夢魔の標的 其の玖
「な、何が起こったの? 妖魔は?」
「もう大丈夫よ。妖魔は退治したわ」
「お兄ちゃんは?」
「ちゃんと生きているわ。でも……」
言葉を詰まらせる蘭子は、視線を達也に向けた。
「これがお兄ちゃん? 女の子のままじゃない」
兄の身体に目をやった智子が質問する。
「そうね。妖魔によって女の子に作り変えられた身体は元には戻らないみたい」
「そんなの……。これからどうして生きていけばいいのよ」
「とにかく智子は、ありのままを達也さんやご家族に話すしかないでしょう。そして家族全員で考えて結論を出すしかないわ」
「そ、そうね。そうするしか……」
一応納得する智子。
蘭子は懐から呪符を取り出すと、呪文を掛け息を吹きかけた。
すると空に巨大な竜が現れた。
「式神よ。十二天将の中の一神」
「それって、玄武とか白虎・朱雀とかいうあれ?」
「その通り」
「強そうじゃない。最初から呼び出せば良かったんじゃない?」
「そうもいかないのよ。妖魔の中には式神を無効にしてしまう者もいるから。所詮呪文で呼び出しただけだから。でもこういう場合には役にも立つ」
そういうと青龍の持つ玉から一条の光が差して、蘭子たちを包んだ。
次の瞬間、三人は達也の部屋に転送されていた。
床に横たわる達也を抱えて、ベッドに横たえ布団を掛けてやる蘭子。
「目が覚めたら、女の子になってると驚くだろうから、事情を説明してなだめてあげてね」
「わかったわ」
「それじゃ、今夜はもう帰るわ。学校でまた相談しましょう」
「うん」
それから数ヶ月のことだった。
蘭子達のクラスに転入生があった。
担任教諭が、黒板に名前を書いて紹介をはじめた。
「今日からお友達になる鴨川恵子さんよ。智子さんとは双子の姉妹です。仲良くしてやってくださいね」
驚く蘭子。
智子の方を見ると、微笑んで片目をつぶってみせた。
びっくりさせるために、このことを隠していたようである。
達也だった恵子は、すっかり女の子らしくなって、女子校制服が良く似合っていた。
今後、少なくとも三年近く付き合っていくしかないようである。
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