性転換倶楽部/ある日突然に II page-7
女性化短編小説集「ある日突然に」より II
page-7 このようにしてニューハーフ・バーでの仕事ははじまった。 右も左も判らない、客の接待もままならぬズブの素人だったが、 『うぶで可愛い女の子』 という評判を得て、ちょこちょこと指名されるようになった。 風俗接待業というものは、やはり若々しさが一番のようであった。 その点ではこの店一番の若さゆえの人気を取りつつあった。 とにもかくにもニューハーフ・バーの仕事を続けていき、数ヶ月が経った。 そんなある日。客待ちの時間に同僚に聞いてみた。 「手術している人って何人いらっしゃるのですか?」 何かにつけて話題に上ることなので知りたくなったのだ。 「そうねえ……」 といいながら、説明してくれた。 まず、女性ホルモンは全員が服用していた。こういう仕事だからより女性らしい容 姿であることが肝心だからである。薬は店の方で、大量購入して安価で分けてくれる。 睾丸摘出 二十二名。 豊胸手術 七名。 喉仏手術 三名。 肋骨切除 二名。 そして、性転換手術(性別再判定手術)は四名であった。 一人が手術をしたと告白すれば、他の者が追従する。病院を聞き出し、外国で手術 したとなれば渡航手続きまでして行く。何せ身近に経験者がいるので、手術結果は一 目瞭然、間違いなく安心していられるというわけだ。睾丸摘出者がかなりいるのはそ のためだろう。 性転換した四名には全員パトロンがついていて、高級マンションに住み高価な服飾 品を身に付けていた。 類は類を呼ぶという通り、この店の全員が最終段階の性転換手術を希望していた。 手術など金を掛ければ掛けただけ収入が増え、元はすぐに取り戻せるというわけであ る。 もちろんパトロンがつくには、若くて美しいという必須用件がある。 手術するならより若いうちにというわけである。 といってもパトロンがそう簡単につくわけがない。 まずは常連客を集め、より多くの指名を受けるかが当面の問題である。店は儲かり、 店子は指名料が入る。 一番簡単な方法がある。 触らせること! である。 女性ホルモンの効果で、わたしの胸はBカップを越えてCカップまでに近づいてい た。服の上からもその膨らみがはっきりと判るほどに成長して、ブラジャーなしでは 過ごせなくなっていた。それは店に来る男達の羨望の的ととなり誰もが触りたがった。 むろんそれを拒絶することはできなかった。自由に触らせることで、客は喜び、やが て常連となってくれるからである。 まずは胸元の大きく開いたドレスを着て、ちらりちらりとチラリズムで胸を見せ付 ける。やがて興奮した客が胸元に手を入れてくるが、簡単に触らせてはいけない。 出来る限りの可愛い声で、 「いやん! 社長さんのエッチィ」 とか言いながら、一度は小さな抵抗を見せるのがコツだ。同じ意味合いにスケベと いう言葉があるが、陰湿なイメージがあるので禁句となっている。できるだけさわや かに明るく、「エッチィ」と言うのだ。 あくまで純情に、時として小悪魔的に振る舞うことが大切だ。 「今度触ったら、一万円よ」 客の機嫌が良ければ、巧くすると財布を開いてくれる時がある。 「そうか、そうか。一万円あげれば触ってもいいんだな」 金額は高くも安くもなく、常連客が日頃どれくらいの飲食代を払い、いつもどれく らいの金額を財布に入れているかを、よく把握して決めることだ。五千円か一万円く らいが打倒であろう。 「もうしようがないわねえ。一度だけよ」 と許してあげても、おおっぴらには触らせない。ちょっとずつ、ちょっとずつであ る。相手をじらすことも肝要だ。 こうしたお金は全額自分のものとなり、店に拠出する必要はない。これが結構金に なるおこづかいとなる。 収入増はいかに上得意の常連客を集めるかにかかっている。 もう一つ大事なことは、客を楽しませ飽きさせない巧妙な会話術である。 例えば客の好みや趣味などを聞き出し、その事を話題にあげること。もちろん十分 な下調べや勉強も必要になる。客が車好きなら車の事を話し、切手収集が趣味なら切 手の話しをすることだ。 一度女装してみたいという客がいた。女装者達のドキュメンタリーを書いている記 者で、実際に自分で体験してみないと、本物の記事が書けないだろうということだっ た。彼がニューハーフ・バーに出入りしていたのも、女装者の体験談を集めていたの である。 まずは手始めに、自分の女装経験を話してあげた。はじめて女装して街を歩いた時 の気持ちなどである。そして、彼を店から連れ出して、女装会館へ連れて行ってあげ たのである。一人では恥ずかしくてできないことでも、経験豊富なものがついていて あげれば安心というものである。女装会館では、下着の選び方からはじまってドレス の借りだし、そして女装談話室での相手と、手取り足取り一緒に付き合ってあげた。 店の営業時間中に、客と一緒に外へ出る場合は、デート扱いとなり規定の時間ごと のデート料を支払わなければならないが、彼は快く承諾してくれた。なおデート料は 店と折半することになっている。 その後、彼は上得意の常連客となった。 わたしの懇切丁寧な対応が気に入ってくれたようだった。

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