妖奇退魔夜行/血の契約 其の弐
陰陽退魔士・逢坂蘭子/血の契約 其の弐
その祠の稲荷神が語りかけてくる。
『おかげで自由の身になれた。お礼におまえの願いをかなえてやろう』
声は続いていた。
というよりも、順子の頭の中に直接語りかけているという方がいいかも知れない。
「願い?」
『そうだ。何でも叶えてやるぞ』
相手は姿が見えないが、神かそれに類するものだろう。
本当に願いを叶えてくれるかもしれない。
だとしたら……。
美しくなりたい。
シミ・ソバカスのない綺麗な肌がほしい。
いじめに合うのはそれがため。
願いを叶えてくれるというのなら……。
順子はそれを言葉に出した。
『判った。その願いを叶えてやろう。ただし、それには儀式を執り行う必要がある』
「儀式?」
『なあに、簡単なことだ。願いを唱えながら、祠の中の狐の像に、自らの血を注ぐだけだ』
「血を注ぐ?」
『鞄の中にあるナイフで指先を少し切って血を流すだけで良い。自らの命を絶つことを考えれば容易いことじゃないか』
「どうしてそれを?」
声の主は、何でもお見通しのようであった。
鞄の中にナイフが入っていること。
それで自殺しようとしていたこと。
鞄を開いて中からナイフを取り出して指先にあてがう順子であったが、さすがに勇気が必要だった。
そして気がついた。
指先を切るくらいでこんなに躊躇してしまうような自分には、とても自殺などできないのだろうと。
指先に力が入る。
いつっ!
鋭い痛みが走って、指先から血が流れ出す。
そして願いを叶えながら、その血を祠の中の狐像に注いだ。
美しくなりたい!
と……。
『願いは聞き届けたぞ。血の契約により、おまえは誰よりも美しくなり、傷一つない肌を保つことができるようになるだろう』
するとどうだろう。
血を流していた指先の傷が見る間に治り、跡形すら消えてしまったのである。
呆然とする順子。
やがて立ち上がって、ゆっくりと校舎内へと入っていった。
順子が立ち去った校舎裏。
入れ替わるように蘭子がやってくる。
異様な気配を感じ取って、校内を見回っていたのである。
「このあたりが特に感じるわね」
ほどなくして、草むらの中の祠を探し当てる蘭子だった。
そして剥がされたばかりと思われる呪符も見つける。
当たり一帯に妖気が漂っているのを敏感に感じ取っていた。
祠に封印されていた【人にあらざる者】が、何者かによって解放されてしまったらしいことを悟った。
そして祠の中の狐像に付着した血痕。
つい今しがた付けられたらしく、まだ乾ききっていない。
「血の契約か……」
血の契約を結ぶそのほとんどが高級妖魔である。
尋常ならざる戦いとなることは必定であろう。
「面倒なことになったわね」
呪符を拾い上げて鞄の中にしまう蘭子。
呪符にかけられた呪法を解析することで、何らかの手がかりが得られるかもしれないからである。
「何よりもまず、こいつを解放した当人を探し出す必要があるわね」
この祠はどうするか?と一瞬迷ったが、中身がないものを持ち歩いてもしようがない。
このまま置いておくしかない。
狐像というと、誰しも稲荷神を思い起こさせるが、
「この狐……荼枳尼の狐のようだ……」
荼枳尼(ダーキニー)とは、ヒンズー教やインド仏教において、人を惑わし食らう魔物とされている。
日本では稲荷信仰と混同されて習合し、一般に白狐に乗る天女の姿で表される。
「誰!」
突然立ち上がって辺りを警戒する蘭子。
誰かがこちらの様子を伺っている気配を感じたのである。
しかし、次の瞬間には気配は消えてしまった。
「妖魔……じゃないわね。誰だったのかしら」
祠を解放した人物ではないことは確かである。
ただならぬ者であることは間違いなかった。
その祠の稲荷神が語りかけてくる。
『おかげで自由の身になれた。お礼におまえの願いをかなえてやろう』
声は続いていた。
というよりも、順子の頭の中に直接語りかけているという方がいいかも知れない。
「願い?」
『そうだ。何でも叶えてやるぞ』
相手は姿が見えないが、神かそれに類するものだろう。
本当に願いを叶えてくれるかもしれない。
だとしたら……。
美しくなりたい。
シミ・ソバカスのない綺麗な肌がほしい。
いじめに合うのはそれがため。
願いを叶えてくれるというのなら……。
順子はそれを言葉に出した。
『判った。その願いを叶えてやろう。ただし、それには儀式を執り行う必要がある』
「儀式?」
『なあに、簡単なことだ。願いを唱えながら、祠の中の狐の像に、自らの血を注ぐだけだ』
「血を注ぐ?」
『鞄の中にあるナイフで指先を少し切って血を流すだけで良い。自らの命を絶つことを考えれば容易いことじゃないか』
「どうしてそれを?」
声の主は、何でもお見通しのようであった。
鞄の中にナイフが入っていること。
それで自殺しようとしていたこと。
鞄を開いて中からナイフを取り出して指先にあてがう順子であったが、さすがに勇気が必要だった。
そして気がついた。
指先を切るくらいでこんなに躊躇してしまうような自分には、とても自殺などできないのだろうと。
指先に力が入る。
いつっ!
鋭い痛みが走って、指先から血が流れ出す。
そして願いを叶えながら、その血を祠の中の狐像に注いだ。
美しくなりたい!
と……。
『願いは聞き届けたぞ。血の契約により、おまえは誰よりも美しくなり、傷一つない肌を保つことができるようになるだろう』
するとどうだろう。
血を流していた指先の傷が見る間に治り、跡形すら消えてしまったのである。
呆然とする順子。
やがて立ち上がって、ゆっくりと校舎内へと入っていった。
順子が立ち去った校舎裏。
入れ替わるように蘭子がやってくる。
異様な気配を感じ取って、校内を見回っていたのである。
「このあたりが特に感じるわね」
ほどなくして、草むらの中の祠を探し当てる蘭子だった。
そして剥がされたばかりと思われる呪符も見つける。
当たり一帯に妖気が漂っているのを敏感に感じ取っていた。
祠に封印されていた【人にあらざる者】が、何者かによって解放されてしまったらしいことを悟った。
そして祠の中の狐像に付着した血痕。
つい今しがた付けられたらしく、まだ乾ききっていない。
「血の契約か……」
血の契約を結ぶそのほとんどが高級妖魔である。
尋常ならざる戦いとなることは必定であろう。
「面倒なことになったわね」
呪符を拾い上げて鞄の中にしまう蘭子。
呪符にかけられた呪法を解析することで、何らかの手がかりが得られるかもしれないからである。
「何よりもまず、こいつを解放した当人を探し出す必要があるわね」
この祠はどうするか?と一瞬迷ったが、中身がないものを持ち歩いてもしようがない。
このまま置いておくしかない。
狐像というと、誰しも稲荷神を思い起こさせるが、
「この狐……荼枳尼の狐のようだ……」
荼枳尼(ダーキニー)とは、ヒンズー教やインド仏教において、人を惑わし食らう魔物とされている。
日本では稲荷信仰と混同されて習合し、一般に白狐に乗る天女の姿で表される。
「誰!」
突然立ち上がって辺りを警戒する蘭子。
誰かがこちらの様子を伺っている気配を感じたのである。
しかし、次の瞬間には気配は消えてしまった。
「妖魔……じゃないわね。誰だったのかしら」
祠を解放した人物ではないことは確かである。
ただならぬ者であることは間違いなかった。
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