銀河戦記/鳴動編 外伝 レイチェル 前編
銀河戦記/鳴動編 外伝
エピソード集 レイチェル 前編 その人物は、商店のショーウィンドウに飾られたマネキンに見入っていた。 「よう、レイチェル。今日は休暇か?」 気安く声を掛けるジュビロ。 相手もジュビロに微笑みながら応じる。 その名前は、レイチェル・ウィングである。 九歳年下の彼女が貧民街に迷い込んで、不良たちに絡まれていたところをジュビロが助 けてやったのだが、以来どこまでも後をついて来るようになった。 仕方なく彼の仲間に入れてやったのだが、食事や衣類の洗濯などジュビロの生活の面倒 を何かとみたりしてくれていた。 仲間内の評判も良く、買い出しや小間使いなどの用を器用にこなしていた。 しかしある日突然に、士官学校への入隊を宣言して、ジュビロや仲間たちから離れてい った。 「あら、ジュビロ。そう、休暇よ。暖かくなってきたから、夏向きのお洋服を買いにきた の」 「いいねえ、軍人さんは。適当にやっていれば、ちゃんと給料が支払われて、基地内にい れば宿の心配はいらないし、飯も服も全部ただだろ?」 「ただとは言っても、勤務中は軍服着用義務だし、堅苦しくて息が詰まるわよ。せめて休 暇の時くらいは、ちゃんとお洋服を着て街へ繰り出してウィンドウショッピングを楽しみ ながらお買い物。仲良しのお友達と連れ添って、おいしいお料理を頂くのよ」 「気楽でいいねえ。こんなヒラヒラの洋服のどこがいいんだ?」 と突然、レイチェルのスカートの裾を摘み上げる。 「今日はピンク色のレースか」 「いやん、ジュビロ」 あわててその手を振り払ってスカートを押さえるレイチェル。 あはは。 と笑ってごまかすジュビロ。 「もう、しようがないんだから」 睨み返しながらも親しそうな態度は変えない。 「ジュビロ、お食事はちゃんと食べてる?」 「いつもの店さ」 「量が多くて安い店?」 「そういうこと」 「しようがないわねえ。いいわ、今日は私が奢るわよ。レストランで一緒にね」 「おお! それは助かる。三日分くらいは食べてやる」 「お好きなだけどうぞ」 くったくのない関係の二人だった。 ジュビロとの一緒の食事を終えて基地に戻ったレイチェル。 基地入り口でIDカードを端末に差し入れて、基地帰還の手続きをとる。 やがて承認を終えて端末から吐き出されたIDカードを受け取って基地の中へと入って ゆく。 「お帰りなさい。レイチェル」 寄宿舎の自分の部屋に戻ると、同室の女性から声を掛けられる。 「ただいま」 買い物袋を自分のベッドの上に置いて、着替えをはじめるレイチェルだった。 外出許可さえ認められれば、一定時間内でいつでも基地の外には出られるが、その際は 軍服の着用が義務付けられている。あくまで軍人としての行動を要求される。 今日のように私服を着て基地の外に出られるのは、休暇を取った場合のみ。 休暇は、階級や勤務体制によって、日数に規定があり、取得連続日数も三日間まで。 今日はその規定日数の一日分を休暇として外出したのである。 着ていた洋服を脱いでハンガーに掛けるレイチェル。 スリップ姿となったが、結構豊かな乳房が目立つ。 実はそのサイズ、寄宿内でも十位の中に入っているのだ。 「いいことあったでしょ」 「いいことって?」 「とぼけないでよ。その表情からすると彼に会ったでしょ」 「かも知れないわ」 「なるほど……。そうきたか」 規律に縛られ毎日のように似たような軍務の続く基地内の生活はたいくつだ。 休暇を取って外出・外泊した同僚から、自由な基地外の様子を聞きだそうとするのは自 然であろう。 新しい店は出来ていないか、とかの変化をいち早く知りたがる。 それらの中でも、特に興味があるのは、彼に会ったかどうかである。 休暇を取り、念入りに化粧して出かければ、誰しもがそう考える。 同僚とかの質問を適当に交わしながら、スリップも脱いでネグリジェとなっていた。後 は寝るしかない。 「ああ、そうそう。ニュースが入っているわよ」 「ニュース?」 「これよ」 と言って、広報を手渡してくれた。 それに記載されていたのは、新しく結成された独立遊撃艦隊への転属希望者の募集要項 だった。 独立遊撃艦隊? 既存の艦隊には所属せずに、独立で作戦行動することを前提に結成された新設の艦隊で ある。 総勢は二百隻ほどであり、艦隊に所属すれば最小の編成の部隊扱いであるが、その独立 性のために艦隊としての地位を与えられていた。トリスタニア共和国同盟として歴史上初 の前代未聞のことであった。 レイチェルは、その司令官の名前を見て驚いた。 アレックス・ランドール少佐。 バーナード星系連邦の連合艦隊を見事な奇襲で追い返して、第十七艦隊及びシャイニン グ基地の危機を救った共和国同盟の英雄であり、歴史上最年少の司令官である。 連邦の主戦級攻撃空母を四隻も撃沈し、五人の提督を葬ったその功績は絶大であり、共 和国同盟の最高議決機関の評議会の選挙が間近に迫っており、国民の人気取りのために評 議会議員からの要請で、少佐への昇進と独立遊撃艦隊の新設が決定されたという。 「あたし、志願するわよ。英雄と呼ばれる人物の下で働けるなんて素晴らしいことじゃな い? 独立遊撃艦隊なんて名前もいいしね」 「そう?」 「あなたはどうするの?」 「どうしようかな……。今聞かされたばかりだから」 「ねえ、一緒に行きましょうよ」 「と言われても、わたしは情報部だから、お役に立てるか判らないし……」 「大丈夫よ。戦闘に勝利するためにまず大切なことは、事前に敵の情勢を知ることじゃな い。直接に戦闘には関わらなくても重要な任務よ」 「そうかも知れないけど」 「同盟の英雄があたし達を求めているのよ。きっと転属希望者が殺到するわ。早く決めな いとあぶれちゃうわ」 「わかったわ、一緒に行きましょう」 「決まりね。ほんとはね、あたしもどうしようか悩んでいたんだ。あなたが一緒ならと思 ったわけ」 「なるほどね」 というわけで、独立遊撃艦隊への転属希望を申請することで決着した。 就寝時刻となってベッドに潜り込むレイチェル。 その枕元に置かれた写真立て。 士官学校の卒業式に仲間たちと一緒に撮ったものだった。 だが、その下にはもう一枚の写真が隠されていた。 同僚が寝入ったのを確認して、そっと取り出して眺めるレイチェル。 そこに写っていたのは、仲良さそうな少年が二人。 幼き日のアレックス・ランドールとそして……。 「アレックスか……」 写真の表面をやさしく撫でながら、幼少の頃に思いを馳せるレイチェルだった。
銀河英雄伝説 Die Neue These が放映開始されましたね。 キャラ設定や声優陣が一新されたので、少し違和感がありますが、そのうち慣れるでしょう。 ストーリーは原作や本伝に沿った内容なので、後はキャラと声優が一致するようになれば良し! CG製作で画質も向上しているので、これも良し。 さてさて、本伝と同様に全110話になるのでしょうか?
« 続 梓の非日常/第一章・新たなる境遇 パーティー | トップページ | 続 梓の非日常/第一章・新たなる境遇 家督相続 »
「銀河戦記/鳴動編」カテゴリの記事
- 銀河戦記/鳴動編 第二部 第十一章 帝国内乱 Ⅰ(2023.03.07)
- 銀河戦記/鳴動編 第二部 第十章 反乱 Ⅸ(2023.01.13)
- 銀河戦記/鳴動編 第二部 第十章 反乱 Ⅷ(2022.07.11)
- 銀河戦記/鳴動編 第二部 第十章 反乱 Ⅶ(2022.02.19)
- 銀河戦記/鳴動編 第二部 第十章 反乱 Ⅵ(2022.01.15)
« 続 梓の非日常/第一章・新たなる境遇 パーティー | トップページ | 続 梓の非日常/第一章・新たなる境遇 家督相続 »
コメント