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2018年1月28日 (日)

梓の非日常/第八章・太平洋孤島遭難事件 資源探査船

梓の非日常/第八章・太平洋孤島遭難事件

(八)資源探査船  砂浜から何もない太平洋の洋上を眺めている一同。 「そろそろ時間だよね」 「うん。不時着から三時間経ったよ」  麗香が預かっている梓の携帯電話が鳴る。 『麗香です。はい……構いません。浮上してください』  麗香が携帯電話を閉じてしばらくすると、環礁帯の外側に大きな海水の盛り上がり が発生し、やがて黒光りする巨大な潜水艦が出現した。 「な、なに! 潜水艦?」 「うそー。救助船って潜水艦なの?」 「じゃあ、アメリカの海軍が救助に来たの?」  驚愕の声を上げるメイド達。 「いいえ。真条寺家の持ち船ですよ」 「あ! 〔梓〕って船体に漢字で書いてあるよ。 「じゃあ、お嬢さまの船なんだ」  やがて探査船から小型ボートが繰り出される。 「一番に機長を運びます。脱出シュートを使い、機長の身体にロープを掛けてそろり と降ろしましょう。さあ、みんな手伝って」  麗香がメイド達に指示を出し、再び飛行機に戻っていく。  これまでは篠崎側の乗務員が働いていたが、今度は真条寺家のメイド達が働く番で ある。  機長を飛行機から降ろして最初に搬送した後に、順次小型ボートに乗船して、探査 船に移乗していく。  砂浜にいた全員の収容が終わり、船の居住ブロックのレクレーションルームに集め られた一行に麗香が案内する。 「それでは、みなさまこの部屋でおくつろぎくださいませ。他の場所には精密機械や 企業秘密に関わるものがありますので、この部屋からお出にならないように、お願い します」 「梓ちゃんは、どうなるの?」 「もちろん、これから探します。ご心配なさらないで下さい。この船は資源探査を任 務としています。探査のための装備とプロフェッショナルな人材が揃っていますから、 すぐに発見できますよ」  操艦や司令を出す統合発令所の階下に、資源探査部のセクションがある。  各種の探査機器を操作しているオペレーター達。  麗香が探査部の技術主任と打ち合わせしている。 『お嬢さまの髪飾りには発振器がついています。周波数は、12.175 ギガヘルツで探 索してください』 『了解、12.175 ギガヘルツで探査します。しかし、なぜ発振器などつけておられる のですか?』 『お嬢さまがご幼少の頃、迷子になられた時があって、すわ誘拐か? と大騒ぎにな りました。以来どこにいらしても探し出せるように、渚さまのご指示でお嬢さまには 内緒で取り付けています』 『そうでしたか、誘拐されても大丈夫ですね』  主任はマイクを取って、 『艦長。微速前進で島を周回してください』  と指示を出した。 『了解した。微速前進で島を周回する』  艦長からの応答があってしばらくすると、静かに船が動きだした。一点に留まって いるよりも、ぐるりと周回しながら探査した方が、正確な位置が把握できる。  探査という任務に従事している間は、この技術主任に船の行動に関する指揮権の優 先が与えられているようだ。 『主任。他に使えそうな機器はありますか?』 『資源探査気象衛星に搭載されている遠赤外線探査レーダーを使用しましょう。生き ている人間なら熱を発しています。遠赤外線なら洞窟の壁を通過して中にいる人間の 形状を視認できます。丁度上空を「AZUSA 5号B機」が通過中です』 『AZUSA 5号B機ですか?』 『はい、この船と同じで、ARECが運用している人工衛星です』 『その衛星って、地表を映し出せる超高感度の監視カメラを搭載していますよね』 『はい。人物の表情までも識別できる超高精細度も誇っています。ただ、そのカメラ のオペレーションは真条寺家本宅の地下施設でしかできないと伺ってます』 『そう……やっぱりね。とにかくそのレーダーを使ってください』 『了解しました。遠赤外線探査レーダーを使用します』  主任が答えると同時に、一人のオペレーターが機器を操作しはじめた。 『衛星監視追跡センターより、コントロールの引き継ぎを完了。これよりAZUSA 5号B 機のオペレーションを開始します。遠赤外線レーダーの照準をこの島に合わせます。 セット完了まで二十分かかります』  てきぱきと機器を操作していくオペレーター。レーダーの照準を合わせる事は、す ぐにはできない。仮に探査レーダーを右に振ると、反作用で衛星自体が左に傾いてし まうからだ。衛星を姿勢制御しながら探査レーダーを徐々に所定の位置に持ってくる という操作が必要だ。  やがてディスプレイに島の探査映像が現れる。 『どうですか?』 『はい。微かですか反応があります。この周囲より色の明るい部分がそうです』 『場所は?』 『島の南東、地表から十メートル下です。丁度海面付近です』 『そう……、やっぱり洞穴に落ちてしまわれていたのですね』 『格納庫に遠赤外線探知機を搭載した小型深海掘削艇があります。装備の掘削機が使 えるはずです、降ろしましょう』 『お願いします。潮が満ちてきています、早く救助しなければ』  深海探査船の下部格納庫から掘削艇が降ろされる。一旦海中に出てから浮上し、自 身の自走力で外海から礁湖へと進入し南東の崖に取り付く。 『反応が強いのは、この辺です』 『遠赤外線探知機の方は、いかがですか』  掘削艇には麗香も同乗した。 『はい。ご覧の通りに、人間から発せられたと思われる熱源が、この壁の向こうに存 在します』  オペレーターの指し示すパネルスクリーンには青く低温を示す中に、黄色に色付い た像がはっきりと映し出されていた。 『低周波反響感知機には、この先に大きな空洞を示すデータが出ています』 『間違いありませんね。この先に洞窟があってお嬢さまと慎二君が閉じこめられてい るようです。早速、掘りましょう』 『はい。掘削機を始動します』

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