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2018年11月27日 (火)

銀河戦記/鳴動編 第二十六章 帝国遠征 V

第二十六章 帝国遠征

                 V  通路を歩いているカインズ。  シャイニング基地にある未配属の艦艇のことで頭が一杯になっていた。  至急に赴いて作業を進める必要があった。総督軍がいつ攻め込んでくるかも知れな いからである。 「准将閣下」  パティー・クレイダー大尉が話し掛けてきたが、一瞬自分が呼ばれたのとは気付か なかったカインズであった。議場で自分が准将に任命されたのを思い出して、 「あ、ああ。パティーか……准将になったんだったな」 「寝ぼけないでくださいよ。閣下」 「すまん。まだ、実感がわかないんだ」 「そのうちにいやでもわいてきますよ。とにかく、おめでとうございます。ついにオ ニール准将と並びましたね」 「ありがとう。といってもまだ正式な辞令は出ていないがな」 「いいじゃありませんか。誰が何と言おうと六万隻を動かす准将に間違いないのです からね」 「といっても大半がシャイニング基地に残したままだ」 「そうでした。総督軍に奪われないうちに急行して我が部隊に併合しましょう」 「それにしても、俺のところには略取した艦隊や寄せ集めの部隊しか回ってこない な」 「確かにそうではありますが、逆に考えればそれだけ閣下の人徳や用兵の力量を、提 督が信頼して任せてくれているということです。それをできるのは閣下以外にいない ことをご承知なのです」 「まあ、そう言ってくれるのはありがたいが、現実はあまりにも時間が短すぎるから な」 「はあ……それは致し方ありませんね」 「そうだ。君のことは、今昇級の適正審査にかかっているが、要塞に帰還するころに は、少佐の正式辞令がでるだろう。その時には艦隊参謀として着任してもらいたいの だが」 「ありがとうございます。もちろん喜んでお引き受けいたします」 「よろしくたのむ」  もう一方のゴードンの方も、シェリー・バウマン大尉から昇進を祝福されていた。 「閣下、昇進おめでとうございます」 「おうよ。君もじきに少佐として司令官の仲間入りだな」 「ありがとうございます」  とぺこりと頭を下げる。 「昇進祝いに二人で乾杯するか?」 「ほんとうですかあ! やりましょう。昇進祝い」 「うんじゃあ、ラウンジへ行こうか」 「はい!」  と言って、ゴードンの腕に自分の腕を絡ませて、恋人よろしく仲良く歩き出す二人 だった。 「共和国同盟が崩壊してしまったのは辛いですが、絶対防衛艦隊司令長官のチャール ズ・ニールセン中将が逝っちまったのには、せいせいしますね」 「そうそう。何かにつけて提督を目の敵にして、難癖つけて無理難題ふっかけやがっ てさ」 「でも……逆説的な考えをしますと、ニールセンのおかげで、提督がここまで出世で きたともいえますよね。無理難題を押し付けても、それを難無くかわしてきた提督の 実力あってのことですけど」 「提督を過小評価してあなどっているからこうなるんだ」 「そうですね」 「ところで君は平気なのか?」 「何がですか?」 「祖国に対して弓を引くことに対してだよ」 「水臭いですよ。閣下にずっと付いていくと誓ったじゃないですか。わたしがお仕え しているのは、共和国同盟ではなくて、ゴードン・オニール准将です」 「そうか……ありがとう」 「ともかく、これからの未来に祝杯をあげましょう」 「そうだな。希望溢れる我々の将来に幸あれだな」 「はい!」  司令官室に戻ったアレックスも、パトリシアとこれからのことを話し合っていた。 「ところで、トランターに残してきた第八占領機甲部隊メビウスの件ですが、司令官 レイチェル・ウィング大佐は、提督の意向通りに動いてくれるでしょうか」 「メビウス部隊のことはレイチェルにすべて一任してある。降伏するも徹底交戦する も彼女の判断に任せるしかない。刻々変化する状況に合わせて最良の決断を下すだろ う。それがどうなろうとも、僕は容認するつもりだ。投降し我々の敵に回ろうとも ね」 「実際問題として、敵の直中{ただなか}に置いてきぼりにしてきたのは事実なわけ ですし……。ま、わたし達がとやかくいえる立場ではないですけどね」 「しかし旗艦である機動戦艦ミネルバの艦長があのフランソワだからなあ……」 「あれでも士官学校を首席で卒業してますのよ」 「転属命令を受けた時に、泣いたそうじゃないか」 「ええ。でもお姉さまと慕ってくれるのはいいんですが、提督がおっしゃられたよう に、それではいつまで経っても一人立ちができません。いつかは巣立ちを促して、冷 たく突き放すことも必要だと教えられました」 「……ま、遠き星の空の下から彼女達の無事と幸運を祈るしかない」 「きっとやりとげますわ。レイチェルさんとフランソワならね。でもこのことを、他 のみなさんに秘密にしなければならないなんて、心苦しいですわ」 「しかたがない、極秘任務であり、敵地の只中にいるのだから。情報が漏れては一大 事だ」 「ええ……」
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