放射状に光ったかと思うと、無数の魑魅魍魎(ちみもうりょう)が湧 き出てきた。  石上がさらに右手を水平にかざすと、手のひらから、霊光(オーラ)のようなものが 地面へと伸びていく。  その地面が盛り上がりを見せたかと思うと、何かが土中より出現した。  それはゆっくりと上昇して、石上の手の上に。  骸骨だった。 「蘇我入鹿の首だよ」  おどろおどろしいオーラを発しているその首を差し出しながら、 「入鹿の首と、怨念の籠った七星剣、入鹿が討ち取られた板蓋宮跡。そして時刻は鬼が 這い出る丑三つ時。道具はすべて揃った」 「何をするつもりだ?」 「知れたことよ」  と言いながら地に突き刺した七星剣を抜いて、天に向けて捧げた。  凄まじい気の流れが怒涛の様に周囲に広がり、闇の中から無数の怨霊が沸き出し、奈 良の街中へと拡散していった。  毒気を含んだ黒い霧が流れ出し、道行く人々が次々と倒れてゆく。  街中に溢れ出した怨霊は、至る所で災いを巻き起こし、人々を渦中に引きずり込んで いく。  台所のコンロが自然点火して火事となり、交差点信号が誤作動を起こして交通事故が あちらこちらで発生する。  板蓋宮跡にいる蘭子達からも、街や村が火に包まれていくのを目の当たりにすること となった。 「問答無用ということですね」  竹刀鞘袋から布都御魂を静かに引き抜く蘭子。 「そういうことらしいな」  石上も入鹿の首を地面に置いて、七星剣を構える。  蘭子が石上に向かって布都御魂を振りかざす。  もちろん生殺しないように、当身を狙ってである。  だが、いとも簡単に受け止められてしまう。 「おまえが剣道の猛者ということは知っている。だが、自分も四段の腕前でね」  鉄と鉄が交差する度に火花が飛び、瞬間暗闇を照らす。  井上課長は思う。  貴重な文化財を使って、チャンバラとは!  しかし、心配はご無用。  どちらも怨霊の籠った霊剣である。  そうは簡単に折れたりはしなかった。 「なるほど『霊験あらたか』ということか」  納得する井上課長であった。

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2018年12月28日 (金)

性転換倶楽部/特務捜査官レディー さらばニューヨーク(R15+指定)

特務捜査官レディー(R15+指定)
(響子そして/サイドストーリー)

(七)さらばニューヨーク  外に出ると、まぶしいばかりの光に、思わずよろけてしまった。いやそれだけでもな い、ずっとベッドの上に横たわっていたのであるから、足腰が弱っているせいでもあっ た。  真樹が泊まっていたホテルに連絡してみると、荷物をそのまま預かっているという。  保管料を支払って引き取ってくださいということだった。 「置いていってはいけないでしょうね……」  本来自分の持ち物ではないが、今の自分は斉藤真樹であり、日本に戻って真樹として 生活するのに必要なものが入っているかもしれない。ホテルへ行って、荷物を引き取る ことにする。  タクシーを拾い、ホテルの名を告げる。ここニューヨークではタクシーを拾うのも十 分に気をつける必要があるが、生死の淵をさ迷う自分を思えば、今更という感がないで もない。  ショルダーバックには、パスポートと身分証の他、ホテルの預り証が入っていた。預 かり品を受け取りにホテルに行ってみると、予想通り重たい長期旅行用スーツケースだ った。国際線機内持ち込み制限寸法の115cmをはるかに越えている。大事なものや 記念品とかが入っているかも知れないので、かなりの保管延長料を支払ってそれを受け 取る。  取りあえずは一日そのホテルに泊まることにする。  部屋に通されて、スーツケースを開けて確認してみる。  数日間を旅行するための衣類がきれいに畳んであった。薄いベージュのワンピースに、 ピンク系のツーピーススーツ。そしてランジェリー  その中に混じって手帳があった。 「アメリカ旅行記」という題目が書いてあった。  旅先での思い出がつらつらと書き綴ってある。  最初の訪問地はサンフランシスコ。ラスベガスのカジノで少しばかり儲けたらしい。 シスコを拠点にして西部アメリカを観光した後に、横断鉄道に乗って東部アメリカへと 向かう。そしてニューヨークで終わっている。 「ここで抗争事件に巻き込まれてしまったのか……。運が悪かったというところね。可 哀相……」  手帳の内容はほぼ把握できた。  真樹の経験してきたことの一端を記憶に留めておく。  手帳を閉じ、窓際に立って、ホテルからの景色を眺める。  すっかり外は暮れていて、ニューヨークの夜景が美しく輝いていた。 「ニューヨークの夜景か……敬と一緒に見る約束だったのにな……」  敬は、あの包囲網から逃げ失せただろうか?  あれから舞い戻って自分、佐伯薫を探し回っているかも知れない。  しかし、それを確認するために戻るわけにはいかなかった。  佐伯薫の死体が消失したのを知って、組織が捜索のために動いているかもしれないか らだ。  今自分がするべき事は、佐伯薫としての自分のためではなく、斉藤真樹として日本に 帰り、心配しているであろうその両親に無事な姿を見せてあげることである。  翌朝。  ケネディー空港では、組織の影に一抹の不安を抱きつつも、無事に通関ゲートをくぐ って飛行機に乗り込むことができた。  そして飛行機は飛び立つ。  眼下に広がるニューヨークの展望に熱い思いが溢れる。 「さらばニューヨーク。さらば佐伯薫。そして沢渡敬、運命に女神の微笑みかけるなら ば、生きて再会しましょう」  万感の思いを胸に、アメリカを離れ一路日本へと向かう。  未来ある斉藤真樹としての生活を生きるために。
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2018年12月27日 (木)

性転換倶楽部/響子そして 再会

響子そして(覚醒剤に翻弄される少年の物語)R15+指定
この物語には、覚醒剤・暴力団・売春などの虐待シーンが登場します

(六)再会  ある日。  わたしは、以前住んでいた屋敷の前に立っていた。  すでに屋敷は他人の手に渡っていた。  精神が崩壊していた母親を操って実印を奪いとり、祖父から譲り受けて所有してい た不動産などの資産すべてを奪い取られていた。その後、不動産は転売されて他人の 所有となった。  今では、見知らぬ人が住んでいた。庭先で高校生かと思われる女の子と、やさしそ うな両親が、野外バーベキューを楽しんでいた。  わたしは涙を流していた。  もしあの時、交通事故に合わなければ、あの家族のような暮らしをしていたに違い ない。  背後で車が停まる音がした。 「ひろしじゃないか!」 「え?」  自分の名前を呼ぶ声がして振り返ると、黒塗りのベンツから懐かしい青年が降り立 っていた。 「明人!」  わたしは、夢中でその腕の中に飛び込んでいった。 「やっぱり、ひろしだった。探したぞ」  明人は満面の笑顔で、力強く抱きかえしてくれた。 「いつ、出てきたの?」  わたしは、もう涙ぽろぽろ流してその腕の中で泣いた。 「おとといだ。保護司の野郎、おまえの住所を偽っていやがったんだ。そこに、おま えはいなかった。そして、今の今までずっと、おまえを探していたんだ。この屋敷に 必ず現われると網を張っていたんだ。そしたら君がいた」 「迎えにきてくれたのね」 「そうさ。約束しただろ。必ず迎えに行くって」 「うれしい……。わたし、何度も自殺しようかと考えた。でも、明人が必ず迎えにき てくれると信じて、ずっと耐えて待ってたの」 「そんなに苦労してたのか」 「ええ……」 「わかった。もう何も心配ない。俺のところに来い」 「はい」  こうして、わたしは愛する明人の下に引き取られることになった。  明人は出所と同時に、抗争事件で死んだ親に代わって、暴力団の新しい組長になっ ていた。わたしを縛り付けていた悪徳保護司を合法的に処分し、自分の息の掛かった 新たなる保護司を代わりに据えた。  わたしに対する扱いに対して、明人の保護司への怒りは絶頂に達し、耐えがたい苦 痛を与える拷問を繰り返し与えられてショック死したらしい。  わたしは自由になったのだ。  その日から、組長の明人の情婦としての生活がはじまった。  再び女性ホルモンを投与できるようになり、崩れ掛けていた乳房は、再び張りのあ る豊かさを取り戻していた。  外を出歩く時は、常にボディーガードの中堅やくざに囲まれているのは、いささか 閉口するが、対抗組織から狙われている危険から守るため仕方がないことだった。  高級ブランドのドレスやバック、そして高額の宝石が散りばめられたネックレスや イヤリングで身を飾ることができた。自分としてはそんなブランドとか宝石には興味 がなかったのであるが、組長の情婦として威厳のあるところを組員に見せ付けるため に、明人から言われてそうしているのだった。  ひろしという名前では不具合があるので、響子という名前を、明人がつけてくれた。 それは明人が手にかけた母親の名前だった。今でも母親を愛しており、母親の分まで 愛させてくれと言った。  明人は憎くて母親を殺したのではない。浮気をしていた男が上になっているところ を、母親をいじめているのだと思い込んだ明人が、金属バットで殴りかかろうとして、 それを男にかわされ、勢いあまって母親の頭部を強打してしまったのだ。脳挫傷で母 親は死んでしまった。  殺人事件として発覚したが、五歳の子供ゆえに訴追される事はなかった。  実は母親は、その男に覚醒剤を打たれていたことが後から判明した。  母親は貞操な女性だったのだが、か弱い力では男にはかなわない。深夜に侵入した その男に押さえつけられ、無理矢理覚醒剤を打たれて貞操を奪われたのだった。  その男は、組長の妻を手込めにしていた事が発覚し、下半身をコンクリート詰めに され生きたまま海に放りこまれた。当然の報いだ。指詰めくらいでは納まるはずがな い。私刑としては最高刑の処分となった。  愛する母親を自らの手で殺したという精神的なジレンマが、明人を凶悪な性格に変 貌させ、幾多の人間を殺害した。その度に、組の中堅どころの幹部候補性達が身代わ りで自首していったから、明人自身が捕われることはなかった。  しかしついに明人自らが現行犯逮捕され、少年刑務所に収監された。  そしてわたしに出会ったのである。  明人は言った。凶悪的だった性格は、わたしとの出会いで次第に癒されていったと。  やさしい明人。  わたしはそれに応えるためにも精一杯尽くした。  身代わり自首した者達は、刑期を終えて出所と同時に幹部となり、明人を支えてい る。
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2018年12月26日 (水)

性転換倶楽部/特務捜査官レディR15+指定)

特務捜査官レディー(R15+指定)
(響子そして/サイドストーリー)

(六)新たなる人生 「さて、君に渡したいものがある」 「なんでしょう?」 「これだよ」 「ショルダーバック?」 「その中に、パスポートと身分証が入っている。今日から君は、そこに記されている、 斎藤真樹として生きて日本に帰りたまえ」  差し出されたショルダーバッグから取り出して確認する薫。  そのパスポートには紛れもなく、整形した今の自分の姿が映っていた。  脳死状態のために自分にすべての臓器を提供することになった女性。 「斉藤真樹? 他人に成りすますなんてできませんよ。あたしは警察官なんです」 「だからといって、今のままでは何もできないぞ。君はすでに死んだことになってい る。ニューヨーク市警から死亡報告書が日本政府に提出され、戸籍を抹消されている はずだ。パスポートも使えないからどこへも行けないぞ。いまのままでは不法入国者 ということになる」 「そんな……生きているのに」 「悪い事は言わない。黙ってその女性に成り代わって生きることだ。それ以外に生き る道はない」 「しかしこの女性は、査証相互免除国における観光目的の短期滞在で無査証で入国し ているようです。滞在期限の九十日以内に、実際には入国からすでに二ヶ月経ってい ますから、残すところ三十日以内に帰国しなければなりません。そうなれば、当然家 族や友人がいるはずです。この女性の振りをして日本に帰ってもいずればれてしまい ます。友人は騙せても家族までは騙せないでしょう」 「とにかく選択肢は三つだ。このままアメリカで不法入国者として暮らすか、日本に 帰り極力彼女と関わる人物を避けて暮らすか、或は彼女の両親に会ってすべてを説明 して納得してもらうかだな。私としては最後の方法がすべて丸く治まる可能性がある と思うのだがね」 「両親の説得ですか……」 「何にしても、君の身体の中には彼女のすべてがあると言っても過言じゃない。無碍 にはしないとは思うのだが……」 「そうかも知れないでしょうけど……」 「何にしても、彼女が事件に巻き込まれて脳死状態に陥ったのは不可抗力だ。その事 に関しては君に責任がないし、君が重体に陥って臓器移植を必要としていたのも事実 だ。二人とも死ぬ運命にあったところを、どちらかが生き残る。これもまた運命かも 知れない」  押し黙ってしまって、じっと考え込んでいた薫だったが、やがて呟くように声を出 した。 「やはり斉藤真樹として生きるしかないんですね」 「そうだ。他に生きる道はない。辛い運命かもしれないが、耐えて生きるしかないだ ろう」  ふうっとため息をついてから、 「わかりました。何とか生きてみることにします」  はっきりとした口調で答える。 「それがいい」  頷いて賛同する先生。  意思が固まれば、話は急転直下で進展する。 「君が着ていた服は、穴だらけだったから、君に合いそうな服を用意しておいた。そ れを着ていくんだ」  といって紙袋を手渡してくれた。 「何もかも至れり尽くせりで申し訳ありません」 「いや、気にすることはない。医者としてするべきことをしているだけだ」 「ところで治療代は?」 「要らないさ。手術の腕を磨く検体として利用させてもらったと考えてくれればいい さ。大学病院や総合病院などで最新手術を施す時など、よく研究目的による無償治療 が行われるだろう。どうせここは組織が運営している闇の病院だ。どうにでもなる、 気にすることはない」  先生に渡された女性用の衣装を身に着ける。  眠っている間に、身体のサイズを測られたのか、ぴったりと合っていた。別に悪気 があったわけでもなく、医療上にも必要なこともあっただろうし。  ごく普通にカジュアルなデザインの上下ツーピースのスーツだった。 「どこから見ても女性そのものだ。もともと女性的な身体つきしていたから当然だが、 医者でなく事情を知らなかったら、プロポーズしているな」 「冗談はおっしゃらないでください」 「いや、本当の気持ちさ。まあ、今日からは本物の女性の斉藤真樹として、生きるの だからな。男であったことは、心の隅にでも置いておいて、女性としての生活をエン ジョイするといいだろう」 「そう簡単には、気持ちの切り替えなどできませんよ」 「まあな……。少しずつ慣れていくことだ」 「はい」 「それじゃあ、これでお別れだ。元気で暮らせよ」 「先生こそ」 「生きていれば、またどこかで再会することもある。その時は、赤ちゃんを抱いて幸 せな母親になっていることを祈ってるよ。もっとも旦那が見つかればの話だが」 「そうですね」  こうして短い期間ではあったが、わたしの人生を百八十度変えてしまった、その先 生との別れとなった。  どんな人物なのか、まるで不思議な雰囲気のある先生ではあったが、このアメリカ では唯一信頼できる人間だ。いつかまた再会できそうな気がした。
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2018年12月25日 (火)

性転換倶楽部/響子そして 仮出所

響子そして(覚醒剤に翻弄される少年の物語)R15+指定
この物語には、覚醒剤・暴力団・売春などの虐待シーンが登場します

(五)仮出所  少年刑務所に来て四年の月日が過ぎ去っていた。  丁度二十歳の誕生日。わたしの仮釈放が決定したと知らされた。  二人の人間を殺したのだ。そんなに早く出られるはずがなかった。  しかし、事実だった。  女性ホルモンで限りなく女性に近づき、少年達との逢瀬を繰り返している。  そんな少年をいつまでも所内に留めていたら、健康状良くない。  女になったのならば、悪事行為を繰り返す事もないだろう。  そういった判断から、追い出されるように仮釈放が速められたというべきだろう。  出所祝いに、白いワンピースドレス・ローヒールのパンプスなど、女性として外を 歩くのに必要な一揃いのものが、少年達がカンパして集められたお金で購入され、わ たしにプレゼントされた。  舞台以外では、女性の衣料を着た事がないわたしだったが、ほとんど女性的な容姿 になってしまった現在、それを着るのが一番自然に思えた。  今、それを着て、明人と面会している。 「俺が退所したら、必ず迎えにいく。それまでどんなことがあっても我慢して、ずっ と待っていてくれ」 「わかったわ、。待ってる。きっとよ、迎えに来てね」 「もちろんだ。その服きれいだよ。俺達からのせめてもの志だ」 「ありがとう。みんなにも感謝していると言っておいてね」 「ああ……」  仮釈放されたといっても、自由になったわけではない。  常に保護司の監察下にあり、定職につき住居も定められているなど、一定の束縛が あった。  その保護司が迎えに来ていた。 「保護司の行田定次だ。今日から君の面倒をみることになる」  というわけで、彼が手配したアパートに入居した。  そして就職先なのだが……。  その保護司が紹介してくれたのは、いかがわしいスナックバーだった。 「おまえのような奴を、雇ってくれるのはこんな処しかないんだ。黙って働くんだ」  といって無理矢理、男相手の職場に放りこまれた。  しかも給与は全額保護司が受け取り、アパート代といくらかの生活費を渡すだけで、 残りのほとんどを巻き上げられる格好となった。  保護監察の身であり、保護司の言う事を聞かなければ、少年刑務所に突き返すと脅 された。泣く泣く言いなりになるしかなかった。しかも毎晩のように陵辱される日々 が続いていた。  わたしの働いているところにやってきては、まるで見せ付けるように店子達や客に 大判振舞いした。それらの金はすべてわたしが汗水たらして稼いだものだ。  保護司は女性ホルモンの入手先を知らず、わたしの身体はホルモン欠如で、更年期 障害に似た症状に蝕まれていった。  この保護司のそばにいる限り、いつまで経っても泥沼状態から抜け出せない。甘い 汁を吸い尽くされてずたぼろにされると思った。  何度も自殺を考えたが、 「俺が退所したら、必ず迎えにいく。それまでどんなことがあっても我慢して、ずっ と待っていてくれ」  という明人の言葉を信じて思い留まった。
少年刑務所は、全国に6個所(函館・盛岡・川越・松本・姫路・佐賀)あり、「受刑者 の集団編成に関する訓令」と、その「運用について」で対象が決まっている。 入所者の年齢は26歳未満が基本だが、割合で行くと1382人(52.97%)で半数に過ぎない。 残る半分は、犯罪傾向が進んでいない26歳以上が中心だ。刑の確定後、地域性なども加 味され、施設が決まるという。
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2018年12月24日 (月)

性転換倶楽部/特務捜査官レディー 生まれ変わり(R15+指定)

特務捜査官レディー(R15+指定)
(響子そして/サイドストーリー)

(五)生まれ変わり  とある部屋。  ベッドの上で天井をじっと見つめたままの薫がいる。 「ここはどこだろう……」  ついさっき意識を回復したばかりだったのだ。 「確か……撃たれて死んだのじゃなかったのかな?」  身体を動かそうとしたがだめだった。何かで身体全体を縛られているようだった。 「どうして?」  その時ドアが開いて誰かが入ってきた。 「やあ、気がついたようだね」 「あなたは?」 「医者だよ」 「あたしに何をしたのですか?」  と身体を揺する薫。 「ああ、まだ身体を動かさない方がいい。移植した臓器がずれてしまう」 「移植?」 「そうだよ。君は銃撃を受けて内臓をずたずたにされてしまったんだ。道端で死にか けていた君を拾ってあげてここに運び、内臓を移植して蘇生させたのだ。移植した臓 器がずれたりしないように、君の身体をベッドに縛り付けて拘束させてもらっている。 まあ、そんなわけだから、臓器が落ち着くまでもうしばらく我慢して身体を動かさな いでくれ」 「……ちょっと待ってください。移植したということはドナーがいるはずですよね。 その人はどうなったんですか?」 「残念ながら、救いようのない脳死患者でね。生き返ることがないのなら、それを必 要とする人間、つまり君に移植したんだ」 「そうでしたか……」 「あ……あの、あたしの身体見ましたよね……」 「まあね……。睾丸摘出していたようだね。最初てっきり女性かと思ったんだが…… 胸は女性ホルモンで大きくしたんだね。プロテーゼは入ってないようだから」 「はい……」 「恥ずかしがる事はないよ。実は、私は産婦人科が専門なんだ。性同一性障害につい ても理解があるつもりだよ」 「産婦人科ですか?」 「そうだ。ついでだから話すと、君の身体には卵巣と子宮、そして膣などの女性器の すべても移植してあるんだ」 「女性器? じゃあ、死んだのは女性ですか?」 「ああそうだ。彼女自身は死んだが、臓器は君の身体の中で生きている。しかも卵巣 と子宮もあるから、君がその気になれば彼女に変わってその子供を産む事もできる。 死しても子孫を残せるなら、彼女も本望じゃないかな。女性ホルモンを投与し、睾丸 摘出している君なら、性転換しても拒絶しないだろうと思った。だから移植した」 「じゃあ……。あたし、本当の女性になったんですね。それも子供を産む事のできる ……」 「ああ、そうだ。もはや完璧な女性だよ」  それが本当なら、敬の子供を産む事ができる? 自分自身の子供ではないが、父親 が敬ならそれで十分だ。 「しかしこの状態どうにかなりませんか。寝返りが打てないから身体中が痛いんです けど」 「あはは……、我慢我慢。一つの臓器だけならまだしも、腹腔にある臓器のほとんど を移植したんだ。生きているだけでも感謝しなくちゃ」 「そんなにひどかったのですか?」 「もうずたぼろ状態。これが消化器系の腹腔だから助かったが、循環器系の胸腔だっ たら即死だったな」  それから二週間ほど経った。  その間ずっと考え続けてきたのは敬の安否だった。 「ちゃんと逃げ出せたかな……」  自分の方は、敬の「最期の最期まで生きる希望を捨てるな」という言葉を守って?  生きる執念が実って、どうやら危機を脱して生き延びたようだ。しかも念願の性転 換というおまけもついて。  敬が別れ際に言った言葉を思い出した。 「いいか、おまえも最期の最期まで、生きる希望を捨てるなよ。簡単に死ぬんじゃな いぞ、俺が迎えにくるのを信じて、命の炎を絶やすんじゃない」  そう言ったからには、絶対にあたしを見捨てたりはしない。必ず生き延びて迎えに きてくれる。敬は、そういう男だと、信じていたい。  先生が診察に来た。 「よく頑張ったね。もう大丈夫だ、起き上がってもいいよ」  先生に支えられて起き上がりベッドの縁に腰掛ける。 「あの……。あたしのあそこ見せて頂けませんか?」 「やっぱり気になるだろうね。いいだろう、見せてやるよ。今鏡を持ってきてやる」  先生が持って来てくれた手鏡を股間の前にかざして、じっくりと観察した。  いつも見慣れたペニスはすでになく、まさしく女性そのものの外陰部がそこにあっ た。大陰唇・小陰唇、隠れるようにクリトリスと尿道口、そして男性を受け入れる膣 口が開いていた。  ああ……。とうとう女性に生まれ変わったんだ。  それは長い間待ち望んでいた姿だった。自分のためでもあったが、それ以上に敬の ためでもあった。 「傷が見当たりませんが……?」 「ああ、針と糸を使った従来の縫合では醜い痕ができるから、特殊な生体接着シール を使ったからね。ただ急に動いたりすると剥がれて傷が開いてしまう。それもあって 当初君の身体を縛って動けなくしたんだ。もちろん内臓のほうも急な動作は厳禁だっ た」 「そうだったんですか」 「満足してくれたかね」 「はい。もちろんです」 「うん。それでこそ、手術した甲斐があったというものだな」  今まで股間ばかりを映していた鏡に、自分の顔が入った。 「ちょ、ちょっと……。この顔は?」  鏡に自分の顔を映して食い入るように見つめている。 「ああ、言わなかったけ……。顔も少しばかり整形して死んだ女性に似せてあるよ。 喉仏も切削して平らにした。何せ君は組織に狙われている身だ。そのままの顔で外を 出歩いては、生きている事がばれてしまうじゃないか。また命を狙われるに決まって いる。私が精根込めて生き返らせた意味がなくなる」 「それは、そうですけど……あたしの知人にも判らなかったら、困ります」  知人とはもちろん敬のことだ。  愛している敬が、自分が判らなかったら生きていてもしようがない。 「仕方ないな。うまく接触して納得させるんだな」
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2018年12月23日 (日)

銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第一章 IV

 機動戦艦ミネルバ 第一章(日曜劇場)

IV ミネルバ発進!  直ちに発進を開始するミネルバ。 「係留解除」 「浮上開始」 「ミネルバ、発進する」 「ヒペリオン、発射準備完了」 「上空に軌道爆雷多数!」  すかさずフランソワは下礼する。 「待避運動、面舵二十度転進」 「面舵二十度コースターン」 「ヒペリオン、一斉発射して弾幕を張れ」 「敵の揚陸艦を確認」 「戦闘機がこちらへ飛来してきます」 「対空戦闘用意」  次々と命令を続けるフランソワ。  オペレーター達も黙々とそれに答えて命令を実行していた。  スクリーンに明るく明滅する光点が現れた。 「後方に戦艦クラスの揚陸母艦を多数確認」  ふと考えてから、 「敵の揚陸母艦を攻撃します。アーレス発射準備」  と、ミネルバ主砲の発射体制に入った。  アーレスとは、原子レーザー砲のことである。  減衰率の大きい大気圏内において、最も効率的なエネルギー効果を達せられるよう に改良が加えられ、なおかつ連続発射タイミングも通常の三分の一までに短縮されて いる。 「アーレス発射準備」 「超伝導コイルに電力供給開始」 「BEC回路に燃料ペレット充填」 「原子レーザー発振回路限界点に達しました」 「射線軸を合わせる。取り舵、五度回して」 「取り舵、五度」 「軸線、合いました。撃てます」 「アーレス発射!」 「アーレス、発射します」  ミネルバの艦首から、空気を切り裂く凄まじい音響と共に、敵揚陸母艦に一直線に 突き進む原子レーザーのエネルギー。  そして見事に命中して、敵揚陸母艦を撃沈させた。  さらに連続発射で次々と撃沈させていく。  しかし、次から次に現れてはミネルバに向かってくる。 「執拗に向かってくるわね」  ふとため息交じりに漏らすフランソワ。 「向こうも味方が撃沈されて、激怒しているのでしょう。仇討ちのために逃がすもの かと迫ってくるのです」 「でしょうね」  戦闘機群が飛来してくる。 「エネルギーゲージダウン。最充填が必要です」 「面舵一杯、最大戦速で逃げます」 「面舵一杯」 「最大戦速」 「機関出力最大、全速前進」  迫り来る揚陸母艦に対して背を向けるミネルバ。 「艦長。ヒペリオン弾丸が切れかけています」  まだ試験運用段階のために燃料や弾薬などを満載にしてはいなかった。本来弾切れ を起こすことのないヒペリオンも同様である。 「これまでのようですね。戦線の離脱を計ります。高度を下げて海上に着水してくだ さい」 「高度を下げます」 「着水準備」 「これより、水中潜航モードに移行します。潜航士官は交代準備にかかってくださ い」 「潜航士官、交代準備」  水しぶきをあげて海上に着水するミネルバ。 「着水完了」 「潜航準備。総員、潜航士官に交代せよ」  この機動戦艦ミネルバには、士官学校卒業したばかり、もしくは卒業見込みの繰り 上げ者が多数乗艦している。なので未熟者が多く、航空士官と潜航士官とに分かれて それぞれ訓練を続けていた。
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2018年12月22日 (土)

妖奇退魔夜行/蘇我入鹿の怨霊 廿参

 陰陽退魔士・逢坂蘭子/蘇我入鹿の怨霊 其の廿参(土曜劇場)

(廿参)石上直弘  突如、落ち武者の姿をした亡霊が地の底から湧いて出るように出現した。 「課長、気をつけてください。犯人が外法で霊を呼び出しています」 「霊?といわれても、私には見えないぞ」  といいつつ胸元のホルスターから銃を取り出す井上課長。  辺りを見回すが猫一匹見ることはできなかった。 「銃は無駄です!相手は怨霊です」 「どうすりゃいいんだ」 「夜闇を払い、光を降ろす五芒の印!」  暗視の術を唱えると、井上課長の目にも見えるようになった。  おどろおどろしい怨霊の姿にたじろぐ井上課長。  そりゃそうだろう。  怨霊などというものに、普段から接したことなど皆無だから。  お化け屋敷とは違うということである。  と、上着の内側が微かに光っているのが見えた。  内ポケットに入れたお守りが輝いていた。  おもむろに取り出してみる。  するといっそう輝きを増して、襲いかかろうとしていた怨霊を消し去った。 「なるほど……これは良いな」  蘭子が護法を掛けていた効力のようである。  怨霊程度ならお守りでも役に立っている。  それを確認した蘭子は、安心して犯人と対峙できる。 「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前」  怨霊を九字の呪法で消し去りながら、板蓋宮跡の中へと歩みを進める二人。  やがて跡地の中ほどに人影が現れた。 「待っていたよ」  暗がりで佇む人影は、近づくにつれてはっきりと表情を読み取れるようになる。  石上直弘その人だった。 「石上だな!」  井上課長が尋ねる。 「その通り」  続いて蘭子が続く。 「なぜ、罪もない人々を殺(あや)める」 「なぜだと?」 「そうだ。金城聡子をなぜ殺した!」 「足手まといになったからだ」 「足手まといだと?」 「七星剣に封じ込まれた入鹿の怨念を呼び起こすためには、血を吸わせる必要があった のだ。剣を手に入れる助手として、かつ最初の生贄として彼女が必要だった」 「なんてこと……そのために人の命を弄ぶとは」 「妖刀とは血を吸うものじゃないかな?」  妖刀として名高いものに村正が上げられる。  徳川家康の祖父清康と父広忠は、共に家臣の反乱によって殺害され、家康の嫡男信康 も織田信長に謀反を疑われ、死罪と成った際に使われた刀もそれぞれ村正である。 「話がそれたな。おまえら、一人は刑事のようだが、娘の方は……陰陽師か?」 「その通りよ」 「なるほどな。で、どうするつもりだ?」 「その刀、七星剣を返しなさい」 「せっかく手に入れたものを、返せと言われて返す馬鹿はいない」  至極当然な反応である。
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2018年12月21日 (金)

性転換倶楽部/特務捜査官レディー 蘇生手術(R15+指定)

特務捜査官レディー(R15+指定)
(響子そして/サイドストーリー)

(四)蘇生手術  とある部屋、手術台に乗せられ裸状態の薫がいる。数本の輸液の管が腕に刺され、 酸素呼吸装置に繋がれ、何とか自発呼吸を続け生命を取り留めている様子だった。万 が一に備えての人工心肺装置も用意されていた。  薫の開腹手術が始まった。 「こりゃあ、だめだな……」  マシンガンの掃射を受けて内臓はずたずただった。弾丸を摘出したくらいでは修復 は不可能だった。手当は移植しかなかった。実際これだけの弾丸を受けて生きている のが不思議なくらいだ。たった一発の弾丸を受けただけでも、その衝撃で心臓麻痺を 起こして死ぬ事もあるのだ。  生に執着するよほどの執念でもあるのだろうか?  英一郎は、硝子越しに見える隣の部屋のベッドに横たわる患者を見た。  二十歳前後の日本女性で、頭部に弾丸を受けて脳死状態になってすでに十二時間以 上立つ。呼吸中枢はまだ生きていて自発呼吸を続けてはいるが、いずれ完全死を迎え るのは必死だ。治療は不可能だから、このまま臓器を摘出しても構わないのだが、身 体は無傷で心臓も動いている状態では、やはり躊躇してしまう。しかも同じ日本人だ。  ショルダーバックに入っていたパスポートと身分証から、東京在住の薬学部に在学 する女子大生と判明している。観光かなんかでこのニューヨークを訪れていたが、運 悪く事件に巻き込まれてしまったらしい。同じく一緒にいた友人らしき女性は、心臓 を射ち抜かれて即死、すでに臓器を摘出してここにはもういない。  とにかく、このまま放っておいては二人とも死んでしまう。女性の患者は助けられ ないが、男性の方は臓器を移植すれば助かる可能性がある。 「やってみるか……」  本当なら脳をそっくり移植することができれば、身体に一切傷をつけることなく生 き返らせることができるのだが……、頭部に傷は残るが髪で完全に隠れてしまうから 見破られることはないだろう。しかし、自分には脳神経外科の技術を持っていない。 ほんのちょっとの傷をつけたり、ほんの数秒血流が跡絶えただけでも麻痺が残ってし まうデリケートな組織なのだ。傷をつけることなく、血流を跡絶えさせることもなく 移植を完了させることは不可能だ。 「免疫反応はどうかな……」  ここにはヒト白血球抗原(HLA)を調べる設備がなかった。 「例によって簡易検査で済ますか」  二人の肝臓を少し採取して組織をばらばらにし、片側には人体無害の蛍光染料で染 めてから、両組織を混ぜ合せて培養基に移して、しばらく蛍光顕微鏡で観察してみる。  肝臓の細胞は不思議なもので、細胞分裂・増殖の速度が他の組織よりはるかに早く て、顕微鏡下で見ている間にもどんどん増殖していくのが観察できる。それは肝臓が 人間の臓器の中で唯一、細胞内に核を二組持っている理由からだとされている。減数 分裂時の生殖細胞を除けば、通常細胞の核は一組しかないが、なぜか肝臓は二組の細 胞核を持っているのだ。  もう一つ面白い現象がある。細胞同士が隣り合うとその間隙に毛細胆管組織を形成 するように働く。肝臓は毒物などを処理した廃物(胆汁)をその毛細胆管に排出し、 それらの毛細胆管が寄り集まって胆管となり、やがて胆汁分泌器官の胆嚢へと集合進 化していくのである。  増殖しながらも接触する細胞と連携しながら胆管組織を形成していく、二人のそれ ぞれの肝臓組織の動向を観察する。蛍光染料で染められた細胞とそうでない細胞がど う働いているか?  もし拒絶反応があれば、接触した細胞は胆管形成することなく離れていくはずだ。  結果は、二人の細胞は互いに仲良く寄り添うように増殖と胆管形成を繰り返してい た。拒絶反応はまったく見られなかった。 「よしよし、オーライだ。免疫はパスだ」  確率数万分の一というまさしく偶然の一致だった。同じ日本人だからこその結果だ ろう。もし二人の民族が違っていたらまず有り得なかったことだ。 「今、生き返らせてやるからな」  その頃、敬は追っ手を何とか振り切り、一息ついていた。  旅立ちの時に空港での、薫の母との会話を思い出していた。 「じゃあ、敬くん。薫をお願いね。あなただけが頼りなんだから」 「まかしておいてください」  申し訳ない気持ちで一杯だった。薫を守る事もできず、その場に残したまま逃げ回 っている。男として情けなかった。 「ちきしょう! せめて薫の仇を討たねば済まさないからな」  よろよろと歩きながら、夜の闇にかき消えるように姿が見えなくなった。
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2018年12月20日 (木)

性転換倶楽部/響子そして ロミオとジュリエット

響子そして(覚醒剤に翻弄される少年の物語)R15+指定
この物語には、覚醒剤・暴力団・売春などの虐待シーンが登場します

(四)ロミオとジュリエット  芸術の秋。  少年刑務所内において、毎年春と秋に行われる恒例の慰問会が開催されることにな った。各種イベントや出店などが目白押しだ。  実行委員長は、所内の顔である明人だ。  わたしは明人に頼んで、その演目に舞台劇「ロミオとジュリエット」を入れてもら った。演劇が好きだったのでどうしてもやりたかったのである。  もちろん、ジュリエットはわたしが演じる。劇団に所属し娼婦役を演じていたので、 容易いことであった。問題は監督をはじめとする他の役者や道具係りを集めることだ が、演劇好きな少年達を探し出して、わたしがお願いすれば、みんな快く参加してく れた。にわか劇団の誕生だ。  舞台衣装は、作業所の縫製科で職業訓練をしている少年達に依頼して製作してもら った。もちろんわたしもそれに入って裁断やミシン掛けして手伝った。演じる舞台や 小道具は、木工作業所の少年達。舞台背景は美術科、  慰問会に際しては、看守側も通常の作業時間を減らして、劇団の練習や必要備品製 作のための時間を作ってくれた。  慰問会の日が迫り、所内では調達できない、照明器具や音響機器、特殊美術に必要 な器材を、明人が特別許可を得て外部から搬入された。  やがて所内の一角に舞台作りがはじまる。大工や鳶の職業を受けている少年が、組 み上げていく。人手が足りないので、劇団員以外の少年達も声を掛けて手伝ってもら う。断る少年はいない。怪我したら大変と、ねじ釘一本持たせてもらえない。わたし は傍で、組み上がっていくのを眺めているだけで済んでいた。  舞台稽古は一日しかない。当日の所内作業を休ませてもらって、朝から舞台衣装を 着込んでの稽古。  やがて本番の日が来た。  わたしは貴婦人の着るドレスで着飾り、ジュリエットを完璧に演じた。  ステージの真ん中でスポットライトを浴び、先に死んでしまったロミオの後を追っ て、毒薬を飲んで自殺する演技を披露する。 「おお! ロミオ、ロミオ。わたしを残してどうして先に死んでしまわれたの? い っそわたしも……。ここに、まだ毒薬が残っているわ。これを飲んで、あなたの元へ まいります……」  クライマックス、精一杯の声量を会場に響かせて、死への道を高らかに演じて死ん でいく。そしてエンド。  割れんばかりの拍手喝采だった。  アンコールのステージに立ち、スポットライトを浴びるわたし。  わたしはまさしくヒロインだった。演劇を続けてきた甲斐があった。  こうして悲劇「ロミオとジュリエット」は、大成功した。
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2018年12月19日 (水)

性転換倶楽部/特務捜査官レディー 逃亡(R15+指定)

特務捜査官レディー(R15+指定)
(響子そして/サイドストーリー)

(四)逃亡  宿舎を目前にした所で、急に敬が立ち止まった。  険しい目つきになり宿舎前に停車している車を凝視している。  野生の勘が立ち止まらせたようだ。 「どうしたの? 立ち止まって」 「逃げるぞ」 「え! なんで?」  だが、次の瞬間銃声がしたかと思うと、二人のすぐそばに着弾した。 「撃ってきた! あたし達を狙っているの?」 「そういうことだ。どうやら俺達は、局長にはめられたんだ」 「どういうこと?」 「ニューヨーク市警研修は口実だ。俺達を日本から遠く離れたニューヨークの地で抹 殺するのが目的だったんだ」 「そんな……」 「日本では何かと警察官の不祥事続きで風当たりが強いからな。こっちでならどのよ うな風にでも事件をでっち上げられると思ったのだろう。適当に死亡報告書が提出さ れて日本に遺体で帰るという算段だろう」 「ひどい!」 「とにかく逃げるが先だ」  角を曲がった時だった。目の前に銃を構えた追っ手が立ちふさがっていた。  だが、敬の反応の方が早かった。間髪入れずに回し蹴りを食らわすと、どうっとば かりに相手は地面に突っ伏した。 「ふん! 日本の警察官を甘く見るなよ」  その懐から落ちた手帳を拾い上げる薫。 「見て、敬!」 「なんだ」 「こいつ警察官よ」 「ほんとうか!」 「ほら、警察手帳」  といって懐からこぼれ落ちた手帳を開いて見せた。 「そういうことか……、市警本部長もグルだったんだ」 「そんなあ、警察が相手だったら逃げきれないわ」 「ああ、空港に張り込まれたら、国外脱出もできない。袋のねずみだ」 「せめてニューヨークからでも離れないとだめね」 「とにかくこいつは貰っておこう」  拳銃を拾い上げる敬。 「シグ・ザウエルP226か……。警察官というのは本当みたいだ」  P226は、スイスのシグ社とドイツの子会社ザウエルが製造している、FBIや CIA及び各警察署のご用達の拳銃だった。全長196mm・重量845g・口径9mmx19・装 弾数15+1発だ。日本の陸上自衛隊も使用しているP220(9mm拳銃)の性能を向上 させ、マガジンをダブルカアラム化して装弾数を増加させたものだ。 シグザウエルP226  銃を手にした敬は、立ちふさがる刺客を次々に撃ち倒しながら、ついでに倒した相 手の銃の補充を繰り返しながら逃げ回っていた。 「敬、射撃の腕、上がったね」 「命が掛かっているからね。火事場の何とやらだ。それに図体がでかいから当てやす いしな」  とにかく相手は警察だ。  赴任してきたばかりで、まるで知らないニューヨーク。身を寄せる場所も隠れ場所 もなかった。  やがて事態は深刻になってきた。 「奴等、拳銃じゃ埒があかないと、マシンガン持ち出してきやがった」 「敬……ちょっと待って……」  薫が立ち止まった。息があがり苦しそうだ。  まずいな……。薫は体力的に限界だ。これ以上走れそうになかった。  こうなったら俺が囮となって奴等を引き付けて、その隙きに逃げださせるしかない。 「薫、いいか。おまえはここでうずくまって隠れているんだぞ、いいな」 「敬は、どうするの?」 「俺が奴等を引き付ける。そして銃声が遠ざかっていったら、おりをみてここから逃 げ出してニューヨークを離れろ」 「いやだよ。あたしは、ずっと敬と一緒にいるんだから。誓い合ったじゃない」 「今はそんなことを言って……」 「危ない!」  薫が急に立ち上がって、俺の背後に回った。  マシンガンが掃射される。  敬はすかさず拳銃で相手を倒した。 「た、たかし……」  薫が、か細い声を出し、地面に崩れ落ちた。 「か、薫!」  その腹部に無数の弾痕と血が吹き出していた。 「う、撃たれちゃった。ごめんなさい、あたしはもうだめだわ。あたしを置いて、敬 一人で逃げて」 「馬鹿野郎、おまえを放っておけるわけがないだろう。俺達はどこまでも一緒だろ」 「ふふ……。それさっきあたしが言った言葉。でも、あたしは助かりっこない。自分 でもわかる」 「おまえを置いてはいけない」  敬は薫を抱きかかえるとゆっくりと歩きだした。敬とて疲れ切っていた。それを薫 を抱いていくとなると余計に負担がかかる。腕が痺れ足が棒のように固くなった。 「最後のお願いよ。あたしを愛しているのなら、生き抜いて頂戴。生きて生き抜いて、 あたしの分まで長生きして欲しいの。だから、あたしを置いて、一人で逃げてお願 い」 「そんなこと……できるわけ……ないよ。愛してるからこそ、死ぬ時は一緒だよ… …」 「そんな哀しい事言わないで。もういいの。こんなあたしと、今日までずっと一緒に いてくれてありがとう」  再び足音が近づいてきた。 「ちきしょう。しつこい奴等だ」 「敬、はやく逃げて。あたしを愛してるのなら、逃げて生き残って」 「……。判ったよ」  そっと薫を地面に寝かせつける敬。 「いいか、おまえも最期の最期まで、生きる希望を捨てるなよ。簡単に死ぬんじゃな いぞ、俺が迎えにくるのを信じて、命の炎を絶やすんじゃない」 「判ったわ、待ってる」 「それじゃあ、行くよ」 「ええ、頑張って」  立ち上がり、駆け出す敬。  その後ろ姿を見つめる薫。 「必ず、生きぬいて……」  やがてゆっくりと目を閉じて動かなくなった。  そのそばに駆け寄る抹殺者達。 「死んでるな。こいつは放っておいて男を追うぞ」  一目見て判断し、敬を追い掛ける。  静寂を取り戻した路地裏。  横たわる薫に近づく人影があった。屈みこみ、薫の頸部に指を当てている。 「まだ、脈があるな。助かるかも知れない」  そう言うと、薫を抱きかかえて運び、乗ってきた車に乗せていずこへと走り去って しまった。
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2018年12月18日 (火)

性転換倶楽部/響子そして 愛する明人

響子そして(覚醒剤に翻弄される少年の物語)R15+指定
この物語には、覚醒剤・暴力団・売春などの虐待シーンが登場します

(三)愛する明人  遠藤明人。  わたしのいる宿房の長だった。  暴力団の組長の息子だった。その身分と、毎日のように届けられる差し入れによっ て宿房はおろか、少年刑務所全体の顔となった。その経歴は、五歳の時に、寝ていた 母親を撲殺したのを皮切りに、数えきれない人々を殺傷し続けた根っからの悪玉だっ た。  看守でさえ一目おいている。  いつのまにかわたしは明人のお気に入りとなっていた。明人はわたしをいつでも抱 ける優先権を獲得し、わたしを情婦のように扱った。わたしを独占したがったのだが、 少年達の相手ができるのは、わたし一人しかいない。もてあます性欲のはけ口として、 わたしは必要不可欠な存在になっている。それを取り上げてしまったら、反逆・暴動 に発展するのは確実。所内での顔を維持するにも寛容も必要だった。しかたなく、他 の少年達の相手をするのを黙認した。  それまでのわたしの役目は、新しく入所した新参者に移った。  毎晩のようにその新参者が襲われるのを黙って見ているだけのわたし。  それが彼の運命なのだ。だれも止めることはできない。  新参者は屈辱に必死に耐えている。 「馬鹿ねえ。あきらめて、女になっちゃえば楽になるのに」  わたしは心で思ったが、最初の頃は自分も抵抗していたものだ。  しかし当の本人にしてみればそう簡単に心を切り替えることなどできないのだ。  そのうちに興奮してきた明人が、わたしの肩に手を回し唇を奪う。そしてそのまま 押し倒されてしまう。 「咥えてくれ」 「ええ、わかったわ。明人」  言われるままに、その張り裂けんばかりになっているものを咥えて、舌で愛撫する。 やがてわたしの口の中に、その熱いものを勢いよくぶちまける。わたしは、ごくりと それを飲み込む。 「尻を出せ」 「はい」  わたしの心はすっかり女になりきっていた。なんのてらいもなく、四つんばいにな って明人を迎え入れている。  次第に明人に心惹かれていく自分がいた。  ある日のこと、明人がシートパックされた錠剤を手渡して言った。 「これを飲むんだ。毎食後にな」 「なに、これ?」 「女性ホルモンだよ。いつも差し入れをする奴に、持ってこさせた」 「女性ホルモン?」 「そうだ。毎日飲んでいれば、胸が膨らんでくるし、身体にも脂肪がついて丸くなっ てくる」 「わたしに女になれというの?」 「完全な女にはなれないが、より近づく事はできる。頼む、飲んでくれないか」 「明人がどうしてもって言うなら飲んでもいいけど……」 「どうしてもだ」 「わかったわ。明人のためなら、何でも言う事聞いてあげるわ」  わたしは思春期真っ最中の十代だ。  女性ホルモンの効果は絶大だった。  飲みはじめて一週間で乳首が痛く固くなってきた。  胸がみるみるうちに膨らんできた。  二ヶ月でAカップになり、半年でCカップの豊かな乳房が出来上がった。  その乳房を明人に弄ばれる。  全身がしびれるような感覚におそわれ、ついあえぎ声を出してしまう。 「あ、あん。あん」  乳房やまめ粒のような乳首に、性感体が集中していた。  脂肪が沈着し、白くきれいな柔肌になっている全身にも性感体が広がっている。  成長途上にあった男性器は小さいままで、睾丸はどんどん萎縮しており、もはやそ の機能は失っていた。髭や脛毛なども生えてはこなかった。  声帯の発達も、ボーイソプラノから、きれいなソプラノを出せる女性の声帯に変わ りつつあった。もちろん喉仏はない。  看守は、わたしの身体の変化に気がついていたが、だれも注意すらしなかった。  明人の父親の組織の力が働いているようだった。女性ホルモン剤の差し入れがすん なり通っているのもそのせいだろう。
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2018年12月17日 (月)

性転換倶楽部/特務捜査官レディー ニューヨーク散策(R15+指定)

特務捜査官レディー(R15+指定)
(響子そして/サイドストーリー)

(三)ニューヨーク散策  それから数時間後、署内の挨拶まわりを済ませて外へ出てくる二人。 「さて、日も高いし、ニューヨーク観光といきましょうか」 「俺は宿舎で眠りたいね」 「何よお、新妻を放っておくつもりなの?」 「おいおい。新婚旅行に来たんじゃないんだぞ」 「いいじゃない。二人きりの時くらい、新婚気分でいたって。警察官舎だって夫婦の 部屋だって言ってたじゃない」  といいつつ敬に擦り寄ってくる薫。 「ちぇっ。好きに考えてろ」 「うん。好きに考える」  というわけで、仲良く腕を組んで新婚気分でニューヨーク観光に出歩く二人だった。  意外にもニューヨーク市警のミニパトは、一人乗りがやっとの小型のオート三輪車 だった。NYPD POLICEの文字と市警マークとがブルーカラーの車体にペイ ントされている。 「あ! 信号無視したわ」 「おいおい。嘘だろ」  何と警察官の乗るミニパトが、目の前で信号無視して走り去ってしまったのである。 通行人もそれが日常茶飯事な行為みたいに平然としている。  ニューヨークのトイレ事情も最悪である。どの観光ガイドにも書いてあるが、探し て見つかるものでないことが、現地に行った人の異口同音である。  また公衆トイレは安全対策上使わない方が無難だ。悪餓鬼に入り口を塞がれて他の 人間が入れないようにして、中で何があっても助けにきてくれない状態となる。金を 奪われるくらいならまだいいが、女性だったらやりたい方だい輪姦されてしまう。白 昼堂々とそれが行われる。だからガードマン付きのトイレがあったりして、申し出れ ば鍵を開けてくれるところもある。だがそのガードマンが襲ってきたらどうしようも ない。鍵はガードマンが持っているから完全な密室状態となる。  地下鉄は、どこまで乗っても1.5$だ。日本のように区間運賃というものがない。 以前は恐い汚いというイメージがつきまとっていたが、最近は治安改善の努力がなさ れてかなり健全になってきている。たまに空き缶を振って「Give me help」とか言っ て寄ってくる奴もいるが無視するに越した事はない。  バスも1.5$でどこまでも行ける。ただしマンハッタンは一方通行が多いので、 行きと帰りではバスストップの場所が違うので要注意。  タクシーに乗るなら、ニューヨーク市公認の車体を黄色に塗ったイエロー・キャブ に乗る事。チップは料金の10から15%、これが1$に満たない時は1$支払う。 ただし、出稼ぎの運転手も多く、ホテルなどの名前だけでは通じない事も多いから住 所は把握しておくことが肝心だ。  日が暮れはじめた。 「そろそろ宿舎に戻るとするか」 「そうね。本当はマンハッタンの夜景も見たい気もするけど……」 「んなもん。いつだって見られるだろう。俺はもう眠たいの! どうしても見たいと いうのなら一人で見るんだな」 「あのね、ニューヨークの夜の一人歩きがどれだけ危険か知ってるくせに……。判っ たわよ。戻るわよ。一人で見たってちっとも面白くないだろうし」 「どうせマンハッタンの夜景見るなら、どこかホテルの展望レストランかなんかで、 ドレスアップしてディナーしながら優雅に眺めたいよ」 「あ! それいい。いつにする?」 「こっちでの最初の給料が出たら」 「判った。約束だよ。ホテルでディナー」
ニューヨーク概況、運賃などは執筆当時です。
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2018年12月16日 (日)

銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第一章 III

 機動戦艦ミネルバ 第一章

 III 機動戦艦ミネルバ  ケースン研究所内にある造船工場。  機動戦艦ミネルバが係留され、発進の刻を待っていた。  そのミネルバ艦橋。  副長のリチャード・ベンソン中尉は苛立ちを隠せない表情であった。 「艦長からの連絡は?」 「ジャミングがひどくて通信困難」 「シャトル搭載の通信機の出力は小さいからな」 「上空軌道を探査衛星が通過します」 「やばいな……」 「探査信号、艦体を透過」 「上空軌道の艦隊。軌道爆雷投下ポイントに移動開始」 「見つかったな」 「投下ポイント到達まで二分三十五秒」 「仕方がない。艦長はいないが……発進準備にかかれ」 「ちょっと待ってください。三時の方向より味方信号接近中です」 「スコット・リンドバーグのシャトルです。着艦許可を申請しています」 「艦長はおられるのか?」 「はい。おられるそうです」 「わかった。メインゲートへ誘導してやれ」 「了解!」 「リンドバーグ機、着艦を許可する。メインゲートより進入せよ」 『了解。メインゲートより進入する』  メインゲートには、艦橋へ直行できる高速エレベーターがある。  メインゲートに滑り込んでくるシャトル。  ただちにタラップがかけられて、フランソワが降りて来る。  艦内放送が告げている。 『敵艦隊、機動爆雷投下ポイントまで三十秒』 「ご覧のとおりです。ただちに艦橋へ」 「艦橋は?」 「艦長。こちらです」  高速エレベーターの前に案内されるフランソワ。  艦橋。  エレベーターの扉が開いてフランソワが姿を現した。 「艦長!」  一斉に振り向き、敬礼をする艦橋勤務の士官達。 「敵艦隊、投下ポイントに到達」 「時間がありません。発進準備は?」 「完了しています」 「では、ただちに発進してください。ヒペリオンの各要員は配置について」 「すでに配置を完了しています。ミネルバ発進します」  ヒペリオンは、その主要構造はレールガン(電磁飛翔体加速装置)であり、電位差 のある二本の伝導体製のレール間に、電流を通す伝導体を弾体として挿み、この弾体 上の電流とレールの電流に発生する磁場の相互作用(ローレンツ力)によって、弾体 を加速・発射する物でハイパーベロシティガンともいう。この際、伝導体は流す電流 の量によっては、電気抵抗により蒸発・プラズマ化してしまう事もあるが、プラズマ であっても伝導体として機能しローレンツ力が働くため、弾体自身は電流を全く通さ ない樹脂などの非伝導体で作り、弾体後部に導体を貼り付ける様式が一般的となって いる。理論上では、レールガンが打ち出す弾体の最大速度に限界はない。相対論的制 約で光速度が上限となるのみである。発射速度は入力した電流の量に正比例するため、 任意の発射速度を得るために、任意の電流を入力してやればよいだけであるが、実際 は摩擦や損失が生じるために理論通りにはいかない。  概ね、ローレンツ力と各種の摩擦や損失がつりあう速度が最大速度となる。  現実問題としてはヒペリオンにおける初速19.2km/s が現時点での最大射出速度の 記録となっている。  さらにヒペリオンの場合は、CIWS(近接防御武器システム)の一環として改良 が加えられ、毎分2,000発もの連続発射が可能となっている。  砲弾には炸薬も推進剤もないために誘爆の危険もなく大量安価に搭載できるために、 弾切れを起こすことはほとんどない。もちろん開発者はフリード・ケイスン科学技術 士官であることは言うまでもないだろう。
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2018年12月15日 (土)

妖奇退魔夜行/蘇我入鹿の怨霊 其の廿弐

 陰陽退魔士・逢坂蘭子/蘇我入鹿の怨霊 其の廿弐

(廿弐)飛鳥板蓋宮跡へ 「遅かったか……」  蘭子と井上課長が到着したのは、五分後のことであった。 「いえ、まだ反応はありますよ。追いかけましょう」  現場警察官が留めようとするので、 「任務遂行中だ!}  警察手帳を見せて先を急ぐ。  警視という階級を確認して、直立不動になって敬礼する警察官。  ヒラの巡査にとって、キャリア組の警視という階級は雲の上の存在。  布都御魂の導きに従って、犯人を追跡する二人。 「どうやら飛鳥板蓋宮跡へ向かっているようです」 「入鹿が暗殺されたという現場か?」 「怨念が封じ込まれた剣と、怨念が自縛霊となっている場所。相乗効果がありそうです ね」 「のんきな事を言っている場合か。昼間行った時には何事もなかったよな」 「時刻が問題なんです。鬼門の開く丑三つ時……」 「なるほどね。相手は時間と場所を選んだというわけか」  その後しばらく無言で走り続ける二人。  数分後、飛鳥板蓋宮跡の入り口へと到着する。  井上課長は胸元の拳銃、SIG SAUER P230 を取り出しマニュアルセーフティーを解除 して、いつでも発砲できるようにして再びホルスターに戻した。  発砲といっても、米国のように無条件で撃てるのではなく、正当防衛かつ緊急事態に のみ発砲が許されている。例えば、犯人が蘭子に襲い掛かり正に刀を振り下ろそうとし た瞬間とかである。  慎重に跡地内へと入っていく二人。  周囲に照明となるものがないために、ほとんど暗闇状態で星明りだけが頼りだった。 それでも暗順応とよばれる視力回復が働く。  陰陽師として深夜半に行動することが多い蘭子は、霊を見透かす霊視に加えて、周囲 の状況を見ることのできる暗視能力にも長けていた。  暗順応:  角膜、水晶体、硝子体を通過した光は、網膜にある視細胞で化学反応を経て電気信号 に変換される。視細胞には、明暗のみに反応する約1億2000万個の桿体細胞と、概ね3種 とされる色彩(波長)に反応する約600万個の錐体細胞がある。光量が多い環境では主 として錐体細胞の作用が卓越し、逆に光量が少ない環境では、桿体の作用が卓越する。 夜間などに色の識別が困難になり明暗のみに見えるのは、反応する桿体の特性である。 桿体、錐体ともに一度化学反応をすると、再び反応可能な状態に復帰するまでにはある 程度の時間が必要である。視界中の光量が急減した場合に一時的に視覚が減退するのは、 明所視中において桿体細胞内のロドプシンのほとんどが分解消費してしまっており、桿 体細胞が速やかな反応のできない状態になっているからである。暗い環境の中で時間が 経過すると、ロドプシンが合成されて桿体細胞が再び反応できるようになり、視覚が働 くようになる。 明順応に対し、暗順応に時間がかかるのは、ロドプシン合成の方がロ ドプシン分解に比べて長い時間を要するためである。wikipediaより
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2018年12月14日 (金)

性転換倶楽部/響子そして 松年刑務所(R15+指定)

響子そして(覚醒剤に翻弄される少年の物語)R15+指定
この物語には、覚醒剤・暴力団・売春などの虐待シーンが登場します

(三)少年刑務所  事件が露見し、わたしは少年刑務所に収容された。  一年近くを独居房で暮らし、更生指導が行われた。  やがて、多種多様の犯罪を犯した少年達と一緒の宿房に入れられた。  雑居房の生活は悲惨なものとなった。  新参者に対する陰湿ないじめが横行した。  食事を横取りされたり、暴力を受けたり、看守に気づかれないようにそれは行われ た。  ある夜のことだった。  消灯の時間になって、横になっているとまわりがざわついている。  忍び寄る気配。 「な、なに?」  いきなり大勢の人間に組み敷かれた。  口の中にタオルを強引に詰め込まれた。声が出せないようにして、看守に気づかれ ないようにである。 「おい、しっかり押さえておけよ」  尻を持ち上げられ、硬いものが当たった。  次の瞬間、肛門に激痛が走った。 「ううっ……」  相手が前後運動を繰り返す度に、ぎりぎりと挽千切られるような痛みが走る。  やがて相手の動きが激しくなりうめき声をあげたかと思うと、わたしの中に熱いも のがどうっと勢いよく流れ込んできた。  すべてのものを放出して満足した相手は、ゆっくりとそれを引き抜いていく。わた しの太股を、ねっとりしたもが伝わり落ちた。暗くて判らないが、相手の精液とわた しの血液とが混じっているに違いない。  すぐさま次の相手が馬乗りになって同様の行為をはじめた。  その日以来、毎晩のように犯された。相手は毎回入れ代わった。しかも一晩に数人 の相手をさせられた。  わたしは、男しかいない宿房で、少年達の慰みものにされてしまったのである。  どうせ抵抗できないのだ。わたしは自ら進んで身体を提供するようになった。  フェラチオもしてあげた。数をこなす内に上手になり、不潔なバックよりフェラチ オを望む少年が多くなった。  やがて少年達の態度が変わった。  やさしくなったのだ。いじめられる事がなくなり、食事もちゃんと取れるようにな った。それまでは一晩で数人の相手をさせられていたのが、わたしの健康を気遣って 一晩に一人という約束ごとが決められ、順番待ちをするようになっていた。  少年達もそうであるが、実はわたし自身にも変化が起きていた。  感じるようになっていたのである。自分でも信じられなかったが、バックで突つか れるたびに、あえぎの声を上げるようになっていた。  わたしのあえぎの声を聞いて、少年達はさらに興奮していく。そしてありったけの ものを、わたしの中に放出して果てていく。  時々チョコレートなどの嗜好品が、外部から差し入れされることがあるが、おすそ 分けに預かれるようになった。それにはもちろん代償行為として、夜の相手をするこ とを意味した。  外部から遮断され行き場のない少年達のほとんどが、性欲をもてあそんでいた。溜 まったものは出さねばならない。たまりにたまって限界に達っし、夢精してしまうこ ともある。そんな恥ずかしいところを見られる前に、各自隠れた場所で処理している。  わたしのいる宿房では、おとなしく待っていれば順番が回ってくる。自分の手で慰 めるよりはるかに気持ちが良いので、ちゃんとその日を指折りながら待っている。  それでも順番を待ちきれなくなる少年達。 「なあ、頼むよ。もう限界なんだ」 「いいわよ。やってあげるわ」  いつしかわたしは女言葉を使うようになっていた。少年達もそれを受け止めて、わ たしを女としてやさしく扱うようになっていた。  いそいそとズボンのファスナーを降ろす少年。ぎんぎんにそそり立って暴発しそう なそれを咥えて、やさしく愛撫してあげる。その根元や袋・タマにもやさしく刺激を 与えてやると、感極まってどうっとわたしの口の中に放出する。 「ありがとう。借りはちゃんと返すから」  ファスナーを上げながら、ウィンクをする少年。  少年刑務所だから、当然所内作業がある。  わたしが重いものを持っていると、 「重いだろ、持ってやるよ。君はこっちの軽いやつにしなよ」  といって代わってくれる。先程フェラチオしてあげた少年だ。全然仕事しないわけ にはいかないから、より軽作業になるようにしてくれる。 「ありがとう」  わたしが精一杯の微笑みを浮かべてお礼を言うと、 「いやあ、当然だよ。きつかったら、いつでも代わってあげるから」  顔を赤く染めて照れていた。  同室の宿房の少年だけでなく、所内の全員がやさしく対応してくれていた。  わたしが女として相手していることは、所内のほとんどの少年に知れ渡っていたか らだ。そういった行為の背後には下心がある。  チョコレートを手渡しながら、わたしに囁く。 「なあ、いいだろ?」 「ええ、いいわよ。でも、どこでするの?」  するとほんとうに嬉しそうな表情になって、その秘密の場所に連れて行ってくれる。 「ここでいいの?」  相手は溜りに溜まっているので、その股間は弾きれんばかりに膨らんでいる。待ち きれないようにズホンを降ろすと襲いかかってくる。わたしのズボンを剥ぎとりパン ツを脱がすと背後からいきなり入ってくる。  たいがいの少年はものの二三分で果ててしまう。わたしとしてはもっと楽しませて ほしいと思ったりするが、少年刑務所の中であり、いつ見つかるかもしれない。時間 との勝負なのだ。  男の感覚というものは単純だ。射精すれば誰でも快感があるが、それをわたしの中 に放出すればしびれるような感覚がたまらないといった表情になる。相手は、オナニ ーでは得られない感覚に酔いしれて満足するのだ。  一度関係すると、わたしの虜となった。
 少年刑務所というと、未成年の受刑者が対象だと思われているが、実は少年よりも 高齢者の方が多い。佐賀少年刑務所において88歳の受刑者が病気で死亡したという 例があるとおり、凶悪犯でないかぎり少年は少年院に入れられるのが通常である。  法務省によると、2016年の少年刑務所の入所者数は2609人。20歳未満は12人だけ。
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2018年12月13日 (木)

性転換倶楽部/特務捜査官レディー ニューヨーク市警(R15+指定)

特務捜査官レディー(改題しました)
(響子そして/サイドストーリー)

(二)ニューヨーク市警  そして旅立ちの日。  薫の母が空港ロビーまで見送りに来ていた。 「そうやって二人で一緒にいるところを見ると、まるで新婚旅行に出かけるカップル みたいね」 「あはは、やっぱりそう見えます? 実は俺もそう思ってたんですよ」 「何言ってんのよ。もう……」  思わず赤くなる薫だった。 「おまえが本当の女の子だったら、敬くんとそういうことになっていたと思ってるん だけどね」 「お母さん。それは言わない約束でしょ」 「研修で行くのが目的じゃなくて、本当は性転換手術目的だったりしてね」 「え? 薫、そうなのか? 日本じゃほとんど絶望的だから」 「そんなはずないじゃないの。馬鹿」 「でも一応言っておくわ。わたしは、性転換することには反対しないから、もしその 気になったら遠慮しないでね」 「うん。わかった……」  やがて搭乗手続き開始のアナウンスが聞こえた。 「じゃあ、敬くん。薫をお願いね。あなただけが頼りなんだから」 「まかしておいてください」  薫の母に見送られながら搭乗ゲートを向かう二人だった。  およそ九時間の長丁場の末に、ニューヨークのケネディー空港に到着。  こちらのことは、すべてニューヨーク市警が手筈を整えているはずである。  とにかく市警本部へと向かうことにする。  ニューヨーク市警本部。  本部長オフィスに、研修の挨拶をする二人。  恰幅の良い中年の本部長と面会する。 『よく来てくれたね。長旅で疲れただろうし時差もある。今日明日はゆっくり休んで、 時差を克服し体調を整えてくれたまえ』  満面の笑顔だった。 『ありがとうございます』 『捜査にはかなりの腕前と聞いているよ。その手腕を発揮してニューヨーク市警にお いても、犯罪撲滅に協力してくれたまえ』 『恐れ入ります』 『それじゃあ、勤務は明後日ということで頼むよ』 『はい、判りました』 『君達の生活の場となる宿は、警察官舎の夫婦寮を宛がっておいた』 『夫婦寮ですか?』  思わず見合わせる二人。 『君達は恋仲と言うじゃないか、別に不都合はないだろう。独身寮の空きが少なくて ね、丁度夫婦寮が開いていたので、そうさせてもらったよ』 『ですが、私たちは……』 『いや、皆まで言わなくても判っている。佐伯君は男性だけど、性同一性障害者なん だってね。それで女性の姿でいると……。あ、いや。恐縮しなくてもいいよ。日本じ ゃどうだか知らないが、アメリカではそういった人々に対する理解度は高いからね。 ある州では同性でも結婚を認めているくらいだから。当警察署では君を女性として扱 うことにしているから』 『本当ですか?ありがとうございます。感謝します』  薫が目を爛々として輝かせている。  日本では、性同一性障害ということはある程度認められつつあるが、実際にはまだ はじまったばかりというところだ。
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2018年12月12日 (水)

性転換倶楽部/響子そして 覚醒剤(R15+指定)

響子そして(覚醒剤に翻弄される少年の物語)R15+指定
この物語には、覚醒剤・暴力団・売春などの虐待シーンが登場します

(二)覚醒剤  離婚調停が成立し、わたしは資産家の祖父を持つ母親に引き取られる事になった。  自宅は、祖父が建ててくれたものである。当然、母親はそのまま自宅に住み、父親 は愛人の元に去って行った。  母子家庭になったとはいえ、祖父の資産で裕福な生活を続けられた。父親がいない のを可哀想に思い、以前にも増してやさしくなった母親の下で、それなりに幸せな家 庭を築いていた。  その後、母親にはいろんな男が言い寄ってきた。祖父の資産が目的なことは明らか であったので、母親は突っぱねていた。息子であるわたしに対してもやさしく近づい て来る者も多かったが、当然わたしだって御免こうむる。  しかし、ついに母親はある男の手中に落ちた。  母親は、その男に夢中になった。  男を家に迎え入れ、毎夜を共にするようになった。  わたしは、財産目当てのその男を毛嫌いし、母親に早く別れた方がいいと言った。  懇願した。  しかしいくら懇願しても、母親は言う事を聞かなかった。  やがて男は、水を得たように散財をはじめた。祖父から譲り受けた資産を食い潰し ていった。それでも母親は、別れたがらなかった。  貞操だった母親がこうも変わるはずがない。  不審に思ったわたしは、小遣いをはたいて興信所を使って、男の素性を調べはじめ た。  男は暴力団に所属している覚醒剤の売人だった。  母親が離婚訴訟で四苦八苦している時に接近し、 「この薬を飲めば疲れが取れますよ」  と騙して覚醒剤を渡し、言葉巧みに母親を術中に陥れたのである。  覚醒剤の虜となった母親は、その男のいいなりになった。  ある夜。母親の寝室に忍び込んだ。 「さあ、今夜も射ってあげようね」  覚醒剤を母親の白い腕に注射する男。まるでそれを待っていたかのように母親の表 情が明るくなった。 「ああ……」  覚醒剤を打たれた母親は、やがて虚ろな眼差しになり、 「あなた……愛しているわ。抱いて」  と、男にすがりつくように抱きついた。  貞操を守り続けてきたはずの母親の変貌ぶりが信じられなかった。  その身体に男が重なっていく。  その柔肌を男の手が蛇のように撫で回していく。  ふくよかな乳房を弄ばれ、女の一番感じる部分に触られる度に、歓喜の声を上げる 母親。 「お願い、入れて。せつないの、早く」 「なにをしてほしいんだ」 「あなたのアレをわたしに入れて」 「アレとはなにかな」 「お・ち・ん・ち・んよ。お願いじらさないで……」 「もう一度言ってみな」 「あなたのおちんちんをわたしのあそこに入れて」 「そうか……入れて欲しいか」 「お願い、早く入れて」  わたしは、淫売婦のように男の言いなりになっている母親の姿をこれ以上黙って見 ていられなかった。たまらなかった。  気がついたら、わたしは近くにあった電気スタンドを手に握り締め、ベッドの上の 男を襲っていた。  ベッドの白いシーツが、男の鮮血で染まった。  裸の母親の身体にも血が飛び散る。  それでも構わず、男の頭を何度も何度も電気スタンドで殴りつける。  男はベッドから、どうっと落ちて床に倒れ動かなくなった。  はあ、はあと肩で息をし、母親の方を見る。  自分の愛する男が、目の前で殺戮されたのに、少しも動揺していなかった。  やがて母親は擦り寄ってきて、あまい声で囁くようにねだった。 「抱いて……入れて、はやく。もう我慢できないの」  両腕をわたしの背中に廻すように抱きついてくる母親。  完全な覚醒剤中毒症状だ。  意識が弾き跳んでしまって、愛人と自分の息子との区別すらできなくなっていた。 男に抱かれて、ただ愛欲をむさぼるだけのメス馬に成り下がっていた。  こんな惨めな母親の姿は見ていられなかった。  わたしは、その白くて細い首に手を掛け、力を入れた。 「く、くるしい……。ひ、ひろし」  首を絞められて息が詰まり、正気を取り戻してわたしの名を呼ぶ母親。  しかし、わたしは力を緩めなかった。  わたしの腕を振り解こうとする母親のか細い腕にあざとなった数々の注射痕が痛々 しい。  涙で目が霞む。 「ご・め・ん・ね……」  母が、かすれながらも最後の力を振り絞って声を出していた。  それが母親の最後の言葉だった。  死ぬ寸前になって、自分のこれまでの行為を息子のわたしに詫びたのだった。  母親は、息絶えベッドに倒れた。  わたしの目に涙が溢れて止まらなかった。
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2018年12月11日 (火)

性転換倶楽部/特務捜査官レディー 序章(R15+指定)

特務捜査官レディー(R15+指定)
(響子そして/サイドストーリー)

序章  厚生省麻薬取締部と警察庁生活安全局、そして財務省税関とが合同して、警察庁の 内部に特別に設立された特務捜査課の二人。麻薬と銃器密売や売春組織を取り締まる エージェント。  それが沢渡敬と斎藤真樹だ。  つい先日磯部健児の件をやっとこさ決着させて一安心の敬と真樹。  二人が捜査に手をこまねいている間に、その人生を狂わせてしまった磯部響子のこ とも無事に解決した。  気を落ち着ける時間がやっと巡ってきて、安らかなひととき。 「ねえ……。しようよ」  真樹が甘えた声で、ブラとショーツ姿で敬の身体を揺する。  事件を解決した後はいつもそうだ。緊張から解き放されて興奮した心身を静めるた めには一番いい方法……なんだそうだ。 「なんだ。またかよ」 「いいじゃない」 「俺は疲れてる」  くるりと背を向けて不貞寝を決め込もうとする。 「お願いだよ。このままじゃ、眠れないよ」  といいつつ敬の身体の上にのしかかっていく。 「一人で慰めてろよ」 「そんな冷たいこと言わないでよ。ねえ……」 「もう……しようがないやつだなあ」 「今日は安全日だから……」  真樹が言わんとすることを理解する敬。  しかしできたらできたで、それはそれで構わないと思う敬だった。  結婚し子供を産み育てる平和な生活。  真樹にはその方がいいのかも知れない。  磯部響子の事件に関わるうちに、女の幸せとは何かを考えるようになった。  斎藤真樹……。  その身分は本当のものではない。とある事件にて脳死状態となったその女性のすべ てを彼女に移植されて生まれ変わった……。かつて佐伯薫と名乗っていた性同一性障 害者で女性の心を持っていた男性。  それが今日の斎藤真樹だ。  せっかく命を宿し産み出す能力を授かったのだ。  命を与えてくれた、その女性のためにも、どうあるべきか……。考える余地もない だろう。  斎藤真樹と佐伯薫。  名前や戸籍は違うものの正真正銘の同一人物だ。だがすでに佐伯薫という人物は死 んだことになっている。  あのニューヨークにおいて……。  沢渡敬と佐伯薫が、局長に呼ばれて出頭した時のことだった。 「健児のことは、今対策課が捜査を続けている。君達はもう何も考える事はしなくて いいぞ」  どうかしらね。それだったらとっくに逮捕に踏み切っているはずだ。  所詮、言葉だけだと思った。他局に手柄を立てさせることなどするわけがない。局 長のところですべてが握り潰されていることは判っているのだ。  なぜなら、この局長が麻薬類を横流ししているからだ。それが健児に渡って現金化 されて戻ってくるという仕組みなのだ。だから局長が今の地位にある限り、健児が逮 捕されることはありえない。だがその関係に関しては、確たる証拠がまだ集まってい なかった。  実は健児を逮捕請求した背景には、この局長がどう出るかを確かめる意味合いもあ ったのだ。 「それで、一体何の用ですか?」 「ああ、実は二人一緒に、ニューヨーク市警へ研修で行ってもらうことになった」 「ニューヨーク市警?」 「麻薬と銃器といえば向こうの方が本場だ。研修の間にぜひ本場の捜査方法について 勉強してきてくれたまえ」   「あたし達を厄介払いするつもりね」 「そういうことだな。これ以上、足元を探られないようにしたんだ」 「どうする?」 「所詮、階級と組織の壁は乗り越えられないんだ。俺達がいくら足掻いても局長には 手が届かないさ。磯部親子を助けられなかったのは心残りだが、もはや急いで解決し なくちゃならない要件はなくなった。健児や局長を逮捕するには、じっくりと腰を据 えてやるしかない。取り敢えず冷却期間として、頭を冷やす意味でもニューヨークで 心機一転というのもいんじゃないか」 「そのようね……。まあ、敬と一緒ならそれもいいか。経費でアメリカに行けるんだ から」 「そうそう。ニューヨーク観光のつもりで行けばいい」 「調子いいのね、敬は。第一向こうへ行けば英語よ、まともに喋れるの?」 「何とかなるんじゃない? いや、何とかしてみせるさ」 「なんだかなあ……」 「あはは、俺は楽観的だからな」 「もう……」  ニューヨークへ旅立つ間に、敬は英会話の猛特訓を続け、挨拶程度くらいには話せ るようになった。後は実地研修あるのみだ。  しかし、ニューヨーク研修が悲劇的な結末を用意していたなどとは、二人とも知る 術がなかった。
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2018年12月10日 (月)

性転換倶楽部/響子そして 崩壊(R15+指定)

響子そして(覚醒剤に翻弄される少年の物語)R15+指定
この物語には、覚醒剤・暴力団・売春などの虐待シーンが登場します

(一)崩壊  わたしは、裕福な家庭に生まれ、やさしい両親に育てられた。  ミュージカル劇団に所属していた。  ある創作劇をやることになったのだが、娼婦役がなかなか決まらなかった。かなり きわどいシーンがあるので、女性達が尻込みしてしまったのだ。役をもらえるのはう れしいが、娼婦役では困る。ミュージカルで独唱部分があるので、男性が女装して演 じるわけにもいかない。そうこうするうちに、変声前でボーイソプラノのわたしに白 羽の矢がたった。思春期に入ったばかりで、女性的な身体つきをしていたし、顔も中 性的なマスクが女性の間でも人気があったからだ。  主なストーリーは、没落貴族の娘が生きるために街娼として街にたって客引きをし ている。ここでは暗い娼婦の歌が歌われていく。徹底的にどん底の生活を表現する事 で、後の大団円をよりいっそう盛り上げる演出だった。そこへ国王の第三王子が、お 忍びで通りかかり一目ぼれする。ここでは娼婦と王子の掛け合いの歌。やがて二人の 間に愛が目覚め、幾多の困難を乗り越えて、国王を説き伏せて、婚約にこぎつける。 契りの歌。しかし幸せは長く続かなかった。戦争がはじまり二人は引き裂かれる。別 離の歌。やがて戦争が決着するが王子の戦死の知らせ。悲嘆し再び街娼に立つ娘。や がて、死んだはずの王子が返ってくる。王子は生き別れた娘の捜索をはじめ、ついに 娘を発見する。再会の歌。そして大団円に向かって、新国王となった王子と娘は結婚 式を挙げる。結婚式では幸せ一杯の二人と共に、全員で婚礼の歌を高らかに大合唱す るというものだった。  稽古と共に衣装作りもはじまった。娼婦が着る衣装は、中世のフランス貴族風のス カートが大きく膨らんだきらびやかなドレス。娼婦用と婚礼衣装の二着が用意される。  娼婦とはいえ、役がもらえて有頂天のわたし。本舞台に出られるなら本望だった。 雰囲気作りの為に、レッスン中には女装され化粧も施された。女装に慣れていないと 本舞台でも、恥ずかしがったりして実力を出せずに舞台をだいなしにする可能性があ るからだ。  毎日、楽しく劇団通いしていた。  そんな幸せな生活が、ある日を境に崩壊した。  日曜日、舞台稽古のために、劇場へ向かう途中で交通事故にあってしまったのであ る。  救急病院へ搬送され緊急手術が行われる事になった。  気がついた時、ベッドの上にいた。  周囲を見回すと、輸液の投滴を受ける医療器具などに囲まれていた。  ドアの外から怒鳴っている父親の声が聞こえてくる。 「どういうことだ! 弘子、説明しろ!」 「そ、それは……」  弱々しい母親の声も微かに届いた。 「どうして血液型が合わないんだ!」 (血液型が合わない? なんのこと……) 「私はA型、おまえはO型。B型の子供が生まれるはずがないじゃないか!」 「本当です。わたし、お父さん以外の男性とは関係した事ありません。間違いなくあ なたの子供なんです」  必死で力説するような母親の声。  わたしが退院した時、両親の間には離婚問題が持ち上がる程の険悪関係にあった。  離婚を切り出したのは父親の方で、すでに家を出て愛人の女と暮らしていた。  以前から愛人関係にあったという噂が流れていた。  母親は離婚調停の法廷の場でも身の潔白を訴え続け、ついに親子の血液鑑定に計ら れることになった。  その結果、父親の血液遺伝子に異常が発見された。表現型はA型でも遺伝子がAb 因子ということが判明したのだ。遺伝子の一方が血液発現力の弱い特殊な劣性B(b 因子)だったのだ。そのため本来なら表現型ABの血液型となるところが、優生遺伝 子のA因子に負けて表現型Aの血液型となって現われた。  そしてその子供には、父親から劣性な(b因子)と母親の(o型)を引き継いで生 まれた。遺伝子型(bo)となって、劣勢ながらもB型を発現させる(b因子)によ って発現B型の血液型となった。  ここに正真正銘の父親の息子であることが確定し、母親の貞操は証明された。  しかし一度こじれた関係は、二度と戻らなかった。
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2018年12月 9日 (日)

銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第一章 II

 機動戦艦ミネルバ 第一章(日曜劇場)

II トランター上陸  その数時間後。  連邦軍艦隊がL5地点に到着した。  それまで順調に進んできた艦隊が突然激しいショックを受け、停止や大幅な減速に 見舞われていた。  先行する一番艦の艦長。 「どうした?」 「判りません。何か艦の外に液体状のものがあります。それで進行を妨げられている ようです」 「調べろ!」 「調査中です」  やがて報告がもたらされる。 「付近一帯にあるのは、液体ヘリウム4です。宇宙空間の極低温による影響下で超流 動状態となっております」 「超流動のヘリウム4だと?」 「超流動により艦がいわばスリップに近い状態に陥っておりまして、エンジンを噴か せてもヘリウムのみが後方に跳ね飛ばされるだけで、艦自体は全然前に進まないので す」 「ちっ! メイスン司令に連絡して後続の艦隊をL5から迂回させろ」 「了解。メイスン司令に連絡。後続部隊を迂回させます」 「しかしこんなことをしても無駄なだけでしょうにね」 「いや、重力の強い場所での転回は燃料を余計に消費するだけでなく、時間もかなり 遅れることになる。敵の目的はそこにあるのだろう」 「時間稼ぎですか?」 「そうだ……」  ニュートリアル艦橋。 「どうやらうまくいったようですね。敵艦隊がコースを変更しました」 「これでおよそ一時間は余計に稼げたでしょう。何とか地上に輸送艦を降ろすことが できます」 「しかし超伝導に利用するヘリウムをほとんど捨ててしまいました。後で問題が起き なければ良いのですが……」 「まあ、何とかなるでしょう。地上でも生産できないわけでもなし、それよりも最新 型のモビルスーツを降ろせることの方が大切です」 「そうでした」  やがてトランターの衛星軌道宇宙ステーションが近づいてきた。  輸送船団は軍港に入っていくが、護送船団は外で待機すべき停止した。  ニュートリアルから一隻の艀が発進して、ステーションのドック内に入ってゆく。  ステーション内軍港の桟橋。  ステーションに降り立ったフランソワと、艀の搭乗口に立ったままの副官。 「我々の護送任務はここまでです。これより帰還します」 「ありがとう、途中には敵艦隊がうようよしているはずです。気をつけてください」 「なあに、逃げるのは第十七艦隊の得意技ですから」 「うふふ。そうでしたわね」 「それでは、ご武運を」  敬礼する副官。  フランソワも敬礼を返しながら、 「提督や、総参謀長によろしくね」 「はい。かしこまりました」  やがて艀が桟橋を離れていく。  一人残されたフランソワは、本星上陸手続きのために、入国管理所へと歩き出した。 「結構です。ようこそ、トランターへ。といいたいのですが、敵艦隊が迫っています。 上陸はお早めにお願いします」 「わかりました」  手続きはすぐに済んで、上陸用のシャトルバスが発着するプラットホームへと向か った。  が、すぐに宇宙ステーション内に大きな衝撃が起こった。足をすくわれるように転 んでしまうフランソワ。 「これは、ミサイル攻撃?」  次々と衝撃の波は伝わってくる。 「もうここまで来たのね。はやくシャトルに乗らないと……」  ミサイル攻撃の衝撃に何度も、身体をふら付かせながらプラットホームへと急ぐ。  だがタッチの差でシャトルが発進してしまった。それ以外にはシャトルは見当たら なかった。おそらく敵艦隊の接近を知って、出航を早めてしまったのであろう。 「あ……。行っちゃった……。参ったな、ミネルバに到着しないうちに、早くも任務 失敗か」  地上に降りる手段は、もうないだろう。  諦めたその時だった。 「フランソワ・クレール大尉でいらっしゃいますか?」 「そうですけど……」 「レイチェル・ウィング大佐の命令でお迎えにあがりました。スコット・リンドバー グ少尉です」 「ウィング大佐の?」  その時、大きな衝撃が宇宙ステーション全体を襲った。 「今の衝撃は、大きかったわね。主要な施設が破壊されたかしら」 「早くこちらへ、専用のシャトルを待たせております。走りますよ」 「わかりました」  少尉について駆け出すフランソワ。  やがて桟橋の一画に小型のシャトルが泊まっていた。  さらに駆け足を早めて、そのシャトルに急ぐ二人。 「連邦軍がすぐそこまで迫っています。直ちに出発します」  パイロットらしき軍人が出迎えていた。 「よろしく!」  挨拶もそこそこに乗船すると、すぐにシャトルは発進した。  宇宙ステーションを飛び出し、地上へと降下してゆく。  振り向けば至るところで爆発炎上している宇宙ステーションがあった。そして遠く に迫り来る敵艦隊の一群が目に入る。 「間一髪ね」  ほっと胸を撫で下ろすフランソワだった。 「安心は出来ません。すでに敵艦隊の一部が降下作戦に入っています」 「ミネルバはどうなっていますか?」 「まだ、大丈夫だとは思いますが、油断はなりません。いつ攻撃を受けるやも知れま せん」 「とにかく急いでください」 「判ってます」  上空から間断なく軌道爆雷が飛来してくるその中を、右に左にと避けながらシャト ルが飛行している。 「大丈夫ですか?」 「これくらいなら平気ですよ。軌道爆雷は地上基地攻撃が目的ですから、着発型の信 管使ってますので多少接触しても大丈夫。問題は地上基地発射の迎撃ミサイルですね、 近接信管だから二十メートル前後に近づいただけでお陀仏です。味方に撃ち落される のは御免ですよね。まあ、まかせてください」 「よろしくお願いします」 「しかし、大尉殿もついてませんね。着任そうそう、この有り様ですからね」 「ミネルバも、攻撃を受けてるかしら」 「第一次攻撃ですからね、対空兵器が設置されている軍事基地に限定されているでし ょう。ミネルバは基地を離れていますから難を逃れているはずです」 「揚陸艦が降下してきて掃討作戦が始まるまでには何とか……」
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2018年12月 8日 (土)

妖奇退魔夜行/蘇我入鹿の怨霊 其の廿壱

 陰陽退魔士・逢坂蘭子/蘇我入鹿の怨霊 其の廿壱

(廿壱)夜の辻斬り
 その夜のことである。
 旅館で一息ついていた時、布都御魂を収めた鞘袋が震えて微かに輝いている。
「布都御魂が感応しています」
「ほんとうか?奴が七星剣を持って動き回っているのか」
「そのようです」
「応援を呼ぶか?」
「いえ、多人数で行動すれば感ずかれます。私一人で対応します」
「女の子が一人で夜に出歩けば、警察官に職質されて身動きできなくなる。私が一緒に
いた方が良い。それに万が一の時にはコレがある」
 と、背広の内側に隠しているホルダーから拳銃を取り出して見せた。
 怨霊に対しては拳銃が役に立つはずがないが、少なくとも人間である石上直治に対し
ては有効であろう。
「わかりました。課長と二人だけで行動しましょう」
「良し」
 旅館を出て、夜の街へと出陣する二人であった。
 布都御魂に導かれるままに……。


 夜の帳が舞い降りた街中。
 辻を吹き抜ける風は、淀んで生暖かい。
 夜道を歩いている女性。
 時々後ろを振り向きながら、小走りで帰路を急いでいる。
 後ろにばかり気を取られていたせいか、前方不注意で何かに躓いて倒れてしまう。
「痛い!」
 足元の暗がりを探るように見たそこにあったものは人のようであった。
 泥酔で寝込んでしまったのか、交通事故のひき逃げで倒れているのか。
「もし、大丈夫ですか?」
 声をかけても返事はない。
 それもそのはず……。

 首がない!

 悲鳴を上げる女性。
 その悲鳴を聞いて駆け寄る人影。
「どうしましたか?」
 尋ねられても声が出せず、横たわる遺体を指差す。
「こ、これは!」
 遺体を確認して、携帯無線を取り出す。
 巡回中の警察官だった。
 女性の一人歩きを心配して、声を掛けようとしていたのである。
「こちら警ら132号、本部どうぞ」
『こちら本部、警ら132号どうぞ』
「こちら警ら132号、鳴門町132番地にて殺人と思われる事件発生。遺体は首が切
断され遺棄された模様。302号連続殺人犯の犯行と思われる。至急、応援急行を乞
う」
『こちら本部了解した。直ちに応援を向かわせる。現場の保存に尽力せよ』
「こちら警ら132号、了解」
*注・警察無線はデジタル化以降、どのように行われているか不明。各警察機構によっ
ても違いがあり、一応の目安ということで……。
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2018年12月 7日 (金)

性転換倶楽部/ある日突然に III イリュージョン

性転換倶楽部/ある日突然に III

(七)イリュージョン  ここは私の父親が経営する産婦人科病院のICU(集中治療室)監視モニター室。  ベッドの上で、調教師に犯されている柿崎が映っている。  しかしその映像は、実はイリュージョンなのだ。  調教師に犯されるビデオ映像を、柿崎の意識が宿ったかの女性の脳に送り込んでい るのだ。  復讐のために柿崎の脳細胞を移植して、女性を生き返らせても、その身体をして売 春行為を強要しては、本末転倒というものである。あくまで女性の身体は女性のもの だ。それを汚す行為はしたくはなかった。  イリュージョンを使って、柿崎の意識だけを洗脳することが目的だ。  柿崎にこれまで自分が行ってきたことを悔い改めさせる精神治療。  やがて数週間が過ぎた。  柿崎の脳神経はすっかり女性の身体と融合して、一個の個体として機能しはじめて いた。昏睡状態から回復して、意識が戻ってきたのである。  柿崎が目を覚ました。  まだ少し朦朧としているのか、天井をじっと見つめたままだ。 「どうだね、気分は?」  その声のする方に顔を向ける柿崎。 「あなたは?」 「医者だよ」 「医者!?」  はっとなって自分の身体を確認しようと起き上がろうとするが、まだ身体の自由が きかないでいる柿崎。 「あ……」  めまいを起こしたのだろう、そのまま伏してしまう。 「まだ完全に機能を回復していないんだ。しばらく動かない方がいいぞ。これから質 問するが、正直に答えてくれたまえ。君の記憶にあることでいい」  それは彼の脳細胞が正常に機能し、記憶をとどめているかを判断するためだった。 「君の名前と年齢、性別は?」 「柿崎直人、二十六歳。男です」 「出身地は?」 「埼玉県」  まずは基本的なところから尋ねていく。 「……それでは、つい最近のことを聞こうか」 「た、助けて下さい。売春宿に捕らえられているんです」 「売春宿とは?」 「何人もの男性の相手をさせられて、何度も妊娠と中絶を繰り返して……何度も、何 度も……。い、いやだ。もう二度とあそこには戻りたくない」  完全にイリュージョンを実際の体験として記憶しているようであった。これほど効 果があるとは。 「安心しなさい。ここは売春宿じゃないから。君は、もう自由なんだ」 「自由……。ほ、ほんとですか?」 「そうだ。だから気を落ち着けて。今日は、ここで休みなさい。精神安定剤を打って あげよう」 「は、はい」 「最後に一言。君の名前は、桜井真菜美。市内の女子高校に通う十六歳の女の子だ。 覚えておいてくれ」 「桜井真菜美? そうか、それが名前なんだ」 「そうだ。君は、桜井真菜美として生まれ変わったんだよ」 「生まれ変わった……」 「まあ、ゆっくり養生したまえ」  あまり興奮させると、移植した脳細胞の機能に支障が起きるかも知れない。とりあ えずこれくらいにして休ませることにする。  毎日少しずつ精神のハビリを続けるとしよう。  それから数週間が過ぎた。  精神リハビリのかいあって、すっかり落ち着いてきた彼女。  身体と脳神経細胞の融合も進んで、自由に歩けるようになっていた。 「先生、おはようございます」  廊下で会えば必ず挨拶を交わしてくる。 「うん。すっかり元気になったようだね」 「はい。先生のおかげです」 「真菜美ちゃん! こんな所にいたんだ。病室にいないから探しちゃったわよ」  と声を掛けてきたのは、三人娘の一人。  実は、三人娘に一部始終を話して、真菜美についての女性教育をお願いしていたの だ。 「あ、由香里お姉さん」 「真菜美ちゃんの大好きな、ブロンディーのチーズクリームケーキ持ってきてあげた よ」 「ほんと?」 「冷たいうちに早くいただきましょう」 「うん!」  いそいそと病室に戻る二人。  その後ろ姿を見つめながら感慨深い心境になる。  イリュージョンによる矯正と、三人娘による精神教育により、真菜美は女性として の人生を一歩ずつ確実に歩みはじめている。  先の三人娘と違って、真菜美の意識は男性そのものだったはずだが、意外にも早く 女性的な感情を見せている。実に不思議だが、もしかしたら身体の持ち主だった女の 子の魂が残存していて、今まさに復活しようとして、柿崎の意識とも融合をはじめ、 一個の精神体として再生を果たしたのかもしれない。  桜井真菜美、十六歳。  四人姉妹の末っ子として、上のお姉さん達に可愛がられながら、幸せな日々を送っ ている。  私は、そう信じたい。 了
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2018年12月 6日 (木)

銀河戦記/鳴動編 第二十六章 帝国遠征 VIII

第二十六章 帝国遠征

               VIII  アレックス率いる旗艦艦隊にして銀河帝国派遣隊が続々と発進を始めていた。 「それでは先輩。後をよろしくお願いします」 「わかった」  要塞ドッグベイに停泊するサラマンダーに架けられたタラップの前で、しばしの別 れの挨拶を取り交わしているアレックスとフランク・ガードナー提督がいた。 「以前にもお話ししましたとおり、要塞を死守する必要はありません。時と場合によ っては潔く放棄してしまうことも肝要ですから。要塞よりも一人でも多くの兵士や士 官の命を大切にしてください。要塞は取り戻そうと思えばいつでも可能ですが、死ん でしまった人間を生き返らせることはできません」 「わかっている。常に臆病に極力逃げ回り、そして相手が油断したところを一気反転 して襲いかかり寝首を取る。それが君の信条だったな」 「その通りです。無駄な戦いで死傷者を出したくありませんから」 「それにしても要塞をいつでも取り戻せるとはたいした自信だな」 「ちょっとした策がありましてね」 「その策とやらを聞いてみたいがどうせ話してくれんのだろう」 「敵をだますにはまず味方からといいますからね」  スザンナ・ベンソンが歩み寄り、うやうやしく敬礼して報告する。 「提督。全艦発進準備完了しました」 「判った」  スザンナは旗艦艦隊司令として同行する。  その幸運を素直に感謝していた。  どこまでも一緒について行くという信念がもたらしたのかも知れない。 「それでは先輩、行ってきます」  ガードナー提督に敬礼するアレックス。 「まあ、いいさ。とにかく要塞のことはまかしておけ。援軍が欲しければ、連絡ありしだいどこへでも持 っていってやる」 「よろしくお願いします、では」 「ふむ、気をつけてな」  アレックスを乗せた旗艦サラマンダーがゆっくりと要塞を離れていく。  整然と隊列を組んでいる艦隊の先頭に出るサラマンダー。  従うのは、スザンナ・ベンソン少佐率いる精鋭の旗艦艦隊二千隻である。 「全艦発進せよ。行き先は銀河帝国本星アルデラーン」 「全艦発進!」 「座標軸設定完了。銀河帝国本星アルデラーン」  全艦ゆっくりと動きだす。  その光景を中央制御室から見ているガードナー提督。 「生きて帰ってこいよ」 「閣下、ランドール提督はこの要塞を手放しても再攻略できるとおっしゃっておられ ましたが、そんなことが本当に可能なのでしょうか」  要塞防御副司令官を兼任する第八艦隊司令のリデル・マーカー准将が質問する。 「さあな。残されたものを安心させるための、ただのはったりかも知れんし、あるい は俺達の想像すらつかない方法があるのかもな。要塞に関してはフリード・ケイスン 中佐が徹底的に、その構造を解析しているだろうからな。どこかに弱点が発見された のかも知れない。もっとも弱点が見つかっても綿密なる攻略作戦を立てないと難しい だろうし」 「作戦があるとすれば、その策案者はどちらでしょうか。提督か、作戦本部長か… …」 「ん……? 随分気にしているようだな。ウィンザー大佐だとしたら、どうだという のだ」 「い、いえ……」 「残念だ。君も女性士官に偏見を持つ一人だったとはな」 「ち、違います!」  図星だな。  とフランクは思った。  劇的なまでの昇進を果たして、すぐ足元の大佐となり、しかもそれが女性というこ とにかなりこだわっている風が、ありありと観察できた。  まあ、その気持ちも判らないでもないが……。  女性士官テンコ盛りの第十七艦隊と違って、第八艦隊はごく平均的な男女比を持っ ていて、司令官クラスの女性は一人もいない。  要塞に来てからというもの、総参謀長のパトリシアと要塞防御副司令官という関係 から、打ち合わせなどで顔をつき合わせて応対することが多かった。  化粧をしスカートを履いた士官と隣の席になれば誰しも思う気持ちである。  実際に隣に座れば、女性特有の香水の甘い香りが漂ってくるし、ふと胸元に目がい けばその膨らんだ胸にどきりとする。慌ててうつむけばスカートの裾からのぞく脚線 美がそこにあるという具合である。  男と女の違いを身近で認識させられるわけである。 「いや、偏見というものじゃないな……」  要は女性経験が少ないのかも知れない。  ふと笑みが漏れてしまう。 「笑わないでくださいよ」 「笑っているように見えるか?」 「見えますよ。何を考えていたんですか?」 「いや、何でもないさ。それより、フリード・ケイスンに要塞移動のための反物質エ ンジンの開発状況を確認しなければならない」  話題を変えてしまうフランクだった。  実際問題としても、要塞を動かすことのできるエンジン建造の進捗状況によっては、 大幅な作戦計画の変更を余儀なくされるわけである。  旗艦サラマンダーの艦橋。 「銀河帝国へのワープ設定完了しました」 「しかし、タルシエンから帝国への道のりは険しいな」  アレックスが危惧しているのは、バーナード星系連邦の支配下にある共和国同盟の 只中を通過して、反対側にある銀河帝国との境界まで無事にたどり着けるかというこ とである。  一回のワープで飛べる距離ではないから、数度に分けることになるが、その途中で 行動を悟られる可能性があった。  同盟の周辺地域を遠回りで巡りながら、連邦軍に反抗する勢力と連絡を交わしつつ、 出来うるならば協定を結ぶことも任務の一つに挙げられていた。  そのためにかの地に残してきたのが、第八占領機甲部隊メビウスであった。  トランター本星はもとより、周辺地域にも派遣して「Xデー」以降のパルチザン組 織の設立に一役買う予定だった。そして各地のパルチザン組織の横の連絡を取るのは、 メビウス司令官にして情報参謀のレイチェル・ウィング大佐である。  彼女なら、通信統制の網の目を掻い潜って各組織をまとめ上げられるだろう。 「ワープ準備完了しました」  パトリシアがすぐそばに寄ってくる。 「いよいよですね」 「ああ、この帝国遠征の成否によって、タルシエンに集まった人々の運命も大きく変 わるだろう。その期待に応えるためにも、何とかして銀河帝国との協力関係を取り付 けなければならない」 「そうですね」  と言いつつ、アレックスの腕に手を置いた。  その手をやさしく握り返しながら、 「何とかやってみるさ」  と微笑むアレックスだった。 「全艦、ワープせよ!」  アレックス・ランドールの帝国遠征の道行きが開始された。  共和国同盟の解放のため、銀河帝国への侵略を阻止するために、そして自分の信念 のおもむくままに……。  第二十六章 了 第二部へ続く(2019年元日より連載開始)
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2018年12月 5日 (水)

性転換倶楽部/ある日突然に III 人体実験/脳移植

性転換倶楽部/ある日突然に III

(六)人体実験/脳移植  とある地下施設。  裏組織と闇の臓器密売組織が共同運営している闇の病院である。  遺体からの臓器の摘出や、怪我をした組織員の治療(特に弾丸の摘出が多い)や、 性転換手術などが行われている。  手術台に乗せられた柿崎。  すでに麻酔をかけられ、人工呼吸器と極低体温から仮死状態にするための冷却装置 に繋がれている。  何せ人間の臓器の中で、最も大量に酸素と栄養素を消費するのが脳細胞だ。特にぶ どう糖などはその大半がまず脳に送られるという。ほんの数秒でも血流がとだえれば 障害を残すし、血糖値が一定以下になると昏睡状態になるというデリケートな臓器だ。 例え眠っていても心臓や肺を動かす為に、脳は活動を続けている。そのために完全に 脳の機能を一時的に停止、つまり仮死状態にしなければならないのだ。 「先生、手術の準備完了しました」  看護婦が伝えて来た。  地下施設とはいえちゃんとした病院だから、当然看護婦はいるし、手術のための麻 酔医もいる。  もちろん手術器械は最新設備が揃っている。  そして呼び寄せた脳神経外科医も来ている。 「そっちの患者の状況は、どうかね」 「はい、良好です。ばっちりいけますよ」  隣の手術台には、あの日以来ずっと人工心肺装置に繋がれたままの、あの被害者が 横たわっている。特別集中治療室で、いわゆる脳死状態を維持しながら、今日のこの 日のために生きながらえていたのだ。ただ子宮内にあった胎児は摘出してある。 「でも、こんな手術。脳組織をそっくり入れ替える手術なんてはじめてです」  助手の医師が身震いしている。  彼は私の下で、ごく普通の性転換手術しか担当したことがない。  生きた人間に対しての人体実験がはじまる。  男性の脳組織を移植して女性を生き返らせるという、前代未聞の大手術。  男性は確実に死に、例え女性が生き返っても男性の脳を持つことになる。  一体何の為に行うのか?  スタッフもそのことには気づいているはずだが反問するものはいない。詮索する事 は、ここではご法度だ。言われた事を言われたままに実行する事が、組織内で長生き するこつということを知っているからである。それに世紀の大手術を見守りたいとい う科学者魂もある。 「よし! では、オペを開始する」  柿崎を担当する医師団と、被害者を担当する医師団とに分かれて、同時に脳細胞組 織の移植が開始された。  柿崎側では、血流を跡絶えさせないように、人工血管を繋いでから、慎重に血管を 切断するという作業が繰り返される。続いて、脳神経細胞の摘出にかかる。  一方の女性側では、壊死した脳細胞の除去と、移植される脳組織に繋がる血管の結 合準備が施されていく。  ちょっとでも神経細胞を傷つければ障害が残る。慎重に慎重を重ねながらメスを入 れて行く。  脳神経細胞には、白血球やT細胞などによる抗体抗原反応、いわゆる一般的な免疫 反応は起きない。そもそも体幹から脳に入る血液から白血球などが侵入しないような 機能が存在するからだ。  脳神経細胞は、グリア細胞の一種である「ミクログリア」というものを内在してお りこれが脳内の免疫を担っている。ミクログリアは突起を伸ばしながら、神経細胞に 異常がないかを監視し、腫瘍細胞などがあればこれを駆除し、傷んだニューロンを修 復する促進作用を持っている。また死んでしまった細胞などの清掃も行う。  一方で、腫瘍細胞などを殺すために放出するサイトカインやタンパク質分解酵素の 異常分泌によって、アルツハイマー型認知症を引き起こすことも解明が進んでいる。  手術は十二時間にも及ぶ長期決戦となった。 「よし。いいぞ、完了した」  ついに柿崎の脳組織が摘出された。  すぐさま被害者担当の医師に引き継がれる。  摘出した手順の逆をたどって被害者の頭部に脳細胞が移植されてゆく。  そして、神経細胞増殖・再生促進剤の投与。本来切れた神経細胞は再生しないが、 それを可能にする、我が製薬会社自慢の魔法の秘薬だ。もちろん切れた箇所だけでな く、シノプス同士の結合促進も促す効果もある。  副作用がひどく医薬品の承認を受けられないでいた。 「よし、これで移植した脳神経細胞と末端神経細胞も繋がり、脳死状態から脱却でき るだろう」  こうして世紀の大手術は成功した。後は回復を待つだけだ。 「みなさん、ご苦労様でした」 「いやあ、こちらこそ貴重な体験をさせてもらった。ありがとう」  表の世界では絶対に不可能な脳移植手術。おそらくこれを逃したら二度と来ないだ ろう、手術の腕を試す最後のチャンスなのだ。全員が持てる技術と知識のすべてを出 してことに当たってくれたからこそ成功に至ったのだ。  一方の脳神経組織を摘出された柿崎は、待機していた臓器摘出担当医によって次々 と肝臓や腎臓などが摘出され、一塊の肉片へと姿を変えていた。  こうして柿崎直人という人間がこの世から姿を消した。  そしてその意識は女性の身体に宿って、新たなる生命の誕生となったのである。
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2018年12月 4日 (火)

銀河戦記/鳴動編 第二十六章 帝国遠征 VII

第二十六章 帝国遠征

                VII 「提督は、銀河帝国に支援を求めるとおっしゃってましたが、いいんですかねえ」 「何がいいたいの?」 「ほら、提督って銀河帝国からの流れ者で、スパイではないかとの噂もありますし」 「あなた、それを信じてるの?」 「だって、深緑の瞳をしてますし……帝国皇室と血筋が通っているんでしょう?」 「確かに血が繋がっているのは間違いないと思います。同盟ではその出生率は十万分 の一以下の確立らしいですからね」 「だから……こんな折に帝国に支援を求めると言い出して、スパイとして送り込んで きたというのも信憑性があると思いませんか」 「あのねえ。提督が孤児として拾われたのは、まだ乳飲み子の頃なのよ。スパイ活動 ができると思えて?」 「だから大きくなるにつれて連絡を取り合って」 「そんな面倒なことをするわけ? 最初からスパイ訓練を受けた専門家を送り込んだ ほうが手っ取り早いんじゃない? それに同盟で育てられれば立派な同盟国人よ。第 一に、義務教育も幼年兵学校からはじまって、民間人が出入りできない軍の教育機関 にずっといたのに、連絡員が接触する機会なんかないわよ」 「はあ……そう言われれば確かにそうなんですけど。でもどうしてそんな噂が立つの でしょうねえ。火のないところに煙は立たないものだし」 「噂は士官学校時代からあったけど、提督の才能をやっかむ人々が流しているのでは ないかということになってるわ」 「どっちにしても確証はないんですよね」 「これまで多大な恩恵を同盟に与えてくれた提督を信じてついていけば未来は開かれ るという確証はあると思いますけど、どうかしら?」 「ですよね……」  実際、今後のことなど誰にも判るはずなどない。  連邦が勢いに乗じて帝国をも降伏させて、銀河の覇者となるのか。  提督がそれを阻止して連邦を追い返して、あらたなる同盟を再興するのか。  はたまた周辺地域で細々とゲリラを繰り返し、やがて自滅していく運命にあるのか。  アル・サフリエニ方面軍にとって、ランドール提督がその運命を握っているという ことだけは確かなことであった。  それを信じて祖国に弓引くことになっても付いていくか、はたまた祖国に戻って総 督軍に加わりランドール提督とも交えることをも是とするか。  祖国を取るか、信奉する提督を取るか。  二者択一を迫られて、それぞれの思いを胸に決断する時はやってくる。 「猶予期間の四十八時間が過ぎました」  静かな口調で、パトリシアが報告に来た。 「退艦して祖国に戻る意思を表明した者は、七百万八千人ほどになります」 「そうか……帰りたいと思う者を引き止めるわけにはいかないからな。我々は祖国の ために戦ってきた。その祖国を敵に回すことをためらうのも当然のことだ」 「気持ちは判ります」 「輸送船団を手配して、祖国に気持ちよく送り返してやろう」  二時間後、祖国に戻る将兵を乗せた輸送艦隊がトランターへ向けて出発した。  それを見送る最後の放送を行うアレックス。 『祖国へ戻る将兵及び軍属のみなさん。これまで私の元で戦ってくれたことに感謝い たします。祖国に戻られては、戦争で疲弊した国力を回復し、新たなる国家の再建に 努力して頂きたい。これまでほんとうにありがとう。航海の無事を祈ります』  そして万感の思いを込めて敬礼するアレックスだった。  輸送艦においても、その放送を聴いているほとんどの者が、スクリーンに映るかつ ての司令官に対しそして涙していた。  これまで共に戦ってきた仲間との別れ、場合によっては戦火を交えるかもしれない 境遇。  自ら決断したこととはいえ、翻弄させられる運命のいたずらを呪っていた。 「ランドール提督に敬礼!」  誰かが叫んだ。  一斉に直立不動の姿勢を取り、最敬礼を施す隊員達だった。  スクリーンはランドールの姿から、タルシエン要塞の全景に切り替わっていた。  しかし誰も敬礼を崩す者はいなかった。  タルシエン要塞の姿を頭に刻み込もうといつまでも見つめていた。  ランドール提督に栄光あれ!  すべての将兵達の本心からの熱い思いだった。
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2018年12月 3日 (月)

性転換倶楽部/ある日突然に III 組織と麻薬と売春と

女性化短編小説集/ある日突然に III

(五)組織と麻薬と売春と  何とか柿崎を駐車場まで運び、車に乗せることができた。 「さてと……。君達は、ここから帰りなさい」 「ええ! どうしてですか?」 「そうですよ。最後まで手伝わせてください」 「ここまでやったのに、それはないですよ」  三人娘が口々に叫んでいる。 「だめだ! これ以上関わると、君達を組織に入れなければならなくなる。そうなれ ば二度と組織から抜け出せないし、結婚もできなくなるぞ」 「それは困るわ! あたし抜ける」  由香里が即座に答えた。息子の英二と婚約しているので当然であろう。 「組織員となれば、まず最初に強制的に麻薬を打たれる。薬の効果と禁断症状を自ら の身体で体験させるためだ。組織と麻薬は切っても切れない関係だからな。さらに女 性の場合は、性行為も任務として命じられるんだ」 「ひどい話しですね」 「セックスは、女性の商売道具であり、武器でもある。売春は先史時代から綿々と続 く、もっとも古い女性の職業だし、風俗営業店が繁盛しているのも道理だ。情報を得 るなり味方にしたいなら、まず女を抱かせろというのは、昔から使われる常套手段だ からな」 「ほんとに道具としてしか扱われていないんですね……。わかりました。妹達をそん な組織に入れたくありません。おとなしく、ここは引き下がりましょう。いいわね、 みんな」  響子が言った。長女として面倒見がよく、思いやりとやさしさがあるので、妹達を 危険な目にあわせるわけにはいかないと判断したようだ。何かにつけても三人のまと め役となっており、彼女が決めたことには、他の二人も従うことが多いようだ。特に、 一緒に暮らし、女性としてのイロハを教えてもらった里美は、本当の姉のように慕っ ているから、言うことを良く聞く。 「しようがないわね。響子さんが、そう言うんじゃ」 「うむ、そうしてくれ。君達に性別再判定手術を施して、第二の人生を歩ませた意味 がなくなるからな」 「さあ、そういうわけだから、みんな戻るわよ。車に乗って頂戴」 「はーい」  響子の車に乗り込む三人。 「先生、結果報告だけは、後で教えてくださいね」 「ああ、わかってるさ」 「それじゃ、失礼します」  一礼して車を発進させる響子。  やがて車は夜の闇の彼方に消えて見えなくなる。 「さて、こっちも行くとするか……」  追跡車に乗り込み発車させる。
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2018年12月 2日 (日)

銀河戦記/機動戦艦ミネルバ I 連邦軍到来

 機動戦艦ミネルバ 第一章(日曜劇場)

I 連邦軍到来  トランターに向かう護送船団。  指揮艦ニュートリアルに信じられないニュースが飛び込んできた。 「それは本当ですか?」 「間違いありません。絶対防衛圏内にあるベラケルス星域において、連邦軍八十万隻 と迎撃に向かった絶対防衛艦隊三百万隻が交戦状態に突入するも、おりしも超新星爆 発を起こしたベラケルスに巻き込まれて我が軍は壊滅。連邦軍は奇跡的に爆発を免れ てなおもトランターに向けて進撃中です。しかし、ベラケルスが爆発するなんて…… 運が悪すぎます」 「違います。これはブラックホール爆弾を使って人工的に引き起こされたものです。 ランドール提督も最終防衛決戦の場としてベラケルスを想定しておられました。超新 星爆発の威力を借りて敵艦隊を一網打尽で壊滅させる壮大な作戦。敵がこれに気付い ていたなんて……」 「ま、まさかそんなことができるなんて」 「現実に起こってしまったことです。超新星爆発を目の当たりにするなんてことは、 砂浜の中に隠した一粒の砂を探し出すこと以上に確率は低いのですから」 「敵艦隊がトランターに到着する時間は?」 「先着する我が船団の一時間後です」 「ぎりぎりね。輸送船を地上に降ろす時間が稼げるかしら」 「稼ぐって……。まさか、敵艦隊とお戦いになられるのですか?」 「輸送船には、これからの戦いに必要な重要な兵器が積まれています。それを無事に 届けるのが、わたし達の任務です」 「しかし、敵艦隊の総数は八十万隻なんですよ。どうやって?」 「何も直接艦隊戦をやると言っているのではありません。策を施して進行の足を一時 的に止めるのです」 「策を施す?」 「丁度いい作戦案があります。以前にカラカス基地の防衛に際して、ランドール提督 が参謀達に出させた作戦プランの一つなのですが……。うまい具合に必要な資材が輸 送船に積まれています。たぶん足止めくらいはできそうです」  作戦室に各艦の艦長が呼び集められ、フランソワが作戦を伝える。 「敵艦隊はおそらく、このL5ラグランジュ点を経由して、トランターに近づくでし ょう」 「L4ではないのですか? ここにはワープゲートが設置されています。まずはこれ を押さえてからだと思うのですが?」 「いえ。L4のワープゲートには機動衛星兵器が守りを固めています。少しでも犠牲 を少なくして、速やかにトランターを落とすにはL5からの方が最適です」 「はあ……そうでしょうか?」 「ともかくやれるだけのことはやりましょう。予想に反してL4に向かったら、運が なかったと諦めます」 「判りました」 「ラグランジュ点は重力的に安定しており、L4にワープゲートが置かれているのも そのためです。かつてはスペースコロニーという人工居住プラントがあったそうです。 ここにある物質はほとんど動かないままとなります。さてここからが作戦です。この L5地点に輸送艦に積んである超伝導冷却用のヘリウム4原子を撒き散らしておく。 ただこれだけです」 「それだけですか?」 「そう……。それだけです。地面に水を撒くと、車はタイヤがスリップして自由が利 かなくなる。それと同じことが起きます。宇宙空間においては、ヘリウム原子は超流 動現象を起こします。そこへ侵入した艦艇は身動きが取れなくなると言うことです」 「なるほど……」  早速輸送船に連絡が取られて必要なヘリウム4が、L5ラグランジュ点に運び出さ れた。 「よし、これでいいわ」 「うまくいきますかね」 「足止めさえできればいいのよ。さあ、先へ行きましょう」  そのままトランターに向かって進む船団だった。
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2018年12月 1日 (土)

妖奇退魔夜行/蘇我入鹿の怨霊 其の弐拾

 陰陽退魔士・逢坂蘭子/蘇我入鹿の怨霊 其の弐拾

(弐拾)銃砲刀剣類所持許可証 「布都御魂……だっけ。そんな錆びた剣が役に立つのかね」 「神様が遣わしてくれた霊剣ですからね。きっと役に立ちますよ」  ここで問題となるのは、布都御魂が日本刀などの銃砲刀剣類が適用されるかである。  銃砲刀剣類に関しては、日本刀など文化財としての教育委員会のものと、警察官携帯 の拳銃など武器としての公安委員会のものと、二種類の登録制度がある。  銃砲刀剣類所持等取締法第14条に該当するものは、美術品・骨董品として価値ある ものとして、都道府県教育委員会に登録申請する。  少なくともこの布都御魂は、錆びて朽ちており美術品としては該当しないだろう。  今の時点では、御神体として奉納する価値はあるかもしれないが、石上神宮の対応次 第である。  ともかくも刀剣であることには違いないので、都道府県公安委員会の銃砲刀剣類所持 許可手続きは必要であろう。 「しかし……お堅い公安委員会の許可証が取れるかが問題だな。未成年だしな。ともか くその剣を持ち歩くに当たって、まずは石上神宮のものとして刀剣類発見届出書を提出 して、入手した上で、申請しなくてはならない。そして人目につかないように、剣道の 竹刀鞘袋にでも入れて持ち運ぶことだ」  井上課長は、大阪府警捜査第一課長の身分を最大限に利用して、捜査協力のためとし て事件解決までの期間限定の特別所持許可証を手に入れてくれた。また奈良県警捜査第 一課長の綿貫警視も一役買ってくれた。  もっとも変死事件があれば、怨霊や陰陽師の仕業と噂される古都奈良特有の事情もあ ったのだろうが。  ちなみに古都とは、「古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法」に規定さ れる京都市・奈良市・鎌倉市の他、同法の第二条第一項に定める政令で天理市・橿原 市・桜井市・斑鳩市・明日香村・逗子市・大津市などが挙げられる。 「これが許可証だ。剣と共に肌身離さず持っていてくれ」 「分かりました」  さて、蘭子は陰陽師としての行動をする時、御守懐剣「虎撤」を携行しているが、  銃刀法第22条「業務そのた正当な理由による場合を除いては、内閣府令で定めると ころにより計った刃体の長さが6CMをこえる刃物を携帯してはならない。以下略。  または軽犯罪法第1条1項2号「正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他人の生命を害 し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた 者」  とあるとおり、陰陽師としての業務遂行のために所持しているので、一応違反とは言 えない。  もっとも昇進のための検挙率を稼ごうと、何が何でも違法だと決め付けて検挙しよう とする、根性腐った悪徳警察官も多いので要注意である。  陰陽師の仕事は、夜半がメインである。  夜中に出歩いていれば、警察官の職務質問に遭遇することもあるだろう。 「バックの中身を見せてください」  と、所持品検査もされる。  職質も所持品検査も任意なので断ることができる。  警職法2条3項、「刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り、身柄を拘束され、 又はその意に反して警察署、派出所若しくは駐在所に連行されることはない」  と、刑事訴訟法によらない強制の処分を禁止している。  ところが、根性腐った悪徳警察官は、わざと腕を掴んだり、前に立ちはだかるなどの 行動をとり、うざいからと、手を振り払ったり、警察官の胸を押したりすると、 「公務執行妨害だ!」  と大げさに、警察官に暴行を加えたとして、現行犯逮捕される。  こんな場合は、 「違法行為はやめてください!」 「いやです!」 「手を離してください!」  と大声を張り上げて、毅然とした態度で対応するのが正しい。  サッカーなどの試合で、審判に抗議する監督などが、退場処分にならないように、決 して手を挙げないのと一緒である。  井上課長が所持許可証にこだわったのは、そういう警察の事情があるからである。  布都御魂を収める竹刀鞘袋を、奈良県警察署道場の講武会から借りてくれた。 ポチッとよろしく!
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