性転換倶楽部/ある日突然に II page-6
女性化短編小説集「ある日突然に」より II
page-6 それから数日間。 従業員寮での生活は、みんなが店の仕事を終えて寝ている午前中に、出入りして用 をたしていた。もちろん女子寮に男子が出入りしては変に疑われるので、女装し管理 人に化粧してもらってである。店に出るための心の準備も兼ねていた。女装した状態 で、他人の前に出る勇気を培う為である。 マネージャーの言ったとおり、髪を整え化粧していると、女装しているとは誰にも 気づかれなかった。ランジェリーショップで下着を選んでいても、女子トイレで並ん でいても、そばにいた女性達はみんな、自分を同性としか見ていないらしく、何のも めごとも起きなかった。何せ高校時代から女装させられるほどの美形を誇っていたか ら、それなりの自信はあった。 ただ声だけはどうしようもなかった。男性としては高い方だが、明らかに女性とは 違うと判る。 ボイストレーニングをすることにする。本屋で小説を買って帰り、出来る限り高い 音を出すようにして朗読する。 今日までの生活費は、入店祝い金という形でマネージャーが出してくれていたが、 いつまでも好意に甘えているわけにはいかない。 傷もほとんど完治して痛みもなくなったので、店に出る決心をつけた。 マネージャーに連絡して今夜から出る事を伝える。 「ありがとうございます。やっと、決心してくださったのね。今夜時間前にお迎えに 行きますから、お部屋でお待ちになっていてください」 というわけでその夜の、従業員寮のロビー。 目の前に着飾った女性達が並んでいる。自分も衣装ケースにあったドレスを着てい る。 送迎バスが来るまでの合間を利用しての自己紹介である。 「ご紹介します。新しく入った『ひろみ』さんよ。みんな仲良くしてあげてね」 ひろみ、というのは店で使う源氏名である。マネージャーが名付けてくれた。 「よろしくお願いします」 マネージャーが一人一人を紹介していく。 「あらあ、さやはまだ付いているのね。でも、たまたまはしっかり取ってるのね」 いきなり一人が股間を触った。 「な、なにするんですか」 「大丈夫よ。ここのお給料は高給だし、支払いもしっかりしているから、手術代もす ぐにたまるわ」 「手術って?」 「まあ、とぼけちゃって。おちんちんを取って女のあそこを造る手術よ。球抜きして るくらいだから、もちろんやるんでしょ?」 彼女達にとって、おちんちんは忌み嫌うものでしかなく、一刻も早く取り払って、 性転換手術を行って、より真の女性に近づきたがっているようであった。 別の一人が言った。 「忠告しておくわ。たまたま取っちゃうとおちんちんや袋が縮んでくるけど、そうな らないように、毎日皮を引っ張って無理にでも伸ばすようにした方がいいわよ。手術 の日までね」 「皮を伸ばす?」 「そおよ。膣を造るのには、その皮が必要なの。だから皮が縮んじゃうと膣の内径や 長さが足りなくなる可能性があるわけ。そうなるとどこからか皮膚を移植したり、腸 の一部を切り取って代用するんだけど、術後があまり芳しくないのよね。だって皮膚 移植は取った箇所がケロイド状になったり、腸を使う場合は身体の中にあったものを 表に持ってくるんだもの完璧にはいかない。わかった?」 「う、うん」 そうこうするうちに送迎バスが迎えに来た。 ぞろぞろバスに乗り込む従業員達。 「さ、あなたも乗ってください」 マネージャーに促されてバスに乗る。 やがてバスはゲイバーに到着する。 「さあ、あなたの再出発よ。頑張りましょうね」 マネージャーがやさしく言ってくれた。 開店時間となった。 とにかく初心者で何も判らないので、ベテランのそばについて客の前に出る。 「君、はじめてなのかい?」 固くなっている自分を見て客が尋ねてきた。 「はい。今日がはじめてです」 「そうか、初々しいねえ。いいよ、きみぃ」 客も初心者ということで、やさしくしてくれている。 一人、また一人と、入れ代わりで客の接待が続く。 そんな中には、当然のように胸を触ってくる客もいる。 「なんだ作り物か、まあいいや。可愛いから許すよ。はやくお金を貯めてボインにす る手術するんだね」 こんな時は、騙されたと怒りだす客もいるそうだが、若くて可愛い初心者というこ とで大目にみてくれる。

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