夢魔の標的 其の壱
翌朝となった。
逢坂家の食堂にて、家族が朝食をとっている。
「おはようございます」
そこへ女子高制服に身を包んだ蘭子が眠たそうに入ってくる。
「おはよう」
蘭子が自分の席に着くと、母親が早速ご飯と味噌汁をよそってくれる。
「どうした浮かぬ顔をして……」
父親が不審そうに尋ねる。
「いえ……。最近、夜毎に妖気を感じて目が覚めるのですが、しばらくすると消えてしまうのです」
昨夜のことを事細かに報告する蘭子。
「うーん……。それはあれだな。その妖気の正体は、人間という依り代を必要とする妖魔なのであろう」
「憑依型の妖魔ですか?」
「そうだ。妖魔が人間に憑依するには、誰でも良いというものではない。輸血や臓器移植に血液型などが合わないとだめなように、妖魔と依り代となる人間との因果関係が必要なのだ」
「因果関係?」
「それが何かはいまだに判らぬことが多い。ともかく妖魔は憑依できる人間を見つけたというわけだ。しかし人間が明瞭な自我を持っていては憑依できない。そこで自我を崩壊させるために、眠っている間にその精神に入り込んで、毎夜悪夢を見せ続けるのだ。その時に一時的に実体化して妖気を放っているのかも知れない。それをおまえが察知したというわけだ」
「そういうことでしたか……」
「自我を崩壊させるのには、性急し過ぎてもだめだ。自我だけでなく魂までも殺してしまうことになる。人間が生きるには肉体と魂が必要だからな。魂までも殺さないようにして、じわじわと悪夢を見続けさせる」
「そして自我を崩壊した人間は、妖魔に憑依されて実体化すると」
「やっかいなのは実体化するまでは手が出せないし、実体化したらしたで依り代となった人間には傷をつけることなく、妖魔だけを退治するのは至難の技ということだ。おまえの持つ虎徹が必要になるな」
「はい……」
唇をぎゅっと噛みしめる蘭子だった。
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