妖奇退魔夜行/血の契約 其の肆
陰陽退魔士・逢坂蘭子/血の契約 其の肆
翌朝の逢坂家の食卓。
TVニュースが昨夜の変死事件のことを報道していた。
「ミイラか……。やはり妖魔の仕業なんだろうな」
父親が呟くように言った。
「間違いありません」
「そうか……。ミイラ取りがミイラにならないように気をつけることだな」
「はい」
玄関の方でチャイムが鳴り響いた。
智子が迎えに来たようである。
「はい。お弁当」
「ありがとう」
母親お手製の弁当を受け取って、鞄にしまう蘭子。
蘭子は毎朝弁当を作ってもらっていた。陰陽師としての仕事を抱えていると帰りも遅くなり午前様になることも多い。加えて本業の勉強もしなければならないから、家事手伝いや弁当作りすることができないからである。
玄関に出ると、智子のいつもの明るい笑顔が出迎える。
「おはよう」
お互いに朝の挨拶を交わして学校へと向かう。
「今朝のニュース見た?」
早速の話題として取り上げる智子。
天王寺という身近で起きた事件。
学校中が大騒ぎとなることは予想に難しくないだろう。
しかも今回は学校側も素早い対応を見せた。
ホームルームにおいての校長のTV朝礼にて、日没後のクラブ活動の中止と夜間外出の自粛を求めたのである。
事件が解決するまでの暫定的なものとはいえ、生徒達が納得するはずもなかった。喧々囂々(けんけんごうごう)の非難を浴びるのは担任である。
一年三組の担任教諭の土御門弥生は矢面に立たされて困り果てていた。
と、そこへ遅刻してやってきたものがいた。
佐々木順子である。
「遅刻ですね」
「はい。済みませんでした」
教室中が水を打ったように静かになっていた。
皆の視線が順子に集中し、全員が言葉を失っていた。
それもそのはずだった。
今朝の順子は、あのシミ・ソバカスだらけの順子ではなかった。
みずみずしいほどの艶やかな肌、気品の漂う美しい顔に変貌していた。
本人もそれを自覚しているのか、決まり悪そうな表情をしていた。
黙って席に着く順子。
教室中が異様なほどまでに静まり返っていた。
とりわけ担任の土御門弥生が、鋭い視線を投げかけていることに、蘭子は気づいていた。
ホームルームが終わった。
途端に智子が順子に飛びついた。
「順っ子! どうしたのよ、その顔」
単刀直入に質問する。
「どんな化粧水使ったの? それともパック?」
「そ、それは……」
答えられるはずがなかった。
順子自身でさえ、朝起きて鏡を見て、驚きのあまりに固まってしまったのだから。
まさか本当に美しくなるとは思ってもみなかった。
それも、たった一日で……。
しばし呆然として遅刻してしまったのである。
稲荷神が願いを叶えてくれたとしか思えなかった。
しかしこのことは口が裂けても言えないことだった。
それが【血の契約】の条件でもあったからだ。
登校することもためらわれたが、出席日数の関係で休むわけにもいかなかった。
虐めにあうようになってから、学校を休みがちだったからだ。
とにもかくにもその日の学校は、ミイラと順子の話題で持ちきりとなった。
いつもは一人きりで寂しく過ごしていた順子に、取り巻きができるほどの人気者となっていた。
しかし、それは嫉妬の対象となることをも意味する。
物陰から伺うようにして、鋭い視線を投げかけるグループは一つだけではない。あちらこちらでひそひそと陰口が囁かれる。
もちろん以前からいじめ続けていた例のグループも例外ではない。
翌朝の逢坂家の食卓。
TVニュースが昨夜の変死事件のことを報道していた。
「ミイラか……。やはり妖魔の仕業なんだろうな」
父親が呟くように言った。
「間違いありません」
「そうか……。ミイラ取りがミイラにならないように気をつけることだな」
「はい」
玄関の方でチャイムが鳴り響いた。
智子が迎えに来たようである。
「はい。お弁当」
「ありがとう」
母親お手製の弁当を受け取って、鞄にしまう蘭子。
蘭子は毎朝弁当を作ってもらっていた。陰陽師としての仕事を抱えていると帰りも遅くなり午前様になることも多い。加えて本業の勉強もしなければならないから、家事手伝いや弁当作りすることができないからである。
玄関に出ると、智子のいつもの明るい笑顔が出迎える。
「おはよう」
お互いに朝の挨拶を交わして学校へと向かう。
「今朝のニュース見た?」
早速の話題として取り上げる智子。
天王寺という身近で起きた事件。
学校中が大騒ぎとなることは予想に難しくないだろう。
しかも今回は学校側も素早い対応を見せた。
ホームルームにおいての校長のTV朝礼にて、日没後のクラブ活動の中止と夜間外出の自粛を求めたのである。
事件が解決するまでの暫定的なものとはいえ、生徒達が納得するはずもなかった。喧々囂々(けんけんごうごう)の非難を浴びるのは担任である。
一年三組の担任教諭の土御門弥生は矢面に立たされて困り果てていた。
と、そこへ遅刻してやってきたものがいた。
佐々木順子である。
「遅刻ですね」
「はい。済みませんでした」
教室中が水を打ったように静かになっていた。
皆の視線が順子に集中し、全員が言葉を失っていた。
それもそのはずだった。
今朝の順子は、あのシミ・ソバカスだらけの順子ではなかった。
みずみずしいほどの艶やかな肌、気品の漂う美しい顔に変貌していた。
本人もそれを自覚しているのか、決まり悪そうな表情をしていた。
黙って席に着く順子。
教室中が異様なほどまでに静まり返っていた。
とりわけ担任の土御門弥生が、鋭い視線を投げかけていることに、蘭子は気づいていた。
ホームルームが終わった。
途端に智子が順子に飛びついた。
「順っ子! どうしたのよ、その顔」
単刀直入に質問する。
「どんな化粧水使ったの? それともパック?」
「そ、それは……」
答えられるはずがなかった。
順子自身でさえ、朝起きて鏡を見て、驚きのあまりに固まってしまったのだから。
まさか本当に美しくなるとは思ってもみなかった。
それも、たった一日で……。
しばし呆然として遅刻してしまったのである。
稲荷神が願いを叶えてくれたとしか思えなかった。
しかしこのことは口が裂けても言えないことだった。
それが【血の契約】の条件でもあったからだ。
登校することもためらわれたが、出席日数の関係で休むわけにもいかなかった。
虐めにあうようになってから、学校を休みがちだったからだ。
とにもかくにもその日の学校は、ミイラと順子の話題で持ちきりとなった。
いつもは一人きりで寂しく過ごしていた順子に、取り巻きができるほどの人気者となっていた。
しかし、それは嫉妬の対象となることをも意味する。
物陰から伺うようにして、鋭い視線を投げかけるグループは一つだけではない。あちらこちらでひそひそと陰口が囁かれる。
もちろん以前からいじめ続けていた例のグループも例外ではない。
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