性転換倶楽部/ドラキュラ X (六)新しい生活
(六)新しい生活 やがて同僚が戻ってくる。 ノックしながら、 「入っていいかい?」 と外から尋ねてくる。 自分の部屋なのに、わたしに気遣っているのである。 「はい。いいですよ」 ドアが開いて同僚が入ってくる。 「着替え終わったね」 確認したように言う。 そりゃまあ、女性なんだから……。 「ところで記憶は戻った?」 と言われても正直には答えられない。 首を横に振るしかないじゃないか。 「そ、そうか……」 折りたたみ式の卓袱台と座布団を取り出してくる。 向かい合って座る二人。 もちろんわたしは正座である。 あぐらなどできるわけがない。 というよりも無意識に正座してしまった感じ。 「煙草吸ってもいいよね?」 気を落ち着けるためにも、煙草を吸わないではいられないだろう。 「ええ、どうぞ」 おもむろに灰皿と百円ライターを卓袱台に置いて、煙草に火を点ける。 しばらく無言の状態が続いた。 着替えを終え、化粧も施してすっかり女性になってしまったわたしに見惚れている 感じだった。 悪い気はしない。 「ねえ、もし君さえ良ければずっとここにいてもいいよ。あ、もちろん記憶が戻るま でだけど」 行く宛てのないわたしには、そうしてもらうと助かる。 「ありがとうございます。いつ記憶が戻るか判りませんけど……お世話になります」 「うん。遠慮しなくていいからね」 やさしい性格なのは知っている。 下心からではなく真剣にわたしのことを思っているはずだ。 しかし記憶喪失は嘘偽りである。 このままずっと一緒に生活をしていくことになりそうである。 なぜか楽しい気分になるわたしだった。 その日から奇妙な同居生活がはじまった。 同居させてもらっている以上、わたしは彼の身の回りの世話をすることにした。 部屋の掃除、衣類の洗濯。 そして彼のために食事をすることも。 通常勤務の朝には、朝食を作ってから眠っている彼をやさしく起こしてあげる。 「あなた、朝ですよ」 まるで新婚家庭の朝の日常に近いだろう。 「ああ……。おはよう」 目を擦りながら起きた彼の着替えを、新妻よろしく手伝う。 そして仲良く卓袱台を囲んで、一緒に朝食を食べるのであった。 そんな仲睦まじい生活が続いている。 非番の日には、二人で並んで外を歩いたり、二人が生活するのに必要な品物を一緒 に買い揃えたりした。 まるで夫婦だった。

« 家族の思い出 | トップページ | 銀河戦記/鳴動編 第二十一章 タルシエン要塞攻防戦 IV »
「性転換・女性化」カテゴリの記事
- 性転換倶楽部/性転換薬 XX(十二)お化粧(2019.05.27)
- 性転換倶楽部/性転換薬 XX(十一)生理(2019.05.23)
- 性転換倶楽部/性転換薬 XX(十)染色体XX(2019.05.22)
- 性転換倶楽部/性転換薬 XX(九)順調に転換中(2019.05.21)
- 性転換倶楽部/性転換薬 XX(八)アダムのリンゴ(2019.05.20)
コメント