妖奇退魔夜行/血の契約 其の捌
陰陽退魔士・逢坂蘭子/血の契約 其の捌
順子を保健室に運んで寝かせ、二人は校舎裏へとやってきた。
祠を古木の根元の茂みの中に戻す弥生。
「これでいい」
「土の中に埋めた方がいいのではないですか?」
「無駄だよ。土の中に埋めたとて、いずれ這い出してくる。封印されていたとしてもそれくらいの芸当はできる。この祠の材料は、この古木の枝から作られたらしい。ゆえに封印を保持するには、ここが一番らしいのだ。古木の精霊が祠を覆い隠して一般人の眼には映らないようになっている」
蘭子は思い当たった。
夢鏡魔人もそうであった。
「つかぬことをお聞きしますが、弥生先生は陰陽師でいらっしゃいますね」
「陰陽師か……。確かにその類ではあるが、私は代々この祠を守り続けてきた防人(さきもり)だ」
「防人?」
「この妖魔は絶対不老不死の能力を持っているから封印するしかない。そして万が一封印が解かれた時のために選ばれたのが我が家系というわけだ」
「代々防人の家系ですか?」
「まあね……。さてと、もう一度。今度はゆっくりとお茶を頂きましょうか」
いつものやさしい口調に戻る弥生教諭。
二人仲良く並んで教務室へと戻ってゆく。
「ところで後ろからついてくるのは、あなたのペットかしら?」
後ろを振り向くと、白虎がついてきていた。
「あら、また勝手に出てきたのね」
しゃがみ込んで白虎の背中を撫でる蘭子。
「白虎みたいね」
「判りますか?」
「それくらいのことは」
と弥生が手を差し出そうとすると、白虎は低く唸り声をあげて威嚇した。
「あら、嫌われちゃったみたいね」
あわてて身を引く弥生。
「ごめんなさい。私以外にはなつかないんです」
「でしょうね。守護獣というところ?」
「はい」
「うらやましいわね」
弥生は思った。
十二天将にして四聖獣と言われる白虎を手なずけるなんて……。さすが摂津土御門家の総帥土御門晴代の孫。その実力は計り知れないものがあると……。
白虎は蘭子の前では猫のようにおとなくじゃれている。
「後で遊んであげるからね」
頷くように小さく吼える白虎だった。
「あなたの武勇伝を伺いたいものね」
「武勇伝なんて、そんな大したことはやっておりません」
「噂は聞いているよ。心臓抜き取り変死事件とか、剣道部員闇討ち事件とか、みんな君が解決したそうじゃないか」
「どうしてそれを?」
「防人とはいえ、まあこれでも陰陽師のはしくれだからね。一応そちら方面の情報は流れてくるよ」
「そうでしたか」
校舎を見上げながら弥生教諭が呟くように言った。
「この校舎は建てられて随分と経つ。魑魅魍魎や怨霊の類の巣窟になっている。一般人には見えないだろうが、我々陰陽師にははっきりと見える」
「確かにその通りです」
「おそらくこれからも、そんな輩が起こす騒動が起きるだろう。私には防人としてしか働けないが、その他多くの事件解決には君の活躍に期待しているよ」
「努力します」
「ああ、そうしてくれないか」
「はい」
「さてと話がそれてしまった。お茶の時間にしよう」
と言いながら歩き出す弥生教諭と、それに付いていく蘭子。
一陣の風が吹きそよぎ、祠をなでていった。
順子を保健室に運んで寝かせ、二人は校舎裏へとやってきた。
祠を古木の根元の茂みの中に戻す弥生。
「これでいい」
「土の中に埋めた方がいいのではないですか?」
「無駄だよ。土の中に埋めたとて、いずれ這い出してくる。封印されていたとしてもそれくらいの芸当はできる。この祠の材料は、この古木の枝から作られたらしい。ゆえに封印を保持するには、ここが一番らしいのだ。古木の精霊が祠を覆い隠して一般人の眼には映らないようになっている」
蘭子は思い当たった。
夢鏡魔人もそうであった。
「つかぬことをお聞きしますが、弥生先生は陰陽師でいらっしゃいますね」
「陰陽師か……。確かにその類ではあるが、私は代々この祠を守り続けてきた防人(さきもり)だ」
「防人?」
「この妖魔は絶対不老不死の能力を持っているから封印するしかない。そして万が一封印が解かれた時のために選ばれたのが我が家系というわけだ」
「代々防人の家系ですか?」
「まあね……。さてと、もう一度。今度はゆっくりとお茶を頂きましょうか」
いつものやさしい口調に戻る弥生教諭。
二人仲良く並んで教務室へと戻ってゆく。
「ところで後ろからついてくるのは、あなたのペットかしら?」
後ろを振り向くと、白虎がついてきていた。
「あら、また勝手に出てきたのね」
しゃがみ込んで白虎の背中を撫でる蘭子。
「白虎みたいね」
「判りますか?」
「それくらいのことは」
と弥生が手を差し出そうとすると、白虎は低く唸り声をあげて威嚇した。
「あら、嫌われちゃったみたいね」
あわてて身を引く弥生。
「ごめんなさい。私以外にはなつかないんです」
「でしょうね。守護獣というところ?」
「はい」
「うらやましいわね」
弥生は思った。
十二天将にして四聖獣と言われる白虎を手なずけるなんて……。さすが摂津土御門家の総帥土御門晴代の孫。その実力は計り知れないものがあると……。
白虎は蘭子の前では猫のようにおとなくじゃれている。
「後で遊んであげるからね」
頷くように小さく吼える白虎だった。
「あなたの武勇伝を伺いたいものね」
「武勇伝なんて、そんな大したことはやっておりません」
「噂は聞いているよ。心臓抜き取り変死事件とか、剣道部員闇討ち事件とか、みんな君が解決したそうじゃないか」
「どうしてそれを?」
「防人とはいえ、まあこれでも陰陽師のはしくれだからね。一応そちら方面の情報は流れてくるよ」
「そうでしたか」
校舎を見上げながら弥生教諭が呟くように言った。
「この校舎は建てられて随分と経つ。魑魅魍魎や怨霊の類の巣窟になっている。一般人には見えないだろうが、我々陰陽師にははっきりと見える」
「確かにその通りです」
「おそらくこれからも、そんな輩が起こす騒動が起きるだろう。私には防人としてしか働けないが、その他多くの事件解決には君の活躍に期待しているよ」
「努力します」
「ああ、そうしてくれないか」
「はい」
「さてと話がそれてしまった。お茶の時間にしよう」
と言いながら歩き出す弥生教諭と、それに付いていく蘭子。
一陣の風が吹きそよぎ、祠をなでていった。
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