梓の非日常/第八章・太平洋孤島遭難事件 洞窟二人きり
梓の非日常/第八章・太平洋孤島遭難事件
(八)洞窟二人きり ……第一、慎二と二人きりなんだから……しかもこんな水着姿で……黙っていたら、 息苦しいよ。喋ってないと間がもたない…… 洞窟に閉じこまれた水着姿の若い男女二人。(B110,W81,H96,T180)の筋骨隆々た る青年と、(B83,W58,H88,T165)のプロポーション抜群のうら若き娘。並んで座れば おのおのの骨格のつくりの違いを意識せずにはおられない。自分の胸元に時折注がれ る青年の視線に鼓動高鳴る娘の恥じらい。娘の髪から漂うほのかな香りに理性が押し 潰されていく青年。喧嘩しながらも、実は好きあっている二人。近づく青年の顔、熱 く感じるその吐息。静かに目を閉じる娘。唇と唇が合わせられる。やがて折り重なる 二つの影。 ……やばいよ。実にやばいシチュエーションじゃないか…… 「なあ、梓ちゃん」 「ひゃ!」 慎二の声に思わず反射的に飛びのいてしまう梓。 「ち、近づくなよ」 手を横に振り回しながら拒絶の態度を示す。 「はあ?」 慎二は、梓の豹変ぶりにわけがわからない。 「おまえ、何言ってんだよ」 「な、なにって……。慎二は、何か言いたかったのか?」 「何かって……水面が上がってきてるんじゃないか? と、言いたかったんだが」 「え?」 驚いて足元を確認する梓。 落ちて来た時にはくるぶしの位置にあった水面がだいぶ上がってきている。 「そうか潮が満ちてきたんだわ」 「で、何を考えてたんだよ。さっき」 「なんでもないよ!」 「そ、そうか……」 改めて足元の水面を見つめる梓。 「一帯が珊瑚礁だから、あちこちに小さな穴が明いていて外界に通じているのよね。 この水面が外の海面と同じと考えていいでしょう」 「潮が満ちたらどうなるんだ? 洞窟のどこまでの高さまで海水が入ってくるのかな」 「ここは太平洋の直中の小島だから、有明海のような入り江と違って干満の差が大き く変動することはないと思うけど、気圧や風向きでどうなるか判らない。でも……大 丈夫よ」 「どうして?」 「今は干潮のピークを少し過ぎたところだから、満潮になるのは六時間後よね。でも ってこの島にたどり着いたのがちょい一時間前で、迎えの船が来るのは二時間後。上 では麗香さんがあたしのいないことに気づいて動いているはずだから、四時間もあれ ば助けてくれるよ、きっと」 「そうなのか?」 「大丈夫。麗香さんは、助けに来てくれる」 「信じているんだね、麗香さんのこと」 「ええ……」
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