性転換倶楽部/ある日突然に II page-15
女性化短編小説集「ある日突然に」より II
page-15 とある高級レストランでディナーを頂く英二と製薬会社受付嬢三人娘。 「本当は、由香里だけでもいいんだが。他の二人にもぜひ聞いてもらいたくてね」 「なんだやっぱり、本命は由香里だったのね」 「わたし達は付け足しなのね」 「そういうわけではないのだが……」 頭を掻きながら、言い難そうにしている英二。 その表情は専務・重役というものから、恋仲の純情青年に戻っていた。 「実は、これを受け取って欲しいんだ」 と、小さな箱を取り出した。 受け取り開けてみると、 「これは?」 「まあ! 指輪よ」 「素敵ね……。ダイヤモンドよ、これ」 「英二さん……?」 指輪を見つめ、そして英二に視線を移すと、やさしく微笑んでいる。 「どうだろう。この僕と結婚してくれないか?」 「結婚? 冗談はよしていただけませんか。わたしは……」 「昔は、男だったからと言いたいのか」 「はい」 「確かにそうかも知れないが、君は立派な女性に生まれ変わったんだ。何をためらう ことがある。君の身体の事はもちろんのこと、その心の中のある女性的な感情を、僕 が見抜かないわけがないだろう。これでも親父の息子なんだよ。例えば、里美さんを 見ればわかるはずだ」 「里美さん?」 突然名指しされ、きょとんとしている里美。 「里美さんも響子さんも、君と同じように親父の手術を受けている。彼女とはじめて 会った時、どう思った?」 「とてもきれいで女性的な雰囲気が漂っていました」 「そう。誰も、彼女が男だったなんて気づかない。もちろん響子さんもそうだ。身も 心も女性そのものなんだからな。心の中から溢れ出る女性的な感情が、彼女の仕草か ら言葉使いまで、やさしく包容力のある女性を形作っている」 「専務。あまりお誉めにならないでください。恥ずかしいです」 顔を真っ赤にしてうつむいてしまう里美。 「そういうところが、女性的だと言っているんだよ」 「もう……」 「ああいう親父だが、女性的な感情を見抜く洞察力は本物だ。手術を受けたすべての 女性が幸せに暮らしている。そうだろ、響子さん?」 「はい」 恥ずかしがりながらもはっきりとした口調で肯定する響子。 「もちろん君達を、あらゆる面で他の女性達と区別したことはない。当然のことだが、 更衣室やトイレもみな女子用を使ってもらっている」 「専務。変なこと、おっしゃらないでください」 響子があせったように言った。 「じゃあ君は、男子トイレに入れるか?」 「入れるわけないじゃないですか。女子制服着てますのに。それに今はもう女性にな っているんですから」 「いや、違うだろ。女子制服を着ているからじゃなくて、女性の心を持っているから じゃないかな」 「それは……」 「由香里はどうかな。例えば男装したら、男子トイレに入れる?」 「ど、どうかしら。去勢されたあの日以来、もう長い間男子トイレに入ってないし ……」 男装という言葉に、違和感を覚える。もはや女装という言葉は使えない、 「そんなに悩むことではないだろう。少しでも男性の心が残っていたらな」 「そ、それは……」 即答できなかった。仮に男装しても平常心では男子トイレに入れないだろうと思っ た。 「そうなのだよ。三人とも、男子トイレに入るのも躊躇してしまうほど、女性的な感 情を持ち合わせている。男性だった頃からもともと持っていた女性的な感情に、その 後の女性ホルモンの影響と、毎日の女性としての生活していくうちに、より女性的に なってしまったのさ。もはや男性的な感情は消え失せてしまっているんだよ」 確かに女性ホルモンの影響もあるかも知れないが、もっとはるかに女性らしさを意 識させずにおけないものがある。 生理である。 男性には決して理解することのできない、毎月訪れる女性特有の現象。人造性転換 者には絶対にありえない、正真正銘の女性である証。体内に介在して、自分が女であ ることを強烈に意識づけするもの。その日のたびに、男性である感情を一つ残らず流 し去ってしまったのかも知れない。経血と共に。 「さて、話しが長くなってしまったな。由香里、最初の僕の質問に答えてくれない か?」 「あ、あの……」 「ん?」 「あの……。こんなわたしで良かったら」 「よし! 決まったな」 まさか男性から結婚を求められるなんて思いもしなかったことだった。しかも自分 の過去を知り尽くしたうえである。 思わず涙が溢れてきてしようがなかった。 他の二人ももらい泣きしている。 こうしてわたしの第二の人生がはじまった。 一人の女性として会社に勤務し、やがて結婚し子供を産んで育てるという将来が待 っているのだ。 了

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