性転換倶楽部/ある日突然に III モーテルにて
女性化短編小説集/ある日突然に III
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(四)モーテルにて やがてとあるモーテルに着いて中へ滑り込んでいく。 「入っちゃいましたね」 と、心配そうな由香里。 「大丈夫だ。ここも組織が運営しているモーテルだ」 従業員用入り口のそばに車を止めて、堂々と中へと入ってゆく。 そして、スタッフルームで管理人と思われる人物と何やら話し込んでいたかと思う と、 「よし、話はついたぞ」 さらに奥の管理センターへと入ってゆく。 そこには防犯カメラの映像ビデオスクリーンがズラリと並んでいた。 映像には、くんずほぐれつ状態のアベック達のあられもない様子が映されていた。 「ほえ~。これって違法じゃないですか?」 「逢瀬の様子をモニタリングしているなんて」 はじめてみる光景に、顔を赤らめている。 「確かにそうかもしれないが、モーテルなんか犯罪の温床だからな。万が一に備えて いるわけだ。実際にも柿崎が睡眠薬強姦しようとしているだろ」 「そりゃそうですが……」 「さてと、柿崎の部屋はっとっ……465号だったな」 操作パネルをピポパという感じで、 「お、映った。ありゃ、ビデオカメラを持ち込んでいるな」 ベッドの上に寝転がせている響子をよそに、ベッドサイドで三脚を立てビデオをセ ッティングしている柿崎。 「これで奴が告訴されない訳が分かった。強姦は親告罪だから、ビデオ撮りした映像 を使って脅迫していたのだろうな」 「いつまで見てるんですか!?」 我慢しきれないと興奮したように話す由香里。 「おっと、そうだった」 それから響子の救出と、柿崎の成敗のための行動に移る一同。 「わしと里美が奴の部屋に向かう。由香里は携帯を使ってビデオ中継してくれ」 「わかったわ」 というわけで、私と里美は465号室の前に到着した。 管理人から合鍵を携えてである。 「由香里、現状を報告してくれ」 携帯で連絡を入れてみる。 『ひどい! とんでもない奴です』 興奮した口調の由香里の声が聞こえてくる。 『ああ!』 「どうした?」 『柿崎が響子さんの服を脱がしはじめました。先生、早く何とかしてください』 娘達の声が緊迫したものに変わってきている。 「まあ、待ちなさい。響子がまだ動かないのには考えがあるのだろう」 『目覚めてなかったらどうするんですか?』 「いや。目覚めているはずだ」 『だからと言って、響子さんが裸にされて柿崎の目に晒されているなんて絶えられま せんよ。ああ……すっぽんぽんにされちゃいました』 「とにかく待つんだ。ビデオに撮ろうとする輩は、必ず目覚めるのを待ってから事に 及ぶものだ。相手が許しを乞い、泣き叫ぶ姿を見ながら、征服感を充足させるのさ」 『くわしいんですね。もしかして先生も……』 「ば、馬鹿言うなよ。私が柿崎と同類なら、君達を生まれ変わらせるような事はしな かったさ。だいたい私は、女性の身体を守る産婦人科医だぞ。それとも何かな……、 君達に手術した事が間違っていたとか?」 『あ、それだめ! わたし、女性になって心底良かったと思っているんだから。英二 さんと巡り会えたのも、そのおかげなんだから』 興奮したような由香里の声が届く。 『柿崎が上着を脱いで、ベッドに上がりました』 『あーん。もうだめだよ。やっぱり眠ったままなのよ』 「落ち着くんだ。モニターの部屋番号のところに赤い釦があるだろう」 『え? ああ……これね。ありますけど、これが何か?』 「それは各部屋に取り付けてあるスピーカーのスイッチだ。火災などが起きたときの ために、緊急非難誘導のためのものだ。スイッチを入れて、目の前のマイクに向かっ て何か喋ってみろ。但し他の部屋のスイッチには触るなよ」 『何か喋ろと言ったって、何喋ればいいの?』 『何でもいいんだ。柿崎の気をそらせればいいんだ。きっと響子は動くはずだ』 『わかりました。今……スイッチ入れました。あ、ああ。本日は晴天なり』 「馬鹿……よりにもよって何ということを……」 『柿崎がこっちを睨むように見ています。恐いよ』 『あ、響子さんが動いた。髪飾りの辺から何か取り出しました。柿崎の首に何かを刺 したみたいです』 『あれ? 柿崎が倒れましたよ』 「髪飾りに仕込んであった、麻酔針を使ったのさ。もう大丈夫だ。そこはいいからこ っちに来てくれ」 『わかりました』 携帯を切り、合鍵で鍵を開けて部屋の中に入る。 響子がベッドの縁に腰掛けて、脱がされた衣類を再び着込んでいる。 「響子。よくやった」 「あ、先生。やりましたよ」 ベッドの上に伏している柿崎。即効性の麻酔を仕込んだ針でぐっすりお休みだ。 「ああ、完璧だ」 「里美達が放送で気をそらしてくれたおかげです」 「君にここまでやらせて済まなかった。奴に逃げる口実を与えないためにも、状況証 拠を掴むしかなかったのだ」 「いえ、気にしないでください。許せない女の敵を捕らえるためにしたことですから」 「そう言ってくれると助かるよ」 柿崎の様態を確認してみる。 「麻酔が良く効いている。動かしても起きないだろう」 やがて勢いよく扉を開けて、里美と由香里が入って来る。 「響子さん!」 「大丈夫ですか? 柿崎に何かされなかった?」 響子に駆け寄って安否を確認している。 「ええ、裸にはされちゃったけど……大丈夫よ。心配してくれてありがとう」 無事な再会を果たして喜ぶ一同。 「よし。柿崎を運びだすぞ。里美と由香里の二人で足の方を持ってくれ。私は肩の方 を持つ。響子は、こいつの衣服とカメラ器材を持ってきてくれ」 「はい」 三人がほとんど同時に答えた。 「お、重い……眠ってる男の人がこんなに重いとは思わなかった」 由香里が悲鳴を上げている。 「ほんと、男性の体重が女性より重いのはわかるけど」 「しようがないわよ。ホルモンの影響で、筋肉はみんな脂肪に変わっちゃっていて、 筋力がかなり落ちてるんだから」 衣服持ちという楽な担当の響子が答える。おとりという大役を果たした後なので、 他の二人が、そのことに不平を言う事はなかった。
なお、親告罪は平成29年6月16日に改正、同年7月13日より施行。被害者からの 告訴がなくとも、加害者を告訴できるようになった。

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