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2017年8月25日 (金)

妖奇退魔夜行/血の契約 其の壱

陰陽退魔士・逢坂蘭子/血の契約 其の壱

 少女は美しくなりたいと願った。
 それは叶えられ少女は美しくなっていった。
 しかし、そのために多くの犠牲者を生み出すと知ったとき、少女は自分の運命を呪った。


 阿倍野女子高校校舎内廊下。
 一人の女子生徒がおどおどしながら歩いている。
 と、突然。いかにも柄の悪い連中が現れて女子生徒を取り囲んだ。
「おい。ちょっと顔貸せや」
 無理矢理校舎裏に連れて行かれる女子生徒。
 くちゃくちゃとガムを噛んでいる者、煙草をくわえている者、反教師的な態度を示す連中に囲まれて、小さくなって震えている女子生徒。
「出せや」
 と、リーダー格らしき生徒が手を差し出す。
 多勢に無勢、逆らうことのできない生徒は黙って財布を差し出す。
 それをひったくるようにして受け取り中身を確認すると、
「何だよ、これっぽっちしかないのかよ!」
 と、怒りの声を上げる。
「それで、おこづかいの全部です」
「お、こいつ。口答えしよったで」
 腹を蹴られ、地面に平伏してしまう女子生徒。
「どうします? 安次郎に渡しますか?」
「援交かよ……。よせよ。こんなシミ・ソバカスだらけのブス女なんか紹介したら物笑いものだぜ」
「そりゃそうですけど」
「女なら誰でも、という男もおるで」
「信用問題なんだよ」
「そんなもんですかね」
「それにしても、こんなひどいブスはいないですよね」
「最悪のブスだな」
 ブスという言葉を語調を強めてからかうリーダー。
「本当ですね」
 一斉に笑い声を上げて同調するグループ。
 やがて女子生徒をその場に残して立ち去ってゆくグループ。
 地面に平伏したまま泣いている女子生徒。

 生徒の名前は佐々木順子という。
 顔にできたシミ・ソバカスが原因で陰湿な虐めにあっていた。
「どうしていじめられなきゃならないの……」
 順子は運命のいたずらを恨んだ。
 何度自殺しようかとも思っていた。
 鞄の中には手首を切るためのナイフが忍ばせてある。
 しかし勇気を出せずに、未だに自殺には至ってはいない。
 やはり命を絶つには、恐ろしさの方が先に立ってしまうからだ。

 魂って本当にあるのだろうか?
 死んだら身体から魂が抜け出して、天国や地獄へ行くことになるのだろうか?

 考えても仕方のないことであるが、どうしても思い悩んでしまう。
「死にたい……」
 結局、たどり着く思いは一つであった。


 と、突然のことであった。
『そんなに、死にたいのか』
 どこからともなく声が聞こえた。
 あたりを見回すが人影はなかった。
『死んでどうなる?』
 また聞こえた。
 声のした方へと意識を集中する順子。
『こっちだ』
 声はうっそうと茂る草むらの中から聞こえてくるようだった。
 這うようにして草を掻き分けていく順子。


 草むらの中、朽ちた木の根元に隠れるように小さな祠があった。
「こんな所に、祠があるなんて……」
 学校の敷地内にひっそりと安置されている祠。
 何かいわくのありそうな雰囲気であった。
『どうした? ここに祠があるのがそんなに不思議か?』
 こんどははっきりと聞こえた。
 まるで祠の中から聞こえてくるみたいだった。
 祠の扉の合わせ目には、何やら文字のようなものが書かれた札が貼られていた。
『済まぬが、その貼られた札を剥がしてくれないか』
「お札を?」
『そうだ』
 恐る恐る札を剥がしていく。
 札を剥がした途端だった。
 扉が勝手に開いて、中から一陣の風が吹き抜けた。
 何かが飛び出してきたように感じた。
 祠の中には木像の狐が安置されていた。
「稲荷神?」
 稲荷神は屋敷などの片隅や、最近ではビルの屋上などに祀られることの多い、ごく一般的に日本で見られた風習の一つである。
 学校の敷地内にあっても、何ら不思議はないというわけである。
 ただ、この祠は長い間忘れ去られ、風雪に朽ちるままになっていたというところであろう。

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