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2018年1月30日 (火)

梓の非日常/第八章・太平洋孤島遭難事件 救出

梓の非日常/第八章・太平洋孤島遭難事件

(九)救出  洞窟内。  壁から音が伝わってくる。 「なに?」  音に気づいて壁に駆け寄る梓。 「壁の外から音が聞こえるわ」  壁に耳を当てて確認している。 「うん。俺にも聞こえる。たぶんこの外で壁に穴を開けているんだ。助かるぞ」 「そうね。壁から少し離れていましょう」  やがて壁が崩れて、掘削艇が姿を現わす。  停止し、後退する掘削艇。  大量の海水が流入してくるが、洞窟内と外界の海水面が平衡になると、やがて流入 も収まる。  そして、 「お嬢さま、いらっしゃいますか?」  開いた穴から麗香が、梓を呼びながら姿を現わす。 「麗香さん!」 「お嬢さま! ご無事でしたか」 「大丈夫よ」  海水をかき分け麗香のもとに駆け寄る梓。そして飛びつく。 「信じてたよ。きっと助けに来てくれるって」 「迎えの船が到着しています。行きましょう」 「うん」  洞窟を出ると、掘削艇が待機している。 「どうぞ、お乗り下さい」 「機長はどうなりました?」 「命に別状はありません。船の手術室で処置を受けています」 「そう、良かった」 「さあ、絵利香さまがお待ちですよ」 「うん……」  掘削艇に乗り込む梓、そして慎二。  やがて探査船へと発進する。 「なあ、麗香さん。これって、もしかして潜水艦か?」  海上から見上げながら探査船の形状を確認して慎二が尋ねる。 「そうですよ。深海資源潜水探査船です。たまたまハワイ沖の海底を調査していたの を、渚さまが逸早くこちらへ回航させていたのです」 「しかし、なんて馬鹿でかい図体なんだ」 「まあ、三百人からの乗員が搭乗してますから」  やがて探査船に到着し、甲板に上がると艦長の歓迎を受ける。 『ご無事で何よりでした。艦長のウィルバートです』  と挨拶する艦長は、軍服に身をつつみ、肩章には銀星が二つ(Rear Admiral Upper Half)と、潜水艦士官(Submarine Officer)の金色の胸章バッチが輝いている。 『お世話かけました。それで確認したいのですが、この船は原子力船じゃないです か?』 『その通りです。深海にて長時間の探査を綿密に行うには、原子力船が最適です。空 気を大量に消費するディーゼルエンジンは使用できませんし、バッテリー駆動では潜 航時間が限られますからね。また無人の探査艇では調査区域が限られます』 『なるほどね……それともう一つ、艦長を含めて皆さん軍服を着ておられますが、乗 組員は海軍の軍人ですか?』 『はい。三分の二が艦の操艦に関わる海軍軍人で、残り三分の一が深海探査要員の技 術部員です。何せ原子力潜水艦を操艦できる人間は海軍にしかいませんからね。渚様 が、大統領を通して国防長官や国家安全保障会議そして統合軍と交渉して、民間会社 への特別出向となったわけです。この私も、統合参謀本部から派遣されています』  といいながら、統合参謀本部勤務を示す徽章を指差した。 『艦長。全員の搭乗が完了、いつでも出航可能です』 『うむ』  と、梓に向き直って。 『お嬢さま、出航してよろしいですか』 『はい。お願いします』 『母港ハワイ・パールハーバーに向けて出航する。錨をあげろ』 『了解!』 『それでは、居住区の方へお願いします。みなさまがいらっしゃいます』 『わかりました』 「なあ、日本に帰るんじゃないのか。今パールハーバーとか言ってたようだけど」 「バーカ。このまま日本に向かったら何日かかると思ってんだ」  本当の理由は、原子力船が日本に入港する事が困難な事によるものだ。しかし原子 力船ということは伏せておくことにした。会話中に原子力船という言葉が出てきたが、 慎二が早口な英会話を聞き取れるわけがない。まあ、さすがに有名なパールハーバー という固有名詞だけは聞き取れたようだが。 「む、無理かな……」 「だから一端ハワイに戻らないとだめ。その後飛行機で帰るの。だいたい船じゃ日数 がかかり過ぎて、夏休みが終わっちゃうじゃない」 「そうか、そうだよな」 『艦長』 『はい』 『彼は、密航者です。縛って荷物室にでも放りこんでおいてください』 『え? お嬢さまのお友達ではなかったのですか』 『構いません。飛行機が墜落した張本人なんですから』 『そうでしたか、ではおっしゃる通りに』  いきなり両腕をつかまれ連行される慎二。 「な、なにすんだよー」 「少し頭を冷やしてらっしゃい」 「お、おい。梓ちゃん」

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