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2018年8月

2018年8月31日 (金)

性転換倶楽部/ドラキュラ X(七)欲情

(七)欲情

 しかし、わたしの記憶が戻ったことを考えて、彼はわたしに触れることは一切しな
かった。
 恋人がいたり人妻だったりしたら、取り返しのつかないことになるからである。
 床に就いたとき、となりには艶かしい女性が横たわっている。
 どんなにか欲情に駆られてしようがなかったに違いない。
 警察官としての理性が押しとどめていた。
 手を触れれば、さらに胸を触りたくなる、そして行き着くところは……。
 だから極力接触を避けるのは当然であろう。
 それがどんなに辛いことかは理解に容易い。

 わたしには恋人もいなければ、人妻でもない。
 結ばれるには何ら障害はないのだが、万が一のこともある。
 元の身体に戻ってしまうということも考えられるからだ。
 今の女性の身体は一時的なもの。
 将来どうなることかはまったく判らないことだった。
 だからわたしの方も遠慮していた。

 そんな夫婦のような生活が続いていた。
 ある夜のことだった。
 いつものように身体を少し離して並んで寝床に寝ていた。
「あ、熱い……」
 身体が異様に火照っていた。
 股間がむず痒くてしようがなかった。
 無意識にその秘部を指でなぞるようにいじっていた。
 さらに指を差し入れていく。
 しかしそれでは収まらなかった。
 女性器が受け入れるべきものを欲している。
 そんな感じだった。
 隣に眠る彼の姿が目に入る。
 この性欲に渇いた身体を癒してくれるのは彼しかいない。
「あ、あなた……」
 彼を揺すって起こしに掛かる。
「うん……。なんだ」
 眠たそうに目を開けた。
「お願いです。抱いてください」
 突然の誘いに驚く彼。
 自分自身ですら、そんな言葉が出るとは思わなかった。
「な、なにを言っているんだ」
「愛しているんです。これ以上、他人行儀なままはいやなんです」
「言っている意味が判っているのか」
「わたしをあなたの本当の妻にしてください」
 無意識に言葉となって口から発せられていた。
 いいながら、さらに彼に迫っていくわたし。
「本気なのかい?」
「はい。もう過去は捨てます。一生あなたについて行きます」
 そんなことを言われ迫られては、男なら誰だって落ちる。
「い、いいんだね」
「あなたしかいなんです」
 垣根の取り払われた彼からは、理性は完全に失われたと言っていいだろう。
 わたしの上に覆いかぶさってくる。
 ネグリジェを脱がされ乳房に触れられる。
 もはや遠慮はいらない。
 さらにブラジャーやショーツを脱がされて丸裸にされてしまった。
 彼もパジャマを脱いで被さってくる。
 わたしの両足を開いて割り入ってくる。
「ほんとうにいいんだね」
 最後の確認。
 こっくりと頷くと、ゆっくりと腰を沈めてきた。
 わたしの中に彼が入ってくる。
「あ、ああ。あなた……」
 自分が女性であることを改めて再認識させられた瞬間であった。
 彼のものが根元まですっぽりと食い込んでいた。
 完全に一体化する二つの身体。
「これであたし達、ほんとうの夫婦になったのね」
「ああ……」
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2018年8月30日 (木)

銀河戦記/鳴動編 第二十一章 タルシエン要塞攻防戦 IV

第二十一章 タルシエン要塞攻防戦

                 IV  敵艦隊旗艦艦橋。 「敵艦隊、ミサイルを発射しました」  フレージャー提督が即座に呼応する。 「迎撃ミサイル発射!」  一斉に放たれる迎撃ミサイル群。 「ミサイルの後方に高熱源体! 大型ミサイルです。それも駆逐艦並みの超大型!」  急速接近するミサイルの後方から大型ミサイルが向ってくる。 「迎撃しろ! 粒子ビーム砲!」  ミサイルでは迎撃できないと判断したフレージャーは、破壊力のある粒子ビーム砲 照射を命じた。超大型ならば当然の処置である。  艦隊から一斉に大型ミサイルに向って照射される粒子ビーム砲。  しかしビームはミサイルの前方で捻じ曲げられてかすりもしなかった。 「歪曲場シールドか!」 「まさか! 歪曲場シールドはまだ実験段階です」 「それを完成させているんだよ。敵は!」  次ぎの瞬間、ミサイルが消えた。 「ミサイルが消えました!」 「なんだと! どういうことだ?」  タルシエン要塞の中央コントロール室側でも驚きの声を上げていた。 「ミサイルが消えました!」 「なんだと!」  その途端、爆発音が轟き激しく揺れた。  立っていた者は、その衝撃で吹き飛ばされるように壁や計器類に衝突し、床に倒れ た。 「どうした。何が起きた?」  倒れていた床からゆっくりと立ち上がりながら尋ねる司令。  しかし、それに明確に答えられるものはいなかった。 「ただ今、調査中です!」 「要塞内で爆発!」 「レクレーション施設です!」 「火災発生! 消火班を急行させます」 「どういうことなのだ」 「おそらく先程消失したと思われたミサイルがワープして来たものと思われます」 「なに! こんな至近距離をワープできるのか」 「間違いありません。ミサイルは守備艦隊の目前でワープして、要塞内に再出現しま した」  二点間を瞬時に移動できるワープエンジンだが、一光年飛べる性能はあるものの、 視認できるほどの至近距離へのワープは不可能とされていた。  物体には慣性というものが働くことは誰でも知っている。動いているものは動き続 けようとするし、止まっているものは止まり続けようとする。前者は機関が静止しよ うとする時の制動距離となって現れるし、後者は静止摩擦という力となっている。  早い話が、ジャンボジェット機で滑走路の端から全速力で飛び立ち、すぐさま滑走 路のもう片端に着陸静止することは不可能ということである。おそらくオーバーラン してしまうだろう
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2018年8月29日 (水)

性転換倶楽部/ドラキュラ X (六)新しい生活

(六)新しい生活

 やがて同僚が戻ってくる。
 ノックしながら、
「入っていいかい?」
 と外から尋ねてくる。
 自分の部屋なのに、わたしに気遣っているのである。
「はい。いいですよ」
 ドアが開いて同僚が入ってくる。
「着替え終わったね」
 確認したように言う。
 そりゃまあ、女性なんだから……。
「ところで記憶は戻った?」
 と言われても正直には答えられない。
 首を横に振るしかないじゃないか。
「そ、そうか……」
 折りたたみ式の卓袱台と座布団を取り出してくる。
 向かい合って座る二人。
 もちろんわたしは正座である。
 あぐらなどできるわけがない。
 というよりも無意識に正座してしまった感じ。
「煙草吸ってもいいよね?」
 気を落ち着けるためにも、煙草を吸わないではいられないだろう。
「ええ、どうぞ」
 おもむろに灰皿と百円ライターを卓袱台に置いて、煙草に火を点ける。
 しばらく無言の状態が続いた。
 着替えを終え、化粧も施してすっかり女性になってしまったわたしに見惚れている
感じだった。
 悪い気はしない。
「ねえ、もし君さえ良ければずっとここにいてもいいよ。あ、もちろん記憶が戻るま
でだけど」
 行く宛てのないわたしには、そうしてもらうと助かる。
「ありがとうございます。いつ記憶が戻るか判りませんけど……お世話になります」
「うん。遠慮しなくていいからね」
 やさしい性格なのは知っている。
 下心からではなく真剣にわたしのことを思っているはずだ。
 しかし記憶喪失は嘘偽りである。
 このままずっと一緒に生活をしていくことになりそうである。
 なぜか楽しい気分になるわたしだった。

 その日から奇妙な同居生活がはじまった。
 同居させてもらっている以上、わたしは彼の身の回りの世話をすることにした。
 部屋の掃除、衣類の洗濯。
 そして彼のために食事をすることも。
 通常勤務の朝には、朝食を作ってから眠っている彼をやさしく起こしてあげる。
「あなた、朝ですよ」
 まるで新婚家庭の朝の日常に近いだろう。
「ああ……。おはよう」
 目を擦りながら起きた彼の着替えを、新妻よろしく手伝う。
 そして仲良く卓袱台を囲んで、一緒に朝食を食べるのであった。
 そんな仲睦まじい生活が続いている。
 非番の日には、二人で並んで外を歩いたり、二人が生活するのに必要な品物を一緒
に買い揃えたりした。
 まるで夫婦だった。
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家族の思い出

インターポット

強制退会前の家族オールインの記憶を残します。

退会処理を確認した後に、アップする予定でしたが……。

どうやら続けられそうなので、本日にご開帳です(*^^)v


                                                       
理恵子 長男・しっかり者
家族のまとめ役
長女・優しい娘
妹思いの世話役
次男・食いしん坊
いつも腹を空かせている
次女・甘えん坊
姉といつも一緒
妹ママ 長女・エリカちゃん?
という噂もチラホラ
次女・音楽好き
小学校先生希望
妹夫 おじいちゃん おばあちゃん
プレシオサウルス、織姫、彦星、他大勢
       
部屋1
部屋2

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2018年8月28日 (火)

銀河戦記/鳴動編 第二十一章 タルシエン攻防戦 III

第二十一章 タルシエン要塞攻防戦

                III  その一時間前のサラマンダーでは、ウィンザー少佐が作戦始動を発した。 「大佐、時間になりました。艦隊を前進させてください」 「わかった。パティー、全艦微速前進だ」 「はい。全艦微速前進!」  ゆっくりと前進を開始する第十七艦隊。 「本隊の目的はわざと敵に位置を知らしめすことで、別働隊の動きを隠蔽することで す」  時折、時刻を確認しているパトリシア。  寸秒刻みでの綿密なる計画が動き出したのだ。一秒たりとも時間を間違えてはなら なかった。 「ミサイル巡洋艦を前に出しましょう。ミサイルによる遠距離攻撃を行います。位置 に着いたら全艦発射準備」 「了解」  オペレーターが指令を伝達すると、ゆっくりとミサイル巡航艦が前面に移動を始め た。  艦隊の再配置が完了した頃、敵艦隊が動き出したとの報が入った。  正面スクリーンに投影された要塞を背景にして、敵第十七機動部隊が向かってくる。 「誘いの隙に乗ってきました」  フランソワが嬉しそうに言った。 「輸送艦ノースカロライナとサザンクロスに伝達。ハッチを解放し、係留を解いて積 み荷を降ろしてください」  サラマンダーの両翼に並走していた二隻の輸送艦からゆっくりと積み荷が降ろされ ていく。それは駆逐艦なみの大きさをもつ次元誘導ミサイルだった。チェスター大佐 が大事に護衛してきた代物。  アレックスが少佐となり、独立遊撃部隊の司令官に任命された時、フリードに開発 生産を依頼していた、本作戦の成功の鍵を握る秘密兵器。  極超短距離ワープミサイルだった。  戦艦三十隻分ものテクノロジーの詰まった、一飛び一光年を飛ぶことのできる戦艦 で、ほんの数メートル先にワープするという芸当のできる究極のミサイルだ。 「別働隊から連絡はありませんか?」 「ありません」 「そう……では、作戦は予定通り進行しているということ」  作戦指揮を任されているパトリシア少佐が進言した。 「大佐。次元誘導ミサイル一号機、発射準備です。反物質転換炉や核融合炉などの重 要施設は攻撃目標からはずします」 「わかった。ノースカロライナに伝達。次元誘導ミサイル一号機、発射準備」 「次元誘導ミサイル一号機、目標は要塞上部、レクレーション施設」  艦橋正面のパネルスクリーンに、ノースカロライナの下部ハッチから懸架された、 次元誘導ミサイルが大写しされ、表示された各種のデータが目まぐるしく変化してい る。戦艦三十隻分のテクノロジーが満載された超大型次元誘導ミサイルだ。要塞攻略 の成否の鍵を握る貴重な一発である、発射ミスは許されない。  そして攻撃目標を正確に表示する要塞詳細図面は、連邦の軍事機密をハッカーして 得られたものである。要塞のシステムコンピューターは、完全独立してアクセス不能 ではあるが、要塞を造成した連邦軍事工場のコンピューターに残っていたというわけ である。 「次元誘導ミサイルの最終ロックを解きます」 「慣性誘導装置作動確認。燃料系統異常なし。極超短距離ワープドライブ航法装置へ データ入力」 「攻撃目標、ベクトル座標(α456・β32・γ167)、距離百十三万二千三百五キロ メートル」 「発射カウントダウンを六十秒にセット。三十秒前までは五秒ごとにカウント。その 後は一秒カウント」 「了解。カウントを六十秒にセットしました。三十秒前まで五秒カウント、その後は 一秒カウント」 「ミサイル巡航艦に伝達。次元誘導ミサイル発射十秒前に、全艦ミサイル一斉発射」 「ミサイル巡航艦、全艦発射体制に入りました」 「よし、カウントダウン開始」 「カウントダウン開始します。六十秒前」 「五十五秒前、五十秒前……」 「次元ミサイル、ロケットブースター燃料バルブ解放」 「三十秒前、二十九……二十」 「次元誘導ミサイル、燃料加圧ポンプ正常に作動中」 「十九、十八……十」 「巡航艦、全艦ミサイル発射」  先行するミサイル巡航艦隊から一斉発射されるミサイル群。 「次元誘導ミサイル、最終セーフティロック解除。発射準備完了」 「九・八・七・六・五・四・三・二・一」 「次元誘導ミサイル、発射!」  すさまじい勢いで後方に噴射ガスを吐き出しながら、ゆっくりと加速を始める次元 誘導ミサイル。 「ロケットブースター正常に燃焼・加速中」  加速を続けながら要塞に向って突き進んでいる。 「敵艦隊、さらに接近!」 「後退します。敵艦隊との間合いを保ってください」 「全艦、後退しろ!」  カインズの下令に応じて、ゆっくりと後退をはじめる艦隊。 「それにしても、弾頭は通常弾ですよね。核融合弾を搭載すれば一発で要塞を破壊で きるのに。せっかくの次元誘導ミサイルなのに……何かもったいない気がします」 「要塞を破壊するのが目的ではありませんから。破壊は許されていません」 「判ってはいますけどね」
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2018年8月27日 (月)

性転換倶楽部/ドラキュラ X (五)今後

(五)今後

 眠れぬ夜が明けた。
 いつまでも布団に潜っているわけにもいかない。
 裸のままではいられないので、同僚の箪笥から適当に衣服を探し出して着ることに
する。
 この女性の身体に男性用の衣服を着るのは、いささか抵抗があるが他には着るもの
はない。
 上手い具合にトレーニングウェアがあった。
 これなら女性が着ても大丈夫だろう。
 しかし変な気分だ。
 どうもしっくりこない。
 その原因は男性用の下着であった。
 女性として男性の衣服を着ることに違和感を覚えているのであった。
 いつの間にか女性的な心境になっている自分に驚いている。
 このまま時が経てば、身も心も女性に成りきってしまうのではないだろうか。
 そんな感じがした。

 同僚が戻ってきたのは、その日の午後六時だった。
 本来なら正午前には帰ってこれたはずだが、警察官失踪ということで一悶着があっ
たに違いない。
 やれ報告書だの、失踪した警察官の捜索だのと、てんてこまいだったのだろう。
「ああ、ちゃんといてくれたんだね。もしかしたらどこかへ行っちゃってるかもと心
配してたんだ」
 そりゃあ、着るものがあれば出ていったかも知れないけど……。
 それにどこへ行けばいいというのだ。
 今の自分にどこにも行く宛てはない。
「僕の服を着てたんだ」
「すみません」
「いいんだよ。ああ、これ……。君のために買ってきたんだ」
 と紙袋から取り出したのは……。
 ブラジャーやショーツなどの下着類。
 そしてスカートやらブラウス、そしてワンピース。
 靴や鞄、そして化粧品もあった。
 女性として必要な一揃いのものがあった。

 なんだ。
 帰りが遅かったのはこれを買い揃えていたのか。
 男性が女性用の品々を買うには相当の勇気がいったことであろう。
 買い物客の女性達から奇異な眼差しを受けながら、ブラジャーを手に取りレジに向
かう。
 冷や汗をたらたら流しながら買い物を続ける男が一人。
 そんな情景を思い浮かべて、つい噴出しそうになるわたし。
 わたしのためにこんなにしてくれるなんて……。
 心が動かされた。

「ありがとうございます」
 素直にお礼を述べる。
「い、いや。そのままじゃあ、外にも出られないからね。サイズを聞いてなかったか
ら、ぴったりというわけにはいかないだろうけど、標準的なサイズだから大丈夫だと
思う」
 ご好意に甘えて、さっそくそれらの衣服に着替えることにする。
 違和感のある男性用を着ているわけにはいかない。
「ちょっと煙草でも買ってくるよ」
 と、気を利かせて外へ出て行く同僚。
 女性が着替えをするのに、一緒にはいられないからだろう。
 トレーニングウェアやパンツなどを脱いでいく。
 男性用衣料を脱ぎ去ってほっとするのは、すでにすっかり女性心理になっている証
拠であろう。
 ショーツを手に取る。
 ゆっくり片足ずつ足を通してそれを履く。
 女性であるその部分を覆い隠し、吸い付くようにぴったりとおさまった。
 なんか安堵する自分だった。
 やはりこっちの方がしっくりとした感じがあって気持ちが良かった。
 なぜそう感じるかが不思議であったが……。
 さらにブラジャーを身に着けることにする。
 豊かな乳房をやさしく包む、女性だけが必要とするもの。
 ストラップに腕を通して、カップに乳房を納め、背中のホックを止める。
 これもぴったり合っていた。
 きれいにカップの中に納まり、きれいな胸の谷間を形作っていた。
「まんざらでもないわね」
 実に不思議だった。
 女性衣料を身に着けたせいだろうか、すっかり女の子気分になっていた。
 迷うことなくブラウスを着込み、スカートを履いた。
 ワンピースもあったが、自分の趣味に合っていなかったから、着る気分にはなれな
かったのだ。
 化粧に取り掛かることにする。
 ふんふんふん。
 鼻歌交じりで楽しそうに化粧をするわたし。
 しかも化粧などしたことないはずなのに、手際よく化粧をしている自分に驚いた。
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2018年8月26日 (日)

銀河戦記/鳴動編 第二十一章 タルシエン攻防戦 II

第二十一章 タルシエン要塞攻防戦

                 II  艦橋。  モニターに、アレックス達の乗るミサイルが重爆撃機に取り付けられていく様子が 映し出されている。 「まるで人間魚雷ですね」  副指揮官のリーナ・ロングフェル大尉が感想を述べた。 「まあね、元々は次元誘導ミサイルの筐体だから。総括的な作戦立案は、ウィンザー 少佐でしょうけど、この人間魚雷だけは提督のアイデアということ」 「そうですね。だからこそ提督自ら乗り組んでいるのでしょう。そうでなきゃ誰も志 願などしないでしょう」 「成功すれば特進が約束されているとはいえ……」 「噂では、提督はこの日のために士官学校時代から、ウィンザー少佐と作戦を練られ ていたとか」 「まあね……」  士官学校よりの信頼関係にあるジェシカとて、およその概要の説明を受けていたと はいえ、いつどこで作戦が発動されるかといった詳細はアレックス以外にはパトリシ アとレイチェルしか知らない。  ハード面においては、フリード・ケースンを開発中心として、次元誘導ミサイルの 開発生産、特殊中空ミサイルの製作と綿密周到な射撃訓練。ソフト面では、レイチェ ル・ウィングを連絡係りとして、ジュビロ・カービンとレイティ・コズミックらによ ってコンピューターシステムの乗っ取りが計画された。 「すべては、今日のために仕組まれていたとはいえ……」  それぞれは単独では何ら意味をなさないが、こうして組み合わされてはじめて、そ の意味の真相が明らかとなる。アレックスがパトリシア以外に詳細を明かさなかった のも、作戦立案から発動までに至る間、外部に情報が漏れるのを危惧したせいである。 「ま、夫婦士官で秘密もないだろうからな」 「少佐、時間です」 「ふむ」  艦内放送のマイクを取るジェシカ。 「諸君良く聞け。作戦は、ハリソン少佐率いるセラフィムからの第一次攻撃隊、続い てカーグ少佐率いるセイレーンからの第二次攻撃を敢行する。第一攻撃隊は、要塞手 前 0.8宇宙キロの地点にワープアウトすると同時に、艦載機は全機発進。総攻撃を敢 行する。目標は要塞砲台、ミサイル弾薬を間断なく発射し、一撃離脱でそのまま駆け 抜けて戦線を離脱する。一分一秒足りとも要塞宙域に留まることのないように。  続いて第二次攻撃隊は、提督の乗り込む重爆撃機の護衛しつつ、合図を待て!  敵守備隊は、我等が本隊を迎撃すべく要塞から離れつつある。その間隙をついて攻 撃するのだ」  作戦の概要が確認される。 「全艦発進!」
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2018年8月25日 (土)

妖奇退魔夜行/蘇我入鹿の怨霊 其の陸

陰陽退魔士・逢坂蘭子/蘇我入鹿の怨霊 其の陸(土曜劇場)

(陸)葬式  阿倍野女子高では、自校の生徒が被害にあったことを受けて、父兄を加えた全校集会が 講堂で行われた。  警察からの捜査状況を受けて、父兄や生徒達への注意伝達事項が、壇上の校長から発表 された。  殺人犯が明らかになるまでの間、放課後の即時帰宅とクラブ活動の自粛など。 「うそー!」 「なんでやねん!」  などという女子高生達のブーイングが広がる。 「犯人が見つかっていないんだからしょうがないじゃん」  極力保護者が送り迎えするようにとの要望も加えられた。 「いっそ、休校にしてほしいわね」 「賛成!」  その中にあって、一年三組の生徒達の面持ちは暗かった。  さもありなん、被害者の中にクラスメートの金城聡子が含まれていたからである。しか も犠牲者第一号であった。  数日後。  金城聡子の自宅にて厳かに葬式が執り行われた。 「ご愁傷さまでした」  お決まりの挨拶が交わされ、淡々と式は進行してゆく。  蘭子達も、高校の制服姿で参列している。  冠婚葬祭いずれにも着用できる、万能な高校制服は便利なものだ。  蘭子にも焼香の順番が回ってくる。  陰陽師という職業柄、何度も死体と出くわし、経験を積み重ねているので、感慨無量と いう観念からは解脱している。  たとえそれが同級生であってもである。  北枕に据えられた遺体の胸元辺りには、守り刀と呼ばれる模造刀が、足元に刃先を向け るようにして置かれている。  模造刀なのは銃刀法からである。  一般的に仏教では人は死後、四十九日かけてあの世へと到達し、成仏(仏に成る)する とされている。  そして死後から仏に成るまでの存在を「霊」と位置付け、中途半端で迷いの存在と位置 付けられている。  元々仏教には遺体をケガレた(汚れ・気枯れ)存在とする風潮はなかったが、遺体をケ ガレたものとして忌み嫌う神道の影響を受け、中途半端で迷いの存在である霊の期間を、 ケガレた存在と見るようになった。  その為死者のケガレが生者に害を及ぼさないように、或いは死者のケガレが更なる外的 なケガレ(悪鬼・邪気)を呼ばないようする為の手段として、「守刀」が置かれるように なった。  その他にも  ・邪気を払う (特に猫は遺体をまたぐと化け猫になると信じられていた為、光り物を置いて、動物が近 づくのを防いだ。)  というのもある。  ・鉄により死者の肉体に魂を沈める (死者のケガレた魂が生者に乗り移ったり、祟を防ぐ為)  蘭子は思う。  自分自身が死亡し、葬儀の対象となった時は、あの御守懐剣「長曽弥虎徹」を守り刀と されることを祈ろう。  なお浄土真宗においては、人は死後に阿弥陀様のお力により、即座に成仏すると言われ ている(即身成仏)。  その為、あの世までの道中のお守りとしての守刀や、上記のような土着信仰から来るケ ガレがケガレを呼ぶ風習の一切を否定しており、守刀は不要である。  同じ理由で死装束(旅支度)や野膳(道中のご飯)、また会葬者が塩を使って身を清め るなどの行為も不要。
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2018年8月24日 (金)

性転換倶楽部/ドラキュラ X (四)同僚と共に

(四)同僚と共に

 深夜の街中を走り抜けるバイク。
 警察官とどうみても女性にしか見えない警察官の二人乗り。
 やがてとあるアパートの前に停車する。
「僕のアパートさ」
 自分の部屋へと案内する。
 誰かに見られないだろうかと、緊張しているようだった。
 二階の1DKの一室。
 それが同僚の住まいだった。
「狭いけどさ。我慢してくれないか」
 と言いながら押入れを開けて、布団を取り出して敷いていく。
 時間的に一般市民はぐっすり就寝中である。
「今日はここに泊まっていってくれ。明日、どうするか一緒に考えよう」
 わたしの記憶がないということで、同僚としては最良の判断をしたのであろう。
「じゃあ、僕は勤務があるから戻るね」
 そう言うと、わたしを残して外へ出て行った。
 ドアの鍵を掛ける音、階段を降りる足音、そしてバイクのエンジン音。
 やがて静かになった。
 これから同僚は、どうするつもりだろうか。
 どう考えても……、警察官の失踪という事実は間違いないことである。
 しかもそばにいた女性を匿うように自分のアパートに連れて来た。
 本署に連絡するには違いないが、おそらくわたしのことは伏せておくのではないだ
ろうか。

 そしてわたし自身のことである。
 もはや以前の警察官として生きることはできない。
 この女性の身体をして、生涯を女性として過ごすしかないのだろうか?
 元に戻る可能性は?

 いくら考えようとしても先が見えなかった。
 取りあえずは夜が明けたら、同僚が出かけに言ったように二人で考えるしかないよ
うだ。
 着ていた制服を脱ぎ、裸のままで、同僚が敷いてくれた布団に潜り込む。
 目が冴え切っていてとても眠れたものではなかったが、せめて横になっていれば多
少は身体の疲れくらいは取れるだろうと思った。
 外の明かりに照らされて薄暗い部屋が微かに浮かび上がっている。
 目が暗がりに慣れるに従って天井の染みまでもが見えてくる。
 これからどうなるのかな……。
 もしかしたら、同僚とずっと二人で暮らしていくことになるのではないだろうか。
 同僚がやさしい性格で困った人を見れば手を貸さないではいられないことは良く知
っている。
 そして記憶喪失の女性を匿ってしまった。
 おそらく記憶が戻るまではここに住まわせるつもりではないだろうか。
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2018年8月23日 (木)

銀河戦記/鳴動編 第二十一章 タルシエン要塞攻防戦 I

第二十一章 タルシエン要塞攻防戦

                  I  一方のランドール率いる別働隊の第六突撃強襲艦部隊と第十一攻撃空母部隊。準旗 艦セイレーンでは、着々と作戦準備が進行していた。  その艦載機発進デッキ。  ひときわ大型の重爆撃機が羽を広げて、発進準備に入っていた。  そのすぐ真下には、重爆撃機に搭載される大型ミサイル。  ミサイルの胴体が二つに割れており、炸薬と推進剤の替わりに詰められた緩衝材の 一部に人間が丁度入れるくらいの空洞が多数空いていた。  すぐそばには、船外用の宇宙服を着込み、左手小脇にヘルメットを抱え、右手でチ ューブに入ったペースト状の宇宙食を食べているアレックスが、ミサイルの装着作業 を見つめていた。 「どうせなら君の開発した次元誘導ミサイルが利用できれば、もっと楽に事を運べる のだがな」  そばで最後のチェックを入れている技術将校のフリード・ケイスン少佐に尋ねた。 「それは不可能です。あれには生命を運ぶ能力はありません。肉体的・精神的に完全 に破壊されてしまいます」 「だろうな」  パイロット控え室では、天才ハッカーのジュビロやレイティが、手助けを受けなが ら宇宙服を着込んでいる。一緒に出撃するその他の乗員はすでに準備を終えて、ベン チに腰掛けて待機している。  この作戦に初顔として参加するジュビロに、疑心暗鬼する乗員達であるが、アレッ クスの肝いりということで、信じるよりなかった。 「提督。敵守備艦隊が前進をはじめました。味方艦隊との間合いを縮めようとしてい るようです」  艦橋のジェシカから連絡が入った。 「作戦通りだな。乗員を集合させろ」  すぐさまに乗員が召集される。  もちろんジュビロもその一人に含まれている。  そして、一人一人にシャンパンが渡される。 「諸君。この作戦任務に志願してくれたことに感謝する。失敗すれば生きて帰ってこ れぬかも知れぬが、これを成功させなければ明日の共和国同盟はないだろう。できう る限りの算段はしてあるから、与えられた任務を忠実に遂行して欲しい。我らに赤い 翼の舞い降りらんことを!」  グラスを捧げ乾杯するアレックス。 「赤い翼の舞い降りらんことを!」  全員が一斉に乾杯を挙げ、飲んだグラスを床に叩き付けた。  この作法は、グラス(杯)を割る→二度と乾杯のやり直しはできない→後戻りしな い、決死の覚悟で出陣するぞという意思表示である。 「よし、全員乗り込め」  宇宙服に身を包んだ隊員達がミサイルの空洞部分に乗り込もうとしている。 「しかし、本当に大丈夫なんでしょうねえ。心配ですよ」  レイティーが心配そうな顔をしている。 「ダミー実験を繰り返して、乗員の安全度は保証されている。問題があるとすれば目 標に無事到達できるかだ」  フリード少佐が答えた。 「というと、このミサイルを発射する射手の力量にかかっているというわけですね」 「そうだ」 「で、その射手は誰ですか?」  人だかりをかき分けて進み出た人物がいた。 「わたしだよ」  第十一攻撃空母艦隊の中でも、三本の指に入る射撃の名手、ジュリー・アンダーソ ン中尉である。 「アンダーソン中尉!」 「中尉は重爆撃機乗りでは一番の腕前だ。このミサイル発射には寸部の狂いも許され ない。よって自動誘導発射にたよることはできない。ミサイル発射のタイミングは、 中尉の神業ともいうべき絶妙の反射神経が必要とされるのだ。そして、ミサイルを搭 載する重爆撃機の操艦を担当するのが、やはり撃墜王のジミー・カーグ少佐である」 「ハリソンと並び称される撃墜王のお二人が?」 「これで少しは諸君らも安心できるだろう」 「まあ、多少はねえ……」 「と納得したところで、出発するとするか。密封しろ」 「はい」 「提督、お気を付けて」 「うむ。」  するすると二つの胴体が合わされていく。  鈍い音とともに完全なミサイルとなる。 「よし、装着しろ。慎重にな」  整備員が寄り集まってきて、ミサイルを重爆撃機の下部に装着する。 「作戦開始五分前。総員戦闘配備につけ」  艦内放送が響きわたった。  戦闘機に搭乗するパイロット。それを支援する整備員達の慌ただしい動き。 「いいか、ワープアウトと同時に出撃する。全機エンジン始動!」 「エドワードの隊は、重爆撃機の護衛が主任務だ。絶対に落とさせるな、提督が乗っ ておられるんだからな」 「了解」
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2018年8月22日 (水)

性転換倶楽部/ドラキュラ X (三)変身

(三)変身

 それから何時間経っただろうか。
 仮眠所の壁に掛けられた時計が十二回乾いた音を響かせた。
「十二時か……」
 部屋を見回してみる。
 あの女性はいなかった。
 まるで夢のような気分。
 ゆっくりと立ち上がる。

 何かおかしい。

 床にズボンとパンツが落ちている。
 なんだ。下半身裸じゃないか。
 パンツを拾って履こうとするが……。

 な、ない!

 股間にあるべきものがなかったのである。
 驚いて手を当ててみる。
 やはりそれは無くなっていた。
 ぬっぺりとしたその部分にあるのは……。

 まさしく女性器の何ものでもなかった。

 う、嘘だろう?
 上着も脱いで裸になる。
 現れたのはたわわに揺れる立派な乳房だった。
 まさしく天変地異が起こったような衝撃を受けてしまう。
 茫然自失状態になるわたしだった。

 女性になってしまった。

 それは疑いのない事実のようだ。
 思い起こしてみる。
 そういえば、あの女性も元は男だったと言っていた。
 意気投合した女性と抱き合ったあとに変身してしまったと。
 同じことがわたしの身にも起きてしまったというのか?

 外でバイクのエンジン音がした。
 交代の警察官が来たようだ。
 仮眠所に入ってくる。
「き、君は?」
 裸でいる女性を見て驚く同僚。
 当然だろう、ここは駐在所である。
 こんなことはあるまじき光景。
 きょろきょろと周りを見回している。
「ここにいた警察官はどこにいますか?」
 まさか自分だと言っても信じてはくれないだろう。
 しかしそうなると脱ぎ捨てられた警察官の制服を説明できなくなる。
 そして目の前に裸の女性。
 警察官が女性の身ぐるみ剥いで、制服を脱ぎその女性の衣服を着て出て行ったとい
う、変態的な考えに行き着くしかない……。
「ま、まさかな……」
 同僚は不可思議な光景に頭を悩ましていた。
「と、とにかく、そのままじゃまずいよ」
 そう……。
 駐在所に裸の女性などいてはならないのだ。
「と、取りあえず。その警察官の服を着てくれないか」
 裸のままでは話をすることもできないところか。
 それ以前に理性を抑えきれなくなるだろう。
 わたしは黙って頷いて、警察官の制服を着込む。
 自分が着ていたはずの制服だったが、ぶかぶかで大きすぎだった。
 どうやら身体のサイズも小さくなってしまっているようだった。
「それじゃあ、住所と名前を聞かしてくれないか。送ってあげるよ」
 と言われても答えられるわけがなかった。
 自分の住んでいる所は警察の独身寮である。
「記憶がないんです」
 そう答えるしかなかった。
「記憶がない?」
「はい。気がつくとここに裸でいたんです」
「ここにいた警察官は知りませんか?」
「いいえ」
 静かに首を横に振るしかない。
「そうですか……。しかし困ったな」
 本署に連絡しようかどうかと悩んでいるようだった。
 連絡すれば事件となる。
 警察官失踪。
 脱ぎ捨てられた制服と謎の裸の女性。
 報道雑誌が飛びついてくる好材料であろう。
「僕の家に来ませんか?」
 同僚は悩みぬいた末にそう尋ねてきた。
 しばらく自分の家に住まわせて記憶が戻るのを待とうという考えなのだろう。
 わたしとて行く宛などない。
 黙って頷く。
「じゃ、じゃあ……」
 といって予備に置いてあるヘルメットを手渡しながら、
「悪いけど、バイクしかないんだ。そのヘルメット被って後ろの座席に乗ってくれ」
 同僚のバイクは、125ccの小型二輪。税法上で言うなら第二種原付である。
 一応二人乗りは可能である。
 仮眠所を出て表に出る。
 幸いにも時間的に人通りはほとんどない。
 このぶかぶかの警察官の制服を着た女性の姿を見られれば問題となるところだった。
 同僚が先にバイクに跨ってエンジンを掛け、続いて後ろの座席に自分が座る。
「こういうふうにさ、僕のお腹を抱くようにして掴まってくれないか」
 と、ジェスチャーを交えて指示する同僚。
 それに従って、後ろから手を回して同僚のお腹のところで手を組んでしがみ付く。
「そうそう。じゃあ、出すよ」
 うしろのわたしを振り落とさないように、ゆっくりと慎重にバイクを発進させる同
僚だった。
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2018年8月21日 (火)

銀河戦記/鳴動編 第二十章 タルシエンへ VIII

第二十章 タルシエン要塞へ

                VIII  タルシエン要塞中央制御室。  要塞内に鳴り響く警笛。 「敵艦隊発見!」 「方位二○四、上下角三四。距離十七・八光秒」 「艦数、約七万隻」  次々と報告される戦況。 「どこの艦隊だ」 「第十七艦隊だと思われます」 「そうか、やっと到着というわけか……フレージャー提督を差し向けるか」 「しかし、フレージャー提督はランドールと相性が悪いですからね。毎回撤退の憂き 目に合わされています。今回はどうでしょうか?」 「ううむ……雨男というわけだな。そのとばっちりを受けて、こっちまで雨に降られ るのは御免だが……逆に発想すれば、ランドールの猛攻を交わして生き延びてきた運 の良い提督という言い方もできる。これまでどれだけの提督が全滅や捕虜になったか ……」 「なるほど、そんな考え方もできるんですね」 「よし。フレージャーに迎撃させろ」  共和国同盟軍第十七艦隊への迎撃命令を受けたフレージャー提督。 「なんでこうも、私にばかりお鉢が回ってくるんだ」  頭を掻きながら、指揮官席に腰を降ろす。  これで何度目の対戦だったかなと、指を折って数えている。 「フレージャー提督。今度こそ、これまでの仇を討つチャンスだと思います」 「だと良いんだがな。そもそものけちの付き始めが、あのミッドウェイ宙域会戦。ヤ マモト長官より預かった第一機動空母艦隊の主力旗艦空母を多数撃沈され、提督も四 名戦死し、ナグモ長官も自決した。その責任をとってミニッツ提督は、艦隊司令を降 りられたのだが……」 「アカギ・カガ・ヒリュウ・ソウリュウが撃沈。壊滅的というべき悲惨な状態でした ね。引責退任されたミニッツ提督にはもう少し現役で活躍されることを希望していた のですが。それにしても当時少尉だったランドールも今や准将、一個艦隊を率いるま でに昇進しています。たった数年でここまでくるなんて尋常ではありませんね」 「ミッドウェイ宙域会戦での功績による、前代未聞の三階級特進があるからな。その 後もカラカス基地奪取をはじめとして奇抜な作戦で同盟軍を勝利に導いてきた実績を 持っているからな。クリーグ基地攻略においても、シャイニング基地を放棄して第八 艦隊の援護に駆けつけた奴等に背後を突かれて、撤退を余儀なくされた」 「閣下も重傷を負われたのですよね」 「ああ、運がよかったのだ。ヨークタウンは辛くも撃沈を免れたものの帰還途中に機 関部に誘爆を生じて航行不能に陥った」 「そのヨークタウンも閣下が退艦したあとに、漂流中を敵ミサイル艦に撃沈されまし たね」 「何にしても、これが最後の戦いになるだろう。勝つにしても負けるにしてもだ」 「どういうことですか?」 「ランドール提督が、この要塞に対する攻略戦を仕掛けてくるということは、それ相 応の自信と覚悟を持ってのことだろう。これまでのランドールの攻略戦を分析すれば、 作戦途中での撤退などあり得なかった。カラカス基地攻略戦がその良い例だ。背水の 陣を強いての強行突入による軌道衛星砲の奪取から始まる劇的な幕切れ。今回もおそ らくは……」  と、その作戦を思い浮かべようとするフレージャー提督。 「だめだな。私のちんけな脳細胞では、ランドールの考えることが思い浮かばない」 「この堅固な要塞を落とすには、奇襲を掛けて潜入し内部から破壊するしかないでし ょう。しかし、こうして迎撃艦隊が張り付いている現状では、侵入など絶対不可能で す」 「絶対不可能という言葉を使うものではないさ。所詮人間の作ったものだ。どこかに 落とし穴があるかも知れない。ランドールは必ずそこを突いてくる」 「あるんですかね……落とし穴」 「俺達の貧弱な脳細胞では考えも付かない穴がな」 第二十章 了
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2018年8月20日 (月)

性転換倶楽部/ドラキュラ X (二)情事

(二)情事

 それから数日がたった。
 今夜も当直で駐在所勤務であった。
「こんばんは」
 外から鈴を鳴らすようなきれいな声がした。
 警務日報を書いていたわたしが顔を上げて外をみて驚いた。
 あの時の女性だった。
 さすがに今夜はちゃんと衣服を着ている。
 なんだ。あの時はからかっていたのか?
 酒でも飲んでいたのかも知れない。
 改めてみると、ため息が出るくらいの綺麗な顔立ちに、ボディーラインは実に素晴
らしい。
「どうなされたのですか?」
 一応尋ねてみる。
「先日は家まで送っていただいてありがとうございました」
「いえ、警察官として当然のことをしたまでです。気になさらないでください」
「お礼をしたいのです」
 というなり駐在所の奥にある仮眠所に入っていった。
「ちょ、ちょっと、あなた」
 後を追いかけて仮眠所に入るわたし。

 女性はゆっくりと着ているものを脱いでいく。
「な、何をしているのですか?」
 わたしは慌てた。
 誰かが入ってきたら、警察官にあるまじきことだと大問題になってしまう。
 ぱさりと乾いた音がして、着ていたワンピースが彼女の足元の畳の上に落ちた。
 ブラとショーツだけのランジェリー姿になった。
 こんな光景を見るのは始めてであった。
 写真雑誌などではよく見るが、目の前にあるのは生身の女性なのだ。
 もちろん股間はいきり立ってしまっている。
 さらにブラが外され、ショーツを脱いでとうとうすっぽんぽんになってしまった。
「どうぞ、ご自由にしてください」
 艶かしい声で女性が誘った。
 ま、待ってくれ。
 ご自由にと言われても……。
 ここは駐在所。
 わたしは警察官。
 そんな事ができるわけがない。
「さあ……。好きにしてください」
 女性が、両手を首に巻きつけるように抱きついてきた。
 途端に全身の力が抜けるようにその場にひざまずく。
 そして首根っこから引き倒されるようにして、女性に覆いかぶさるようになってし
まった。
 理性が吹き飛んでしまった。
 こんな状況ならば誰だってそうなるだろう。
 いや、そうじゃない!
 意思とは無関係に身体が勝手に動いてしまうのだ。
 まるで魔性に魅了されたと言った方がいいだろう。
 その豊かな乳房に手を掛けて揉みしだく。
 だが、待ちきれないようにわたしのズボンのベルトを外しに掛かる女性。
 パンツも脱がされ、そのいきり立ったものがあらわになった。
 すでにぎんぎんになったそれは臨戦態勢である。
 それを自ら誘導するように自分のあそこに宛がった。

 やがてわたしは意識を失った。
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2018年8月19日 (日)

銀河戦記/鳴動編 第二十章 タルシエンへ VII

第二十章 タルシエン要塞へ

                 VII  今回の場合もそうだが、ここ一番という作戦にはランドールが原案を考え、ウィン ザーが作戦としてまとめ、ゴードンが実行する、というパターンが繰り返されてきた のである。黄金トリオはそうして昇進街道を突っ走ってきた。そのおこぼれに預かっ て他の者は昇進してきたといって過言ではないだろう。  とはいっても彼とて軍人であり、武勲を上げて出世することは生きがいであり名誉 としていることには変わりがない。士官学校同期の軍人が、せいぜい少佐になりたて だというのに、自分は一足先に大佐となり准将に手が届く距離にいることは、すべて ランドールの配下にあってこその幸運であったのだ。オニールを追い越すことは出来 なくても、名誉ある第十七艦隊の第二準旗艦・高速戦艦ドリアードに坐乗しているだ けでもよしとしなければ。そもそも今回の昇進に際しても、例の軍法会議の一件のこ ともあり、認められることなどない高望みであったはずだ。それがこうして実現した 背景には提督の強い働きかけがあったに違いない。 「シャイニング基地には連邦から搾取した艦船がまだ三万隻ほど残っております。第 十七艦隊を分離分割して新しい新艦隊を増設するという噂はどうでしょうか。そうす ればカインズ大佐にもチャンスがあります。チェスター大佐は退役まじかですし、 コール大佐は艦隊再編成時によそから移籍してきたいわゆるよそものですからね」 「確かに第十七艦隊は大きくなり過ぎていると思う。未配属を含めて十三万隻の艦艇 を所有し、四人もの大佐がいる唯一の艦隊だからな」 「ですから希望は捨てないでいきましょう。私だって昇進はしたいのです。大佐の配 下のすべての将兵にしても」 「そうだな……」  さらにパティーは話題を変えてくる。 「それにしてももう一つ解せないのは、第八占領機甲部隊{メビウス}を首都星トラ ンター他の主要惑星に残してきたことです。第十七艦隊の主要なる占領部隊なしでど うやって要塞を落とすのでしょう」 「メビウスは最新鋭の機動戦艦を旗艦に据えて、補充員の訓練をこなしているという ことだが……司令官には、レイチェル・ウィング少佐がなったばかり」 「表向きは訓練ですが、密かにタルシエンに向かうのではないかとの憶測も飛び交っ ています。占領部隊なしでは要塞は落とせませんからね。第六の白兵戦だけでは不可 能じゃないかと思うのですが。だいたいメビウスはカインズ大佐の配下だったではあ りませんか。それをウィング少佐が……」 「それを言うな。提督にも考えがあるのだろうさ。これまでもそうやって難局を切り 開いてきたのだからな。俺達は命令に従うだけさ」 「納得のいく命令ならいくらでも従いますけどね。一切が極秘なんじゃ……」 「もう一度言っておく。ランドール提督は公正な方だ。すべての将兵に等しく昇進の 機会を与えてくれる。ただその順序があるというだけだ。全員を一度に昇進させるこ とができないからな。オニール大佐は、士官学校時代の模擬戦闘、ミッドウェイ宙域 会戦と提督の躍進の原動力となった活躍をした背景がある。一番に優遇するのは当然 だろう」  その時、パトリシアがフランソワやその他のオペレーター達を従えて艦橋に姿を現 した。丁度交代の時間であった。 「総参謀長殿のお出ましです」  パティーが刺々しい言い方で言った。  憤懣やるかたなしといった表情である。これまでの会話で、次第に感情を高ぶらせ ていたのである。 「艦の状態はいかがですか?」 「全艦異常なしです。敵艦隊の動静にも変化は見られません」 「判りました。カインズ大佐は休憩に入ってください」 「判った」  立ち上がって指揮官を譲るカインズ。 「これより休憩に入ります」  敬礼をし、ゆっくりと歩いて艦橋を退室する。その他のオペレータ達も交代要員と 代わっていく。  カインズに代わって指揮官席に付くパトリシア。  その側に立つ副官のフランソワ。 「目的地到達時間まで十一時間です」  オペレーターが報告する。 「ありがとう」
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2018年8月18日 (土)

妖奇退魔夜行/蘇我入鹿の怨霊 其の肆

陰陽退魔士・逢坂蘭子/蘇我入鹿の怨霊 其の肆(土曜劇場)

(肆)辻斬り  夜の帳(とばり)が舞い降り、闇に包まれる街角。  道行く人の往来もほとんどない物静かな丑三つ時。  丑の刻とは、方位での鬼門である艮(ごん・うしとら)に入る時刻を指し、鬼門が開き 鬼や死者が現れる時間とされる。  そんな闇に隠れるようにして、怪しい影が蠢く。  右手に携えたキラリと光る切れ物から滴り落ちる鮮血。  その足元には、バッサリと切られたばかりの女性の死体。  夜が明ける。  赤色灯を点滅させたパトカーが、街の一角を占拠している。  一帯の交通規制が敷かれ、黄色いテープで周囲を立ち入り禁止にして証拠や痕跡を保護 する現場保存をする。  鑑識員が現場の写真撮影や状況の記録や計測、痕跡の保存を行っている。  そこへ覆面パトカーが到着し、一人の刑事が降り立つ。  大阪府警捜査第一課長、井上警視である。  被害者に覆いかぶされたシートを捲って、 「辻斬りか……」  遺体を検分する。  肩から胸元にかけてバッサリと明らかに刀で切られと思われる痛々しい傷。  何度見ても見慣れることのない永遠のトラウマである。  年の頃17・8歳というところか。 「これで何人目だ?」 「四人目です」 「凶器は?」 「まだ見つかっておりません」 「探せ!」 「はっ!」 「被害者の身元は分かっているのか」 「はい。阿倍野女子高等学校の生徒手帳を所持していました。美樹本明美。死亡推定時刻 は午前二時半頃だそうです」 「高校生が真夜中を出歩いていたということか?」 「クラブ活動で遅くなったのではないでしょうか」 「そんな時間までか?ご両親に連絡はしたか」 「連絡してあります」 「そうか……」 「遺体を運び出してよろしいでしょうか」 「ああ、たのむ」 「司法解剖に回しますか?」 「いや、とりあえずご両親の了解待ちだ」  明らかなる殺人事件と確認できる場合、原則として遺体は司法解剖に回されるのが普通 である。一応遺族の許可を得てから実施されるが、裁判所から「鑑定処分許可状」の発行 を受ければ、遺族の同意が得られなくても職権で強制的に行うことが可能である  また、死因が特定できない変死事件などは、遺族の承諾の必要がない行政解剖という手 順を踏む。  先の、心臓抜き取り変死事件、夢鏡魔人の往来殺人事件などが行政解剖に回されている。  しかし現状として、予算や医師不足などの理由から、警察の死体取扱い件数のほとんど が司法解剖されていない。  また、同様の事情により変死と思われるような状況でも、自殺や事故、心不全で片付け られることもあるともいわれている。  比較的司法解剖率の高い沖縄県警の17.3%を最高に、警視庁に至っては1.8%程度だとい う。  圧倒的に死亡報告が多い東京都がまともに司法解剖などやっていては、それだけで警視 庁予算の大半を飲み込んでしまう。  図表1 図表2  もっともこれらの数字は、あくまで警察庁に報告のあったものという注釈付きである。  警察お得意の隠蔽工作のことを考慮すると、もっとお寒い状況になるのは必定であろう。  既に死亡が確認されている被害者は、遺体搬送専用車に積み込まれ現場を後にすること になる。  ちなみに遺体搬送専用車は、一応緊急自動車指定となっている。  往路は緊急走行が許されても、死亡が確認された帰路は急ぐ必要もないので通常走行と なる。  搬送車を見送る井上課長。  四件の連続通り魔殺人事件。  どう考えても人間の仕業ではなさそうである。 【人にあらざる者】 「やはり陰陽師の手助けを借りるしかないか……」  土御門春代と逢坂蘭子が思い浮かぶ。  ともかく今は全力で凶器を見つけ出さねばならない。  その凶器に【人にあらざる者】が取り憑いていたとしたら、今後も殺人は繰り広げられ る。 「ふ……。俺としたことが」  いつしか妖魔などという摩訶不思議なるものを信じるようになっていた井上課長であっ た。  科学捜査が基本の現代犯罪捜査に【人にあらざる者】を考慮しなければならない事態と は……。
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2018年8月17日 (金)

性転換倶楽部/ドラキュラ X (一)謎の女性

ドラキュラ X

(一)謎の女性

 わたしは駐在所に勤務する警察官だった。
 そう、あの日までは……。

 あの日。
 当直勤務で駐在所にある時だった。
 一人の女性が駆け込んできた。
 それは、異様な光景だった。
 見目麗しき女性なのであるが、着ているものがおかしい。
 というよりも、明らかに男性物の衣服だったのだ。
 しかもあわてて着込んだ感じで、乱れに乱れていた。
「どうなさったのですか?」
 もしかしたら強姦にでもあったのかと疑っていた。
 さもなくば暴漢に衣装を奪われてその衣装を着込んで逃げていった。しかたなく代
わりに暴漢が着ていた服を……。そんな感じにも受け取れた。それが本当なら、いか
にも変態な暴漢ということになるのだが。
「あの、僕はどんな風に見えますか?」
 確かにそう言ったのである。
 女性なのに僕というのが変だった。
「どんな風にと申しますと?」
「あの……。男に見えますか? それとも女に見えますか?」
 変なことを聞く女性だと思った。
 まさか女装でもしているのかと思ったが、どう見ても本物の女性だった。
「女性でしょう?」
 正直に答えると、
「や、やっぱり……そうなんですね。女になってしまったんですね」
 女になってしまった?
 どういうことなのだろうか、ともかく話を聞いてみないことには進まない。
「事情を話していただけませんか?」
「じ、実は……」

 それはとても信じられないことだった。
 その女性は、ほんの数時間前までは男だったというのだ。
 飲み会の帰りに出会った女性と意気投合して公園の茂みに隠れてやってしまった。
 事が終わって、気がついたら女性に変身してしまっていたというのである。

 たとえそれが本当だとしても、わたしにはどうしようもなかった。
 公園でやってしまったというのには、いささか問題はあるものの、意気投合してと
いうのなら取り立てて騒ぐこともないし、強姦されたというのでもないのならそれ以
上どうしようもない。
 一応相手は女性ということで、パトカーで自宅まで送り届けたのであるが、しばら
く家の前で立ちすくんでいた。入るのを躊躇しているようだったが、意を決したよう
に中へ入って行った。
 それからどうなったのかは知らない。
 さて駐在所に戻って警務日報に書こうとはしたものの、こんなこと正直に書けたも
のではなかった。
 適当にごまかして置くことにした。
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2018年8月16日 (木)

銀河戦記/鳴動編 第二十章 タルシエンへ VI

第二十章 タルシエン要塞へ

                 VI  宇宙空間に出現する第十七艦隊。  旗艦サラマンダーの艦橋。  ワープを終えて一息つくオペレーター達。 「第一目標地点に到達しました。全艦、ワープ完了。脱落艦はありません」 「よし。全艦、艦の状態を確認して報告せよ」 「全艦、艦の状態を報告せよ」  エンジンに負担を掛けるワープを行えば少なからず艦にも異常が生じる。それを確 認するのは、戦闘を控えた艦としては当然の処置であった。特に旗艦サラマンダー以 下のハイドライド型高速戦艦改造II式は、今だに改造の続いている未完成艦であり、 データは逐一フリード・ケースン少佐の元に送られる事になっていた。それらのデー タを元にして実験艦「ノーム」を使用しての、改造と微調整が続けられていた。 「一体、何時になったら改造が終わるんだ?」  アレックスが質問した事があるが、フリードは肩をすくめるように答えていた。 「他人が建造した艦ですから、いろいろと面倒なんですよ。例えばある回路があった として、それがどんな働きをしているか理解に苦しむことがあるんですよ。最初から 自分が設計した艦なら、すべてを理解していますから簡単なんですけどね」  その口調には、自分にすべてを任せて戦艦を造らせてくれたら、サラマンダーより 高性能な艦を建造してみせるという自信に満ちているように思えた。しかしいくら天 才科学者といえども、そうそう自由に戦艦を造らせてもらえるものでもなかった。ま ずは予算取りからはじまる面倒な手続きを経なければならないし、開発設計が始まっ ても軍部が口を挟んで、自分の思い通りには設計させてはくれないものだ。そして実 際に戦艦を造るのは造船技術士達であり、設計図通りに出来上がると言う保証もなけ れば、手抜き工事が横行するのは世の常であるからである。 「報告します。全艦、異常ありません。航行に支障なし」 「よし。コースと速度を維持」  時計を確認するカインズ大佐。 「うん。時間通りに着いたようだな」 「時間厳守なのは、第十七艦隊の誇りです。一分一秒の差が勝敗を決定することもあ りますからね」  副官のパティー・クレイダー大尉が誇らしげに答える。 「そうだな……」 「ところで、カインズ大佐……」 「なんだ」 「提督は何を考えておられるのでしょうか。大佐をさしおいて、ウィンザー少佐に第 十七艦隊の全権を委ねるなんて。自身はウィンディーネのオニール大佐と共に別行動 にでたまま。通信統制で連絡すらままならないし」 「まあ、そう憤慨するな。この作戦の立案者の一人であるウィンザー少佐に指揮権を 任せるのが一番妥当ではないか」 「そうはいいますが、何もウィンザー少佐でなくても……だいたい作戦内容が一切秘 密だなんて解せないですよ。一体提督は第六突撃強襲艦部隊や第十一攻撃空母部隊を 率いて何をしようとしているのですか? 第六部隊は、白兵戦用の部隊なんですよ」 「ランドール提督がわざわざ第六部隊を率いる以上、ゲリラ戦を主体とした作戦だと は思うが、それがどんなものかは少佐の胸の内というわけだ」 「ゲリラ戦ですか……しかし相手は巨大な要塞ですよ。一体どんな作戦があるという のでしょうか」 「さあな。俺達には何も知らされていないからな」 「やっぱり、恋人だからですかね」 「ま、どんなことがあっても、絶対裏切ることのない信頼できる部下であることには 間違いないだろうな。後方作戦の指揮をまかせるのは当然だろ」  カインズとて、下位の士官に命令を受けるのは好ましいことではなかった。しかし、 今の自分の地位があるのも、ランドール提督とウィンザー副官の絶妙な作戦バランス の上に成り立っているのも事実であった。大佐への昇進をゴードンに先んじられ、悔 しい思いを胸に抱きながらもやっと大佐へとこぎつけたばかりだ。配下には三万隻の 艦隊を預けられている。 「大佐。今回の作戦が成功すれば、提督は第八師団総司令と少将に昇進することが内 定していると聞きましたが」 「それは確からしい」 「だとすると、今四人いる大佐のうちの誰かが第十七艦隊司令と准将の地位に就くと いうことになりますね」 「ああ……そういうことだな」 「どうせ、腹心のオニール大佐でしょうねえ。順番からいっても」  それは間違いないだろう。  カインズは思ったが、口には出さなかった。やっとゴードンに並んだばかりだとい うのに、という思いがよぎる。ランドールの下で動く限り、その腹心であるゴードン に完全に追い付くことは不可能であろう。
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2018年8月15日 (水)

性転換倶楽部/女性変身! ボディースーツ!!part.5

 女性変身! ボディースーツ!!

part.5 「お帰りなさいませ。いかがでしたか?」  研究員が出迎えた。 「なかなかのものだな」 「でしょう?」  明らかに期待を持った表情をしていた。 「だが、開発は認めない!」  がっくりと肩を落とす研究員。  確かに素晴らしい変身スーツかも知れないが……。  着ている女性の衣料を脱ぎながら考える。  なんにしても、あまりにも制作費が掛かりすぎるのだ。  乳癌治療の乳房再建手術用としてのように、保険がきかないととても手が出せない のである。  売れないと判断できれば開発はなし。  企業として当然の結論である。   「あれ?」 「どうしたのだ」 「ふぁ、ファスナーが……開きません……」 「なに?」  一生懸命にファスナーをいじっているがどうもこうも動かないようだった。 「あ! 壊れちゃいました」 「なんだとお!」  それから数時間、ファスナーを開ける努力を続ける研究員だったが……。 「やっぱり、だめです。どうしても開きません」 「と……いうことは、しばらくこのままというわけか?」 「はあ、そういうことになりますね」 「気楽に言うなよ」 「申し訳ありません」 「しかし……。参ったなこれじゃ……」  着るのにも脱ぐのにも、誰かの手助けが必要な変身スーツである。  女性の格好をしている以上、元の男性の衣服を着るわけにはいくまい。  仕方なく、また女性のドレスとハイヒール姿に戻ることにした。  それから、社長室を出て社員の好奇な目に晒されながらも会社を出て、 自宅に戻った。  もちろん研究員には、この変身スーツを脱ぐ方法を明日までに考え出す ように言い残してである。  さてと、シャワーを浴びて、汗を流したいところだが……。  変身スーツを着込んだままである。  シャワーを浴びてもなあ……。  がしかし……。  変身スーツのすべてを知るにはいい機会かも知れない。  スーツを着たままでシャワーを浴びれるか?  その評価を下すためにも、試してみることも必要であろう。  ともかく、何をするにも評価である。  この際だ、いろいろと試してみよう。  というわけで、ドレスを脱いで裸になり……。  実際には着ぐるみだが……。  バスルームに入る。  シャワーを捻ってお湯を出し、熱いお湯に身体を浴びる。 「おお! なかなか気持ちがいいじゃないか」  変身スーツを着てはいるが、さすがに我が社の最新技術を誇る人工皮膚だった。  温度の上昇と共に出てくる汗は、人工皮膚の極微細通気孔から外へ排出され、シャ ワーで流される。  ほとんど素肌感覚であった。 「この人工皮膚を開発した研究員の俸給を上げてやるか……」  もちろん人工皮膚(開発コードjm-194号)と人工乳房(開発コードjk-2 73)を開発したのは、この変身スーツを製作した彼ではない。他の研究素材を流用 しただけである。  こんな事態になった彼は……。  減棒! である。  汗を流し、さっぱりとしていると電話が掛かってきた。  彼であった。 『言い忘れていたんです。変身スーツの人工皮膚は熱水にあたると、変性して完全密 着してしまうんです」 「なんだとお! ほんとかそれは?」 『ですから、お風呂とかに入らないで……』 「バカモノ! もうとっくにシャワーを浴びてしまったぞ」 『えええええ! 本当ですか!!』 「今風呂上りのビールを飲んでいるところだ。で、完全密着するだと?」 『はい。間違いありません』 「何でそれを言わなかったのだ!」 『だから、忘れていたと……』 「今すぐ、こっちへこい! すぐ来い!! 飛んで来い!!!」  言うだけ言うと、がちゃんと荒々しく電話を切る。  ほんとうかよ!  完全密着だと?  もはやこの変身スーツを脱げないということか?  つまり一生、この女性の姿のままというこなのか?  その研究員は、二十分後にやってきた。  大汗を流し、ハンカチでしきりに拭いながらも変身スーツの状態を調べていた。 「だめです……。密着融合してしまっています。社長の肌と人工皮膚とが完全同体化 しています」 「つまりこの表面の肌は生体化して……私自身の肌になってしまったというのだな」 「はい。その通りです」 「気安く言うなよ!」 「も、申し訳ありません」  まいったな……。  変身スーツは完全に私自身の肌と密着融合してしまった。  もはや脱ぐことは不可能になってしまったということである。  無理に引き剥がそうとすると本来の皮膚まで一緒に剥がれてしまうということであ る。  見た目には確かに女性そのものである。  この豊かな胸は、現在のところはjk-273という人工乳房であるが、やがて私 自身の細胞が浸潤し増殖を繰り返して本物の乳房になってしまう。  女性特有の大きな腰回りも同じように本物の脂肪細胞に置き換わってしまうはずだ。  見た目の姿は、いずれ本物の女性の姿に変身してしまうのだ。  しかし内面は男性のままだ。  生殖器も何もかも……。  ふう……。  私は思わず深いため息をついた。 「あの研究員を呼ぶか」  そう……。  性転換を研究している『あいつ』である。  それから数ヵ月後……。  私は性転換し、女性社長となった。  了
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2018年8月14日 (火)

銀河戦記/鳴動編 第二十章 タルシエンへ V

第二十章 タルシエン要塞へ

                 V  アル・サフリエニ宙域タルシエンに浮かぶ要塞。  バーナード星系連邦の共和国同盟への侵略最前線基地にして、その後方に架かる銀 河の橋を守る橋頭堡でもある。  銀河系の中の、太陽系をも含有するオリオン腕とペルセウス腕と呼ばれる渦の間に 存在する航行不能な間隙の中で、唯一の航行可能な領域。それがタルシエンの橋と呼 ばれ、その出口にバーナード星系連邦が建設した巨大な軍事施設がタルシエン要塞で ある。  直径512km、質量7.348x10^21kg(地球質量の1/81,000,000)  *ちなみに太陽系内では、準惑星のケレスが1000kmで他に500km級は2個しかない。 また、スターウォーズのデススターが直径120kmである。*  要塞は重力を発生させるためにゆっくりと自転しており、人々は要塞の内壁にへば り付いている。 重力のほとんどない要塞最中心部には、心臓部とも言うべき動力エ ネルギーを供給する反物質転換炉。  それを囲むようにして収容艦艇最大十二万隻を擁する内郭軍港及び軍需生産施設が あって、要塞の北極と南極にあるドッグベイに通路が繋がっている。  中殻部には軍人や技術者及びその家族軍属を含めて一億二千万人の人々が暮らす居 住区画やそれらを賄う食物・飲料水生産プラント。要塞を統括制御している中枢コン ピューター区画、病院やレクレーションなどの福利厚生施設も揃っている。  そして最外郭には、要塞を守るための砲台が並ぶ戦闘区画となっている。  その主力兵器は、陽子・反陽子対消滅エネルギー砲。中心部の反物質転換炉から放 射状に伸びる粒子加速器によって加速された反陽子一単位と、もう一対の粒子加速か らの陽子二単位とを反応させた際に生ずる対消滅エネルギーを利用し、残渣陽子をさ らに加速射出させる。通常の陽子加速器では得られない超高エネルギー陽子プラズマ 砲である。副産物として多量のダイバリオン粒子が生成されることから、ダイバリオ ン粒子砲とも呼ばれる。  質量のすべてをエネルギー化させる対消滅エネルギー砲に勝るものはない。例えば 熱核反応における極微量の質量欠損だけでも、E=mC^2で導かれる膨大なエネル ギーが発生するのである。  ちなみに広島に落とされた原爆における質量欠損は、0.7グラムだと言われている。 1グラム(1円玉の重さ)にも満たない質量がすべてエネルギーに変わるだけで、あ れだけの破壊力を見せつけてくれたわけである。  サラマンダー艦に搭載された原子レーザー砲と比較検討がされたりするが(つまり どちらが威力があるかだが)、前述の通りであるし、そもそも巨大要塞砲と、蟻のよ うに小さな戦艦搭載砲とを比べるのには無理がある。  居住区画の一角にある中央コントロール室。  壁面のスクリーンに投影された要塞周辺の映像や、要塞内の状況がリアルタイムに 表示され、それらを操作するオペレーター達が整然と並んでいる。  要塞を統括運営する機能のすべてがここに終結している。 「第十七艦隊の動きに何か変わったことはないか?」 「別にありません。二十八時間前にシャイニング基地から出撃したとの情報からは何 も……」 「だろうな。無線封鎖をして動向をキャッチされないようにしているだろうからな。 それで予定通りこちらに向かったとして到着は何時ごろだ」 「およそ十八時間後だと思われます」 「警戒を怠るなよ」 「判っております」 「それにしても着任そうそう、あのランドール提督とはな。ついてないな」 「はい。あのサラマンダー艦隊かと思うと、身震いが止まりませんよ」 「君は、ランドールを評価するのか?」 「前任の司令官自らが率いた八個艦隊もの軍勢をあっさりと退けた張本人ですからね。 安全な本国でのほほんとしている頭の固い将軍達はともかく、こっち側にいる指揮官 達は、みんな奴とだけはやり合いたくないと願っているのですよ」 「そうか……。君達の気持ちも判らないでもないが、だからと言って逃げているわけ にもいくまい」 「ランドール提督なら、平気で逃げちゃいますけどね」 「奴は例外だ。しかし奴とて闇雲に逃げ回っているわけではないだろう」 「そうです。転んでもただ起きるような奴ではありません。いつも必ず罠を仕掛けて あります。それに引っかかって幾人の提督が泣かされたか。前任の司令官なんか、捕 虜にされるし一個艦隊を搾取されしで面目丸潰れ、もはや本国に帰りたくても帰れな いでしょう。捲土重来はあり得ず、全艦玉砕すべきだったというのが本国の一致した 意見らしいです」 「らしいな。罠を仕掛けたりする卑怯な奴として思われているが、罠に引っかかる方 が不注意なのであって、それも立派な戦術なのだがな」 「今回はどんな罠を仕掛けてくるのでしょうか? たかが一個艦隊だけで、この要塞 を攻略など不可能ですからね」 「十分以上の用心をするに越したことはないだろう」 「考えられるだけのすべての防御策を施した方がいいでしょう」
参考資料  イタリア、シチリア島の南約80kmのところに、マルタ島という島がある。  1902年、ヴァレッタ近郊の アル・サフリエニで建設労働者が偶然、地下墳墓を 発見した。その後、1907年に組織的な発掘が始まり、 タルシエン神殿が発見され た。1980年にはユネスコの世界遺産リストに登録されている。
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2018年8月13日 (月)

性転換倶楽部/女性変身! ボディースーツ!!part.4

 女性変身! ボディースーツ!!

part.4  それにしても……。  ほんとにこいつ……。着込むのが本当に難しく、苦しいくらいだ。  格闘、十数分!  スーツに身体を入れ終わり、ファスナーを閉じると……。女性変身の完成である。 「はい! 終わりました。鏡に映して見てみますか?」  と言いながら隅に置いてあった姿見を持ってくる。 「そうだな……」  早速、姿見に映してみる。  そこには、実に素晴らしいプロポーションを持った美しい女性が映っていたのであ る。  豊かな形の良い乳房、張りのある大きな腰周り、ウエストもスーツの持つ弾力性に よって絞られて細く締まっていた。 「なかなか……。上手くできているな。うん、どうせなら衣装も着てみたものだな」 「実は……。そう仰るだろうと用意しておきました」  というと別の紙袋から、女性用のドレスとパンプスを取り出した。 「準備がいいな。おまえ……」 「企画というものは、すべからく準備が肝心ですから」 「おい。重役会議で、こんな企画は聞いたことがないぞ。おまえの勝手な企画だろう が」 「え、あはは……」  笑ってごまかす研究員だった。  まあ、ともかく裸ではどうしようもない。  せっかく女性の身体をしているのだ。  女性の衣料を着てみて完璧というものである。  早速、研究員が用意してきたドレスを着てみることにした。 「ほう……」  感心した。  どこからどうみても、女性としか映らない。  完璧な変身であった。 「外を出歩いてみたらどうですか?」 「できるわけないだろう! 恥ずかしいじゃないか」 「え? どうしてです? 変身スーツを着ているんですよ。誰だか判らないんですか ら、恥ずかしがることもないんじゃないですか?」 「なるほど……」  それもそうだな。  この女性の格好をした中身が、社長つまり私とは誰も区別がつく訳がないか……。 「ちょ、ちょっと出歩いてみるかな……」 「そうしてくださいよ。実際に歩いてみないことには、その変身スーツの着心地とか 判らないですからね。でないと、改良点とかも……」 「おい。何で改良する必要があるんだ? 開発は中止だとさっき言ったばかりだろ う」 「あ……。そうでした。申し訳ありません」  再びうなだれる研究員だった。  ともかく、この変身スーツの評価をする一環として、部屋を出て外を歩いてみるこ とにした。  社員に一目で見抜かれてしまっては完全に商品価値はなしである。  もし、そうなれば研究員は……。 「減棒だな」  数百万もの制作費が掛かるものを無断で製作したのであるから当然であろう。   「しかし、どうせなら女性用の制服にすれば良かったのにな」  まったくこれじゃ、目立ちすぎてしようがなかった。  通りがかる社員のほとんどから注目され、すれ違った後にも立ち止まり振り返って しばらく見つめているのだ。私と目が合うと慌てて目を伏せて足早に立ち去っていく。  声を掛けて来る者はいなかった。  これだけの美人(偽者ではあるが……)だ。  さすがに躊躇してしまうのだろう。 「気持ちは判るがな」  しばらく社内を歩いてみたが、誰も気づいている様子のものは見受けられなかった。  間近でじっくりと観察すれば判るだろうがな……。  まあ、そんな勇気ある軟派な野郎は、この会社にはいない。 「しかし……。暑いな」  腕を見ると、人工皮膚の表面からうっすらと汗が滲みでていた。  そう、これがこの人工皮膚の特徴なのである。  皮膚には汗や空気が通過できるように、極微細加工による通気孔が施されているの である。 「さてと……。このくらいで十分だろう」  いくら人工皮膚の変身スーツとはいえ、さすがにこの暑さには耐えかねる。  社長室に戻ることにした。 
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2018年8月12日 (日)

銀河戦記/鳴動編 第二十章 タルシエンへ IV

第二十章 タルシエン要塞へ

                 IV  作戦会議から四十八時間後。  アレックス率いる別働隊が、シャイニング基地を出撃していく。 「別働隊、重力圏を離脱しました」  サラマンダー艦橋では、パトリシア以下のオペレーター全員が、パネルスクリーン に投影された艦影に向かって敬礼していた。  ご武運を祈ります……必ず戻ってきてください。  心の中で、作戦の成功を祈るパトリシアだった。仮に要塞の攻略に失敗しても、無 事に生還してきて欲しいと切に願うのだった。 「カインズ大佐、時間です。私たちも、出撃しましょう」 「判った」  艦隊の指揮のためにドリアードからサラマンダーに移乗してきていた。全艦隊の指 揮ともなれば、艦隊運用オペレーター士官の揃っている旗艦サラマンダーの方が好都 合だからである。 「全艦隊に告げる。これよりタルシエン要塞攻略に向かう。全艦出撃開始!」  シャイニングに残る艦は一隻もいない。  全艦挙げての総進撃である。 「進行方向オールグリーン」 「微速前進!」  戦艦フェニックス艦橋。  出撃の指揮を執るチェスター大佐がいる。 「亜光速航行へ移行します」 「旗艦サラマンダーに相対速度を合わせろ」 「相対速度、旗艦サラマンダーに合わせます」 「亜光速、八十パーセントに到達」 「各艦に異常は?」 「ありません。全艦異常なし」 「よし。そのまま進路と速度を維持」 「進路及び速度そのまま」  ふうっ。  とため息をついて、指揮官席に沈むように座りなおすチェスター。 「全艦、順調に進撃中です」  副官のリップル・ワイズマー大尉が報告する。 「輸送艦、サザンクロスとノースカロライナは?」 「ちゃんと着いてきていますよ」 「そうか……。今回の作戦の要だからな」 「次元誘導ミサイルですね」 「ああ……」 「ほんとにそんな性能があるのでしょうか? 極超短距離ワープミサイルなんて」 「あの天才科学者の発明品だからな」 「フリード・ケースン少佐ですね」 「P-300VX特務哨戒艇のことを考えれば冗談とも言えないだろう」 「そりゃそうですけど……。何にしても、我々の任務がその次元誘導ミサイルを積載 した両艦の護衛任務ですからね。二万隻でたった二隻を守るなんて、馬鹿げていると 思いませんか?」 「そうとも言えんだろう。要塞を内部から破壊できる唯一の攻撃手段だ。当然と言え ば当然だろう」 「性能通りでしたらね」 「信じるしかないだろう。何せミサイル一基が戦艦三十隻分の予算だ」 「しかし、提督が少佐に任命された当初から、ケースン少佐に開発を命じていたと言 うじゃないですか。今日あることを、その時から計画していたということですよね」 「先見の明があるということだな。提督は一歩も二歩も先を読んで行動している。要 塞攻略を命じられてから行動すれば、その準備に最低でも一年は掛るというのに、た った三日で出撃開始だ」 「普通なら考えられませんね」 「そうだな……まあ、提督に従っていれば間違いはないさ」 「だといいんですけどね」  サラマンダー艦橋。 「全艦、ワープ準備にかかれ」  指揮官席から指揮を執るカインズ。 「全艦、ワープ準備」 「ワープ航路設定及び入力完了」 「ワープ航路データを艦隊リモコンコードに乗せて伝達する。全艦、ワープ設定を同 調、確認せよ」  スクリーン上の艦影が次々と赤から青へと変わっていく。 「全艦、ワープ設定同調確認。ワープ準備完了しました」 「よし! 全艦ワープ開始」 「了解。全艦ワープ!」  一斉にワープを開始する艦隊。  艦影が揺らいだと同時に次々と消えていく。
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2018年8月11日 (土)

妖奇退魔夜行/蘇我入鹿の怨霊 其の参

妖奇退魔夜行/蘇我入鹿の怨霊 其の参(土曜劇場)

(参)四天王寺  男のアパート自室。  ベッドの中で裸で寄り添い眠る聡子と男。  男がどうやって聡子を篭絡したかは分からないが、すでに深い関係に陥っていた。  女はすべてを捧げたいと思い、男は自分の物にしたという達成感に酔いしれる。 「実は聡子に頼みたいことがあるんだ」 「なあに」 「七星剣のことを話したよな」 「四天王寺の?」 「そうだよ。その七星剣を手に入れたいんだ」 「でも東京国立博物館に寄託されているんでしょう?」 「ああ、表の七星剣はね」 「表?」 「実は裏の七星剣があって四天王寺の地下に秘密裏に保管されているんだ」 「どういうこと?」  とある深夜、いわゆる丑三つ時。  四天王寺の人気の途絶えた境内を歩く聡子。  表情は虚ろで、何者かに操られているような風であった。  微かに怪しげな光を身に纏ってもいる。  向かった先は中心伽藍から東側へ離れた場所にある宝物館。  周囲をぐるぐると回りながら探っている様子。  やがて探り当てたかのように壁に手を当てる。  その時だった。  境内の照明がすべて消えた。  どうやら四天王寺全体の電源設備が、何者かによって操作され電源を遮断されたよう である。  なにやら呪文を唱えると、壁の一部に巧妙に封印され隠されていた扉が現れた。 「我に従い暗闇を開け!」  静かに開く扉。  館内は真っ暗だが、見えているかのように確かな足取りを見せる聡子。  そして刀掛台に据えられた一振りの刀剣の前で立ち止まる。  刀剣から刀掛台に掛けて呪符が張られている。  おもむろに呪符を引き剥がすようにして刀剣を手に取る。  封印を解かれたさまざまな怨念が解放され、聡子に襲い掛かる。  しかし手にした刀剣を一振りすると怨念は消し去った。  そして何事もなかったように歩き出し宝物庫を後にして立ち去ってゆく。  四天王寺境内の外に停車している車がある。  刀剣を携えた聡子が近づく。  扉が開いて出迎えたのは、かの男だった。 「ご苦労様」  聡子は黙ったまま刀剣を手渡す。  受け取り確認する男。 「よし、本物だ」  刀剣が微かに震えていた。 「どうした、七星剣よ……そうか、血が欲しいか」  無言で立ち尽くす聡子に目をやる男。 「そうだな。儀式を始めようか」
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2018年8月10日 (金)

性転換倶楽部/女性変身! ボディースーツ!!part.3

 女性変身! ボディースーツ!!

part.3  そうか……。  作ってしまったものはしようがないとしても、さてどうしたものか?  捨てるわけにはいかないだろう。  何せ人工乳房だけでも販売価格にすれば数百万円はするだろうという代物である。  せめて宣伝広告用にでも、何かの機会に参考出品しなければ元が取れない。 「それにしても……。このマスクはおまえの趣味か?」 「ええ……。その通りです」  どこかのアイドル女優を型取りしたような感じであった。 「まあ、確かに美人ではあるがな」 「ですよね。どうせなら、美人の方がいいと思いまして」 「で、ちなみに……これは、どういう具合に着用するのだ」  まあ、何にせよ。  実際に着て見てみないと、この着ぐるみの評価ができない。  そこで、自分で着てみることにしたのだ。 「判りました。まずは裸になってください」 「裸になるのか?」 「そうしないと服のラインが出てしまいます」 「なるほどな」 「はい。全部脱いでください」  結局、パンツまで脱がされて素っ裸にされてしまった。 「それではまず、足先から入れてみてください」  それは、背中がファスナーで開くようになっていて、ジャンプスーツのように足先 からまず差し入れていく。が、ラインが出ると心配した通りに、肌にぴったりと密着 するようにできている。そうだな……サポートタイプのパンティーストッキングを履 くときのことを想像してくれ。あの感じだ。  え?  男はパンストを履くことはないし、なんでその事を知っているのか?  だって……?  簡単だよ。  例の研究員のせいで、何度女性に変身させられたか……。  だからだよ!  今は元の男性に戻っているがな。 「き、きついな……」 「はい。多少きつくないと弛みができてしまいますから。でも、十分に伸びる人工皮 膚ですから大丈夫です。もちろん空気も通すので、皮膚呼吸を阻害することはありま せん」 「そうか……」 「このファスナーも生体培養素材でできていまして……」  ファイルを整理して入れるクリアケースを想像して欲しい。  それに使われるジョイロン(レールファスナー)と呼ばれるファスナーがあるが、 それを人工皮膚の素材で製作されたものである。臓器移植を行った場合には、拒絶反 応を起こして再手術の必要を生じることとなるが、この生体ファスナーを使用すれば、 再手術にもファスナーを開けばいいだけである。手術の際に針と糸とで縫合する場合 にはどうしても手術痕が醜くできてしまう。人工皮膚によるファスナー縫合ならば、 見た目にも手術をしたとも判らないほどの成果があるし、長期に放置しておくとやが て皮膚組織が再生して完全に癒着してしまう。 「しかしこいつは一人では着れないな」  何とか足が通った。  次は頭である。  ファスナーの付いているのは背中だけである。  だから先ず足を通し、次に頭を入れる順番でないと着れないのだ。  とにかく……。  この女性変身スーツは、頭の先から足先まで完全一体成型である。  頭の部分は、いわゆるどこにでもあるマスクの通りに目と鼻そして耳の部分に穴が 明いていて、そこから外界に通じている。  頭を入れれば、もはや着ている人間が誰か……。まったく判らなくなる。
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2018年8月 9日 (木)

銀河戦記/鳴動編 第二十章 タルシエンへ III

第二十章 タルシエン要塞へ

                 III  サラマンダー、作戦会議室。  アレックス、ゴードン、パトリシアにジェシカ、そしてレイチェルが集まっている。  タルシエン要塞攻略について最後の詰めを行っているのであった。 「どうだ、例の物の仕上がり具合は、ジェシカ」 「はい。ダミー実験を繰り返して安全性に万全を期するように念入りな微調整が行わ れています」 「うん。乗員の訓練のほうはどうだ」 「工作員は問題ないとして、一応操艦手としてはジミーとハリソンのうちのどちらか、 射手をジュリーにやらせております」 「射手をジュリーにまかせるのか?」 「射撃の腕はジミーにもひけを取らないですよ彼女は」 「そうか、君がそういうなら」 「ところで提督自らが要塞に侵入されるそうですが、お考えを改めなさいません か?」  ジェシカがパトリシアの方を見つめながら尋ねる。 「私が行かないでどうする」 「生きて帰ってこれないかも知れないんですよ」 「だからこそ私が行かなければならないのだ」 「そうおっしゃってカラカス基地にも突入されましたね」 「どんな状況変化が起きるかもしれない作戦において、迅速かつ正確に事態収拾する ためには、作戦のすべてを知り尽くした私の他に誰が行くというのだ」  パトリシアは俯いている。アレックスの意思が固く、いかにパトリシアでもそれに 異論を唱える立場にないからである。 「判りました。提督がそこまでおっしゃるなら、もはや私達が差し出口を挟む余地は ありませんね」 「うん。いつも済まないと思っているが……」  と、レイチェルの方を見つめながら、 「特に今回は、部外者である天才技術者を一人連れて行く。彼との信頼関係をなくし たくないのだ」 「天才システムエンジニアですよね?」  皆の手前そういうことにしているが、事実はネット犯罪という裏舞台で暗躍する 「闇の帝王」、ジュビロ・カービンその人である。間違っても天才ハッカーなどとは 明かすことはできない。  フリード・ケースンという人物が身近にいるから、他にも天才と呼ばれる者がいて も不思議ではないと思う一同だった。  その本人は、作戦開始までは特別室でくつろいで貰っている。仲間内ではない艦隊 の乗員とは距離を置きたいだろうとの配慮である。  五人委員会にて最後の確認事項が取り交わされた後に、改めて少佐たちを加えた作 戦会議が招集された。 「別働隊として投入する部隊は、第六突撃強襲艦部隊及び第十一攻撃空母部隊。この 私が率いていく」  第六突撃強襲艦部隊はその名の通りに、かつての士官学校時代の模擬戦でも活躍し た強襲艦を主体とした白兵戦部隊である。攻撃よりも防御力と速力に主眼において、 目的の場所に速やかに到達して任務を遂行する。 「それぞれの指揮は、ゴードンとジェシカに任せる」 「了解した」 「判ったわ」 「今回の作戦は、本隊が要塞への攻撃を敢行注意を引きつつ、別働隊の要塞への接近 を容易にすることにある。しかも寸秒刻みの正確さで速やかに作戦を遂行しなければ ならない。そのために別働隊を率いる私に代わって、作戦の詳細を熟知しているパト リシアを総参謀長とし、艦隊の指揮をカインズ大佐に任せる」  ため息をつく一同だった。  パトリシアが解説に立ち上がった。 「タルシエン要塞は、このシャイニング基地に相当する堅固な敵最前線基地です。全 艦挙げての総攻撃とし、シャイニング基地の守備は、基地の自動防衛システムに委ね ます。基地を空にすることになりますが、先の基地攻防戦のことから、敵も容易には 手出しはできないと思われます。タルシエン要塞はバーナード星系連邦と共和国同盟 を繋ぐ橋を守る橋頭堡です。第十七艦隊が攻略に向かったという情報は、すでに向こ うにも流れていると思います。それを知らされれば敵側も要塞の死守に専念するより なく、シャイニング基地攻略の余裕はないでしょう」 「出撃は四十八時間後だ。将兵達には交代で休息を取らせておくように。以上だ、解 散する」

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記憶4

2018年8月 8日 (水)

性転換倶楽部/女性変身! ボディースーツ!!part.2

 女性変身! ボディースーツ!!

part.2 「この乳房は、我が社開発の特殊人工乳房jk-273号を使用しています」 「273号?」  それは乳癌治療のために開発された。  乳癌となれば、転移をも考えて乳腺の全摘出するのが最善であるが、当然として乳 房を失う結果となる。  最近の乳癌治療といえば、乳房の形状を残して一部の癌組織だけを摘出して、抗が ん剤や放射線線治療などを行う温存療法が主流となってきているが、乳腺を残す限り 再出現の可能性は高い。  やはり転移や再出現を考えれば、全摘出が一番である。そこで乳房再構築手術用の プロテーゼとして開発されたのが我が社の特殊人工乳房である。  乳房再建には、大別してプロテーゼ挿入法(生理食塩バック・シリコンバック)と 脂肪注入法とがあるが、あくまで見た目を再建するだけのものである。プロテーゼは 簡易に望むだけの大きさの乳房を形成できるが、時間経過により硬くなってしまうと いう欠点があり、毎日適度に揉み解す必要がある。これは皮膜拘縮と呼ばれていて、 アコヤ貝における人工真珠の製造でもおなじみであるが、生物の拒絶反応の一種とし て、異物に対してそれを覆うようにして皮膜が発生して硬くなってくる現象である。 また脂肪注入法は拒絶反応などはないが、ただの脂肪であるだけに、本来の弾力性 (つまりポヨヨーンと弾んだりする特性)が足りないとか、その形状をなかなか維持 できないという欠点がある。  しかし我が社の人工乳房は、人工皮膚で培った特殊人工蛋白質による乳腺組織を持 った、より本物に近い乳房を作り出すことができる。それも時間の経過と共に自身の 細胞が浸潤繁殖して、やがて本物の乳房となり、妊娠後には授乳さえも可能となる、 夢の人工乳房である。その最新型が「特殊人工乳房開発ナンバー、jk-273号」 である。乳癌全摘出手術と同時に行われる再建手術用のアイテムである。最新素材で あるがゆえに百万円以上はかかる品物だが、乳癌治療としての保険適用の申請をして いるので、それが認められれば誰にでも実施できるようになるだろう。もちろん全額 自費出資すれば、美容外科としての豊胸手術も可能である。 「おまえなあ……。この変身スーツはあくまでお遊びアイテムだろう。それに我が社 のトップシークレットでもある、jk-273号を使うとは……。何を考えておるの だ」 「はあ……」 「お遊びアイテムなら、ラテックスやシリコン素材で十分だろうが。価格のことは考 えたのか? 誰が、お遊びアイテムに数百万の金を出すか? こんな変身アイテムに つぎ込むくらいなら、いっそのこと自分自身に直接豊胸手術した方が良いに決まって いる。そんなことも判らないのか!」 「はあ……。ごもっともで」 「まったく……。研究家というやつは……どうしてこうも、まともな考え方しないん だ。とにかくだ! その変身スーツの商品化は却下だ。判ったな!」 「……判りました」  完全にうなだれてしまった研究員。 「ところで……。これはどうしましょうか?」  と変身スーツを指差す。  体よく言えば、頭の先から足先まで、完全に女性の裸身を模した着ぐるみであった のだが……。
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記憶3

2018年8月 7日 (火)

銀河戦記/鳴動編 第二十章 タルシエンへ II

第二十章 タルシエン要塞へ

                 II 「さてと……」  ゆっくりくつろいでいる時間はなかった。  タルシエン要塞攻略に向けての本格的作戦を始動させねばならなかった。 「私のオフィスに、ゴードン、パトリシア、ジェシカ、そしてレイチェルを呼んでお いてくれないか」  かつて五人委員会と呼ばれた人員から、スザンナをレイチェルに替えたメンバーで ある。 「わかりました」 「リンダ、後を頼む」  当然指名されて驚いているリンダだった。 「え? わたしですか?」 「何を驚いている。旗艦の艦長なら、戦闘態勢以外の艦隊の指揮を執るのは必然だろ う。指揮官コードは教えただろう」 「で、でもお……突然言われても」 「いいな。任せるぞ」  と言い放って艦橋を退室してしまう。 「ど、どうしよう」  残されておろおろとしているリンダ。 「艦長、指示をお願いします」  オペレーターの一人が指示を請うた。 「し、指示って?」 「オニール大佐を迎えるための舟艇を出すんでしょう?」 「そ、そうだけど……」 「指示がなければ出せませんよ」 「え、え? 待ってよ」  舟艇を出すくらいなら指揮官でなくても、艦長の権限で指示を出せるのだが、極度 の緊張にすっかり忘れている。  そんな状態のリンダに呆れ返った表情でフランソワが言った。 「艦長、指揮官席にお座りください」  その口調には、あんたに艦隊の指揮なんかできないでしょ、といった皮肉にも聞こ える響きがあった。 「ねえ、フランソワ。あなたが指揮を執ってよ」 「何を言っているんですか、指揮を任されたのは艦長ではないですか。勝手にわたし が指揮を執るわけには参りません」  今は戦闘態勢ではないから、フランソワよりリンダの方が上官であり、優先権を持 っていた。例え戦闘態勢だったとしても、司令官の命令が優先するので、指揮を任せ ると指示されたリンダが指揮を執るしかない。 「もう……」 「とにかく……指揮官席にどうぞ」  腹立ち気味のフランソワだった。  自分ではなくリンダに指揮を任せたことに少し憤慨していた。 「う、うん」  おっかなびっくりで指揮官席に腰を降ろすリンダ。 「ええと……どうするんだっけ、フランソワ」 「あのねえ! まずは指揮官登録を行ってください」 「指揮官登録ね……ええと確かこうして……」 『戦術コンピューター。貴官の姓名・階級・所属・認識番号をどうぞ』 「やったあ! コンピューターにつながったよ」 「つながって当然です。コンピューターの指示に答えてください」  いらいらしているフランソワ。いい加減にしてよという表情である。 「ええと……リンダ・スカイラーク大尉、サラマンダー艦長、認識番号G2J7-3201」 『サラマンダー艦長リンダ・スカイラーク大尉を確認。指揮官コードを入力してくだ さい』  アレックスから伝えられた旗艦艦長に与えられる指揮官コードを入力するリンダ。 『指揮官コードを確認。リンダ・スカイラーク大尉を指揮官として認めます。ご命令 をどうぞ』 「これでいいんだよね?」  フランソワに確認するリンダ。 「ふん!」  ぷいと横を向いてしまうフランソワ。 「リンダ・スカイラーク大尉です。提督の命により指揮を執ります。シャトルを出し て、ウィンディーネにいるオニール大佐を迎えに行ってください」 「了解。シャトルを出します」  シャトル口が開いてシャトルが出て行く。 「シャトル、出ました」 「うん……それからね」  としばらく考えてから。 「セイレーンのリーナ・ロングフェル大尉を呼んでください」 「了解。セイレーンに繋ぎます」  すぐにセイレーンのリーナがスクリーンに映し出される。 「ロングフェル大尉です」 「リンダよ。お久しぶり」  やっほー、といった感じで手を振っている。 「あなたねえ。何考えているのよ」  呆れた表情のリーナ。 「あはは……怒ってる?」 「当たり前じゃない。それで、どんな用なの?」 「用って……、セイレーンの様子を知りたかったから」 「あのねえ。職権乱用じゃないの? いくら指揮を任されたからってね」 「まあ、いいじゃない」 「良くありません」 「ロザンナは元気?」 「元気です! そんな事はどうでもいい事です」 「替わってくれる?」 「あなた、人の話を聞いてないでしょ」 「ええとお……今、艦隊の指揮を執っているのは誰だったかなあ」  わざとらしく答えるリンダ。 「ううっ……」  どんなお調子者でも、指揮官席にいる限りその命令は絶対である。  戦術士官のリーナと言えども、相手が一般士官だったとしても、旗艦の指揮官席に 陣取るリンダの指揮に逆らうことはできなかった。  苦虫を潰したような表情になり、ロザンナに繋ぐリーナだった。 「はい。ロザンナ・カルターノ中尉です」 「どう、艦長の任務には慣れた?」 「はい。前艦長に負けないように頑張っております」 「うん。その調子で頑張ってね」 「はい」 「リーナに替わって」  再びリーナに切り替わった。 「気が済みましたか?」  つっけんどんに答えるリーナ。 「うん。ごめんなさいね。また連絡するわね」 「結構です!」 「じゃあね、ばいばい」  通信が切れ、どっと疲れた表情のリーナ。 「あんな調子で、艦隊の指揮を執ったらどうなるんだろね」  今更にして、サラマンダーの艦長推薦に同意したことを後悔するリーナだった。  いつまで経っても、リンダには頭を抱えることになりそうであった。
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記憶2

2018年8月 6日 (月)

性転換倶楽部/女性変身! ボディースーツ!!part.1

 女性変身! ボディースーツ!!

part.1 「社長! 新製品ができました!!」  と、飛び込んできた研究員がいる。  最近、このパターンが多い。 「君は確か……。ラテックス事業部の研究員だったな」 「はい。その通りです」  我が社は製薬会社であるが、薬局や薬店で取り扱っているような商品はすべて研究 開発・販売をおこなっている。ティッシュから洗剤はもちろんのこと、家庭生活の必 需品コンドーム……。コンドームといえばラテックスが材料である。その研究員はそ のラテックス事業部の開発部門の研究員だった。 「実は、インターネットを見ていて、面白いサイトを発見したのですが……」 「ほう……。インターネットかね」 「はい。なんと! 女体変身ボディースーツというものを製造販売しているんです」 「女体変身ボディースーツ?」 「論より証拠です。そちらのパソコンで見てみますか?」  社長室にはインターネットに接続されたパソコンが置いてある。 「おう。やってくれ」  それにしても女体変身ボディースーツとはな……。  研究員がパソコンを起動させてインターネットに接続させると……。
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「なんだこれは?」  ロングヘアーのナイスボディーの女性の写真が目に飛び込んできた。  そして何やら不気味な皮? 「判りますか? 一見女性に見えるこの人、実は男性なんです」 「ほんとかよ。こんな巨乳だし……。豊胸でもしているのか?」 「顔を良く見てください」 「顔……? なんか化粧が濃いな」 「その顔は、マスクなんですよ。マスクを被っているんです。男性が女性の顔のマス クを被り、女性の姿のボディースーツを着込んでいるんです」 「ほんとかよ。どう見ても化粧の濃い女性にしか見えないぞ」 「写真ですからね。解像度の問題で詳細がつぶれていますから」 「なるほどね。で、この女性の格好の男性と、新製品とどういう関係があるのだ」 「はい。この女性変身ボディースーツやマスクはラテックスで作られているんです」 「ラテックスか?」 「はい。それを参考にして、試作したのがこの変身スーツです」  と、取り出したのが、実に珍妙なるものだった。 「そのサイトではラテックスを使っていましたが、同じものでは二番煎じ。そこで新 開発の人工皮膚を使って似たようなものを製作してみました」 「人工皮膚を使ったのか?」  そうなのだ。  確かにラテックスは人間の肌に近いものがあり、コンドームに利用される他に、義 指・手や義足などの表面を覆う素材として利用されてきた。がしかし所詮は人工製造 物でしかなく、触ればすぐにそれと判るし老朽化も早い。  そこで人工皮膚の登場である。  その主題の根本精神は皮膚移植に利用しようというものだった。  おおやけどを負った患者には皮膚移植を行わなければならないが、自家移植では足 りない広範囲のやけどでは、死んだ人からの皮膚の移植が必至である。ところがこれ がなかなか入手困難である。かの有名なサハリン熱傷少年国際救助事件でも移植用の 皮膚の確保に苦労したという。  そこで人の肌の感触により近づけるように工夫し、且つ免疫における抗体抗原反応 を引き起こさない、特殊な人造蛋白合成技術を使った人工皮膚の開発に着手したのだ った。おおやけどを負った患者にこれを移植すれば細菌感染を防げると同時に、時間 の経過と共に自分自身の皮膚の細胞が浸潤してきて、やがてすべてが自分の皮膚に置 き換わっていくというものだった。
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記憶1

2018年8月 5日 (日)

銀河戦記/鳴動編 第二十章 タルシエンへ I

第二十章 タルシエン要塞へ

                 I  シャイニング基地軌道上に待機するサラマンダー。  接近する上級士官用シャトルがあった。 「数日しか離れていないというのに、久しぶりって感じだな」  感慨深げな言葉を漏らすアレックス。  軍法会議への出頭には、護送駆逐艦が使われた。一時的な身分の凍結が行われて、 サラマンダーには乗れなかったからである。 「みんなも寂しがっていましたよ」  アレックスが本星に行っている間の、サラマンダーの指揮を委ねられていたフラン ソワが言った。本星でのもろもろの用事を済ませたアレックスが、サラマンダーに戻 るとの報を受けて出迎えに来ていたのである。 「一番寂しかったのは君じゃないのか?」 「もう……提督ったら」  赤くなるフランソワ。  もちろんそれは、パトリシアのことを言っていた。  サラマンダーのシャトル進入口が開いて、静かに帰還するシャトル。 「提督。ご帰還おめでとうございます」  整備員や甲板員などがシャトルの周りに集まってきた。 「一時はどうなることかと思いましたよ」 「これからもよろしくお願いします」 「提督の行かれる所なら、どこへなりともお供いたしますよ」  と、口々にアレックスの帰還を祝福した。 「ありがとうみんな。こちらこそ世話になる」  艦橋へ直通の昇降エレベーターに乗る二人。 「タルシエン要塞攻略を命じられたこと、艦橋のみんなに伝わっています」 「どうせジェシカが喋ったのだろう」 「ええ、まあ……」  手続きで帰還が遅れるアレックスより、一足先にシャイニング基地に戻り、サラマ ンダーを訪れてパトリシアに報告、ついでに艦橋のみんなにも披露したというところ か。  サラマンダー艦橋にアレックスが入室してくる。  すかさず敬礼をほどこしてから、その手を拍手に変えて無事な帰還を祝うオペレー ター達。 「お帰りなさいませ」 「おめでとうございます」 「みんなには心配をかけたな。軍法会議は何とかお咎めなしで解放された。君達のこ とも無罪放免だ。もっとも条件付だがな」  そういうとオペレーター達が笑顔で答える。 「伺ってます。タルシエン要塞攻略を命じられたとか。でもご安心ください。私達ち っとも不服じゃないですから。提督とご一緒ならどこへなりともお供いたします」 「そうか……そう言ってくれるとありがたい。それから……リンダ」 「は、はい!」  元気良く返事をするリンダ。 「君には特に世話になったようだ。感謝する」 「いいえ。どういたしまして。当然のことをしたまでですよ」 「うん。今後とも、その調子で頼む」 「はい!」  ゆっくりと指揮官席に腰を降ろすアレックス。 「やはり、ここが一番落ち着くな」  シャイニング基地やカラカス基地の司令官オフィスではなく、サラマンダー艦橋の 指揮官席。独立遊撃艦隊の創設当時から、指揮を執り続けたこの場所が一番。自分を 信じて付き従ってくれるオペレーター達がいる。目の前のスクリーンには周囲を取り 巻く配下の艦艇群が、自分の指揮命令を待って静かに待機している。  自分を取り巻いている運命に身を委ね、自由な気運に育まれた環境にある。 「ところで監察官はどうなった?」 「本星に連れて行かれたようです」 「そうか……」 「どうせ、ニールセンの奴が手を回して無罪放免されるかも知れませんけどね」 「それとも始末されるかだ」 「ありえますね」

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性転換倶楽部/ショーツパニック

性転換ショート集/ショーツパニック

ショーツパニック  目が覚めるとそれはそこにあった。  部屋の窓際の勉強机の上。  可愛いレース飾りのある女物のショーツ。  なにこれ?  昨夜はこんなもの机の上にはなかった。  もちろん自分で置いた覚えもないし、自分の物ではなかった。  そういう収集趣味も持ち合わせてはいない。  となると問題は、これがどうしてここにあるかだ……  まわりを見回してみる。  部屋の中は相変わらずの小汚いいつもの様相を呈し、誰かが侵入したという形跡は見 られなかった。  ドアからこの机まで歩いてくるとすれば、散らかっているカップラーメンの空きカッ プや、読みかけの雑誌などを踏まずにはおれないだろう。それらの位置が微妙に違って くるはずだが、朝に出かける時の状態のままだった。トリックをあばいて犯人を当てる 推理小説が好きなので、こういう事件現場の配置状態とかの記憶力は研ぎ澄まされてい る。  まるで天井を突き抜けて舞い降りてきたという感じ。  ランジェリー姿の女の子の写真が掲載されている雑誌は当然として持っているし、こ れまでにも女の子の着替えとかを覗いたこともある。  男心として女の子の下着には興味がないといえば嘘になる。  しかし、生のショーツを目の前に、一度も触ったことがなかった。  はじめての経験。 「触ってみなさいよ」  誰かが語りかけてきた。  な、なに?  あわてて手を引っ込めて辺りを見回す。  しかし、誰もいるはずのない部屋。  いるのは自分ひとりだけである。  だとしたら、今の声は? 「何を驚いているのよ。ここにはあなたしかいないわよ」  まただ……。  一体どこから。  机の上のショーツに目をやる。  この部屋には自分一人しかいないはずである。  他に何かあるとしたら……。  まさかな……。 「そうよ。語りかけているのはあたし」  ほんとうかよ。  もの言わぬはずのショーツが語りかけているように感じた。  う、うそだろう?  いや、確かにショーツが語りかけている。 「どうしたの? 触ってみなさいよ」  それは意識に語りかけているみたいだった。  ありえない。  とは思いつつも、そう考えるしかなかった。 「女物なんて触ったことがないんでしょ?」  そうは言っても、なんかなあ……。  やはり女物のショーツを触るのにはさすがに抵抗感がある。 「このままずっとここに置いたままにしておく?」  そうか……。  何にしても、このショーツをどうにかしないといけないだろう。  そのためにも触る以外にはなかった。  そっと手を伸ばしていく。  ショーツが手に触れた。 「そうよ。別に危険なものじゃないのよ」  やわらかい……。  触った第一印象だった。  今まで履いていたブリーフと比べてみる。  そのやわらかさといったらブリーフなんか鉄みたいだ。  そして随分小さいなとも思った。  それにしても女性たちが、こんな小さなものを履いていると思うと不思議に思った。  女性の腰は男性よりも大きいはずだ。  じっくりと観察してしまう。  結構生地が伸びるな。  そうか、わかった……。  女の子には邪魔なモノがないからだ!  男物は、蒸れたりしないように、通気性を考えてゆったりめに作られている。  何せアレは、精子生産能力を維持させるために体温より冷却する必要があって、だか らこそ体外に露出しているのだから。  しかし女の子にはその必要がない。  ぴったり肌に密着するようにできていても何ら支障がない。 「どう?  履いてみたら?」  また、ショーツが語りかけてきた。  そ、そんなことできるわけないじゃない。  そう、言われても……。 「ほら、誰も見ていないのよ。履いてみるくらい、いいんじゃない?」  確かにそうかも知れないが、しかし……。 「恥ずかしがることないじゃない」  そういう問題じゃないと思うが。 「いくじなしね」  誰がいくじなしだ!  問題のすり替えじゃないか。 「じゃあ、どうするの? 捨てる?」  捨てるか……。  なんかもったいないような気がする。  こんな可愛いショーツだ。  持っているだけでも……。 「だめよ。匂いを嗅いだり、頭にかぶったりするのは」  誰が、そんなことするか!  しばしショーツを眺めながら考えてしまう。  手の温もりが伝わって、ほんわかとした感じになっていた。  履いてみるくらいなら、いいかな……。 「そうそう。ショーツは飾っておくものじゃないわよ」  魔が差したというべきだろうか。  一度くらいならいいんじゃないかな……。 「思い立ったが吉日よ」  服のボタンに手が掛かる。  すでに意識は、ショーツを履いてみようという気になっていた。 「部屋の鍵は閉まってる?」  あ、そうか……。  急いで、戸口の所へ行って、鍵が掛かっているか念のためにチェックする。  万が一誰かが入ってきたらとんでもないことになる。  一生の笑いものにされちゃうものな。  服を脱いでいく。  ベルトを外してズボンを降ろしていく。  後はブリーフを脱いで……。 「ちょっと、待って。上も脱いだ方がいいわよ」  どうして? 「やっぱりこういうことはきっちりしないとね。女の子のショーツ履くのに、上が男物 がアンバランスじゃない?」  それは確かに言えている。  寒くもないし……。  というわけで、上も脱いでしまうことにする。  最後のブリーフを降ろした。  すっぽんぽんになった。 「さあ! ショーツを履いてみましょう」  身体が緊張して微妙に震えていた。  生まれてはじめて体験することに冷や汗も流れている。 「椅子に腰掛けたら?」  そうだね。  足が震えてまともに立っていられない感じ。  座った方がいいかも知れない。    言われるとおりに椅子に腰掛けてみる。 「落ち着いてね。深呼吸しましょう」  スーハーと大きく深呼吸して、呼吸を整える。 「じゃあ、まずは左足からね」  ショーツに左足を通していく。  そしてもう片方……。  両足にショーツが掛かった。 「そうよ。そのまま一気に上にずり上げるのよ」  心臓がどきどきと早鐘のように脈打っている。  な、なんか……。やっぱり緊張しちゃうな……。 「大丈夫。誰でも最初はそうなのよ」  誰でも? 最初?  はじめて女装する人って、みんなこんな気持ちだったのかな……。  ふと自分の今の心境を思ってもみる。  なんかわからないが……。  ショーツを膝の上辺りまで上げた。 「さあ、立ち上がって」  ショーツを履くには、椅子に腰掛けたままでは不可能だ。  どっこいしょ。 「おじんくさいわね。どっこいしょって」  うるさい!  緊張してて、身体が重いんだよ。 「ふん!」  さらにショーツを上へと這い上げる。  生地が腰を覆ってまとわり付くように吸い付いてくる。  伸縮性があるから、小さくても意外と腰を包み込んでしまう。  ふうっ!  すっぽりとショーツが股間におさまった。 「ついにやったわね!」  はじめてショーツを履いたのだ。  なんか変な気分だ。 「可愛いわよ」  たしかにそうかも知れない。  しかし……。 「どうしたの?」  可愛いショーツなのに……。  股間の膨らみが邪推だ。  いわゆる「もっこり」というやつである。  せっかくの可愛いショーツもこれでは興ざめしてしまう。  やはりアイドル写真などに見られるように股間にぴったりと食い込むような感じでな いと……。 「そうね……。やっぱりそうよね。じゃあ、こうしましょうか」  ショーツが、そう言ったかと思うと……。  な、なんだ!  急に股間が痛み出してきた。  見る間に股間の膨らみが小さくなっていく。  え?  あわてて股間を押さえてみる。  急速にそれが縮んでいくのかはっきりと判った。  ちょ、ちょっと待ってくれよ。 「黙ってて、今忙しいの!」  すでにそれは見る形もなくなっていった。  しかも身体の変化はそれだけではなかった。  下を向いて股間を覗いていた視界にある胸部が膨らみ始めたのである。  最初は乳首がつくんと張り出したかと思うと、やがてそれが広がっていって胸全体が 大きく盛り上がってきたのである。  胸の膨らみは見る間に大きくなっていき、すでに胸の膨らみが邪魔になって、股間を 見ることもできなくなっていた。  乳房か?  ふわりとその乳房にかかるように垂れ下がってくる長いしなやかな髪の毛。  お、女の子になっちゃうよ!  や、やめてくれ……。  ショーツに向かって懇願する。 「いいのよ。女の子はいいわよ」  いいわよと言われてもなあ。 「こんな可愛いショーツとかランジェリーとか着れるようになりたいと思わない?」  冗談じゃないよ。  そんな趣味はこれっぽちもないぞ。 「もう遅いわ。あなたは女の子になるのよ」  やめてくれ!  男に戻してくれ!  だが女性化への変化は留まることを知らなかった。  このままでは、本当に女の子になってしまう。  そうだ!  ショーツを脱いでしまえば……。  ショーツに手を掛けてずり降ろそうと試みる。  ところがショーツは、まるで股間に張り付いたかのように、脱ぐことができなかった。  う、嘘だろう。 「だめよ。中途半端になってしまうじゃない」  中途半端といってもなあ……。 「いいから、最後まで黙って見ていなさい」  これが黙っていられるか!  さらに力を加えてショーツを脱ごうと試みる。 「諦めが肝心よ」  まるであざ笑うかのようなショーツの言葉どおり、無駄な抵抗だった。  さらに留まることなく、身体全体も細く丸くなっていく。  細くくびれたウエスト、大きく張り出したヒップ、なで肩から腰までのラインはまさ しく女の子のそれだった。  次第に女の子の身体が完成に近づきつつあった。  なんでこんなことになってしまったんだ……。  今更後悔してもしようがない。  すべてが終わった時……。  どこかの学校の制服を着込んだ 可愛い女の子が一人。  部屋の中に立ちすくしていた。  その女の子が、ぽつりと呟く。 「汚い部屋ね。まずは、お部屋の掃除からね」  机の上に小汚い男物のブリーフがあった。 「なによこれ、汚いわね」  というと女の子は、そのブリーフをゴミ箱に捨てると、何事もなかったかのように部 屋の掃除をはじめた。
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性転換倶楽部/女子高生になれる薬

 女子高生になれる薬

「社長! 新薬ができました」  いつもながら脈略もなく登場する研究員。 「また、君か……。今度は何ができたんだ」 「はい。女子高生になれる薬です」 「女子高生になれる薬?」  これはまた突拍子もない内容だ。  その効能は名前の通りなのだろう。  それにしても……。  女子高生になれる薬  ……とはな。  いくらなんでも信じがたい。 「それで誰かに試してもらったのか? 動物実験は?」 「いいえ。これだけは動物実験もできませんし、身近にも女子高生になりたいという者 もいませんから」  確かに女子高生したチンパンジーってのはお笑い種なだけである。 「で……。まさか、私に被検体になってくれというんじゃないだろうな」 「ピンポン!」 「おい!」  私は、専属の新薬の実験役じゃないぞ。 「だって他にいないじゃありませんか。どうしますか?」  と、じっと私の顔を覗く研究員だった。  こんな薬……、他の者に試させることなど出来るわけがないだろう。 「わ、わかった! 私が実験台になってやるよ」 「あ、ありがとうございます」  というわけで、早速「女子高生になれる薬」なるものを、飲んでみることにする。  その効用を実際に確認してみなければどうしようもないからである。 「それでは椅子に腰掛けてから薬を飲んでください」 「座るのか?」 「はい。これを飲むと、大脳組織に直接的に作用しますので、一時的にですがめまいが 生じます」  立っていると危険というわけか。 「判った」  言われたとおりに社長用の椅子に深々と腰を降ろした。 「まずは、この写真をご覧ください」 「写真?」  手渡された写真には、女子高生の制服を着た女の子が映っていた。 「この写真でどうしようというのだ」 「いえ、じっくりとご覧になってくださればいいんです。そしてその女子高生のイメー ジをしっかりと頭の中にインプットしてください。そのイメージが変身後の姿になりま す」 「なるほど、この女子高生みたいになれるというわけか」  写真をよく見ると、その制服には見覚えがあった。  真奈美の通っている学校の制服じゃないか。 「いいですか? 頭に入りましたか」 「大丈夫だ」 「では、薬をどうぞ」  と言って、薬と水の入ったコップを乗せたトレーを差し出した。  トレーから薬を取って、コップの水で胃の中に流し込む。 「何時間で効果が現れるのだ」 「胃の中で融けて吸収される成分で出来ていますから、そうですね……十分くらいで す」 「そうか……」  効果が現れるのをじっと待った。  やがてめまいがはじまる。  ぐるぐると天井が回りだした。 「気分が悪いぞ」 「目を閉じてください。椅子にゆったりと腰掛けて楽にしてください」 「判った」  やがてめまいが治まってくる。  しかし、何か変な気分だ。 「もういいでしょう。目をゆっくりと開けてください」 「判った」  ゆっくりと目を開ける。  さて、どんな風に変身できたのだろうか?  緊張する一瞬であった。  一番に目に飛び込んできた映像は、豊かに膨らんだ胸だった。  おお! 「どうぞ、鏡で全身を映してみてください」  社長室に置いてある姿見を正面に持ってくる研究員。  そこにはまさしく、椅子に腰掛けてセーラー服を着込んだ可愛い女子高生がいたので あった。  別人じゃないかと手を挙げたり、顔を横に振ってみたりするが、鏡の中の女の子はそ の動きにしっかりと付いてきていた。  立ち上がって全身像を写してみる。  なかなかスタイルもいいな。  セーラー服を下から押し上げて膨らんでいる胸。  きゅっとくびれた細いウエスト、そしてなだらかなラインを描いてヒップへと続くボ ディーは理想的なまでに魅力的だった。  私が理想とする女子高生像がそこにあった。  くるりと回ってみる。  ミニスカートの裾がふわりと広がってすぐに元に戻る。  豊かな胸は、ふるふると動きに合わせて揺れ動き、言い知れぬ感覚があった。  じかに触ってみても確かな胸の感触があった。 「これがわたしなのか?」 「どうです。可愛い女の子になっているでしょう?」 「そうだな。しかし、いつの間にセーラー服に着替えたのだ」 「まあ、それはともかくすばらしいでしょう」  うーん。  研究員の態度がどこかおかしいな。 「なあ、本当に女子高生に変身しているのか?」 「そ、それは……」  冷静になって考えてみれば、薬を飲んでから一時間と経っていないだろう。  そんなに短時間に性転換を起こし、セーラー服に着替えさせることが、可能だろう か? 「正直に言いたまえ。もしかしたら……この姿は、ただそう見えているだけじゃないの か? この薬は性転換薬じゃなくて、大脳に働いて女子高生になっている夢を見させる 薬だろう。飲む前に写真をじっくり見させたのは、夢を見るためのイメージを植えつけ るためだ」  研究員はうなだれている。  そしてぽつりと答えた。 「は、はい。社長のおっしゃるとおりです。これは女子高生になる夢を見させる薬なん です。しっかり起きてはいますが、自分の姿のみが変身した架空の姿に見えるようにな っているんです」 「やはりな」 「申し訳ありません」  うーん。確かに実際に変身するわけではないが、気分だけでも女子高生になれるとい うのも、それはそれなりに便利かもしれない。性転換や女性ホルモンを飲んだりまでは 考えていないけど、ごく普通の女装趣味な人々には歓迎されるだろう。  女装するには肝心な衣服や化粧品を買い揃えなければならない。  家族と一緒に暮らしている人々にとっては、女装は大きな障害となっている。女装用 品をどうやって隠すかとか、家の中ではそうそう女装していられる時間は限られている し。家族が出かけている時とか、寝静まってからということになるだろう。  女装趣味が、いつばれるかと日々苦悩しているわけだ。  女装サロンとかいって、女装したまま同じ趣味の人たちと交流を広められる店もある が、そうそう通えるわけじゃないし金も掛かる。また女装して他人には会いたくないと いう人には無理だ。  しかしこの薬を飲用すれば、すべてが解消する。  そう。  自分の目からは女子高生の姿に見えるが、他人の目には普段と同じ。  つまり家族と一緒に生活し、会社や学校などに通いながらも、女子高生の姿でいられ るというわけだ。  単なる自己満足かも知れないが、女装趣味の人にはそれでも嬉しいと感じるかも知れ ない。  研究員はうなだれていた。 「よし。いいものを開発してくれた。感謝する」 「え?」  顔を上げてきょとんとしている研究員。 「この薬を正式に採用しよう。製造・販売を許可する」 「ほんとうですか?」 「ああ、ほんとうだ」 「ありがとうございます」  研究員の表情が明るくなった。 「実は……、スチュワーデスになれる薬、看護婦や女医になれる薬、婦人警官になれる 薬……、とかもあるんですけど……」  おうよ。  どんどん、やってくれ!
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性転換倶楽部/女子高生になれる薬 2

女子高生になれる薬2

「社長! 新薬ができました」  いつもながら脈略もなく登場する研究員。 「また、君か……。今度は何ができたんだ」 「はい。女子高生になれる薬です」 「それは、前回の薬と同じじゃないか」 「いいえ。今度のはまた違う薬です」 「どこが違うのだ」 「前の薬は自分の意識を操作して、女子高生になった気分になるものでしたが……」 「ああ、あれは結構売れに売れて、人気商品になったぞ」 「ありがとうございます。それで、今度のは皮膚にある汗腺に働いて特殊な臭いを発す るようになるんです」 「特殊な臭い? あまり嗅ぎたくない感じだな」 「ちゃんと聞いてください。臭いというのは、特殊な性行動誘発フェロモンのことなの です」 「フェロモン?」 「このフェロモンを嗅いだ人間は、そのフェロモンを出している人物を女子高生だと思 い込んでしまうのです」 「まさしく、前回の女子高生になれる薬の他人誘導版だな」 「フェロモンが利く範囲は、一キロメートルです」 「まるで昆虫並みだな。それじゃあ、視界にいるすべての者から、女子高生に見られる ってことだな」 「その通りです」  しばらく考えてみた。  前回の女子高生になれる薬は、本人の意識のみを操作して女子高生になった気分をも たらした。そしてその薬は、女装趣味の人々の間に口コミで広がり、大いに売れて会社 を潤してくれた。この件に関しては特別賞与を考えている。  しかし、今回のフェロモン誘発剤に関しては、どのような利用方法があるのだろうか。 「ともかく、実際に試してみなくちゃ判らないな。私が実験台になってやろう」  自ら進んで研究員に進言した。 「そうおっしゃると思いました」  というわけで、早速薬を投与する。  今回は静脈注射用の薬剤だった。  袖を捲くった腕に、慣れた手つきで注射をする研究員。  それから効果が現れるまでじっと待っていた。 「気分はどうですか?」 「何にも感じないな……」 「薬が効いてますよ」 「本当か? 女子高生に見えるのか?」 「嘘だと思ったら、外を出歩いてみたらいかがですか?」 「恥ずかしいじゃないか」 「大丈夫ですよ。他人には女子高生にしか見えないんだし、……その……、万が一効果 が切れても元のままなんですから」  確かに研究員の言うとおりだ。  他人には女子高生に見えるが、本人はまったくそのままで、薬が効いていようといま いと、或いは薬の効果が切れても、元々なにも手を加えていないのだから。何の心配も いらない。 「うーん。心配ではあるが、薬の効果を確かめなくちゃいけないしな……」  えい、ままよ!  というわけで、社長室を出ることにした。  廊下を歩いていると早速声を掛けられた。 「君、君、ちょっといいかな」  常務だった。 「女の子が会社に何か用かい? セーラー服着てるとこ見ると女子高生みたいだけど、 まだ授業中のはずだよね」  冗談を言っている顔ではなかった。  常務の目には、セーラー服を着た女子高生に見えているようだった。 「あの……。真奈美といいます。社長さんに用があってお会いしてたんです」  とっさに知っている名前を言葉に出した。 「真奈美……。ああ、そういえば社長の知り合いにそんな名前の女の子がいたな」 「はい。その真奈美です」 「社長の知り合いならしょうがないけど、学校はさぼっちゃだめだよ。午後の授業には まだ間に合うだろう、学校に戻りなさい」  といって、常務の部屋へと向かっていった。  社内を歩いていると至る所で呼び止められて、 「女子高生が会社に遊びにだめだよ」  とお叱りの言葉を受け続けていた。  それじゃあ、ということで、 「会社の外に出てみるか……」  そう思ったのであるが、受付嬢のいる前を通らなければならなかった。  今日のこの時間は、 「響子と由香里だったな」  果たしてあの二人には、どう見えるのであろうか?  どきどきしながら受付の前を通り過ぎる。  できれば見つからないことを祈ったがそうもいかなかった。 「あら? ちょっと、あなた」  先に声を掛けてきたのは響子だった。 「ねえ、こんな時間にどうしたの? まだ授業がある時間だよね」  セーラー服姿だから当然女子高生だと思い込んでいる。 「あらら、こんな可愛い子が訪ねてくるなんて、お父さんにでも会いに来たの?」  由香里も気づいていないようだ。  二人の目には、完全に女子高生として映っているようであった。  すごいな……。  フェロモンの効果がこれ程までとは。 「はい。お弁当を忘れていったので届けに参りました」 「あら、親孝行なのね。でも、授業を抜け出しちゃいけないわね」 「これから学校に戻ります」 「そうね。気をつけて行くのよ」  女の子らしく軽く手を振って別れの挨拶をする。  そして会社の外へ出てきた。  さて、どこへ行こうかな……。  会社前にはちょっとした公園のようなものがあり、噴水の前のベンチに座り考えてい ると、 「ねえ、お嬢ちゃん。こんなところで何してるの?」 「まだ授業中だよね」 「いけないなあ……。おじさんが学校へ送ってあげようか?」  と男達が声を掛けてくる。  送り狼に変身するのだろう?  体よく断る。  しばらくすると、また声を掛けられる。 「ねえ、君、アイドルにならないかい?」 「そうそう、君くらい可愛かったらすぐに人気アイドルになれるよ」 「どう、すぐそこに事務所があるんだ」  アイドルはアイドルでも、AVアイドルだろうが!  これも断る。  フェロモンが効いている目の前の男たちは女子高生に見えているだろうが、実際は筋 骨たくましい男なのだ。AVを見ている連中にはフェロモンは効いていない。  男同士がくんずほずれつしている映像を見せ付けられるわけである。  お笑い種にもならないな。  とにもかくにも入れ替わり立ち代わりで次々と男達が誘っていく。  若い連中は、お茶しようと必ず声を掛けていく。まあ、こいつらは誘いに乗ればめっ けもんという軽い気持ちだから執拗には誘わないが、アダルト系の勧誘員とおぼしき連 中のしつこさには参る。まあ、それで飯を食っているのだからしようがないのだろうが、 こんな奴らの毒牙にかかる女の子もいると思うと悲しくなる。  さてと今日のところはこんなもんでいいか。  一応女子高生なるものに姿を見せかけられることが判ったことで良しとしよう。  まあ、私には女装趣味なるものはないが、あまり深く関わっていると癖になってしま うかも知れない。  お昼の休憩時間になっているのを確認し、あの二人に会うと問題になるかも知れない しね、こっそり会社に戻って、研究員を捕まえて確認する。  薬の持続時間を聞いていなかった。 「で、薬の持続時間はどれくらいなんだ?」 「持続時間ですか?」 「そうだ。二時間は経つがまだ効いているみたいだ」 「あの……」  言いにくそうだった。  なんか……いやな、予感がした。  こういう言い方をした時は、決まって……。 「持続時間は……。永久に続きます」  な、こういうと思った……。  って、おい!  今、何と言った!  永久?  一生効果が続くということか?  つまり、女子高生に見られ続けるということじゃないか!  そういえば言っていたな、 「大丈夫ですよ。他人には女子高生にしか見えないんだし、……その……、万が一効果 が切れても元のままなんですから」  効果が切れると言う直前に、ちょっとした間があったが、こういうことだったのか。  自分の子供に平気で薬を使う研究員だ。  効果を確かめるために、嘘をついてでも実験を押し進めることは判っていたじゃない か。  考えが甘かった。  その日から、女子高生した男の生活がはじまった。  街を歩くたびに、女子高生だと思い込んでいる人々から「学校はどうしたの?」と聞 かれるし、補導員に捉って学校名を聞かれるし……。会社に行っても、受付嬢の響子た ちに「学校へ行きなさいね」と追い出される。  皆が皆、私を女子高生として見てしまう以上、女子高生として暮らすよりなかった。  こうして女子高校に編入し、女の子に混じって生活する羽目になった男がひとり。
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性転換倶楽部/魔女っ子変身アイドルになれる薬

魔女っ子変身アイドルになれる薬

「社長! また新薬ができました」  いつもながらのパターンで登場する研究員。  毎度のことだから、飽きてきたぞ。 「今度は、何を開発したんだ?」 「魔女っ子変身アイドルになれる薬です」 「魔女っ子変身アイドル?」 「はい。前回の女子高生になれる薬は、女子高生だけにしかなれませんでしたが、今度 のは……」 「呪文を唱えれば何にでも変身できるか?」 「その通りです。さすが、社長ですね」 「それくらい、誰だって推測はつく」 「ですよね……」  まあ、いいさ。  スチュワーデスや看護婦とか、一つしか変身できないよりも何パターンもあったほう が楽しいかもしれない。  特撮ヒロインもののTV番組に使えそうだが……。  ごく普通の女の子が、悪の組織に立ち向かうために、魔女っ子変身アイドルとなって 戦うという設定で、この薬を使って変身シーンを撮る。そうすれば、特撮じゃないリア ルな変身シーンを見せられそうである。  そうでなくても、女の子の話題性として人気が出そうな感じがする。  よくコミック・マーケットとかでコスチュームプレーする女の子が多いが、魔女っ子 変身アイドルものなら売れるだろう。 「なあ、この薬は、女の子に使っても効果があるのか?」  まさか男が魔女っ子じゃ、笑い者にしかならないからな。 「いいえ、これは男性専用の薬です。わたしのモットーは、虐げられた男性達に夢を与 えるのが、その根本思想ですから」  おいおい。  それじゃあ、販売ルートが限られるじゃないか。  誰にでも使えるような汎用的なものじゃないと。  まあいいさ。 「どうせまた、実験台として新薬を飲んでくださいと言うのだろう?」  呪文を唱えなければならないのは……、ちょっと恥ずかしいがな。 「その通りですが……」 「なんだ、何かあるのか?」 「実はこの薬……。意識だけを操作するんじゃなくて、本当に変身しちゃうんです」 「お、おい。冗談だろ?」 「わたしが今まで冗談言ったことありますか?」 「いや、ないが……。本当に変身するのか?」 「はい! ただし薬が効いている間だけです。切れたら元に戻ってしまいます」 「本当に薬は切れるんだろうな、前回では一生女子高生してなきゃならんのかと思った ぞ」 「はい、何とか解毒薬が完成しました。良かったですね」  ほんとにどうなるかと……。 「じゃあ、早速はじめますか?」 「その前に確認しておくことがある」 「なんでしょうか?」 「副作用はないだろうな」  そこのところが重要だ。  とんでもない副作用なら願い下げだ。 「大丈夫です」  きっぱりと言ったな。  なら大丈夫だろう。口ごもったりすると何か隠していたりするのだが。 「まあ、いい。はじめてくれ」 「はい」  研究員は、薬瓶から錠剤を取り出し、水の入ったコップと共にトレーに乗せて差し出 した。 「今回は錠剤か……」  ええい!  考えていてもしようがない。  ままよ。  薬を口の中に放り込み、水で喉の中へ流し込む。  それから小一時間が経った。 「効かないじゃないか」 「いえ。魔女っ子変身アイドルというくらいですから、この魔法のバトンを振りながら 呪文を唱えていただかないと……」  と言いながら、取り出したのは、可愛らしい装飾のついたまさしくバトンだった。 「そ、そんなことしなきゃならんのか?」 「はい。それが魔女っ子変身アイドルの決まり文句です!」 「そりゃそうかも知れないが……」 「誰しも変身願望というものを潜在意識に持っています。準備体操よろしく、これをす ることで潜在意識を掘り起こして、魔女っ子変身アイドルになる準備が整うのです」  きっぱり!  と言い放つ研究員だった。  おい、おい……。  そりゃないだろ……。  恥ずかしいこと、この上ないぞ。  中年の男がするもんじゃない。 「できるわけがないだろ」 「でも、これをやらないとせっかく飲んでいただいた薬の効果が切れてしまいますよ。 この試用品を創るだけでも、多種多様な薬剤を何度も何度も試行錯誤で調合しては廃棄 し、やっと完成にこぎつけたのです。薬品代とかだけでもかなりの額になりますが、無 駄になさるおつもりですか?」  確かにその通りかも知れない。  魔法のバトンを見つめながら困惑しきりの私だった。  ううむ……。 「わ、わかった……。では、具体的にどうすればいいのだ?」 「説明しましょう。そのバトンを貸してください。実際にやってみます」  私がそのバトンを渡すと、早速にバトンを振り回すようにしながら、 「ペペルマ、パリキュラ、サマルカンドル……。魔女っ子アイドルになーれ!」  と呪文を唱えながら優雅に舞い踊った。  ま、真似できない……。  いくらなんでもそこまでは出来ない。 「……とまあ、こんな具合です。わたしは薬を飲んでいないので、変身はしませんが… …。さあ、今度は社長の番ですよ」  バトンを返してよこした。 「ぺ……ペルマ、パリ……」  舌を噛みそうだった。 「だめですよ。呪文はもっと流暢に唱えなくちゃ」 「恥ずかしくて言えるかよ」 「そんなことでどうするんですか? これをなさなければ薬は完成したとは言えないの ですよ」  おい!  そこまで言うなら、自分でやれば……。  って、これは男性用か……。彼女の場合は、やっぱりだめだな。  いや、待てよ。  それは口実で、実際には女性にも使えるものかも……。  あり得るな。  とはいえ、もう自分が飲んでしまった。 「さあ、どうしたんですか? 続けてください」  よく言うよ。 「ペペル・マ、パセリ…… 「パセリじゃありません! パリキュラです」 「パリキュラ……」  しばらく呪文を唱える練習が続いた。 「ああ……。もう、薬の効果が切れる頃ですね」 「そうか……。残念だな」  薬が切れては、続ける意味がないだろう。 「それじゃあ、また薬ができたら……」 「いえ、予備にもう一錠あるんです」  げっ!  いやな奴だ。  それなら最初から言っておけ。 「でも、今日はこれくらいにしておきましょう。呪文をまともに唱えられないのに、薬 を飲んでもしようがありませんから、明日から特訓をしましょう」 「特訓?」 「呪文を間違いなく流暢に唱えられるようになるまで特訓です。さらにバトンを振る練 習もしなければなりませんしね」 「おいおい。こんなことずっと続けるのか」 「社長が、どうしてもおいやなら構いませんよ。でも、薬は完成しません。それとも他 の社員に命じてやらせますか?」  できるわけがないだろう!  こんな人体実験を社員にやらせるわけにはいかない。 「わかったよ。特訓をはじめよう」  というわけで、翌日から魔女っ子変身アイドルになるための猛特訓がはじまった。  呪文は何とか覚えることができた。  しかし、バトンを振りながら優雅に舞い踊る仕草が、思うようにならなかった。 「だめ! もっとしなやかに身体を動かして」 「そうじゃない! 手は大きく右上から左下へ振り下ろすようにしながら……」 「空いている左手は腰に常に置いて……。はい、そこで軽くジャンプして……」  研究員の厳しい指示が飛び交う。  しかも身体の動きだけではなかった。 「だめだめ。心がなり切っていない! いいですか? 変身を完成させるには、心底か ら『自分は魔女っ子アイドルになるんだ』と思わなくちゃだめなんです。少しでも疑惑 の心があれば変身はできないのです。もっと潜在意識を掘り起こし、魔女っ子アイドル になりたいと真剣に思ってください」  そ、そこまでしなきゃならないのか?  研究員は、手加減なく容赦のない指導を続けている。  さらに一週間ほど経過した。  心と身体と両面からの、魔女っ子変身アイドルになるための特訓が続く。 「だいぶよくなってきました。今日は薬を持ってきています。一回リハーサルをしてか ら、この薬を飲んで本番に臨みましょう」 「そうだな……」  リハーサル……。  私は、深呼吸し気を落ち着けながら、強く念じる。  魔女っ子変身アイドルになる!  そしてバトンを振り回しながら、 「ペペルマ、パリキュラ、サマルカンドル……。魔女っ子変身アイドルになーれ!」  と唱えながら優雅に踊った。  ぱちぱちぱち。  と研究員が拍手しながら歩み寄ってくる。 「すばらしいです、お見事! 完璧ですよ」 「そ、そうか……」  ずーっと特訓を続けてきたんだ。  これでだめと言われたら、めげるぞ。 「それでは、今度は薬を飲んで……」  と、研究員が言いかけたときだった。  当然、私の身体が輝き始めたのだ。 「な、なんだ! どうしたというのか?」 「しゃ、社長!」  か、からだが……。全身が焼け付くように熱い!  そんな状態がしばらく続いたが、やがて光の消失と同時に元に戻った。  ふうっ……。  どうなるかと思ったぞ。  と、研究員を見ると、硬直したようにぴくりとも動かず唖然としていた。 「おい! どうしたんだ? ぽかんと口を開けて……」  その言葉に我に返って問い返してくる。 「社長は気が付かないのですか?」 「なにがだ?」  研究員は、黙って社長室にある姿見を私の前に置いた。 「どうぞ、鏡をご覧下さい」  研究員の言うとおりに鏡を覗くと……。  そこには、派手な衣装……まさしく魔女っ子変身アイドルが着るようなコスチューム 姿の女の子が映っていたのだ。もちろん身長も体格も完全なる十二歳の女の子そのもの。 「こ、これは!?」 「薬なしで、変身してしまいました」 「う、嘘だろ? この女の子が私と言うのか?」 「社長の目にも、女の子に映って見えるのですね?」 「ああ、可愛いアイドル姿の女の子がね」 「ということは、夢でもなんでもない、正真正銘に変身をしてしまったようです」 「じょ、冗談だろ?」 「真実です。現実を直視しましょう。社長は魔女っ子変身アイドルになれる特技を身に 着けてしまったのです」 「おい! これが先日飲んだ薬の副作用じゃないだろうな?」 「そうではない。とは言い切れませんね。多分に可能性はあります」  なんたることだ……。  これまでの猛特訓によって、私の中の潜在意識にある変身願望が呼び起こされて、と うとう具現化してしまったのだ。  薬をわざわざ飲まなくても、強く念じるだけで変身を遂げるという体質に変わってし まったのだ。  強い信念、岩をも砕く。  正真正銘の魔女っ子変身アイドルの誕生であった。  しかも、あろうことか元の姿に戻れなくなってしまったのだ。  今度の姿は十二歳の女の子。幻想でも夢でもないモノホンの女の子だ。  こうして中学一年生として編入することになってしまった男が一人。  そして日夜、完全悪と戦う正義のヒロインとして活躍しているのだ。
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性転換倶楽部/性転換ウイルス!

性転換ウイルス!

「社長! 例の研究が完成しました!」  試験管を片手に飛び込んできた者がいる。  おや?  いつも飛び込んでくる研究員とは違うわね。  そうなのよ。  あの研究員の薬の副作用のおかげで、未だに女子中学生のままよ。  ああ、そうそう。  女の子として生活しているので当然、女の子らしい言葉使いや仕草をするように心が けているの。そうしないと気がゆるむと男性言葉になってしまうから。  解毒薬が完成するまでは、ここへ来るなと言ってあるの。  ふう……。  ともかく……。  この女子中学生の姿のおかげで、どんなに苦労したことか。  私が会社社長だと言っても誰も信じてはくれなかった。  それが、こうして再び社長の席に戻れたのは、祖母にして副社長の力である。  何とかなるだろうかと、祖母に相談に行ったところ、私の姿を一目見て、自分や母の 若いときに瓜二つだということで、すぐに血液鑑定にはかってくれた。  とまあそういうわけで、女子中学生ながらも社長業に復帰できたわけ。  話を戻しましょう。 「あなたは、確か……。バイオテクノロジー研究所の所員ね……」  思い出したわ。  例の研究員が開発した「性転換薬その1」の体格や素顔も女性にしてしまう、改良 バージョンの薬効成分を作り出す遺伝子を持ったバクテリアの開発をしていたはずだ。 このバクテリアを大量増殖させて、薬効成分を取り出せば、性転換薬を安価に大量生産 できるというものだった。  細胞中にあるY染色体に働きかけて、これをX染色体に生まれ変わらせる作用を持っ ている。つまり X-Change である。 「はい。例の遺伝子操作による性転換薬生産バクテリアの創製に成功しました。この試 験管にその『バクテリア X-Change-1』が入っています」 「ほんとう! ついにやったのね」 「はい。増殖力も通常の百倍以上に強化して生産性を増しています」 「性転換薬の大増産が可能ね。これで誰でも自由に性転換が可能になるし、我が社も儲 けさせてもらいましょう」  その時だった。  インターフォンが鳴った。 『社長。バイオテクノロジー研究所から連絡です』 「繋いでください」  バイオテクノロジー研究所からとは珍しいわね。  だが、その連絡はとんでもないものだった。 『社長! 大変です!』 「どうしたの?」 『バイオハザートが発生しました!』 「何ですって! どういうことですの?」 『バクテリア X-Chang-1 の試験棟から、性転換遺伝子を組み込んだスーパーバクテリ オファージが漏洩しました』  スーパーバクテリオファージ(以降SBFと略する)は、当研究所が耐性菌治療のた めにバクテリオファージ(以下BFと略する)の開発の中から生まれたものである。  一般的なBFは、大腸菌をターゲットにするラムダファージのように特定のバクテリ アしか捕食しないので、これを上手く利用すれば、耐性黄色ぶどう球菌などの特定病原 菌のみを捕食して、他のバクテリアや細胞を破壊しない、つまり副作用のない安全な治 療ができるというものだった。  ところがSBFは、どのようなバクテリアをも捕食する大食性を持つ突然変異種で、 しかも細胞内に溶け込んで遺伝子を組み込む能力を持つλ型溶原生BFだった。何でも 捕食するということは、バクテリアごとにそれぞれBFを用意する必要がなく、溶原生 を利用して遺伝子の運び屋(ベクター)として、バイオ研究には最適だった。  その第一弾の開発研究の中に性転換遺伝子研究があった。  だが、伝染力がすさまじく取り扱いには厳重管理が必要だった。  そのSBFが研究所から漏洩した! 「馬鹿な! どうしてそんなことになったの?」 『判りません、原因不明です』 「研究棟を完全閉鎖してください」 『もう遅いです。SBFはすでに研究所外に拡散してしまいました』 「冗談じゃないわ。SBFはものすごい伝染力を持っているのよ』 『は、はい! SBFは、各種の病原性ウイルスに取り付いて突然変異を起こし、性転 換遺伝子を持った新たなる病原性ウイルスが次々と誕生しています。性転換遺伝子を持 った風邪のウイルスやインフルエンザウイルスも発見されました。もう、手がつけられ ません』 「なんてこと!」  もはやどうすることもできなかった。  すでに全世界にSBFは伝染していった。  性転換遺伝子を持ったSBFは、この世に存在する男性という男性を女性に性転換し ていった。  恋人が突然女性になって最初は笑い転げていた女性達も、やがて事態の重大さに気づ いて慌てふためいた。  この世から男性が消えうせてしまったのである。  つまり子孫を作り出せなくなってしまう。  人類最大のピンチ!  果たしてどうなるのか?  救世主は現れるか?  乞うご期待!  ……って、このシリーズは本来読みきりで、連載じゃないんだけどね……。
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性転換倶楽部/性転換薬その2.1

 性転換薬その2.1

「社長! 性転換薬ができました」  先日、三ヶ月の息子を見目麗しき美貌の女性にしてしまった研究員が飛び込んできた。 今日も、ベビーカーを押してきている。 「おいおい、まだ懲りていないのか。その子が見世物になるようなミニチュア美人にな ったのも、君のあさはかさと薬の利きすぎだろう」 「今度は、女性を男性に変える性転換薬なんです」 「女性から男性だと?」 「はい、その通りです」 「おい! 念のために聞いておくが、またその子を実験台に使ったんじゃないだろう な?」 「その通りです」 「おまえなあ……よくもまあ、自分の子供をそうも簡単に……」 「だって、前のままじゃ、人前にも出られず、あまりにも可愛そうです」 「で、元通りになったのか?」 「どうぞ、ご覧になりますか」 「見せてもらおうか」  研究員は、ベビーカーで眠る赤ん坊の掛け毛布を取り去って見せてくれた。  豊かな乳房と絶妙なボディーラインを持ったミニチュア美人ではなかった。  どこにでも見られるようなあどけない寝顔をしたごく普通の赤ん坊だった。  おや? 「ところで……やけにおしめが大きく膨らんでいるように見えるが……」 「あ、やっぱり気づきました?」 「気づくだろう。これだけ大きければな」 「見てみます?」 「いや、よしておこう」  見なくても想像はつくさ……。  たんたんタヌキ……。
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性転換倶楽部/性転換薬その2

 性転換薬その2

「社長、出来ましたよ!」  と叫びながら社長室に飛び込んで来た女性がいる。  一見医者のような白いユニフォームを着込んでいるが、うちの会社で雇っている薬剤 師の資格を持つ研究員の一人だ。  手には液体の入った瓶を持っている。 「何だどうした? 何ができたんだ?」 「性転換薬ですよ。社長がご命令なされた薬が完成しました」 「それは、本当か?」 「はい。動物実験でチンパンジーのレベルまで、効果が実証されています。次は、人体 への臨床実験に移行します。それでご報告に参った次第です」 「そうか……とうとう臨験までこぎつけたのか。よくやった」 「しかし、困っているんです」 「困る?」 「臨験を実施する相手がいないんです」 「そうだろうなあ……。癌の特効薬とかいうのなら、いくらでも臨験を願い出る末期患 者がいるのだが……。性転換となると……」 「どうしましょうか?」  じっとわたしの顔を見つめる研究員。 「いいだろう。私が実験台になろう」 「あ、ありがとうございます」 「ところで脇にあるベビーカーだが……。子供を連れてきているのか」 「え? あ、はい」 「まあ、連れてくるなとは言わないがね」 「実は……」  もじもじと言いにくそうにしている。  何かありそうな雰囲気だった。 「なんだね? 何かあるのか?」 「チンパンジーの動物実感で成功しましたので、次は人間だと思いました」 「だろうなあ。類人猿まできたら後は人間をと考えるのは自然だ」 「そんな時に、一緒に連れてきていた自分の赤ちゃんが目に止まりました」 「おいおい。まさか赤ん坊に性転換薬を使ったのか? それも自分の」 「実は、そうなんです」 「ほんとかよ」 「女の子がどうしても欲しかったんです。でも産まれたのは男の子でした。それでつい 魔が差して」 「なんてことを……いくら魔が差したって言ってもなあ……、それでどうなった?」 「成功はしました。素敵な女性に生まれ変わりました」 「ほう……良かったじゃないか」 「ええ……とっても素敵な女性です」 「なんか、奥歯に物が挟まったような言い方だな。何かあるのか?」 「ご覧になっていただければ判ります」  と言って、ベビーカーの中で眠る赤ん坊を覆っている掛け布をはずした。 「ほう……確かに、とっても素敵な女性だな」  そう、そこに眠っているのはまぎれもなく素敵な女性だった。  豊かな乳房。  きゅっとくびれたウェストからヒップにかけてのなだらかなボディーラインは、まさ に理想的な女性像だ。  これが大人だったら、誰しもが生唾を飲むような超美人だ。  しかし、体長六十余センチのミニチュア美人だ。 「三ヶ月だったよな」 「はい。薬が効きすぎました」 「みたいだな。その性転換薬使って戻せないのか」 「これは男性から女性への変換にしか効かないのです。手術で元に戻せませんか?」 「こんな小さな赤ん坊じゃ不可能だよ。もっと大きくなってからじゃないと」 「はあ……やっぱりですか」  研究員も私も、ただ黙って赤ん坊を見つめていた。  ほんとにこれが大人だったら良かったのに……。
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性転換倶楽部/性転換薬その1

性転換薬その1

「社長、出来ましたよ!」  と叫びながら社長室に飛び込んで来た女性がいる。  一見医者のような白いユニフォームを着込んでいるが、うちの会社で雇っている薬剤 師の資格を持つ研究員の一人だ。  手には液体の入った瓶を持っている。 「何だどうした? 何ができたんだ?」 「性転換薬ですよ。社長がご命令なされた薬が完成しました」 「それは、本当か?」 「はい。動物実験でチンパンジーのレベルまで、効果が実証されています。次は、人体 への臨床実験に移行します。それでご報告に参った次第です」 「そうか……とうとう臨験までこぎつけたのか。よくやった」 「しかし、困っているんです」 「困る?」 「臨験を実施する相手がいないんです」 「そうだろうなあ……。癌の特効薬とかいうのなら、いくらでも臨験を願い出る末期患 者がいるのだが……。性転換となると……」 「どうしましょうか?」  じっとわたしの顔を見つめる研究員。 「ま、まさか……。私に実験台になれというんじゃないだろな」 「他にいないんです。このわたしはすでに主人も子供もいます。後は社長だけなんです。 しかもこの薬は6時間の有効期限しかないんです」 「わ、判ったよ。実験台になればいいんだろ。私もこれまでに多くの男性を女性にする 性転換手術をしてきた。その中には本人の承諾なしに無理矢理行ったのもある。まあ、 罪滅ぼしのつもりで、女性になってみるのもいいかも知れない」  私は、性転換薬の実験台になることにしたのだった。 「それでは、注射しますよ」  袖を捲くった私の腕に、その研究員は性転換薬の入った注射をそっと差し込んだ。  性転換薬が私の血管の中へ注がれていく。  どくどくどく。  鼓動が激しくなるのを感じていた。  緊張感は最高潮に達していた。  もはや元の男には戻れない。  今後は由香里たちと同じように女性として生きることになるのだ。  そんな複雑な思いが駆け巡る。 「終わりました。効果は眠っている間に起きるでしょう。明日の朝にはびっくりします よ。これまでになかった豊かな乳房が出現し、男性性器は女性性器に変身して、女の喜 びを満悦することもできます」  注射器をしまいながら、解説する研究者だった。 「明日の朝か、そんなに早くに性転換できるのか?」 「はい、もちろんです」 「わかった」  というわけで、その日の夜となった。  性転換薬が効果を現し始めたのか、お腹の中がおかしい。まるで腸捻転になったよう な感じだ。おそらく身体の中の前立腺などの男性性器が、子宮や膣などの女性性器に変 身をはじめたせいであろう。  それに何と言っても、股間が……睾丸が激しく痛むのだ。  女性ホルモンを飲用し始めた男性が、睾丸の痛みを訴えるのはよくある症状だ。  女性ホルモンは、男性の機能である精子を生産する組織を破壊する。それが痛みの原 因だ。  この時点で、男性としての機能はすでに失われたと言ってもいいだろう。  ともかく明日の朝を迎えるべく床に入ることにする。  すべては明日の朝に、生まれ変わる。  そして朝となった。  すごい寝汗だった。  額の汗を拭おうと腕を動かすと、胸に異様な感覚を覚えた。 「もしかしたら……」  起き上がり、パジャマを脱いで見る。  そこにはまさしく豊かな乳房があったのである。 「ほんとうだ。研究員の言うとおりに一晩で乳房が膨らんだ」  両手で、そっと乳房を触ってみる。  ぷるるん。  弾力のある乳腺の感覚が手のひらにあった。  もちろん手が触れている乳房自体にも言いようのない感覚が伝わっている。 「これが女性の乳房か……」  感激的であった。  豊胸手術を受けたMTFの人々。もちろん純女性もそうであろう。 「それから……」  私は、もっと肝心な部分を調べることにした。  それがなければ、いくら豊かな乳房があっても無意味なことであった。  パジャマのズボンの中へ手を入れ、さらにパンツをまさぐった。  股間にあり、朝には元気にしていることもある男性の物。  しかし、それは影も形も消えうせていた。 「なくなっているな……」  さらに下の方へと指先を進めていく。  一条の割れ目があり、小さな突起物があるのが感じられた。 「クリトリスだな」  すぐにそれと判った。  そして指先はその先にある小さな穴を捉えた。  その穴の中へ、すーっと指先が潜っていった。  びりびりと電撃のような刺激が全身を駆け巡った。 「どうやら下側も無事に変身したようだな」  私は全身の姿が見たくなって、ベッドを降りて風呂場へ向かうことにした。  そこの脱衣所には全身を写せる鏡があるからだ。  服を全部脱いで、自分自身を脱衣所の鏡に映した。  男を魅惑してやまない豊かな乳房。  茂みの奥に隠された秘境は、女の最後の砦であり武器でもある。  女性としての機能は完璧に果たすことができる身体がそこにあった。  しかし……。 「おい。ちょっと待てよ」  確かに乳房も女性性器もあるが、骨格も筋肉も、そして肝心な顔は男性そのままだっ たのである。  想像してくれたまえ。  筋骨隆々とした体躯に、たとえ乳房や女性器があっても、女性として生活できると思 うか?  これじゃあ、パロディーじゃないか!
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2018年8月 4日 (土)

妖奇退魔夜行/蘇我入鹿の怨霊 其の弐

8月20日で強制退会になりますが、期限まで投稿続けようと思います。
短い間ですが、お付き合いのほどを……。

妖奇退魔夜行/蘇我入鹿の怨霊 其の弐

(弐)京都文化会館にて  JRと近鉄の「京都駅」から地下鉄で「烏丸御池駅」下車【5】番出口から三条通り を東へ3分。  京都文化博物館の建物の壁には「刀剣乱舞DAY」開催中!という垂れ幕が下がり、玄 関入り口には立看板が立っている。  京都文化博物館は、2・3階総合展示場で一般500円、大学生400円、高校生以 下は無料となっている。  ちなみに、2017年2月25日~4月16日「刀剣乱舞DAY」の目玉である【短刀 銘 吉光 (号 五虎退)】の描き下ろしイラスト公開は年3月1日~5日まで、先着500名にクリア ファイルの配布があった。  現在、2017年10月3日~12月3日まで、4・3階展示室にてウッドワン美術館コレクシ ョンが開催されている入場料は、一般1300円、大高生900円、中小学生400円。  会場入り口付近には刀剣ファンである女子達が、開館時間前から数多く並んでいる。  やがて時間となり、お目当ての刀剣目指して足早に急ぐ。  そんな大勢の観客に混じって、金城聡子の姿もあった。  国宝や重要文化財に指定された貴重な刀剣を、ショーケース越しに眺めながら、熱心 にメモを取っている。  博物館内では、文化財保護のために、展示品やケースに触れないことの他、  ・写真撮影  ・鉛筆以外の筆記用具の使用  ・飲食・喫煙  ・携帯電話の使用  ・ペットを連れての入館  など、禁止されている項目がある。  これらの禁則は、重要文化財を展示している全国各地の博物館などで行われているの で注意が必要である。 「きみ……。刀剣に興味があるのかい?」  と、声を掛けてきた者がいた。  声をした方を振り向くと、優しそうに微笑む若者がいた。 「実は、僕も刀剣それも古代に伝わる伝説級とか妖剣とかいう類のものが興味があるん です」  刀剣の事に関しては、わざわざ大阪から京都にまで鑑賞するために来館した聡子であ る。  館内を廻りながら、それぞれの刀剣についての薀蓄(うんちく)を語る若者。  聡子は、この博学な若者とはすぐに打ち解けてしまった。 「それにしても、いにしえの刀剣って皆京都や奈良に集中していて残念です」 「何をおっしゃいますか。京都だけでなく、あなたのお住まいの大阪にも国宝の刀剣が あるじゃないですか」 「大阪に?」 「四天王寺に【七星剣】と【丙子椒林剣】という国宝剣がありますよ」 「知っています。でも、東京国立博物館に寄託されていて、模造品が飾られていますけ どね」 「ご存知でしたか」 「宝物展とかで重要文化財の仏像とか書物とかは頻繁に名宝展とか開催するけど、七星 剣とかは模造品だからか展示しないのよね」  やがて京都博物館を出た二人は、揃って京都観光を楽しむこととなった。  名所旧跡を巡りながら、会話も弾む二人が急速に懇意になるのは必然だった。

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2018年8月 2日 (木)

銀河戦記/鳴動編 第十九章・シャイニング基地攻防戦 XIV

第十九章 シャイニング基地攻防戦

                 XIV  カインズの次にレイチェルを司令室に呼び寄せたアレックス 「君の配下にすることにした第八占領機甲部隊メビウスのことなのだが、極秘の任務 を与えようと思っている」 「極秘任務ですか?」 「何度も言うようにトランターはいずれ陥落する。その後のためのレジスタンス活動 が任務だ」 「レジスタンスですか? メビウスは当地に残るとして、他の艦隊はいかがなされる のですか」 「もちろん、タルシエン要塞を本拠とする解放軍を組織して、徹底交戦を続けるつも りだ。たとえ連邦に対して敗北し占領されようとも、いずれ反旗を掲げ立ち上がる将 兵や民衆が出て来る。そういった人々を解放軍に吸収しつつ、機が熟するのを待って 持てる全軍を持って反攻作戦にでる」 「そのためにもトランターに残って内部攪乱を引き起こし、占領軍の情報を逸早くと らえて解放軍に伝える。それがメビウスに与えられた任務というわけですか」 「その通り。とりあえずはモビールアーマー隊の強化訓練という名目でトランターに 残り、陥落後のレジスタンス部隊の主力として働いてもらいたい。どうだやってくれ るか」 「一つお伺いしてよろしいですか?」 「どうぞ」 「提督は、あたしをメビウスの司令官に任命し、極秘任務をお与えになる、その真意 をお伺いしたいですわ」 「レジスタンス活動を継続するとなると、補給物資の調達と運搬をはじめとして、隊 員の士気を維持し指導する能力と人望、すべてに困難が伴うのは必定である状況の中 で、それらをすべてクリアーできるのは君しかいない。主計科主任として数々の隊員 達の要望をそつなく処理、その信頼と人気は艦隊随一のものだ。私が信用し全権を委 ねられる人物は他にはいない」 「そこまで信頼されているとなると、お引き受けするしかありませんね」 「そういってくれるとありがたい。早速トランターへ向かってくれないか」 「直ちにですか? タルシエン要塞攻略はいかがなされるおつもりですか」 「いや。タルシエン要塞は、メビウスなしで攻略する」 「例の作戦が発動する時がついにきたというところですか。ジュビロとは?」 「軍法会議のその日に、早速向こうからアクセスがあったよ。作戦発動は伝えておい た」 「どう言ってましたか?」 「わかった。と一言だった」 「あの人らしいわね」 「それともう一つ、トランター本星アスタバ造船所において、新造の機動戦艦が完成 した」 「機動戦艦ですか?」 「水中潜航能力をも備えた究極の対空防衛用戦艦だ。モビールアーマー八機と専用の カタパルト二基を装備、艦載機は三十六機搭載可能だ。主砲には原子レーザー砲の改 良型を装備。最新のCIWS(近接防御武器システム)を搭載し、大気圏戦闘に特化 した究極の戦闘艦だ。開発設計者はフリード・ケイスンだ。推して測ることもないだ ろう」 「そうですね。艦名は?」 「ミネルバだ。いい名前だろう」 「ローマ神話に登場する女神ですね」  ※ギリシャのアテナと同一視される最高の女神。知恵と諸学芸をつかさどる女神で   あるが、戦略の女神でもありしばしな英雄たちに戦術を指示した。さらに機織り   の神でもあり、アテナイ市の守護神で、そこのパルテノン神殿は彼女の聖域とし   て知られる。長いキトーンを着て、頭には兜をかぶり、胸にはメデューサの頭を   飾りとしてつけたアイギスを着ている。手には槍、および勝利の女神ニーケをか   かえている姿が多い。知恵を表すふくろうが聖鳥である。 「まあな。至急アスタバへ赴いてこれを受領したまえ」 「乗組員の手配は?」 「現在、士官学校教習生がミネルバに搭乗して実習訓練を開始しているはずだ。X デーと同時に彼らを繰り上げ卒業というかたちで自動的に実戦配備させることになる。 教習生と熟練者が半々というところかな」 「それって……」 「本来首都星トランターは第一艦隊の守備範囲だ。その内で第十七艦隊が行動を起こ すには、実戦訓練という名目でもない限り許されないことなのだからな」 「仕方ありませんねえ……それで教官はどなたが」 「去年スベリニアン校舎を勇退なされたセキセドル前校長だ。事情を説明して特別に お願いしたところ快く引き受けてくだされた」 「セキセドル教官なら心強いですわね。なにせ士官学校時代の提督を退学させずに辛 抱なされて、模擬戦闘の指揮官に徴用するという先見の明をそなえていらっしゃった お方ですからね。安心して任せられますわ」 「艦長には、フランソワ・クレール大尉を任官させるつもりだ」 「フランソワですか……」 「性格的には問題が多いかもしれないが、作戦指揮能力は人並み以上のものを備えて いるし、彼女にとっては佐官昇進試験も兼ねているのだ」 「どちらにしても当分は眠れない夜が続きそうですね」 「なにはともあれ、Xデー以降のメビウスの全権は、すべて君の判断に委ねる」 「すべてですか?」 「そう、すべてだ」 「わかりました」 第十九章 了

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