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2017年10月31日 (火)

銀河戦記/第六章 カラカス基地攻略戦 V

第六章 カラカス基地攻略戦

                  V 「司令。目標の惑星が見えてきました」  ジュリーの報告通り、目標の惑星が目の前にあった。  軌道上に整列した十二基の軌道衛星砲と、威圧感を与える粒子ビーム砲の射出口が 開いている。  戦艦搭載用の粒子ビーム砲とは桁違いの大出力を誇り、一基だけで二百隻の戦艦に 相当する火力といわれている。戦艦搭載のものは、高速移動の必要性と、塔乗員の生 命を守る安全性を考慮されて、軽量かつコンパクトに設計されその性能の限界七割程 度に押さえられている。その点、無人で移動の必要のない軌道衛星砲には、最大級で 最大性能を与えられて、性能限界ぎりぎりの大出力を引き出すことができる。 「どうやらまだ気付かれていないようだな」 「うまくいきそうですね」 「しかし、これからが正念場だ。今ならまだ引き返すことができるが、君ならどうす る」 「ここまで来たんです。やるしかないでしょう」 「そうだな」  アレックスは無線機を取った。 「全機へ。これより突撃を敢行する。夜の側から大気圏に突入せよ」 「ジミー、了解」 「ハリソン、了解」 「大気圏突入後五分間は交信が不可能になる。その間各自の判断で作戦を遂行せよ。 以上だ」  マイクを置くと同時にジュリーが、大気圏への突入体制に入る。 「司令、大気圏突入モードに入ります。熱シールド全開、後部放熱ファン展開。機内 冷却装置作動」  ブラック・パイソンの機器を次々と操作して大気圏突入の準備をするジュリー・ア ンダーソン。 「突入準備完了」 「よし、突入だ」 「突入します」  大気圏突入と同時に機体が激しく震動をはじめ、摩擦熱による温度上昇から、機内 は赤く揺らめいていた。  サラマンダー艦橋で、アレックス達を心配して食い入るようにパネルを見つめるパ トリシアがいた。 「アレックス達が突入を開始する時間だわ」  サラマンダーに移乗していたレイチェルが、パトリシアの肩をそっと叩いた。 「大丈夫よ。アレックスならきっとうまくやるわ。それとも自分達の立案した作戦に 自信がなくなった?」 「そんなことはありませんけど……」 「作戦が完璧にできあがったとしても、それに身内が参加するとわかった途端に、急 に心配になってくる。どこかに致命的なミスがあったらどうしよう、それがために命 を落とすようなことになったらと、心配でしようがない。そういうことよね」 「え、ええ……」  レイチェルがわざわざサラマンダーにやってきたのは、夫を敵地に送り出し心細く なっているはずのパトリシアをはげますためであった。 「わたしはね、思うのよ。なぜこの作戦に司令官たるアレックスが自ら参加したのか ってね」 「アレックスとて、この作戦が完璧だなんって思ってやしないはずよ。所詮人間が作 りあげたものだもの。どこかに見落としや勘違いがあって当然よね。作戦を実行する にあたっては、その時々の状況というものは常に変化するということを念頭に入れつ つ、微妙な修正を加えねばならないことも起こる。だからアレックスが同行したのだ とも言えるけど……でも、アレックスの真意は別のところにあるわ」 「真意?」 「もし現場の判断が必要ということならば、ゴードンを行かせればいいはずよ。彼の 方が最適任者であることは、あなたもご存じのはず。作戦の変更が必要になった時に は、司令官が残っていたほうが理にかなっているもの。なのに、アレックスというこ とは、なぜかわかる?」 「…………」 「アレックスはね、この作戦に絶対の自信を持っていると思っているわ。言い換える とパトリシア、あなた達の作戦能力を高く評価しているということよ。作戦が失敗し た場合、ゴードンに撤退の指揮を任せるなんて言ってたけど、その可能性があるくら いなら最初から作戦を取り上げたりはしない。彼の性格でいうと、勝つならばとこと んやるが、負けそうならば無理せずにひたすら逃げまくる、というのが信条なのよ ね」  それはパトリシアもよく知っていた。  たとえば士官学校時代の模擬戦闘でのことでいうと、逃げの作戦が基地に仕掛けし ておいて完全撤退したことであり、勝ちにいく作戦がレーダー管制を逆手に取って逆 襲したことである。まず逃げまくって相手を油断させておき、弱点を見せたその隙を 全軍をもって徹底的に攻撃を敢行する。 「作戦が成功するにしろ失敗するにしろ、犠牲者は少なからず出るわ。これだけ突飛 な作戦だもの、果たして作戦通りいくかどうかなんて、誰も信じられないはずよ。し かし、司令官自らが同行することで、作戦に参加する将兵達の士気を奮い立たせ、延 いては部隊全員に対して指揮系統の優秀さと信頼性を高めることができる。本作戦に 限らず今後も幾度かの困難で楽でない作戦命令をこなしていかなければならない。そ の作戦が困難であればあるほど、それを成功させて無事に戻ってきたとき、独立遊撃 部隊の将来は確固たるものになっているでしょう。これは、独立遊撃部隊司令官であ るアレックスと、副官であるあなたの最初の試練ということね」

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