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2018年7月25日 (水)

銀河戦記/鳴動編 第十九章・シャイニング基地攻防戦 X

第十九章 シャイニング基地攻防戦

                 X  すべてのTV放送局が、ランドール提督の功績を讃えるような放送内容で、命令違 反に対する軍法会議が行き過ぎであると放映していた。  軍部の信用失墜の極みといえるだろう。 「広報部から言わせてください。今、ランドール提督を処罰するのは共和国同盟にと って重大な損失になります」 「またか……同盟の英雄とか言い出すつもりだろう」 「いけませんか? 士気を鼓舞する上で英雄の存在は必要不可欠であります。シャイ ニング基地防衛の時、三個艦隊が攻め寄せて来ると判っておりながらも、第十七艦隊 の士官達は誰一人として、乱れることがなかったそうです。これはランドール提督な ら何とか切り抜けてくれると信じて疑わなかったからでしょう」 「そしてその期待通りに難局を看破した。方法はともかくとしてな」 「だが、その方法が問題となっているのだ」 「ここに第十七艦隊副司令官オーギュスト・チェスター大佐を筆頭に全乗組員の署名 の入った嘆願書が届いています」 「全員か?」 「はい。一人残らず」 「ランドールは部下の絶大なる信望を得ているということか。今回の作戦における彼 の功績点は、基地防衛と敵二個艦隊の撃滅、そして艦船六万隻の搾取とで少将昇進点 に達した。順当にいけば第十七艦隊司令と准将の地位が、次席幕僚に巡ってくるとい うわけだが……提督の処分となれば、その夢を取り上げることになり、ひいては第十 七艦隊全員が離反する可能性があるというわけですな」 「それはまずいぞ。国民の期待はすべてに第十七艦隊、というよりもランドール提督 一人の名声にかかっているのだ。ミッドウェイ宙域会戦の折りもそうであったように、 連邦の連合艦隊来襲を完膚なきまでに粉砕した度量は、誰にも真似できないであろう。 たとえそれが命令違反を犯す奇抜な作戦であったとしても許容される範囲ではないだ ろうか。長期化する戦争によって財政は逼迫しており、国家予算に占める国防費の比 率は四割を越え、その重圧に国民は耐えかねているのだ。ランドールにさえまかせて おけば、国家は安泰だろうという気運は充満している。これ以上国民の期待を裏切る ことはできまい」  軍部から参列している者はともかく、評議会から参列している者はランドールの処 罰に反対の気運へと動いていた。  今回のTV放映の影響によって、ランドール提督の絶大なる国民の人気と信頼が、 改めて明らかとされる結果となったのだ。この会議場に参加している者達のほとんど が、ランドールを処罰に賛成したと知られれば、自分の地位が危うくなるのは必至で ある。次回の評議会選挙に出馬する予定の者は、これ以上の追求は人気に大きく影響 し落選は確実。そう思い始めている者が大勢を占めるようになっていた。今やラン ドール提督の人気に逆行するような意見は述べることができなくなっていた。 「処罰するに処罰できずか……」 「かといってこのままでは他の士官達への示しがつかん」 「どうだ、この際。例の作戦を、彼にやらせるというのは」  宇宙艦隊司令長官が口を開いた。 「作戦?」 「それはいい」 「タルシエン要塞攻略の任務をランドール提督に任せるのか」 「トライトン少将。君はどう思うかね」  審議官の一人が、参考人として参列していたトライトン少将に向き直った。  これまで審議の経過をじっと見つめていたトライトンであるが、静かに答えた。 「わかりました。ランドールの第十七艦隊にやらせましょう」 「決まりだ。タルシエン攻略の任務をランドールの第十七艦隊に与える」 「諸君。タルシエン要塞は難攻不落と言われて幾度かの攻略をことごとく跳ね返した。 もし成功すれば、指令無視の件を不問に伏し、規定通りの少将の位と現在空席の第八 師団司令官の席を、彼に与えようじゃないか。反対するものは」  議場が一時ざわめいてやがて静かになった。  宇宙艦隊司令長官の意見に反対できるものはいなかった。長官はぐるりと周囲を見 回して、異議のでないのを確認した。 「よろしい。ランドール提督をここへ」

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